なんと別口で狙われているようですっ!・12

文字数 1,001文字

「すみません! 考えたら、留城也先輩の首のそばに刃物があったんですよね! 危険な目に遭わせてごめんなさい!」
「違う!」

 謝ったわたしへ、即座に留城也先輩が返してくる。
 目を見開いたわたしへ向かって、怒ったような顔をした留城也先輩は、少し声を押さえて続けた。

「――ナイフを持った相手なのに、立ち向かっていったら、アンタが危ないだろう?」

 予想外の言葉を聞いて、ついわたしは首をかしげてしまったけれど。

「これはこれは。なんと活きが良い女子生徒なんだろうね。楽しくなってきたよ」

 不意にかけられた先生の声に、わたしは顔をあげた。
 そこには、喜びを隠しきれない様子で満面の笑みを浮かべた先生が、ナイフを片手に立っている。
 ダメージを最小限に抑えたどころか、まったく無傷にさえ見えるその姿に、わたしはとっさにそばにあったポールタイプの体重計を両手でつかんだ。
 そして、留城也先輩を背に護るように仁王立ち、足を乗せる台を上にして構えながら先生を睨みつける。

 わたしがいま、やらなきゃいけないこと。
 それは、わたしのために狙われた留城也先輩を助けて護ることだ。

「いやあ、逃げだすどころか勇ましい」

 冷たい光を瞳に宿しながら、先生はわたしを見据えた。

 震えるな、わたしの足!



「その辺で終了願えますか? 矢吹(やぶき)先生。これ以上、大事なメンバーを傷つけられたら困ります」

 そのとき、凛とした声が響いた。
 驚いたわたしは、思わず声がしたほうへ視線を向ける。
 すると、保健室の入り口のドアを開いた凪先輩が、状況に動じた様子もなく立っていた。

「なぜだい? これからが面白くなるんじゃないか」

 わたしと同じように凪先輩へ視線を向けた先生が、不思議そうに首をかしげる。
 そんな先生へ、凪先輩は淡々と告げた。

「桂からぼくのほうへ、発信器を通して緊急コールが送られてきました。受けとったぼくがここへたどり着いた時点で、この試験は終了だと思いますが」
「なんだ、そうか。それは残念だ。あまりにも楽しくて、メンバー選出試験だということを失念するところだったよ」

 いかにも残念そうな先生の口からその言葉が出たとたん、わたしは本当に腰が抜けて、体重計とともに床へ転がる。
 緊張から解き放たれたわたしの目の端で、大きなため息をついた凪先輩の姿が見えた。

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