いきなり試験に突入です?!・12
文字数 1,818文字
バスタオルや着替えを調達するために、凪先輩と紘一先輩が別行動に移ったとたんに、留城也先輩が口を開いた。
「紘一は、なんでもかんでも情報を集めて、自分に有利なように物事を運ぼうとする。まだ正式に決まったわけじゃないアンタは、奴に自分の情報をバラさないようがいいんじゃないの?」
いままでわたしとの会話を態度で拒否していた先輩だったため、驚きつつも、わたしは嬉しくなった。
「心配してくれて、ありがとうございます」
「いや、アンタを助けたわけじゃない。――俺が奴を嫌いなだけで、単なる嫌がらせだよ」
素早くそう切り返してきた留城也先輩を、わたしはまじまじと見つめた。
わたしへの助言に聞こえたけれど、紘一先輩に対する嫌がらせなんだ。
それとも、――もしかしたら照れ隠しかな?
でも。
やっぱり、あのときコンピューター室で、留城也先輩にはわたしの怪力がバレていたんだな。
そりゃそうか。
わたしの視線を避けるように顔をそむけながら、留城也先輩は言葉を続けた。
「電波系のオレは、奴にとって相性が悪いらしくて、ほとんど奴に思考を読まれない。だから奴も、普段はオレを目ざわりに思っている。凪先輩は、精神も感情もうまくコントロールができているだろうから、奴に思考は読まれていない。考えダダ漏れのアンタは、読まれないようにするためにも、アンタ自身が自分の力を普段から気にするな」
これは、紘一先輩への嫌がらせのようには聞こえない。
きっと、わたしのためを思って言ってくれているんだ。
こうして助言してくれるってことは、まだあまり頑張りをみせられなかったけれど、少しはわたしのことを見直してくれたのだろうか。
でも、協力してくれるって言っている紘一先輩は、留城也先輩や凪先輩が思うほど、気をつけないといけない人に見えないんだけれど……。
シャワーを浴びてジャージに着替え、さっぱりとしたわたしたちが調理実習室へ戻ると、なんと晴香は、ひとりで小麦粉の掃除を終えていた。
「桂ちゃん、遅~い」
そんなことを言いながら、テーブルを拭いてまわっていた晴香に、中里先生は大変感銘を受けたらしい。
そういえば、生徒が授業を真面目に受けてくれないとか、ネチネチわたしに文句を言っていたものね。
これで晴香は先生のお気に入り。
わたしもとばっちりを受けなくなって万々歳。
最後に皆で楽しく、どうにかうまく焼けたケーキをいただくことができた。
「桂ちゃん、生徒会長もステキだけれど、一緒にきた人も恰好良かったよね」
下校が遅くなってしまったけれど、今日は晴香が途中まで一緒だ。
先輩たちと別れて、わたしと晴香はふたりで帰路についた。
一日中大変だったわたしだったけれど、突然晴香が振ってきた話題に驚いて、疲れも吹っ飛んだ。
そうか、やっぱり紘一先輩は、はたから見ても恰好良いんだ。
けれど、親友となる晴香を、女の子に対しては軽そうな紘一先輩に紹介するのは、果たしてどうなのかと考える。
「ねえ、桂ちゃん」
うっとりと晴香が同意を求めるように口にする。
「無口そうだけれど、精悍な顔立ちで男らしそうで、素敵よね……」
そこまで聞いたわたしは思わず、まじまじと晴香を見つめてしまった。
晴香が気になっていた相手って、留城也先輩だったんだ!
留城也先輩は悪い人じゃないって思うけれど。
なんだか意外。
だって、第一印象って怖そうじゃない?
他人の好みってわからないものだなぁ。
「桂、早く降りてきなさぁい!」
翌朝、自分の部屋でぼんやりとした頭のまま制服のブラウスに袖を通していたら、少し慌てたようなお母さんの声が一階から聞こえた。
いつもと同じ時間。
早くはないけれど、呼ばれるほど遅刻するような時間でもないのにと訝しげに思いつつ返事をする。
すると、続けてお母さんの声がした。
「早く! 恰好良い人が迎えにきてるわよ!」
そのとたんに、わたしの目が覚めた。
恰好良い?
思いあたる人物は凪先輩だ。
――でも、性格を考えたら、もしかしたら紘一先輩かも。
わたしは慌てて部屋を飛びだし階段を駆けおりる。
そして、勢い余って足を滑らし、階段の下まで転がり落ちたわたしを、ふわりとした笑顔を浮かべた透流さんが見下ろしていた。
「紘一は、なんでもかんでも情報を集めて、自分に有利なように物事を運ぼうとする。まだ正式に決まったわけじゃないアンタは、奴に自分の情報をバラさないようがいいんじゃないの?」
いままでわたしとの会話を態度で拒否していた先輩だったため、驚きつつも、わたしは嬉しくなった。
「心配してくれて、ありがとうございます」
「いや、アンタを助けたわけじゃない。――俺が奴を嫌いなだけで、単なる嫌がらせだよ」
素早くそう切り返してきた留城也先輩を、わたしはまじまじと見つめた。
わたしへの助言に聞こえたけれど、紘一先輩に対する嫌がらせなんだ。
それとも、――もしかしたら照れ隠しかな?
でも。
やっぱり、あのときコンピューター室で、留城也先輩にはわたしの怪力がバレていたんだな。
そりゃそうか。
わたしの視線を避けるように顔をそむけながら、留城也先輩は言葉を続けた。
「電波系のオレは、奴にとって相性が悪いらしくて、ほとんど奴に思考を読まれない。だから奴も、普段はオレを目ざわりに思っている。凪先輩は、精神も感情もうまくコントロールができているだろうから、奴に思考は読まれていない。考えダダ漏れのアンタは、読まれないようにするためにも、アンタ自身が自分の力を普段から気にするな」
これは、紘一先輩への嫌がらせのようには聞こえない。
きっと、わたしのためを思って言ってくれているんだ。
こうして助言してくれるってことは、まだあまり頑張りをみせられなかったけれど、少しはわたしのことを見直してくれたのだろうか。
でも、協力してくれるって言っている紘一先輩は、留城也先輩や凪先輩が思うほど、気をつけないといけない人に見えないんだけれど……。
シャワーを浴びてジャージに着替え、さっぱりとしたわたしたちが調理実習室へ戻ると、なんと晴香は、ひとりで小麦粉の掃除を終えていた。
「桂ちゃん、遅~い」
そんなことを言いながら、テーブルを拭いてまわっていた晴香に、中里先生は大変感銘を受けたらしい。
そういえば、生徒が授業を真面目に受けてくれないとか、ネチネチわたしに文句を言っていたものね。
これで晴香は先生のお気に入り。
わたしもとばっちりを受けなくなって万々歳。
最後に皆で楽しく、どうにかうまく焼けたケーキをいただくことができた。
「桂ちゃん、生徒会長もステキだけれど、一緒にきた人も恰好良かったよね」
下校が遅くなってしまったけれど、今日は晴香が途中まで一緒だ。
先輩たちと別れて、わたしと晴香はふたりで帰路についた。
一日中大変だったわたしだったけれど、突然晴香が振ってきた話題に驚いて、疲れも吹っ飛んだ。
そうか、やっぱり紘一先輩は、はたから見ても恰好良いんだ。
けれど、親友となる晴香を、女の子に対しては軽そうな紘一先輩に紹介するのは、果たしてどうなのかと考える。
「ねえ、桂ちゃん」
うっとりと晴香が同意を求めるように口にする。
「無口そうだけれど、精悍な顔立ちで男らしそうで、素敵よね……」
そこまで聞いたわたしは思わず、まじまじと晴香を見つめてしまった。
晴香が気になっていた相手って、留城也先輩だったんだ!
留城也先輩は悪い人じゃないって思うけれど。
なんだか意外。
だって、第一印象って怖そうじゃない?
他人の好みってわからないものだなぁ。
「桂、早く降りてきなさぁい!」
翌朝、自分の部屋でぼんやりとした頭のまま制服のブラウスに袖を通していたら、少し慌てたようなお母さんの声が一階から聞こえた。
いつもと同じ時間。
早くはないけれど、呼ばれるほど遅刻するような時間でもないのにと訝しげに思いつつ返事をする。
すると、続けてお母さんの声がした。
「早く! 恰好良い人が迎えにきてるわよ!」
そのとたんに、わたしの目が覚めた。
恰好良い?
思いあたる人物は凪先輩だ。
――でも、性格を考えたら、もしかしたら紘一先輩かも。
わたしは慌てて部屋を飛びだし階段を駆けおりる。
そして、勢い余って足を滑らし、階段の下まで転がり落ちたわたしを、ふわりとした笑顔を浮かべた透流さんが見下ろしていた。