そして立ちはだかる敵の影・6
文字数 1,177文字
校門前で、嬉しそうな顔の紘一先輩が片手をあげた。
先日の昼休み、二年の女子に目をつけられたため、一応校内では噂が立たないように気を使っての待ち合わせ場所だ。
「留城也がついてきたそうにしていたんだけれど、せっかくの下校デートだろう? 凪先輩が生徒会室にこいって呼んでいたよって伝えてまいてきちゃった」
悪びれた様子もなく笑顔で口にした紘一先輩に、わたしは苦笑いを浮かべる。
自分も、晴香に用事があるからと伝えて振り切ってきたためひどいとはいえない。
そんなわたしの行動を知っているように、紘一先輩は嬉しそうに顔をのぞきこんできた。
「さぁて。今日は時間も早いし茶店とか寄っていかない? いつもより長く一緒にいられるよなぁ」
「それはまずいです! 凪先輩もいっていたじゃないですか。早く帰れるのは危険回避のためなんですから、寄り道せずにまっすぐ帰るべきです!」
わたしは慌てて待ったをかける。
「それに、わたしは紘一先輩にどうしても伝えたいことがあるので、駅へ向かいながら話をしたいと」
「それって、いい話?」
続けたわたしの言葉の途中で、今度は紘一先輩がさえぎった。
いままでの笑みをひっこめた紘一先輩は、感情を消した顔をわたしに向ける。
思わず硬直したわたしを促すように紘一先輩は言った。
「まあいいか。歩きながら話そう。立ちどまったままで、ほかの学生の注意をひくのもいただけないしね」
「それで。伝えたいことって?」
横に並んでゆっくり歩く紘一先輩が口火を切る。
わたしは、中途半端に考えを読まれるよりは、自分で言葉にだしたほうが良いと思って、単刀直入に本題へと入った。
「わたし、気がついたんです。美術の準備室で襲われたとき」
「――なにを?」
とぼけたように、紘一先輩は小首をかしげてみせた。
目の端に映る紘一先輩の態度に関係なく、わたしは前を向いたまま言葉を続ける。
「あのあと、準備室を飛びだしたときに、わたしは紘一先輩とぶつかりましたよね。わたしにぶつかる前に、紘一先輩は襲ったふたり組が逃げるところを目撃したのに、その場で挙動不審なその理由を彼らから『読』まなかった。あのときは違うことに意識が向いて、わたしはそのことを特に気にしなかったけれど、ずっと違和感があったんです」
紘一先輩は、ゆっくりと陽に透けるようなチョコレート色の瞳を細める。
その様子から、わたしは確信をもって言い切った。
「読むことが普通の紘一先輩が、挙動不審な彼らの思考を読まないなんてありえない。読んだうえで紘一先輩が彼らを知らないフリをするとすれば、それは紘一先輩が彼らとつながっているから」
「――意外と鋭いんだ」
初めて聞いた低い声。
それがぞくりとするほど艶っぽく――恐怖を感じさせた。
先日の昼休み、二年の女子に目をつけられたため、一応校内では噂が立たないように気を使っての待ち合わせ場所だ。
「留城也がついてきたそうにしていたんだけれど、せっかくの下校デートだろう? 凪先輩が生徒会室にこいって呼んでいたよって伝えてまいてきちゃった」
悪びれた様子もなく笑顔で口にした紘一先輩に、わたしは苦笑いを浮かべる。
自分も、晴香に用事があるからと伝えて振り切ってきたためひどいとはいえない。
そんなわたしの行動を知っているように、紘一先輩は嬉しそうに顔をのぞきこんできた。
「さぁて。今日は時間も早いし茶店とか寄っていかない? いつもより長く一緒にいられるよなぁ」
「それはまずいです! 凪先輩もいっていたじゃないですか。早く帰れるのは危険回避のためなんですから、寄り道せずにまっすぐ帰るべきです!」
わたしは慌てて待ったをかける。
「それに、わたしは紘一先輩にどうしても伝えたいことがあるので、駅へ向かいながら話をしたいと」
「それって、いい話?」
続けたわたしの言葉の途中で、今度は紘一先輩がさえぎった。
いままでの笑みをひっこめた紘一先輩は、感情を消した顔をわたしに向ける。
思わず硬直したわたしを促すように紘一先輩は言った。
「まあいいか。歩きながら話そう。立ちどまったままで、ほかの学生の注意をひくのもいただけないしね」
「それで。伝えたいことって?」
横に並んでゆっくり歩く紘一先輩が口火を切る。
わたしは、中途半端に考えを読まれるよりは、自分で言葉にだしたほうが良いと思って、単刀直入に本題へと入った。
「わたし、気がついたんです。美術の準備室で襲われたとき」
「――なにを?」
とぼけたように、紘一先輩は小首をかしげてみせた。
目の端に映る紘一先輩の態度に関係なく、わたしは前を向いたまま言葉を続ける。
「あのあと、準備室を飛びだしたときに、わたしは紘一先輩とぶつかりましたよね。わたしにぶつかる前に、紘一先輩は襲ったふたり組が逃げるところを目撃したのに、その場で挙動不審なその理由を彼らから『読』まなかった。あのときは違うことに意識が向いて、わたしはそのことを特に気にしなかったけれど、ずっと違和感があったんです」
紘一先輩は、ゆっくりと陽に透けるようなチョコレート色の瞳を細める。
その様子から、わたしは確信をもって言い切った。
「読むことが普通の紘一先輩が、挙動不審な彼らの思考を読まないなんてありえない。読んだうえで紘一先輩が彼らを知らないフリをするとすれば、それは紘一先輩が彼らとつながっているから」
「――意外と鋭いんだ」
初めて聞いた低い声。
それがぞくりとするほど艶っぽく――恐怖を感じさせた。