闘えわたし! 平和のために! ・8

文字数 1,772文字

 角を曲がって走っていると、思った通り、わたしの通る道に沿って次々と壁の留め金が爆破され、壁が倒れこんできた。
 ぎりぎりそれらをかいくぐりながら走るわたしへ、同じように避けつつ紘一先輩が口を開く。

「桂ちゃん。いまの声の奴って、全部の壁に細工していると思う? それに、タイミングを考えると、どこかからオレらを監視しているよね?」

 爆発がおさまった一瞬に立ちどまって、わたしと紘一先輩は、ぐるりと迷路の上方を見渡す。
 ここからみえるのは、迷路の真ん中にある建物の上の階の部分だ。

「不審な人影もみえないけれど。あそこでみているのかな? でも、スピーカーから男の人の声が聞こえたし……。あ、相手が複数で仲間がいたら、監視とアナウンスの両方が可能だよね」

 そこへ、晴香を振り切ったらしい留城也先輩が、倒れた壁を乗り越えて走ってきた。
 わたしと紘一先輩の会話が聞こえたのか、追いつきがてらに声をかけてくる。

「こっちをみているのは、きっと監視カメラだ。あんたの向かう方向に合わせて爆発させていると思う」

 そして、ぐるっと上方で片手をかざして、留城也先輩は言葉を続けた。

「とりあえず、いま、このあたりの電気系統を全部ショートさせて落とした。もう監視カメラとスピーカーは使えない」
「さっすが電波系」
「でも、スピーカーが使えなくなっちゃったら、このアミューズメントパークの正式な従業員さんの避難誘導も使えなくない?」

 紘一先輩の軽口とわたしの疑問をスルーして、眉根を寄せた留城也先輩が仕切る。

「現在乗っ取られているスピーカーを使っての攪乱や挑発を押さえるほうが優先だと思ったんだ。それで、どうする? 出口へ向かって迷路を抜けだすことが一番だと思うが」
「まあね。それに、小型とはいえ爆弾を仕掛けた相手を捕まえなきゃ。警察がくるまでに被害を最小におさえなきゃいけないだろうし、なんていっても、狙いは桂ちゃんらしいし。オレたちが制圧すべき敵ってことになるよね」

 留城也先輩に応えた紘一先輩は、戸惑っているわたしへ振り向いて笑顔をみせた。

 そうか。
 ――警察がくるまでの初動捜査、これが校長先生が最初に口にした「悪と災害に立ち向かう組織」のやることのひとつとみて良いのだろうか。

「でも、けっこう奥まで入りこんできているから、正しい道筋に沿って抜けでようと思ったら、かなり時間がかかると思うよ」

 突然、わたしは背後から、ふんわりとした声をかけられる。
 驚いて振り向くと、そこには透流さんが立っていた。

 びっくりし過ぎて声がでないわたしに、透流さんは、可愛い私服だねと微笑んでみせてから、言葉を続けた。

「本部に寄ってから、凪と一緒にこちらと合流しようと思ってきたんだけれど。どうやら非常事態ってことで、ぼくだけ一足先に迷路へ入ってきたんだ。ぼくは一直線に壁を通り抜けてきたから、きっと最短でここに着いたけれど、きみたちはそういうわけにはいかないだろうね」

 さらに透流さんは、わたしへ向かって満面の笑みを浮かべてみせる。

「この迷路は、すでに一部の壁を爆破されちゃっているから、今日は営業停止だろうね。だから桂ちゃん、もういくつかの壁を破壊しても同じだと思うんだ」

 ――え?
 どういうこと?

 透流さんのアイデアに気づいた紘一先輩も、面白いものみたさの表情になっていった。

「あ、それいいんじゃない? 幸い留城也が監視カメラを壊しちゃっているから、映像は残らないだろうし。ここは桂ちゃんの腕のみせどころだよね」
「え? え?」
「そうだな。派手にやるなら、ほかの迷路参加者がここへくる前に、さっさとやっちまったほうが……」
「いいねぇ、桂ちゃん。いきましょうか、どかんと一発」

 留城也先輩や透流さんまで一緒になって、わたしを煽る。

 えっと……まさか。
 本当にやるんですかぁ?
 せっかく頑張った可愛い私服なのに。そんな、そぐわないこと……。

 皆の視線をあびたわたしは、しぶしぶ壁に向きなおる。
 そして、迷路から最短で外壁までたどり着けるであろう向きを、笑顔で指差す透流さんに従うように、右手を握りしめて後ろへ引いた。

 ――え~?
 本当に壁を壊していくんですかぁ?
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