そして立ちはだかる敵の影・1
文字数 1,844文字
保健室の掃除が終わったあと、ちょうどこの場に透流さん以外のメンバーがそろっていることもあり、改めてわたしは届いた脅迫状のことや見かけた人影のことを報告した。
脅迫状の内容が初耳だったらしい留城也先輩が、あからさまに嫌な顔をする。
そして、凪先輩と矢吹先生が小声で相談をはじめたとき、突然紘一先輩が右手をあげながら大声で叫んだ。
「はぁい! それならオレが護衛で、このあと桂ちゃんを家まで送っていってもいい?」
とたんに、それまで黙っていた留城也先輩が声をあげた。
「嬉しそうに手をあげてんじゃねぇよ。送っていくのは凪先輩や先生のほうがいい」
紘一先輩は、凪先輩が口をはさむ前に言い返す。
「そりゃあオレも留城也と同じくらいの護衛力しかないよね。体術にしても能力にしても。けれど、オレは読める。悪意を持って近づく連中がわかるから、あらかじめ回避することができるよ」
たたみかけるように言葉を続けながら、紘一先輩は留城也先輩に指を突きつける。
「桂ちゃんは、それで危険から回避できるけれど、脅迫状に名指しで襲う宣言をされた留城也のほうが危ないって。それこそ、凪先輩や先生の護衛をつけるべきだ」
やりとりを聞いていた矢吹先生は、あごに手を添えながら思案する表情を浮かべる。
それから、おもむろにどきりとするような流し目を送ってきた。
慌ててわたしは、艶やかな視線を避けるようにうつむく。
「そうですねぇ。少々留城也を痛めつけすぎたこともありますし、私が彼を送りましょう。ただ、学校側へ凪と今日一日の報告などしなくてはなりません。あまり彼女を遅くまで引きとめるのも問題ですし、今回は紘一に送ってもらいましょうか」
「やったね!」
先生の言葉が終わるやいなや、紘一先輩は嬉しげにわたしのほうへ振り向いた。
本当は、紘一先輩のアプローチを考えると、ふたりっきりは避けるべきなのかもしれないけれど。
もしかしたら、組織のことについて、いろいろ知りたいことも聞かせてくれそうな気がする。
そう思ったとたん、紘一先輩はピシッと親指を立ててウインクを送ってきた。
――ああ。
うっかり考えちゃったから読まれてる。
「桂ちゃんって、オレから情報が欲しいから、一緒に帰ることをOKしたんだよね」
校門を出てから、すぐに紘一先輩があっさりと口にした。
心構えができていなかったために、あたふたとして声もでないわたしに、紘一先輩は笑って続ける。
「読まなくても、桂ちゃんの顔をみたらバレバレだよね。知りたいことはなに? 組織のこと? ああ、そういえば桂ちゃん、矢吹先生の顔をうっとり見ていたよね。先生の顔が好みなんだ?」
そう突っ込まれるように言われて、わたしはたちまち赤面した。
晴香からあらかじめ、保健の先生情報を聞いていたせいもあるけれど。
先生には、先輩たちとは違った仕草からくる色気というようなものを感じたから。
そのせいで、妙に目を引いたんだけれど。
うっかりそんなことを考えたら、紘一先輩に……。
「へぇ、そうなんだー」
やっぱり、読まれてしまうよね……。
紘一先輩に笑顔で先手を打たれて、もう隠しようがない。
でも、別に先生が好みってわけじゃない。一般論よ。
なんていうわたしの心の中の必死な言い訳が通ったのか、紘一先輩はそれ以上気にした様子もなく口をひらいた。
「矢吹先生は、オレと留城也が選ばれたあとに、突然それまでの保健医と交代で赴任してきたんだ。凪先輩がひとりだけのときは、透流さんと一緒に別のところの仮上司が担当していたらしいんだけれど、この高校でメンバーが一気に三人に増えただろう? だからここを拠点として一グループ編成を予定されることになったんだ。そこへ、さっそく五人目として桂ちゃん、きみが現れたってことになる」
そうなんだ。
拠点となった学校へ、偶然にもわたしが入学したってことになるんだな。
すると、場合によっては、メンバー全員がばらばらの学校になるってことも有り得るわけなんだ。
「大丈夫。この車両にはきみに対して悪意を持つ人間は乗っていない」
あっと口を開いたわたしへ、紘一先輩は満面の笑みを向けた。
「ほぉら。ちゃんとオレは、桂ちゃんの護衛役を果たしているんだよ」
疑っていたわけじゃないけれど、ちょっと頬を赤らめたわたしの横で、紘一先輩が笑い声をたてた。
脅迫状の内容が初耳だったらしい留城也先輩が、あからさまに嫌な顔をする。
そして、凪先輩と矢吹先生が小声で相談をはじめたとき、突然紘一先輩が右手をあげながら大声で叫んだ。
「はぁい! それならオレが護衛で、このあと桂ちゃんを家まで送っていってもいい?」
とたんに、それまで黙っていた留城也先輩が声をあげた。
「嬉しそうに手をあげてんじゃねぇよ。送っていくのは凪先輩や先生のほうがいい」
紘一先輩は、凪先輩が口をはさむ前に言い返す。
「そりゃあオレも留城也と同じくらいの護衛力しかないよね。体術にしても能力にしても。けれど、オレは読める。悪意を持って近づく連中がわかるから、あらかじめ回避することができるよ」
たたみかけるように言葉を続けながら、紘一先輩は留城也先輩に指を突きつける。
「桂ちゃんは、それで危険から回避できるけれど、脅迫状に名指しで襲う宣言をされた留城也のほうが危ないって。それこそ、凪先輩や先生の護衛をつけるべきだ」
やりとりを聞いていた矢吹先生は、あごに手を添えながら思案する表情を浮かべる。
それから、おもむろにどきりとするような流し目を送ってきた。
慌ててわたしは、艶やかな視線を避けるようにうつむく。
「そうですねぇ。少々留城也を痛めつけすぎたこともありますし、私が彼を送りましょう。ただ、学校側へ凪と今日一日の報告などしなくてはなりません。あまり彼女を遅くまで引きとめるのも問題ですし、今回は紘一に送ってもらいましょうか」
「やったね!」
先生の言葉が終わるやいなや、紘一先輩は嬉しげにわたしのほうへ振り向いた。
本当は、紘一先輩のアプローチを考えると、ふたりっきりは避けるべきなのかもしれないけれど。
もしかしたら、組織のことについて、いろいろ知りたいことも聞かせてくれそうな気がする。
そう思ったとたん、紘一先輩はピシッと親指を立ててウインクを送ってきた。
――ああ。
うっかり考えちゃったから読まれてる。
「桂ちゃんって、オレから情報が欲しいから、一緒に帰ることをOKしたんだよね」
校門を出てから、すぐに紘一先輩があっさりと口にした。
心構えができていなかったために、あたふたとして声もでないわたしに、紘一先輩は笑って続ける。
「読まなくても、桂ちゃんの顔をみたらバレバレだよね。知りたいことはなに? 組織のこと? ああ、そういえば桂ちゃん、矢吹先生の顔をうっとり見ていたよね。先生の顔が好みなんだ?」
そう突っ込まれるように言われて、わたしはたちまち赤面した。
晴香からあらかじめ、保健の先生情報を聞いていたせいもあるけれど。
先生には、先輩たちとは違った仕草からくる色気というようなものを感じたから。
そのせいで、妙に目を引いたんだけれど。
うっかりそんなことを考えたら、紘一先輩に……。
「へぇ、そうなんだー」
やっぱり、読まれてしまうよね……。
紘一先輩に笑顔で先手を打たれて、もう隠しようがない。
でも、別に先生が好みってわけじゃない。一般論よ。
なんていうわたしの心の中の必死な言い訳が通ったのか、紘一先輩はそれ以上気にした様子もなく口をひらいた。
「矢吹先生は、オレと留城也が選ばれたあとに、突然それまでの保健医と交代で赴任してきたんだ。凪先輩がひとりだけのときは、透流さんと一緒に別のところの仮上司が担当していたらしいんだけれど、この高校でメンバーが一気に三人に増えただろう? だからここを拠点として一グループ編成を予定されることになったんだ。そこへ、さっそく五人目として桂ちゃん、きみが現れたってことになる」
そうなんだ。
拠点となった学校へ、偶然にもわたしが入学したってことになるんだな。
すると、場合によっては、メンバー全員がばらばらの学校になるってことも有り得るわけなんだ。
「大丈夫。この車両にはきみに対して悪意を持つ人間は乗っていない」
あっと口を開いたわたしへ、紘一先輩は満面の笑みを向けた。
「ほぉら。ちゃんとオレは、桂ちゃんの護衛役を果たしているんだよ」
疑っていたわけじゃないけれど、ちょっと頬を赤らめたわたしの横で、紘一先輩が笑い声をたてた。