なんと別口で狙われているようですっ!・14
文字数 1,278文字
「いいなぁ。こんなに桂ちゃんに心配してもらえるんなら、オレが怪我する役でも良かったかなぁ」
「良くねぇよ!」
指をくわえてぼそりとつぶやく紘一先輩へ、すっかり傷も癒えたらしい留城也先輩が不愉快そうに怒鳴る。
「強制的に協力させられたんだって言っただろう! 紘一が名乗り出りゃ良かったんだ!」
「でもオレって痛いことは嫌いだし。先生ってサドだから、絶対必要以上に痛めつけてきそうじゃない? 普段は考えを読ませないくせに、こんなときに限ってオレに嫌なことを読ませる気がするし。肉体と精神の同時攻撃なんて食らったら、留城也と違って繊細なオレは耐えられない」
さらっとひどいことを口にした紘一先輩へ、留城也先輩が不穏な目を向けた。
「こういうとき、紘一は逃げるのがうまいよね。それにしても。この一年間ほど殺伐とした空気だったのに、なにやらふたりとも、楽しげな関係になってきているじゃないか」
軽口をたたいた先生を、今度は紘一先輩と留城也先輩ふたりが同時に睨みつける。
そして私のそばで、なぜか凪先輩は、やわらかい表情で皆を見渡していた。
「本当は、五時間目の体育の授業と放課後を使っての体力測定だったのだが。きみが失神したから取りやめにしたんだ。そしてさきほどの職員会議で、きみが合格したあと、体力測定は体調万全なときに改めてじっくりするということに決まった。その代わりにメンタル面の確認で、急きょ別内容の試験に切りかえたんだ」
結局、先生を含めたその場にいる全員で、派手に飛んだ血しぶきの掃除をしている。
床へ膝をつき、ぞうきんを手に黙々と作業をしていたわたしへ向かって、急に先生が声をかけてきた。
わたしは手を休めないように気をつけながらも首をかしげる。
「メンタル面の確認って? でもわたし、前に宮城先生から精神圧迫試験ってものを受けましたけれど」
「実際に人質をとられた際の対処と、味方であろう自校の教師が敵だとわかったときの動揺」
先生は眼鏡の奥で、瞳に少し寂しげにも思える光を宿して続けた。
「こういう事件にばかり遭遇していると、一番先に影響がでるのは精神なんだ。けれど、宮城先生が言っていた通り、きみは窮地に立つと肝が据わるというか居直るタイプのようだ。本当の意味で気の強い子は歓迎するよ。脱出できないあの状況で、救援を呼んだうえで時間を稼ぐなんて、素人としては合格だろうな」
先生にそういわれたけれど。
本当はテンパっていて、凪先輩へ発信器を使って連絡すること以外、思いつかなかっただけ。
褒められるほどのことじゃない。
そんなわたしへ、先生は眼鏡のブリッジを指先で優雅に押さえると、悪魔のような艶やかな笑みを向けてきた。
「きみはこの学校へ受かっているのだから、最低限の学力はあるとみなしている。これから必要となる格闘術と座学は、きみがメンバーに選ばれたあと、この私が責任を持ってみっちりとしごくから」
それを聞いたわたしは、がっくりと床へ突っ伏した。
ああ。そうなんですね……。
「良くねぇよ!」
指をくわえてぼそりとつぶやく紘一先輩へ、すっかり傷も癒えたらしい留城也先輩が不愉快そうに怒鳴る。
「強制的に協力させられたんだって言っただろう! 紘一が名乗り出りゃ良かったんだ!」
「でもオレって痛いことは嫌いだし。先生ってサドだから、絶対必要以上に痛めつけてきそうじゃない? 普段は考えを読ませないくせに、こんなときに限ってオレに嫌なことを読ませる気がするし。肉体と精神の同時攻撃なんて食らったら、留城也と違って繊細なオレは耐えられない」
さらっとひどいことを口にした紘一先輩へ、留城也先輩が不穏な目を向けた。
「こういうとき、紘一は逃げるのがうまいよね。それにしても。この一年間ほど殺伐とした空気だったのに、なにやらふたりとも、楽しげな関係になってきているじゃないか」
軽口をたたいた先生を、今度は紘一先輩と留城也先輩ふたりが同時に睨みつける。
そして私のそばで、なぜか凪先輩は、やわらかい表情で皆を見渡していた。
「本当は、五時間目の体育の授業と放課後を使っての体力測定だったのだが。きみが失神したから取りやめにしたんだ。そしてさきほどの職員会議で、きみが合格したあと、体力測定は体調万全なときに改めてじっくりするということに決まった。その代わりにメンタル面の確認で、急きょ別内容の試験に切りかえたんだ」
結局、先生を含めたその場にいる全員で、派手に飛んだ血しぶきの掃除をしている。
床へ膝をつき、ぞうきんを手に黙々と作業をしていたわたしへ向かって、急に先生が声をかけてきた。
わたしは手を休めないように気をつけながらも首をかしげる。
「メンタル面の確認って? でもわたし、前に宮城先生から精神圧迫試験ってものを受けましたけれど」
「実際に人質をとられた際の対処と、味方であろう自校の教師が敵だとわかったときの動揺」
先生は眼鏡の奥で、瞳に少し寂しげにも思える光を宿して続けた。
「こういう事件にばかり遭遇していると、一番先に影響がでるのは精神なんだ。けれど、宮城先生が言っていた通り、きみは窮地に立つと肝が据わるというか居直るタイプのようだ。本当の意味で気の強い子は歓迎するよ。脱出できないあの状況で、救援を呼んだうえで時間を稼ぐなんて、素人としては合格だろうな」
先生にそういわれたけれど。
本当はテンパっていて、凪先輩へ発信器を使って連絡すること以外、思いつかなかっただけ。
褒められるほどのことじゃない。
そんなわたしへ、先生は眼鏡のブリッジを指先で優雅に押さえると、悪魔のような艶やかな笑みを向けてきた。
「きみはこの学校へ受かっているのだから、最低限の学力はあるとみなしている。これから必要となる格闘術と座学は、きみがメンバーに選ばれたあと、この私が責任を持ってみっちりとしごくから」
それを聞いたわたしは、がっくりと床へ突っ伏した。
ああ。そうなんですね……。