そして立ちはだかる敵の影・7
文字数 1,608文字
怖いもの見たさで、ついわたしは紘一先輩のほうへ顔を向ける。
そこには、いままで見たことのない鋭いまなざしの紘一先輩がいた。
思わず足がすくみ、わたしは立ちどまる。
そんなわたしの二の腕をつかみ、紘一先輩は自分のほうへと引き寄せた。
小さいけれど、どすの利いた声で耳もとへささやいてくる。
「そこまでわかっているなら、桂ちゃん。オレのいいたいこともわかるよね。オレからのお願いはただひとつ。メンバーの辞退だ」
「――なんで……?」
「女の子が無理することもないってのも、理由のひとつだよ? それは本当」
そう口にした紘一先輩は、細めた目で冷たくわたしを凝視した。
わたしだからってわけじゃなさそう。
それに、ただ単に留城也先輩のように女の子が苦手だからってことでもない。
――なんでメンバーに女の子が加わることが、そんなに紘一先輩にとっていけないのだろう。
美術の準備室で襲われたように、この下校時に襲われる可能性を、まったく考えていなかったわけではない。
けれど、同じ手を紘一先輩が使ってくる気がしなかったし、襲われたら一緒にいた先輩の護衛能力が問われる。
第一、先輩自身が言っていたではないか。
正式に決まってしまえば、もう襲う理由がなくなるって。
ここは、わたしが自分の考えをしっかりと持つべきなんだ。
わたしの考えを読んだように、紘一先輩は口を開いた。
「そこまで考えたんだ。――そう。脅迫状を入れたのも、美術の準備室で襲わせたのもオレだよ。でも、体育の時間の人影はオレとは無関係だな。狙われていると思った桂ちゃんが、気にし過ぎたんじゃない?」
「納得できません。なんで紘一先輩は女の子がメンバーになることを嫌がるんですか? ほかに理由があるんでしょう? ――メンバーになることじゃない。女の子の扱いが、紘一先輩は普通じゃないですものね?」
怯まずに言葉を続けたわたしへ向かって、不意に紘一先輩は口の端をあげる。
でもそれは、自嘲するような笑い方だった。
「桂ちゃん、きみもオレに読まれるの、嫌なんだろう? 時々困った顔をしていたもんな。凪先輩や透流さんなんかは大人だから表面に見せない。けれど俺を持て余している。誰もがそうだ。付き合う女の子たちも、ちょっと気を利かせ過ぎると、そのうち気味悪がるんだ。――一番味方になってくれるはずの母親でもそうだったよ」
その言葉で、以前、凪先輩から聞いた紘一先輩のことや透流さんから聞いた紘一先輩のお母さんことを、わたしはうっかりと思いだす。
「やだなぁ、先輩たち。オレの家族のことやオレを信用するななんてこと、そういうところは抜け目なく桂ちゃんに伝えているんだ」
素早く反応した紘一先輩は、わたしの考えていることを声にだした。
つい、わたしは言い返す。
「なんでもかんでも、心を読むのは良くないと思う!」
「なんだよ、きみは生まれつき絶対音感を持っている人がいたら、その能力を使うなっていうわけ? 肉体的に背が高くなった人に、背が高いからって非難するわけ? 持っている能力を自分の一部として使って、なにが悪いんだよ。オレは能力を使うことをやめない。もっと積極的に使っていくつもりだ。ほぉら、桂ちゃん。こんな非協力的メンバーがいたら、やっていけないでしょ? 苦労することが目にみえているんだし、やっぱり辞退すれば?」
「それでも、人間として相手の迷惑になることをするべきじゃないと思う! その能力を使われる相手が嫌な気持ちになるかどうかが、ボーダーラインになると思う!」
「それはきれいごとだね。――こちらが図太くならなきゃやっていけない。化け物扱いや、寄生するようにサトリの能力を求めて家にやってくる連中に利用されるだけだ」
「きれいごとを言っているかどうか、いま、わたしの心を読めばいいじゃない!」
そこには、いままで見たことのない鋭いまなざしの紘一先輩がいた。
思わず足がすくみ、わたしは立ちどまる。
そんなわたしの二の腕をつかみ、紘一先輩は自分のほうへと引き寄せた。
小さいけれど、どすの利いた声で耳もとへささやいてくる。
「そこまでわかっているなら、桂ちゃん。オレのいいたいこともわかるよね。オレからのお願いはただひとつ。メンバーの辞退だ」
「――なんで……?」
「女の子が無理することもないってのも、理由のひとつだよ? それは本当」
そう口にした紘一先輩は、細めた目で冷たくわたしを凝視した。
わたしだからってわけじゃなさそう。
それに、ただ単に留城也先輩のように女の子が苦手だからってことでもない。
――なんでメンバーに女の子が加わることが、そんなに紘一先輩にとっていけないのだろう。
美術の準備室で襲われたように、この下校時に襲われる可能性を、まったく考えていなかったわけではない。
けれど、同じ手を紘一先輩が使ってくる気がしなかったし、襲われたら一緒にいた先輩の護衛能力が問われる。
第一、先輩自身が言っていたではないか。
正式に決まってしまえば、もう襲う理由がなくなるって。
ここは、わたしが自分の考えをしっかりと持つべきなんだ。
わたしの考えを読んだように、紘一先輩は口を開いた。
「そこまで考えたんだ。――そう。脅迫状を入れたのも、美術の準備室で襲わせたのもオレだよ。でも、体育の時間の人影はオレとは無関係だな。狙われていると思った桂ちゃんが、気にし過ぎたんじゃない?」
「納得できません。なんで紘一先輩は女の子がメンバーになることを嫌がるんですか? ほかに理由があるんでしょう? ――メンバーになることじゃない。女の子の扱いが、紘一先輩は普通じゃないですものね?」
怯まずに言葉を続けたわたしへ向かって、不意に紘一先輩は口の端をあげる。
でもそれは、自嘲するような笑い方だった。
「桂ちゃん、きみもオレに読まれるの、嫌なんだろう? 時々困った顔をしていたもんな。凪先輩や透流さんなんかは大人だから表面に見せない。けれど俺を持て余している。誰もがそうだ。付き合う女の子たちも、ちょっと気を利かせ過ぎると、そのうち気味悪がるんだ。――一番味方になってくれるはずの母親でもそうだったよ」
その言葉で、以前、凪先輩から聞いた紘一先輩のことや透流さんから聞いた紘一先輩のお母さんことを、わたしはうっかりと思いだす。
「やだなぁ、先輩たち。オレの家族のことやオレを信用するななんてこと、そういうところは抜け目なく桂ちゃんに伝えているんだ」
素早く反応した紘一先輩は、わたしの考えていることを声にだした。
つい、わたしは言い返す。
「なんでもかんでも、心を読むのは良くないと思う!」
「なんだよ、きみは生まれつき絶対音感を持っている人がいたら、その能力を使うなっていうわけ? 肉体的に背が高くなった人に、背が高いからって非難するわけ? 持っている能力を自分の一部として使って、なにが悪いんだよ。オレは能力を使うことをやめない。もっと積極的に使っていくつもりだ。ほぉら、桂ちゃん。こんな非協力的メンバーがいたら、やっていけないでしょ? 苦労することが目にみえているんだし、やっぱり辞退すれば?」
「それでも、人間として相手の迷惑になることをするべきじゃないと思う! その能力を使われる相手が嫌な気持ちになるかどうかが、ボーダーラインになると思う!」
「それはきれいごとだね。――こちらが図太くならなきゃやっていけない。化け物扱いや、寄生するようにサトリの能力を求めて家にやってくる連中に利用されるだけだ」
「きれいごとを言っているかどうか、いま、わたしの心を読めばいいじゃない!」