そして立ちはだかる敵の影・3
文字数 1,763文字
「昨夜は実に面白い体験をさせてもらったよ」
次の朝、紘一先輩と留城也先輩が、ふたりそろって校門の前で待ち構えていた。
なぜか紘一先輩の楽しげにも思える笑顔が、逆に怖い。
見た目にも怪我はなさそうでホッとしながら、わたしは土下座をせんばかりに謝った。
あのあと、結局すぐに助けを求める連絡を凪先輩にして、紘一先輩を乗せたトラックを捜索してもらう大事態になったのだ。
考える前に突き飛ばすという動きをしてしまったわたしの思考を読みきれず、紘一先輩はあっさりとわたしの不意打ちを食らったことになる。
「アンタは謝らなくていい。どうせ紘一が余計なことをしたんだろう? いい気味だ」
不機嫌そうな表情で、横から留城也先輩が口をだす。
そんなふたりが校門で待ち構えていたことで、わたしはおそるおそる気になることを訊いてみた。
「それで、あの。おふたりがここにいらっしゃる理由は……?」
朝一番にわたしの謝罪を紘一先輩が受けるためかなと、単純に思っていたのだけれど。
紘一先輩は笑顔のままで、わたしの質問に答えてくれる。
「桂ちゃんが登校したら、すぐに生徒会室へ連れてくるようにって、凪先輩に言われていたからだよ」
それって、やっぱり迷惑をかけたから、怒られるために呼びだされたんだろうな。
でも、先輩をふたりもつけなくても。逃げだしたりしないのに。
もっとも、悪いのは自分だとわかっている。
なので、あきらめのため息をついたとき、留城也先輩が面倒くさそうに言葉を続けた。
「俺らふたりがそろっているのは、昨日、脅迫状がロッカーに入っていたんだろう? ウチの制服を着た部外者か、あるいは実際に校内にいるかもしれない不審人物がアンタに接触してこないように護衛だ」
「――でも、それって矛盾していますよね」
思わずわたしの口から言葉が飛びだした。
怪訝そうなふたりの視線を、わたしは同時に浴びる。
――ああ、そうか。
わたしの中でちゃんとした文章になっていないから、紘一先輩もわたしの疑問の見当がついていなくて、不思議そうな顔になっているんだ。
「最初に説明を受けたとき、正義の味方のようなことをする組織のメンバーって聞いたんです」
「まあ、だいたいあってるよ。だから、オレらはいま、狙われている桂ちゃんの身の安全を護ろうとしているんじゃないか。それのどこが矛盾なわけ?」
紘一先輩が眉をひそめて返事をする。
「だから、わたしが護られているのがおかしいです。わたしも、正義の味方のように他人を護ることになるのなら、そのわたしが先輩たちに護られるっていうのが」
なんだか口にだしている言葉がぐちゃぐちゃになってきたけれど。
留城也先輩が、ピンときた表情になる。
「ああ、アンタはまだメンバーじゃない。だからいまは護衛がついていいんだ」
「え?」
「あ、そういうことか。留城也のいう通りだよ。桂ちゃんは正式に決まっていないから、一般市民扱いってこと。正式にメンバーとなれば、先生から護身術も習っていくし、自分で自分の身は護っていくことになるだろうけれどね」
そうか、わたしはまだ、正式に決まっていないからなんだ。
なんとなく納得したような表情になったわたしに、紘一先輩は安易に言葉を続けた。
「それに、狙われているのは受験者である桂ちゃんであって、きっと受験を辞退したりあるいは正式に決まってしまえば、狙う理由もなくなるってもんだよなぁ」
生徒会室で、予想通り凪先輩から昨夜の件でひと通り怒られたあと、思わぬことを告げられた。
「本当は本日予定していた試験があるのだが。外部で不穏な動きがあったため、今後の試験がすべて取りやめとなった。これまでの結果で判断をくだすことになると思う」
「外部で不穏な動き?」
それって、脅迫状が届いたり襲われたり、体育の時間に変な人影を見たりしたこと?
「あれ? 去年よりもかなり試験の数が少なくない?」
紘一先輩が意外そうに凪先輩へと問いかける。
――え? いったい、いくつ試験予定があったの?
ちょっと震えあがりそうになったけれど。
でも、とにかくそれらの試験はなくなったんだし。
ラッキーってこと?
次の朝、紘一先輩と留城也先輩が、ふたりそろって校門の前で待ち構えていた。
なぜか紘一先輩の楽しげにも思える笑顔が、逆に怖い。
見た目にも怪我はなさそうでホッとしながら、わたしは土下座をせんばかりに謝った。
あのあと、結局すぐに助けを求める連絡を凪先輩にして、紘一先輩を乗せたトラックを捜索してもらう大事態になったのだ。
考える前に突き飛ばすという動きをしてしまったわたしの思考を読みきれず、紘一先輩はあっさりとわたしの不意打ちを食らったことになる。
「アンタは謝らなくていい。どうせ紘一が余計なことをしたんだろう? いい気味だ」
不機嫌そうな表情で、横から留城也先輩が口をだす。
そんなふたりが校門で待ち構えていたことで、わたしはおそるおそる気になることを訊いてみた。
「それで、あの。おふたりがここにいらっしゃる理由は……?」
朝一番にわたしの謝罪を紘一先輩が受けるためかなと、単純に思っていたのだけれど。
紘一先輩は笑顔のままで、わたしの質問に答えてくれる。
「桂ちゃんが登校したら、すぐに生徒会室へ連れてくるようにって、凪先輩に言われていたからだよ」
それって、やっぱり迷惑をかけたから、怒られるために呼びだされたんだろうな。
でも、先輩をふたりもつけなくても。逃げだしたりしないのに。
もっとも、悪いのは自分だとわかっている。
なので、あきらめのため息をついたとき、留城也先輩が面倒くさそうに言葉を続けた。
「俺らふたりがそろっているのは、昨日、脅迫状がロッカーに入っていたんだろう? ウチの制服を着た部外者か、あるいは実際に校内にいるかもしれない不審人物がアンタに接触してこないように護衛だ」
「――でも、それって矛盾していますよね」
思わずわたしの口から言葉が飛びだした。
怪訝そうなふたりの視線を、わたしは同時に浴びる。
――ああ、そうか。
わたしの中でちゃんとした文章になっていないから、紘一先輩もわたしの疑問の見当がついていなくて、不思議そうな顔になっているんだ。
「最初に説明を受けたとき、正義の味方のようなことをする組織のメンバーって聞いたんです」
「まあ、だいたいあってるよ。だから、オレらはいま、狙われている桂ちゃんの身の安全を護ろうとしているんじゃないか。それのどこが矛盾なわけ?」
紘一先輩が眉をひそめて返事をする。
「だから、わたしが護られているのがおかしいです。わたしも、正義の味方のように他人を護ることになるのなら、そのわたしが先輩たちに護られるっていうのが」
なんだか口にだしている言葉がぐちゃぐちゃになってきたけれど。
留城也先輩が、ピンときた表情になる。
「ああ、アンタはまだメンバーじゃない。だからいまは護衛がついていいんだ」
「え?」
「あ、そういうことか。留城也のいう通りだよ。桂ちゃんは正式に決まっていないから、一般市民扱いってこと。正式にメンバーとなれば、先生から護身術も習っていくし、自分で自分の身は護っていくことになるだろうけれどね」
そうか、わたしはまだ、正式に決まっていないからなんだ。
なんとなく納得したような表情になったわたしに、紘一先輩は安易に言葉を続けた。
「それに、狙われているのは受験者である桂ちゃんであって、きっと受験を辞退したりあるいは正式に決まってしまえば、狙う理由もなくなるってもんだよなぁ」
生徒会室で、予想通り凪先輩から昨夜の件でひと通り怒られたあと、思わぬことを告げられた。
「本当は本日予定していた試験があるのだが。外部で不穏な動きがあったため、今後の試験がすべて取りやめとなった。これまでの結果で判断をくだすことになると思う」
「外部で不穏な動き?」
それって、脅迫状が届いたり襲われたり、体育の時間に変な人影を見たりしたこと?
「あれ? 去年よりもかなり試験の数が少なくない?」
紘一先輩が意外そうに凪先輩へと問いかける。
――え? いったい、いくつ試験予定があったの?
ちょっと震えあがりそうになったけれど。
でも、とにかくそれらの試験はなくなったんだし。
ラッキーってこと?