闘えわたし! 平和のために! ・10
文字数 1,383文字
「こちらから非難してください!」
躊躇なく大きな声をだす紘一先輩は、レストランの中へ取り残されていた利用客たちを、手際良く誘導する。
紘一先輩のように大きな声がだせないわたしは、こちらも同じように黙ったままの留城也先輩と一緒に黙々と案内していた。
わたしは利用客と従業員を出口へ誘導しながら、残っている人はいないかと思って何気なく伸びあがり、ホールの奥のほうまで見渡す。
すると、周囲と違った動きをする人物が、伸びあがったわたしの視界に入った。
その人は、周りの流れに逆らうように、奥へと移動していたように見えたんだけれど。
一瞬の出来事だったために、わたしが注意深く瞳を凝らしたときには、もう姿は見えなくなっていた。
――レストランの従業員が、厨房の火元確認にでも行ったのだろうか?
ふと気になったわたしは、その人物のあとを追うように、人波のあいだをすり抜けながらホールの奥を目指して歩きだした。
その人物が立っていた場所までくると、そこは厨房へと向かう方角ではなく、スタッフオンリーと書かれた扉の前だとわかる。
従業員のひとりが、持ちださなきゃと思うくらいに大事な私物を、取りに戻ってきたのだろうか?
わたしはそろりと扉のノブに手を伸ばす。
鍵はかかっておらず、あっさりと扉は開いた。
「すみません。誰かいますかぁ?」
細く扉を開けて、わたしは中へ声をかける。
けれども、返事はない。
たしかに誰かがここへ入ったと思ったんだけれど。
避難させないと危ないよね。
そう思ったわたしは、「入りますよぉ」と声をかけながら、身体が通れるくらいに扉を開こうとした。
その瞬間。
わたしは扉の向こうで、いくつかの小さな爆発音を聞いた。
扉の向こうへ飛びこんだわたしは、すぐに右手側にあった部屋をのぞきこむ。
そこは窓もない更衣室らしく、壁際に並んだロッカーと中央に置かれた簡易テーブルだけがあり、人影もなく異常も感じられなかった。
自分の勘を信じたわたしは、そのまま素通りして、細長く、電球がついているのに薄暗い廊下の先を急ぐ。
すると、突き当りを曲がったところで従業員専用の出入り口らしき小さな扉があり、鍵の部分と蝶番が壊され、開け放たれていた。
――これって、迷路の爆発物と同じもので壊されたの?
わたしたちが誘導するのとは別ルートで逃げるために、爆発物で扉を壊していったのだとしたら。
それは今回の一連の件の犯人のひとりとなるのではなかろうか?
逸 る気持ちを抑えつつ、わたしはそっと扉の外をのぞいた。
急に飛びだして、爆発物の餌食なんてことになったら嫌だものね。
そう考えて慎重に外をうかがったのに、わたしの目に映ったのは、背を向けて猛然とダッシュする犯人と思しき後ろ姿だった。
「冗談! 犯人を取り逃がしちゃう!」
わたしはここで、透流さんから受け取っていた腕時計型発信器をつけてこなかったことを悔やんだ。
あれがあれば、凪先輩にヘルプ要請ができたのに。
それでも、ここでみすみす発見した犯人らしき人物を取り逃がすわけにはいかないと思ったわたしは、ひとりで追いかける覚悟を決めて飛びだした。
それに。
逃げる犯人の後ろ姿に、見覚えがあると気がついたから。
躊躇なく大きな声をだす紘一先輩は、レストランの中へ取り残されていた利用客たちを、手際良く誘導する。
紘一先輩のように大きな声がだせないわたしは、こちらも同じように黙ったままの留城也先輩と一緒に黙々と案内していた。
わたしは利用客と従業員を出口へ誘導しながら、残っている人はいないかと思って何気なく伸びあがり、ホールの奥のほうまで見渡す。
すると、周囲と違った動きをする人物が、伸びあがったわたしの視界に入った。
その人は、周りの流れに逆らうように、奥へと移動していたように見えたんだけれど。
一瞬の出来事だったために、わたしが注意深く瞳を凝らしたときには、もう姿は見えなくなっていた。
――レストランの従業員が、厨房の火元確認にでも行ったのだろうか?
ふと気になったわたしは、その人物のあとを追うように、人波のあいだをすり抜けながらホールの奥を目指して歩きだした。
その人物が立っていた場所までくると、そこは厨房へと向かう方角ではなく、スタッフオンリーと書かれた扉の前だとわかる。
従業員のひとりが、持ちださなきゃと思うくらいに大事な私物を、取りに戻ってきたのだろうか?
わたしはそろりと扉のノブに手を伸ばす。
鍵はかかっておらず、あっさりと扉は開いた。
「すみません。誰かいますかぁ?」
細く扉を開けて、わたしは中へ声をかける。
けれども、返事はない。
たしかに誰かがここへ入ったと思ったんだけれど。
避難させないと危ないよね。
そう思ったわたしは、「入りますよぉ」と声をかけながら、身体が通れるくらいに扉を開こうとした。
その瞬間。
わたしは扉の向こうで、いくつかの小さな爆発音を聞いた。
扉の向こうへ飛びこんだわたしは、すぐに右手側にあった部屋をのぞきこむ。
そこは窓もない更衣室らしく、壁際に並んだロッカーと中央に置かれた簡易テーブルだけがあり、人影もなく異常も感じられなかった。
自分の勘を信じたわたしは、そのまま素通りして、細長く、電球がついているのに薄暗い廊下の先を急ぐ。
すると、突き当りを曲がったところで従業員専用の出入り口らしき小さな扉があり、鍵の部分と蝶番が壊され、開け放たれていた。
――これって、迷路の爆発物と同じもので壊されたの?
わたしたちが誘導するのとは別ルートで逃げるために、爆発物で扉を壊していったのだとしたら。
それは今回の一連の件の犯人のひとりとなるのではなかろうか?
急に飛びだして、爆発物の餌食なんてことになったら嫌だものね。
そう考えて慎重に外をうかがったのに、わたしの目に映ったのは、背を向けて猛然とダッシュする犯人と思しき後ろ姿だった。
「冗談! 犯人を取り逃がしちゃう!」
わたしはここで、透流さんから受け取っていた腕時計型発信器をつけてこなかったことを悔やんだ。
あれがあれば、凪先輩にヘルプ要請ができたのに。
それでも、ここでみすみす発見した犯人らしき人物を取り逃がすわけにはいかないと思ったわたしは、ひとりで追いかける覚悟を決めて飛びだした。
それに。
逃げる犯人の後ろ姿に、見覚えがあると気がついたから。