いきなり試験に突入です?!・6
文字数 1,719文字
放課後、わたしは生徒会室へ来いと言われている。
けれど、調理実習の居残りというトラブルで行けないことを伝えるために、腕時計型通信機へ向かって、わたしはこっそり凪先輩へと連絡した。
もちろん、細かい説明を省いて、家庭科の調理実習とだけ口にする。
ひとりだけ居残り補習だなんて、恥ずかしくて言えない。
それから放課後まで、先輩のほうからの連絡や動きはなかった。
なので連絡は伝わったものとして、荷物を持ったわたしは晴香とともに、調理実習室へと向かおうと立ちあがる。
「ああ、ちょっと待って! 晴香、桂ちゃん!」
そのとき、クラスの女子が慌てたように声をかけてきた。
怪訝な顔を向けたわたしたちのほうへ、彼女は一枚の紙と鉛筆を手に近寄ってくる。
「高校に入学して一カ月が経ったでしょ? クラスの親睦会をしようかって話がでたのよ。幹事は上田 くん。次の土曜日に郊外の巨大迷路。時間は、お昼過ぎに集まってから夜までになるけれど、ふたりとも、予定はどうかな?」
わたしは、晴香と顔を見合わせる。
土曜日なら、もうわたしのメンバー選出試験は終わっているはずだ。
それなら合格不合格関係なく、きっと心おきなく楽しむことができるに違いない。
それに中学生のときは、ほとんど遅い時間まで遊んだことがない。
夜まで友だちと遊ぶなんて、さすが高校生となると違うんだなぁ。
そんなことを考えていたわたしだけれど、どうやら晴香も、表情からして同じようなことを考えているらしい。
わたしと晴香は目配せをしてから、ほぼ同時に声をだした。
「大丈夫!」
「予定はまだ入っていないから行けるよ」
わたしと晴香の言葉を聞いた彼女は、持っていた紙に印をつけながらつぶやいた。
「晴香と桂ちゃんはOKっと! また改めて参加者には連絡を回すねぇ」
そう告げ終わった彼女はくるりと背を向け、次の女子のところへとパタパタと向かう。
「そっかぁ。クラスの親睦会かぁ」
「上田くんって、あのお調子者の背の高い男子だよね」
わたしと晴香はささやきあいながら、調理実習室へと急ぐべく教室を飛びだした。
楽しいイベントの予定が入った。
週末の楽しみを目標にして、それまでにわたし、頑張って試験を終わらせよう。
調理実習室へと到着すると、すでに先生はひとり、きっちりとエプロンをつけて待っていた。
慌ててわたしと晴香はエプロンをつける。
わたしが神妙な顔をして、テーブルの上に並べられている材料の前に立ったとき、先生は厳かに口にした。
「それでは、いまから木下桂の実技試験を行います」
――その言い方、居残り補習のはずで試験じゃないのに、メンバー選出試験のときみたいで、なんだかいやだなぁ。
そう思いながらも、わたしは小麦粉へ手をのばす。
昼間に一通り、経験したはずの工程だ。
そばで晴香が見守るなか、わたしは慎重に材料を量っていく。
そのとき。
急に調理実習室の扉が開いた。
ハッと顔をあげたわたしは、いきなり小麦粉をボールの外へとこぼしてしまったけれど、そんなことが気にならないほどに驚いた。
入ってきたのは凪先輩だった。
凪先輩だけじゃない。
紘一先輩も留城也先輩まで、そのあとに続いて姿をみせた。
呆気にとられた表情のわたしへ向かって、晴香を一瞥した凪先輩は口を開く。
「――生徒会室で仕事をしているときに、こちらの中里先生から試食を頼まれた。ケーキ制作の実習だそうだな。合格点をだせるように頑張ってもらいたい」
出会ったときのような堅苦しい雰囲気をだして告げた凪先輩、その横で、紘一先輩がわたしのほうへ嬉しそうな顔を向け、胸もとで小さく手を振った。
留城也先輩はムッとした表情で押し黙ったままだ。
――これって、どういうこと?
わざわざ留城也先輩まで姿をみせるということは?
混乱しつつも、わたしは無意識に思い当ったような表情を浮かべたのだろう。
視線がぶつかった凪先輩が、肯定するようにうなずいてみせた。
これ、二回目となる実技試験なんだ!
けれど、調理実習の居残りというトラブルで行けないことを伝えるために、腕時計型通信機へ向かって、わたしはこっそり凪先輩へと連絡した。
もちろん、細かい説明を省いて、家庭科の調理実習とだけ口にする。
ひとりだけ居残り補習だなんて、恥ずかしくて言えない。
それから放課後まで、先輩のほうからの連絡や動きはなかった。
なので連絡は伝わったものとして、荷物を持ったわたしは晴香とともに、調理実習室へと向かおうと立ちあがる。
「ああ、ちょっと待って! 晴香、桂ちゃん!」
そのとき、クラスの女子が慌てたように声をかけてきた。
怪訝な顔を向けたわたしたちのほうへ、彼女は一枚の紙と鉛筆を手に近寄ってくる。
「高校に入学して一カ月が経ったでしょ? クラスの親睦会をしようかって話がでたのよ。幹事は
わたしは、晴香と顔を見合わせる。
土曜日なら、もうわたしのメンバー選出試験は終わっているはずだ。
それなら合格不合格関係なく、きっと心おきなく楽しむことができるに違いない。
それに中学生のときは、ほとんど遅い時間まで遊んだことがない。
夜まで友だちと遊ぶなんて、さすが高校生となると違うんだなぁ。
そんなことを考えていたわたしだけれど、どうやら晴香も、表情からして同じようなことを考えているらしい。
わたしと晴香は目配せをしてから、ほぼ同時に声をだした。
「大丈夫!」
「予定はまだ入っていないから行けるよ」
わたしと晴香の言葉を聞いた彼女は、持っていた紙に印をつけながらつぶやいた。
「晴香と桂ちゃんはOKっと! また改めて参加者には連絡を回すねぇ」
そう告げ終わった彼女はくるりと背を向け、次の女子のところへとパタパタと向かう。
「そっかぁ。クラスの親睦会かぁ」
「上田くんって、あのお調子者の背の高い男子だよね」
わたしと晴香はささやきあいながら、調理実習室へと急ぐべく教室を飛びだした。
楽しいイベントの予定が入った。
週末の楽しみを目標にして、それまでにわたし、頑張って試験を終わらせよう。
調理実習室へと到着すると、すでに先生はひとり、きっちりとエプロンをつけて待っていた。
慌ててわたしと晴香はエプロンをつける。
わたしが神妙な顔をして、テーブルの上に並べられている材料の前に立ったとき、先生は厳かに口にした。
「それでは、いまから木下桂の実技試験を行います」
――その言い方、居残り補習のはずで試験じゃないのに、メンバー選出試験のときみたいで、なんだかいやだなぁ。
そう思いながらも、わたしは小麦粉へ手をのばす。
昼間に一通り、経験したはずの工程だ。
そばで晴香が見守るなか、わたしは慎重に材料を量っていく。
そのとき。
急に調理実習室の扉が開いた。
ハッと顔をあげたわたしは、いきなり小麦粉をボールの外へとこぼしてしまったけれど、そんなことが気にならないほどに驚いた。
入ってきたのは凪先輩だった。
凪先輩だけじゃない。
紘一先輩も留城也先輩まで、そのあとに続いて姿をみせた。
呆気にとられた表情のわたしへ向かって、晴香を一瞥した凪先輩は口を開く。
「――生徒会室で仕事をしているときに、こちらの中里先生から試食を頼まれた。ケーキ制作の実習だそうだな。合格点をだせるように頑張ってもらいたい」
出会ったときのような堅苦しい雰囲気をだして告げた凪先輩、その横で、紘一先輩がわたしのほうへ嬉しそうな顔を向け、胸もとで小さく手を振った。
留城也先輩はムッとした表情で押し黙ったままだ。
――これって、どういうこと?
わざわざ留城也先輩まで姿をみせるということは?
混乱しつつも、わたしは無意識に思い当ったような表情を浮かべたのだろう。
視線がぶつかった凪先輩が、肯定するようにうなずいてみせた。
これ、二回目となる実技試験なんだ!