エピローグ

文字数 1,607文字

 凪先輩や紘一先輩、留城也先輩がそばへ集まってくるのを確認しながら、透流さんは上着のポケットへおもむろに手を差しこむ。
 そして、そこから取りだした身分証のようなカードと携帯を、わたしの目の前に差しだしてきた。

「きみの意志を確認してから渡そうと思ったけれど。もうさっき、はっきりときみの言葉を聞いたからね。――きみを正式なメンバーとして歓迎するよ」
「やったね! 桂ちゃん」

 間髪いれずに紘一先輩が嬉しそうな声をあげると、呆然としていたわたしの腕をとって引っ張りあげてくれた。

 透流さんから差しだされたものを、両手で受け取る。

 ――そうか、わたしはメンバーに選ばれたんだ……。

「良かったね。これからずっと一緒にいられるね」
「紘一先輩がいうと、なんか意味が違うように聞こえますけれどね!」

 さりげなく肩へまわしてきた紘一先輩の腕を邪険に払いながら、わたしはちょっと上目づかいで紘一先輩を睨みつけた。

「――やけに調子がいいじゃねぇか。紘一は彼女がメンバーになるのを反対していたんじゃねぇのか?」

 そう口にしながら不機嫌そうな顔を向ける留城也先輩に、紘一先輩は笑顔で言い返す。

「初めから反対していたのは留城也のほうだろう? なに? いまは全然文句をいわなくなったじゃない。どのあたりで心境の変化があったんだよ」

 すると、じっと紘一先輩に見つめられていた留城也先輩は、居心地が悪そうにぽつりと口走る。

「どのあたりって――あんな風に保健室で身体を張ってかばわれたら、まあ、一応認めなきゃなと思わなくも」
「保健室で身体を張るって。なにそれ、初耳。色仕掛けなの?」

 急に透流さんが、無邪気に話へ割って入った。

「透流さんまで? ちょっと待ってくださいよ!」

 慌ててわたしは、話を止めに入る。
 とたんに紘一先輩が、くるりと話題を変えた。

「なあ、いまのヤツって何色だろうな。敵のイメージカラーはブラックだよね。……って、うちにも留城也っていうブラックがいたっけ」
「うるせぇよ」

 ムッとした表情の留城也先輩を横目でみながら、紘一先輩は言葉を続ける。

「オレがグリーンで凪先輩はブルー。立場的にはレッドの透流さんがホワイトで、桂ちゃんがピンク。――そうなると、敵のあいつがレッドって気がしない? とすれば、まるで敵のあいつが戦隊モノの主人公みたいだ。ね、桂ちゃん!」

 そういって、紘一先輩はわたしの顔をのぞきこんだ。


 正式なメンバーに選ばれたことに対して、せっかくわたしはシリアスに余韻に浸ろうかと考えていたのに。
 なによ、これ。
 ちっとも、そんな雰囲気にならないじゃない!



「さて。警察もきたみたいだし、いろいろ後始末も手伝わなきゃいけないな」
「これから忙しくなるぞ」 

 聞こえてきたサイレンの音に気づいた透流さんが、不意に顔をあげた。
 透流さんの言葉に続いて、空気を切り替えるように手を叩きながら凪先輩が場を仕切る。

「はぁい。了解でぇす」

 軽やかに声をあげた紘一先輩につられるように、施設のあるほうへ全員で移動をはじめながら、わたしはふと、振り返った。


 緩やかな風が、広い公園の中へふわりと吹き抜け、かすかに樹の葉と芝生を揺らした。
 その真ん中には、横に寝かされた石のレリーフ。
 ――あ、あれはあとで専門の人に土台を造りなおしてもらうなりして、もう一度設置してもらわなきゃね。

 ひとりうなずいて、わたしは前を向く。
 すると、視界には透流さんと凪先輩、それに紘一先輩と留城也先輩の進んでいく後ろ姿が見えた。

 ――わたしは、一緒に並んでいける仲間を手に入れたんだ。
 そして、終わったんじゃない。
 いま、はじまったばかり。

 わたしの本当の闘いは、これからだ。



 ―― 闘え☆桂ちゃん! 完 ――
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