どうやら歓迎されていないようです・4
文字数 1,877文字
くらくら回る頭で見上げたわたしを、彼は、初めて言葉を交わしたころの凪先輩以上に、射抜くような冷たい視線で睨みつける。
そして、そっけない口調で言い放った。
「きゃあきゃあ騒ぐばかりで、まったく役に立たない。――俺は、女がメンバーに入ることを認めない」
「だが、それは、きみが決めることではないはずだ」
わたしが言い返す前に、凪先輩が鋭く切り捨てた。
ふたりの剣呑な雰囲気に、わたしは、ふと思い当たる。
もしかして、この彼はメンバーのひとりではなかろうか。
それなら、昨日の透流さんと同じように、わたしを試しがてら見にきたに違いない。
もしかしたら仲間になるかもしれない彼を、邪険に対応するのはまずいのではないかと考えたわたしは、どうにか笑顔を浮かべて声をかけた。
「戦隊メンバーの方だったんですね。良かったぁ。本当に怖かったんですよ。でも、女子がメンバーに入ることを認めないって言っても、カラーとして女性用のピンクの枠があるんでしょう?」
視点が定まらないままに、上目づかいで顔色をうかがいながら口にしたわたしへ向かって、さらに険のある表情を浮かべた彼は、突き放すように言った。
「なんだ。結局あんたも軽いノリで、メンバーの紅一点を期待して入りたいんだ」
「桂、きみは黙っていろ。話がややこしくなる」
すげなくダブルで返されて、うまく頭が働かないわたしはそれ以上言葉が思いつかずに、押し黙るしかない。
そんなわたしに一瞥をくれると、彼は踵を返して、さっさとコンピューター室から出て行った。
「――彼も、メンバーなんですよね?」
ようやく落ち着いたわたしは、確認するように凪先輩へと問う。
しかめっ面の表情を浮かべたまま、ゆっくりと凪先輩はうなずいた。
「二年の留城也 だ。電子や電気仕掛けの機械など、電気系統を支配する能力を持っている。生まれつきの体質だそうだ」
その言葉を聞いて、わたしはピンときた。
腕時計の秒針が止まっていたのは、きっとそのせいだ。
わたしの親戚にもそのような体質の人がいて、すぐに狂ってしまうから腕時計を身につけられないって言っていたのを聞いたことがある。
妙に納得してうなずくわたしへ、凪先輩は、少し考える顔をしながら続けた。
「それから、留城也は女性嫌いというより、人間そのものを信用していない。彼が信じるモノは自分の思い通りに動く機械だけだ。きみだから冷たい態度をとったわけではない。まあ、なんだ――彼の言動に関しては気にするな」
わたしは、思わず凪先輩の顔をまじまじと見つめる。
もしかして、わたしに気を使ってくれているのだろうか?
けれど、あまりにも見つめすぎたせいか、凪先輩はみるみる不機嫌そうな表情になった。
「しかし、きみもあれぐらいで大騒ぎをするんじゃない。試験がはじまったとき、こんな醜態をさらすんじゃないぞ」
「なんですか! 醜態って」
「大声をだしながら逃げ回ったり、椅子の上に仁王立ちするなってことだ。スカートをはいた女の子だろう? 見ているこちらが恥ずかしい」
「その女子のスカートを風でめくったのは、どこのどなたでしたっけ!」
「あれは事故だと言うとろうが!」
睨み合うけれど、昨日ほど凪先輩が恐く感じられない。
たった一日でも、慣れってすごいな。
そんな凪先輩は、すぐに別のことへと考えを向けたらしい。
「しかし。留城也は、きみが両手で軽々とパソコンを持ち上げている姿を見て、普通の姿ではないと気づかなかったのか? 火事場の馬鹿力くらいに思っているのだろうか? 意外と目が節穴だな」
「その言葉、けっこうひどいですね。留城也先輩に対してもわたしに対しても。ともあれ、彼にわたしの馬鹿力を認識されなくて良かったです」
そこまで口にしたわたしは、ふと考えて首をかしげる。
もしかしたら、――留城也先輩って、意外と抜けてる?
それとも、気づいていたけれども、口に出さなかっただけ?
もし前者なら、なんだ、戦隊メンバーもたいしたことがないなという感じ。
でも、もし後者なら、どちらのほうだろう?
驚いて口にするほど、たいしたことじゃないから言わなかったのか。
それとも、わたしに気を使って言わなかったのか。
――最後の理由は、きっとないな。
だって、わたしが怪力を恥ずかしいだなんて思っていることを知らないだろうし。
たぶん、怪力程度の能力は、たいしたことじゃないって思われたんだろうな。
そして、そっけない口調で言い放った。
「きゃあきゃあ騒ぐばかりで、まったく役に立たない。――俺は、女がメンバーに入ることを認めない」
「だが、それは、きみが決めることではないはずだ」
わたしが言い返す前に、凪先輩が鋭く切り捨てた。
ふたりの剣呑な雰囲気に、わたしは、ふと思い当たる。
もしかして、この彼はメンバーのひとりではなかろうか。
それなら、昨日の透流さんと同じように、わたしを試しがてら見にきたに違いない。
もしかしたら仲間になるかもしれない彼を、邪険に対応するのはまずいのではないかと考えたわたしは、どうにか笑顔を浮かべて声をかけた。
「戦隊メンバーの方だったんですね。良かったぁ。本当に怖かったんですよ。でも、女子がメンバーに入ることを認めないって言っても、カラーとして女性用のピンクの枠があるんでしょう?」
視点が定まらないままに、上目づかいで顔色をうかがいながら口にしたわたしへ向かって、さらに険のある表情を浮かべた彼は、突き放すように言った。
「なんだ。結局あんたも軽いノリで、メンバーの紅一点を期待して入りたいんだ」
「桂、きみは黙っていろ。話がややこしくなる」
すげなくダブルで返されて、うまく頭が働かないわたしはそれ以上言葉が思いつかずに、押し黙るしかない。
そんなわたしに一瞥をくれると、彼は踵を返して、さっさとコンピューター室から出て行った。
「――彼も、メンバーなんですよね?」
ようやく落ち着いたわたしは、確認するように凪先輩へと問う。
しかめっ面の表情を浮かべたまま、ゆっくりと凪先輩はうなずいた。
「二年の
その言葉を聞いて、わたしはピンときた。
腕時計の秒針が止まっていたのは、きっとそのせいだ。
わたしの親戚にもそのような体質の人がいて、すぐに狂ってしまうから腕時計を身につけられないって言っていたのを聞いたことがある。
妙に納得してうなずくわたしへ、凪先輩は、少し考える顔をしながら続けた。
「それから、留城也は女性嫌いというより、人間そのものを信用していない。彼が信じるモノは自分の思い通りに動く機械だけだ。きみだから冷たい態度をとったわけではない。まあ、なんだ――彼の言動に関しては気にするな」
わたしは、思わず凪先輩の顔をまじまじと見つめる。
もしかして、わたしに気を使ってくれているのだろうか?
けれど、あまりにも見つめすぎたせいか、凪先輩はみるみる不機嫌そうな表情になった。
「しかし、きみもあれぐらいで大騒ぎをするんじゃない。試験がはじまったとき、こんな醜態をさらすんじゃないぞ」
「なんですか! 醜態って」
「大声をだしながら逃げ回ったり、椅子の上に仁王立ちするなってことだ。スカートをはいた女の子だろう? 見ているこちらが恥ずかしい」
「その女子のスカートを風でめくったのは、どこのどなたでしたっけ!」
「あれは事故だと言うとろうが!」
睨み合うけれど、昨日ほど凪先輩が恐く感じられない。
たった一日でも、慣れってすごいな。
そんな凪先輩は、すぐに別のことへと考えを向けたらしい。
「しかし。留城也は、きみが両手で軽々とパソコンを持ち上げている姿を見て、普通の姿ではないと気づかなかったのか? 火事場の馬鹿力くらいに思っているのだろうか? 意外と目が節穴だな」
「その言葉、けっこうひどいですね。留城也先輩に対してもわたしに対しても。ともあれ、彼にわたしの馬鹿力を認識されなくて良かったです」
そこまで口にしたわたしは、ふと考えて首をかしげる。
もしかしたら、――留城也先輩って、意外と抜けてる?
それとも、気づいていたけれども、口に出さなかっただけ?
もし前者なら、なんだ、戦隊メンバーもたいしたことがないなという感じ。
でも、もし後者なら、どちらのほうだろう?
驚いて口にするほど、たいしたことじゃないから言わなかったのか。
それとも、わたしに気を使って言わなかったのか。
――最後の理由は、きっとないな。
だって、わたしが怪力を恥ずかしいだなんて思っていることを知らないだろうし。
たぶん、怪力程度の能力は、たいしたことじゃないって思われたんだろうな。