どうやら歓迎されていないようです・3

文字数 1,476文字

 わたしは、おもむろに揺れる回転椅子の上で仁王立った。
 反応したようにラジコンヘリが、ゆらりと機体を揺らす。

 ヘリを睨みつけながら、わたしは目の前にあったパソコンのデスクトップを持ち上げた。
 どっしりとしたブラウン管の背面に、ぞろりと配線がくっついているが、そんなこと構うものか。

 わたしはコントロールがいいわけじゃない。
 ふたつ同時にヘリへ投げつけてやるつもりで、後ろの席にあったデスクトップも、もう片方の手で軽々と持ち上げる。
 たぶん、どちらかは当たるだろう。
 ネコに追いつめられたネズミの反撃、思い知れ!

 わたしが狙いを定めて、頭の両横でふたつのデスクトップを高く持ちあげたとき。

「待て! どれだけの損害をだす気だ!」

 焦るような声をあげた凪先輩が飛びこんできた。
 わたしは、デスクトップを頭上で構えたまま、半眼で凪先輩を睨みつけて叫ぶ。

「だってぇ! いきなり襲ってくるんですよ? か弱い乙女としては、当然の抵抗じゃないですかぁ?」
「どこがか弱い乙女だって?」
「それに! 集団で新入生をいじめるなんて反則ですよぉ!」
「集団?」

 眉をひそめた凪先輩は、床上のラジコンカーや飛んでいるヘリを一瞥したあと、点滅を繰り返しているデスクトップ画面へ視線を移して、ため息をついた。
 低い声で短く言い放つ。

「やめろ。もういいだろう?」

 凪先輩の声とともに、パソコンの画面が一斉に消えた。
 ラジコンヘリが、一番近くのデスクトップの上にふわりと着地して、そのまま動かなくなる。
 そして、一瞬ちかちかと点滅したあと、教室内の電気がついた。

 この状況をみて、わたしは呆気にとられたけれど。
 はっと気がついたとたんに、わたしは凪先輩へ向かって怒鳴っていた。

「ちょっと、これ、どういうことですか? 凪先輩が仕組んだってことですかぁ?」
「馬鹿者。そんな面倒なことをするものか」

 わたしの言葉をあっさり切り捨てたあと、凪先輩はぐるりと教室内を見まわす。 
 ふたたびわたしへ視線を向けると、つかつかと近づきながら呆れたように命令した。

「パソコンを元に戻して、椅子の上から降りろ。まったく。女の子として椅子の上にあがるなんて、恥ずかしくないのか?」
「仕方がないじゃないですか!」

 わたしは頬をふくらませながら、デスクトップを元の場所へと戻す。
 幸いコードは長かったようで、床上にとめているテープがはがれただけで断線はしていないようだ。
 そして、そばに立った凪先輩へ、わたしはふくれっ面の顔を向ける。
 すると、椅子の上から見下ろされるという構図が癇に障ったのだろうか。

「さっさと降りんか!」

 低く叫ぶやいなや、凪先輩はわたしの乗っている回転椅子の背に手をかけると、全体重をかけるように一気に椅子を回した。

「きゃあ~!」

 視界がぐるぐると回る。
 振り落とされないように、わたしは椅子の背にしがみつく。
 ようやく椅子の回転が止まり、床の上へおそるおそる降りたったわたしは、まっすぐに立てなかった。
 ふらふらと床の上にへたりこむ。
 凪先輩が大げさにため息をついたとき、教室のドアの陰から、ひとりの男子生徒が姿を見せた。

 両手を制服のポケットへ突っこんだ彼は、わたしより少し背が高いくらいの身長だろうか。凪先輩と同じ漆黒だが、彼のような長めの癖のない髪とは違って短めで毛先が跳ねている。
 瞳の奥に野性的な迫力ある光が宿り、他人を近づけさせない強靭な意思を感じた。

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