なんと別口で狙われているようですっ!・7
文字数 1,860文字
空は爽やかな五月晴れ。
風も心地良く、どこからか甘い花の香りを運んでくる。
そんな中庭の草っぱらの上で、わたしは紘一先輩と並んで座って一緒にお弁当を食べるという、なんとも不思議な状況になっていた。
持参した大きめのボックスに、きれいに詰められたサンドウィッチを手に取りながら、紘一先輩はわたしのお弁当をのぞきこんでくる。
「桂ちゃん、そのお弁当は自分で作ったの?」
「え? まさか! とんでもないです」
「ああ、そうか。そういえば、昨日の調理実習でも手こずっていたもんね」
そういって大笑いする紘一先輩に、わたしは恥ずかしさでいっぱいだった。
せっかくの女の子らしさアピールができるところで、この体たらく。
紘一先輩は、いったいわたしのどこが気にいったのだろう?
紘一先輩が手を伸ばし、ぼんやりとしているわたしのお弁当からウインナーをつまみあげたとき、背後から涼しげな声をかけられた。
「楽しそうですね。わたしたちもご一緒していいですか?」
慌てて声のほうへ顔をあげると、女の子三人が笑顔で近寄ってくる。
つけている校章の色は二年。
ということは、紘一先輩と同学年だ。
三人とも、浮かべている微笑みは大人っぽく、三人ともがわたしよりも美人だった。
なんといっても、わたしと違って女の子っぽい。
もともと女の子に対して軽そうな紘一先輩だ。
きっと喜んで彼女たちの座る場所をあけるのだろうと思ったわたしは、移動しやすいようにとお弁当を手に立ちあがろうとした。
けれど。
「ごめん。邪魔しないでくれる。いまは彼女とふたりっきりで過ごしたいんだけれど」
わたしが蒼ざめてしまいそうなほど、紘一先輩は予想外に冷たい態度をみせた。
笑顔がこわばり、その場に凍りついたように佇む女の子たち。
「――ごめんなさいね」
三人の中のひとりが、どうにか声を発して、ようやく彼女たちはそそくさとその場を立ち去っていった。
「だって、いまはオレ、桂ちゃんとふたりでお弁当を食べたいしね」
まるで何事もなかったかのように、紘一先輩がわたしへ笑顔を向ける。
その素敵なチョコレート色の瞳と妖艶に形作られた口もとを、わたしは不思議なものをみるように、呆然と見つめた。
五時間目は体育で、バレーボールの授業が入っている。
体操服に着替える時間を考えたわたしは、余裕を持って早めに教室へ戻りたいと紘一先輩へ告げた。
名残惜しげな先輩を残して、わたしは早々に中庭から逃げだす。
――わたしと一緒にいたいから彼女たちを断ったのだろうけれど。
なにかがすっきりしない。
自分のどこが先輩に気にいられたのか、わからないからだろうか。
彼女たちに申しわけない気持ちがあるからだろうか。
わたしは、からのお弁当箱が入った袋を振りまわしながら、先ほどの紘一先輩の態度を思いだす。
そして、二年の教室が並ぶ三階を通り過ぎ、四階へと続く次の階段へと片足を乗せたとき。
「ねえ、そこの一年生」
背後から呼びとめられたわたしは、振り向いたとたんに、近くの女子トイレへと連れこまれた。
朝のように手荒い扱いじゃなかったけれど。
壁際へ追い立てられて囲まれると、驚きと恐怖で心臓が縮みあがる。
わたしをとり囲んでいるのは、先ほど紘一先輩に断られた女の子たちだった。
学年がひとつ違うだけなのに、上級生の集団というだけで不思議なことに恐怖が増して、わたしは足がすくむ。
今日は朝からこんなことばかり。
わたしはただ穏やかに高校生活を送りたいだけなのよ。
なんて心の中でため息をつきながら、わたしは真正面の女の子が口を開く瞬間を待ちかまえた。
「あなた、図に乗るんじゃないわよ」
先ほどとは打って変わって険しい表情を浮かべた彼女は、居丈高に腕を胸の前で組んで、わたしの予想した台詞を口にする。
「あなたのために、忠告してあげるんだから。あなたとのことも、紘一くんにとっては遊びなの」
「――あの~。紘一先輩は、やっぱり軽い性格の方ってことですか? あ、もしかしたらあなたが紘一先輩の彼女さんですか?」
余計な波風を立てたくなかったわたしは、いかにもしおらしく従順にうつむきながら訊いてみる。
彼女は、自分たちのライバルを減らしたいために、こんなことをわたしに告げようとしているのだろうか。
それとも、紘一先輩と一緒にいたわたしに、単なる八つ当たり?
風も心地良く、どこからか甘い花の香りを運んでくる。
そんな中庭の草っぱらの上で、わたしは紘一先輩と並んで座って一緒にお弁当を食べるという、なんとも不思議な状況になっていた。
持参した大きめのボックスに、きれいに詰められたサンドウィッチを手に取りながら、紘一先輩はわたしのお弁当をのぞきこんでくる。
「桂ちゃん、そのお弁当は自分で作ったの?」
「え? まさか! とんでもないです」
「ああ、そうか。そういえば、昨日の調理実習でも手こずっていたもんね」
そういって大笑いする紘一先輩に、わたしは恥ずかしさでいっぱいだった。
せっかくの女の子らしさアピールができるところで、この体たらく。
紘一先輩は、いったいわたしのどこが気にいったのだろう?
紘一先輩が手を伸ばし、ぼんやりとしているわたしのお弁当からウインナーをつまみあげたとき、背後から涼しげな声をかけられた。
「楽しそうですね。わたしたちもご一緒していいですか?」
慌てて声のほうへ顔をあげると、女の子三人が笑顔で近寄ってくる。
つけている校章の色は二年。
ということは、紘一先輩と同学年だ。
三人とも、浮かべている微笑みは大人っぽく、三人ともがわたしよりも美人だった。
なんといっても、わたしと違って女の子っぽい。
もともと女の子に対して軽そうな紘一先輩だ。
きっと喜んで彼女たちの座る場所をあけるのだろうと思ったわたしは、移動しやすいようにとお弁当を手に立ちあがろうとした。
けれど。
「ごめん。邪魔しないでくれる。いまは彼女とふたりっきりで過ごしたいんだけれど」
わたしが蒼ざめてしまいそうなほど、紘一先輩は予想外に冷たい態度をみせた。
笑顔がこわばり、その場に凍りついたように佇む女の子たち。
「――ごめんなさいね」
三人の中のひとりが、どうにか声を発して、ようやく彼女たちはそそくさとその場を立ち去っていった。
「だって、いまはオレ、桂ちゃんとふたりでお弁当を食べたいしね」
まるで何事もなかったかのように、紘一先輩がわたしへ笑顔を向ける。
その素敵なチョコレート色の瞳と妖艶に形作られた口もとを、わたしは不思議なものをみるように、呆然と見つめた。
五時間目は体育で、バレーボールの授業が入っている。
体操服に着替える時間を考えたわたしは、余裕を持って早めに教室へ戻りたいと紘一先輩へ告げた。
名残惜しげな先輩を残して、わたしは早々に中庭から逃げだす。
――わたしと一緒にいたいから彼女たちを断ったのだろうけれど。
なにかがすっきりしない。
自分のどこが先輩に気にいられたのか、わからないからだろうか。
彼女たちに申しわけない気持ちがあるからだろうか。
わたしは、からのお弁当箱が入った袋を振りまわしながら、先ほどの紘一先輩の態度を思いだす。
そして、二年の教室が並ぶ三階を通り過ぎ、四階へと続く次の階段へと片足を乗せたとき。
「ねえ、そこの一年生」
背後から呼びとめられたわたしは、振り向いたとたんに、近くの女子トイレへと連れこまれた。
朝のように手荒い扱いじゃなかったけれど。
壁際へ追い立てられて囲まれると、驚きと恐怖で心臓が縮みあがる。
わたしをとり囲んでいるのは、先ほど紘一先輩に断られた女の子たちだった。
学年がひとつ違うだけなのに、上級生の集団というだけで不思議なことに恐怖が増して、わたしは足がすくむ。
今日は朝からこんなことばかり。
わたしはただ穏やかに高校生活を送りたいだけなのよ。
なんて心の中でため息をつきながら、わたしは真正面の女の子が口を開く瞬間を待ちかまえた。
「あなた、図に乗るんじゃないわよ」
先ほどとは打って変わって険しい表情を浮かべた彼女は、居丈高に腕を胸の前で組んで、わたしの予想した台詞を口にする。
「あなたのために、忠告してあげるんだから。あなたとのことも、紘一くんにとっては遊びなの」
「――あの~。紘一先輩は、やっぱり軽い性格の方ってことですか? あ、もしかしたらあなたが紘一先輩の彼女さんですか?」
余計な波風を立てたくなかったわたしは、いかにもしおらしく従順にうつむきながら訊いてみる。
彼女は、自分たちのライバルを減らしたいために、こんなことをわたしに告げようとしているのだろうか。
それとも、紘一先輩と一緒にいたわたしに、単なる八つ当たり?