新たな能力者・2

文字数 1,425文字

 電気式ポットのお湯が沸き、珈琲を淹れたカップを凪先輩の机の上に置く。
 すると、ふっと視線をあげた凪先輩が小さく声をだした。

「きみの力は、いつ頃から自覚するようになった?」
「え?」
「当然覚えているだろう? 自分のことだ」
「もちろんです! ――物心がつく頃にはもうありまして、両親の話では、生まれて半年くらいから、異変に気がついたそうです」
「ほう? 馬鹿力の異変か。生後六ヶ月にしてベビーベットを持ちあげたりなどをしていたのか」
「違います! ――あ、いえ、まったく違うわけじゃないですけれど」
「なんだ、やっぱり持ちあげていたのか」
「わたしの言っている異変とは違いますって! わたしは全然覚えていないことですが――赤ちゃんとしてはあり得ないほど重かったというか」 
「なんだ、巨大児だったのか」
「違います!」

 わたしは、どう説明すれば伝わるのかと考える。

「その、わたしの大きさと体重は普通なんですよ。なのに、さっき銅像を持ちあげたときのような重さが、無意識に身体全体にかかっているときがあったというか。でも、身体に異常は全然ないので、いままで健康診断にも引っかかったこともないし、小学校へあがるころには地面にのめりこむようなこともなくなりましたし」

 考えながら話していたわたしの言葉に、凪先輩は、ピンときたような表情をみせた。

「なるほど。重力操作系の能力かもしれんな」
「重力?」
「重力操作系は、物体を重くしたり軽くしたりすることができる。自覚のないころから無意識に、自分自身を重くしたり軽くしていたのではないか?」
「ベッドに沈みこむ重さは時々あったそうですが、その話だと、身体が浮くくらいの軽いときがあるってことになりますよね。わたし、空は飛べないです」
「空を飛べるほど身体が軽くなるわけでもないだろうが、他人が重いと感じて持ち上げられないものが、きみには軽いと感じられているのではないかな。他人と個人とのあいだの比べられない感覚問題もあるだろうが。ああ、そうすると。――地上の重力よりも重い負荷を自らの肉体にかけることによって、物を支える腕や肩だけではなく背中や脚なども、つまりは、身体の組織全体に筋力がついた可能性もある」

 そして、わたし以上に興味を持った表情の凪先輩は、さらにささやくように続けた。

「重力系となると……。自分に対してだけではなく、ほかの物体に対して作用させることができれば、かなりレアで使える能力だ。物を持ちあげるという念力のようなことができるだけじゃない。空気中の粒子も重力がある。光を曲げることができれば、錯覚などの変化技もできるかもしれない」

 けれど、凪先輩はそこで言葉を切ると、じっとわたしのほうを見つめてきた。
 その真剣な表情と瞳の奥を見透かすような眼に、思いがけず、わたしの乙女の心臓がどきんと脈打つ。

 いままでこんなに近くから男子に、まじまじと見つめられるなんてことがなかったわたしは、どうして良いのかわからず動けない。

 すると。
 わたしの顔から手元の書類へと視線を移しながら、凪先輩は、わざとらしいくらいの大きなため息をついてみせた。

「いや。過度な期待はやめておこう。きみに使いこなせる気がまったくしない」
「それって、とっても腹が立つんですけれどぉ!」

 わたしが凪先輩へふくれっ面をみせたとき、どこからかクラシック音楽が流れてきた。

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