なんと別口で狙われているようですっ!・6

文字数 1,640文字

 四時間目の終了を告げるチャイムが鳴り、大きく伸びをした瞬間。
 あきらかに怒りの色を帯びた凪先輩の声が、校内放送でわたしを生徒会室へと呼びだす。
 慌てて生徒会室へ駆けこんだわたしの目に映った場面は、大きな会長机の椅子にどっかりと座ってこちらを睨みつけている凪先輩と、その前で苦笑いを浮かべている紘一先輩。
 ってことは。

「桂ちゃん、ばれちゃっているみたい」

 思った通りのことを紘一先輩が口にしたとたん、凪先輩の雷が落ちた。

「当たり前だ! 桂、きみはその場にある物を投げることしかできんのか! 美術準備室の壁に巨大な穴を開けておいて、まさか気づかれないと思っていたのではないだろうな!」

 思っていました。すみません。
 だって、結果的にはミケランジェロもヴィーナスも壊していないじゃない?

 なんてうつむきながら、心の中で言い訳したけれど。
 すぐに深呼吸をした凪先輩は、声の大きさを戻して言葉を続ける。

「だいたいの事情は紘一から聞いた。学校側の防犯カメラの画像をチェックしたところ、壁を乗り越えた外部からの侵入者だと判明した。ただ、残念ながら我が校の制服を着た上に顔が映っておらず、身元特定につながるものは映っていなかった」
「外部ですか?」

 それって、この高校の中だけじゃなくて、辺り一帯の高校の人間にも、自分が審査中だという情報がもれているってこと? そんな不特定多数にばれているなんて。
 蒼ざめたわたしに気づいた凪先輩は、口調をやわらかくした。

「桂、おまえはどうしたい? 能力をこのまま隠し続けるほうがいいのか。自分の能力をふるえる場所で、うまく使えるようになって能力とつきあっていく気はないのか? ――ぼくは自分の能力がうまく制御できないころ、使いこなして能力と共存することを選んだのだがな」
「もとからオレは、自由自在に使っているけれどね」

 紘一先輩が口をはさむ。
 そんな紘一先輩を目で制してから、凪先輩はゆっくりと言葉を続けた。

「昔、能力で他人に怪我を負わせてしまったことがある。向こうが悪かったとはいえ必要以上に大怪我をさせてしまったぼくも悪い。その上、目撃していた者たちの、ぼくをみる目つきが怯えに変わった。それらはすべて、うまく使いこなせなかった自分のせいだといまでも思っている。――試験期間はもう少しある。きみもいい機会だろうから、急いで結論をださずに向き合って考えろ」

 そして凪先輩は、手を打ち鳴らして場の雰囲気を変えた。

「はい、解散! ふたりとも昼食をとりにいけ。とくに桂は、しっかりと体力を蓄えろ」

 たちまち生徒会室の外へと、わたしと紘一先輩は放りだされた。
 わたしもお弁当は教室に置いて飛びだしてきたし、ここは凪先輩の言う通り、お昼にしようと考える。
 それに、凪先輩の最後の体力を蓄えろっていう言葉、今日の放課後にも次の試験があるかもってことを、ほのめかしているのかもしれない。


 そうぼんやりと考えていたら、一緒に放りだされた紘一先輩がわたしの顔をのぞきこんで言った。

「桂ちゃん、お弁当なんだ? それじゃあたまには、一緒に中庭で食べない? オレとの付き合いも本気で考えてもらいたいしさ」

 笑顔でそう言われたわたしは、頬を赤らめながらうなずいた。

 そうだね。試験が行われていないときは、普通の高校生活を考えていこう。
 それにいまの状況って、よく考えたら、紘一先輩に告白されているようなものだし。

 わたしを女の子扱いしてくれる紘一先輩。
こんなオイシイ状況を、少しは味わってもいいんじゃない?
 そう思った瞬間。

「桂ちゃんもオイシイ状況って思ってくれているのなら、喜ばれているオレも嬉しいね」

 つぶやいた紘一先輩に、わたしは照れ笑いを向けた。

 ――ああ、気をつけなきゃ。
恥ずかしいことは考えないようにしよう。
 紘一先輩には読まれてしまうんだから。

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