どうやら歓迎されていないようです・8
文字数 1,793文字
うっかり言葉に乗せられて、そう思ったとき。
「勝手に他人のプライベート情報を利用して、女を呼びだしてんじゃねぇよ」
静寂を破るように扉が開けられた。
バンッと大きい音が鳴り響く。
この声は、留城也先輩だ。
すると、金縛りが解けたかのように、わたしの身体に感覚が戻った。
無意識に握りしめていた両手のひらを、そっと開く。
身体が動いた。
自分を奮い立たせたわたしは、片足をあげる。
思い通りに足が動いた。
その機会を逃さぬように入り口が見えるところまで、わたしは本棚を伝いながら移動をはじめる。
ようやく視界に映ったのは、仏頂面で図書室の中へ入ってくる留城也先輩と、その後ろで呆れたような表情の凪先輩が立っていた。
凪先輩が姿を見せたってことは、これは実技試験だったの?
そう思った拍子に、わたしは腰が抜けたように、その場へすとんと座りこんでしまった。
やっちゃった。
悲鳴こそあげなかったけれど、醜態見せまくりだ。
「まったく。だから単独行動をとるなと言ったのに」
「凪先輩は、そんなこと言いませんでした!」
「ぼくの監視下にいろと言っただろう? 同じ意味だ」
じろりと睨みながら、逆切れ気味のわたしへ向かって言い放つと、凪先輩は図書室の奥へと顔をあげた。
「そこにいるんだろう? 出てくるんだ!」
凪先輩の声に、奥から人影があらわれた。
頭を掻きながら笑顔を浮かべて姿を見せたのは、昼休みにわたしを呼びだした彼、その人だった。
呆気にとられて見つめるわたしのそばまで来ると、彼は、ヘリウムガスが抜けきらない声をだす。
「ごめんごめん。怖がらせるつもりはなかったんだけれど、あ、オレって昼休みのときに名乗っていなかったよね。左部紘一 っていうんだ。これからもよろしく、桂ちゃん」
流れるように軽く告げると、わたしの前へ回りこんでしゃがみこむ。
そのまま両手をとって、笑顔でぶんぶんと握手をしてきた。
「凪先輩と留城也のことは下の名前で呼んでいるんだろう? それなら、オレのことも紘一って呼んでよ、桂ちゃん。うわぁ、いい響きだなぁ。紘一先輩だなんて」
「紘一、むやみに触るんじゃねぇよ」
少し離れたところで立ち止まり、留城也先輩は不機嫌そうに言い捨てる。
すると、わたしの手をつかんだまま、紘一先輩はわざとらしく留城也先輩の顔をのぞくように見上げた。
「あれぇ? いいじゃないか。この子は留城也の彼女でもなんでもないんだろう?」
怒りのためか、さらに表情を険しくした留城也先輩と紘一先輩のあいだへ、凪先輩が割って入った。
「留城也、挑発に乗るな。紘一も勝手な行動をとるんじゃない。さっさと桂から離れろ」
凪先輩の言葉に、紘一先輩はあっさりとわたしの手を放して立ちあがった。
わたしは、自分が座りこんだままだったことを思いだし、慌てて両手を床について足に力を入れる。
無事に立ちあがれたわたしは、スカートの後ろをパタパタとはたいた。
そのあいだに、凪先輩が紘一先輩へ顔を向け、厳しい口調で続ける。
「無断で受験者と接触するんじゃない」
苦り切った表情の凪先輩が言うと、口もとに笑みを浮かべた紘一先輩がすぐさま切り返した。
「凪先輩が卒業したあと、この高校の新入生に候補者があらわれた場合、立会人となるのはオレか留城也になるじゃないですか。だからオレは、凪先輩のやり方をいまから見学しているんですよ。それに、実技試験中に受験者側からメンバーの能力的手助けを申請されたときには、参加OKですよね。試験がはじまる前に顔見せしておくべきですよ」
用意していたかのような紘一先輩の言葉に、わたしが反応した。
「試験中に、メンバーの方から助けてもらうことができるんですか?」
「そうなんだよ」
紘一先輩がわたしのほうへ大げさに振り返り、勝ち誇ったように言葉を続ける。
「だから、オレの存在も能力も知っておくべきだと思わない? 桂ちゃん」
そして、紘一先輩は、凪先輩とはまた雰囲気の違う、見惚れるような満面の笑みを浮かべた。
もともと整った顔立ちのために、構えていても目を奪われる。
「オレの能力は『サトリ』なんだ。相手の頭に浮かぶ言葉を読み取る能力なんだよ」
「勝手に他人のプライベート情報を利用して、女を呼びだしてんじゃねぇよ」
静寂を破るように扉が開けられた。
バンッと大きい音が鳴り響く。
この声は、留城也先輩だ。
すると、金縛りが解けたかのように、わたしの身体に感覚が戻った。
無意識に握りしめていた両手のひらを、そっと開く。
身体が動いた。
自分を奮い立たせたわたしは、片足をあげる。
思い通りに足が動いた。
その機会を逃さぬように入り口が見えるところまで、わたしは本棚を伝いながら移動をはじめる。
ようやく視界に映ったのは、仏頂面で図書室の中へ入ってくる留城也先輩と、その後ろで呆れたような表情の凪先輩が立っていた。
凪先輩が姿を見せたってことは、これは実技試験だったの?
そう思った拍子に、わたしは腰が抜けたように、その場へすとんと座りこんでしまった。
やっちゃった。
悲鳴こそあげなかったけれど、醜態見せまくりだ。
「まったく。だから単独行動をとるなと言ったのに」
「凪先輩は、そんなこと言いませんでした!」
「ぼくの監視下にいろと言っただろう? 同じ意味だ」
じろりと睨みながら、逆切れ気味のわたしへ向かって言い放つと、凪先輩は図書室の奥へと顔をあげた。
「そこにいるんだろう? 出てくるんだ!」
凪先輩の声に、奥から人影があらわれた。
頭を掻きながら笑顔を浮かべて姿を見せたのは、昼休みにわたしを呼びだした彼、その人だった。
呆気にとられて見つめるわたしのそばまで来ると、彼は、ヘリウムガスが抜けきらない声をだす。
「ごめんごめん。怖がらせるつもりはなかったんだけれど、あ、オレって昼休みのときに名乗っていなかったよね。
流れるように軽く告げると、わたしの前へ回りこんでしゃがみこむ。
そのまま両手をとって、笑顔でぶんぶんと握手をしてきた。
「凪先輩と留城也のことは下の名前で呼んでいるんだろう? それなら、オレのことも紘一って呼んでよ、桂ちゃん。うわぁ、いい響きだなぁ。紘一先輩だなんて」
「紘一、むやみに触るんじゃねぇよ」
少し離れたところで立ち止まり、留城也先輩は不機嫌そうに言い捨てる。
すると、わたしの手をつかんだまま、紘一先輩はわざとらしく留城也先輩の顔をのぞくように見上げた。
「あれぇ? いいじゃないか。この子は留城也の彼女でもなんでもないんだろう?」
怒りのためか、さらに表情を険しくした留城也先輩と紘一先輩のあいだへ、凪先輩が割って入った。
「留城也、挑発に乗るな。紘一も勝手な行動をとるんじゃない。さっさと桂から離れろ」
凪先輩の言葉に、紘一先輩はあっさりとわたしの手を放して立ちあがった。
わたしは、自分が座りこんだままだったことを思いだし、慌てて両手を床について足に力を入れる。
無事に立ちあがれたわたしは、スカートの後ろをパタパタとはたいた。
そのあいだに、凪先輩が紘一先輩へ顔を向け、厳しい口調で続ける。
「無断で受験者と接触するんじゃない」
苦り切った表情の凪先輩が言うと、口もとに笑みを浮かべた紘一先輩がすぐさま切り返した。
「凪先輩が卒業したあと、この高校の新入生に候補者があらわれた場合、立会人となるのはオレか留城也になるじゃないですか。だからオレは、凪先輩のやり方をいまから見学しているんですよ。それに、実技試験中に受験者側からメンバーの能力的手助けを申請されたときには、参加OKですよね。試験がはじまる前に顔見せしておくべきですよ」
用意していたかのような紘一先輩の言葉に、わたしが反応した。
「試験中に、メンバーの方から助けてもらうことができるんですか?」
「そうなんだよ」
紘一先輩がわたしのほうへ大げさに振り返り、勝ち誇ったように言葉を続ける。
「だから、オレの存在も能力も知っておくべきだと思わない? 桂ちゃん」
そして、紘一先輩は、凪先輩とはまた雰囲気の違う、見惚れるような満面の笑みを浮かべた。
もともと整った顔立ちのために、構えていても目を奪われる。
「オレの能力は『サトリ』なんだ。相手の頭に浮かぶ言葉を読み取る能力なんだよ」