新たな能力者・4
文字数 1,439文字
誰かがいるとは考えもしなかったわたしは驚き過ぎて、声も出せずに目を見開く。
そんなわたしの様子をみて、彼はふわりと小首をかしげた。
恐さは全然感じられなかったために、わたしは厚かましくも、じっと彼を観察するように見つめてしまう。
校内では見たことのない人だ。
長身で、指定の制服を着ていないし年齢的にも高校生には思えない。
この時期、教育実習生が来るという話は聞いていない。
ノンフレームの眼鏡の奥の瞳は澄んでおり、くせのない優しげな顔立ちは、とても不審者には見えなかった。
すっきりとした頬ににかかる色素の薄い長めの髪は細く、わずかな空気の動きでも反応するように、さらさらと揺れている。
ぼんやりと見つめていたわたしに向かって、困ったような表情になった彼のほうから口を開いた。
「――ねぇ。きみはここへ、なにをしに来たの?」
やわらかく透き通るような声に、わたしはハッと自分のやるべきことを思いだした。
「えっと……。わたしがここに来たのは……体育館の見回りです」
「そうなんだぁ」
ぎこちないわたしの返事を聞いた彼は、薄っすらと笑顔を浮かべて、遠くからわたしの瞳をのぞきこむ。
そして、おもむろに彼は自分の顔を指さした。
「きみは見回りに来たんだね。それじゃあ、ここは高校だ。そこに高校生らしくない部外者が入りこんでいるとなると、普通はどうしなきゃいけないんだろう?」
やんわりと尋ねられて、わたしはようやく思い当たった言葉を口にした。
「部外者を発見した場合は、――校外に出てもらえるように説得でしょうか……。それとも先生に連絡? 警察へ通報? えっと、もしかしたら……わたしがあなたを捕まえなきゃいけないんでしょうか?」
つい、その部外者となる彼に教えを乞うような口調になって、わたしは自分で自分が情けなくなる。
すると、彼はその言葉を待っていたかのように、満面の笑みで告げた。
「そうだね。見回りに来たきみは、たぶんおそらく、ぼくを捕まえなきゃならないようだ」
優しげな笑みを浮かべている彼は、全然恐くないし強そうにも思えない。
でも、いくら力に自信があるとはいっても、こちらは一応女の子だ。
不審者をいままで取り押さえた経験もなく、わたしはどうすれば良いのかわからず一歩が踏みだせない。
そんなわたしの様子を見た彼は、苦笑するように口もとに手を添えると、笑いを噛み殺したような声で小さくささやいた。
「捕まえにこないんだ。だったらぼくは、体育館の二階にある観覧席のほうへ逃げちゃおうかなぁ」
おもむろに告げた彼は、壁にもたれていた身体をゆらりと起こす。
そのまま、するっと足音もなく中扉を通って姿を消した。
わたしは呆然と見送ってしまったけれど、すぐにハッと正気に戻る。
なんだったの? いまの人!
呆気にとられて追いかけなかったけれど、良かったのだろうか?
このまま校外へ出ていってくれたら、問題はないとみていいのだろうか?
「あ。でも、二階にあがるようなことを言っていた気が……」
わたしの言葉が終わる前に、彼は二階の手すりの上から顔をのぞかせた。
「ほら、ぼくはもう二階にあがっちゃったよ。きみは追いかけてこなくていいのかな?」
「え! 本当にあがっちゃったんですかぁ?」
叫んだわたしは、すぐに体育館の中扉から飛びだすと、靴箱の横の階段を急いで駆けあがった。
そんなわたしの様子をみて、彼はふわりと小首をかしげた。
恐さは全然感じられなかったために、わたしは厚かましくも、じっと彼を観察するように見つめてしまう。
校内では見たことのない人だ。
長身で、指定の制服を着ていないし年齢的にも高校生には思えない。
この時期、教育実習生が来るという話は聞いていない。
ノンフレームの眼鏡の奥の瞳は澄んでおり、くせのない優しげな顔立ちは、とても不審者には見えなかった。
すっきりとした頬ににかかる色素の薄い長めの髪は細く、わずかな空気の動きでも反応するように、さらさらと揺れている。
ぼんやりと見つめていたわたしに向かって、困ったような表情になった彼のほうから口を開いた。
「――ねぇ。きみはここへ、なにをしに来たの?」
やわらかく透き通るような声に、わたしはハッと自分のやるべきことを思いだした。
「えっと……。わたしがここに来たのは……体育館の見回りです」
「そうなんだぁ」
ぎこちないわたしの返事を聞いた彼は、薄っすらと笑顔を浮かべて、遠くからわたしの瞳をのぞきこむ。
そして、おもむろに彼は自分の顔を指さした。
「きみは見回りに来たんだね。それじゃあ、ここは高校だ。そこに高校生らしくない部外者が入りこんでいるとなると、普通はどうしなきゃいけないんだろう?」
やんわりと尋ねられて、わたしはようやく思い当たった言葉を口にした。
「部外者を発見した場合は、――校外に出てもらえるように説得でしょうか……。それとも先生に連絡? 警察へ通報? えっと、もしかしたら……わたしがあなたを捕まえなきゃいけないんでしょうか?」
つい、その部外者となる彼に教えを乞うような口調になって、わたしは自分で自分が情けなくなる。
すると、彼はその言葉を待っていたかのように、満面の笑みで告げた。
「そうだね。見回りに来たきみは、たぶんおそらく、ぼくを捕まえなきゃならないようだ」
優しげな笑みを浮かべている彼は、全然恐くないし強そうにも思えない。
でも、いくら力に自信があるとはいっても、こちらは一応女の子だ。
不審者をいままで取り押さえた経験もなく、わたしはどうすれば良いのかわからず一歩が踏みだせない。
そんなわたしの様子を見た彼は、苦笑するように口もとに手を添えると、笑いを噛み殺したような声で小さくささやいた。
「捕まえにこないんだ。だったらぼくは、体育館の二階にある観覧席のほうへ逃げちゃおうかなぁ」
おもむろに告げた彼は、壁にもたれていた身体をゆらりと起こす。
そのまま、するっと足音もなく中扉を通って姿を消した。
わたしは呆然と見送ってしまったけれど、すぐにハッと正気に戻る。
なんだったの? いまの人!
呆気にとられて追いかけなかったけれど、良かったのだろうか?
このまま校外へ出ていってくれたら、問題はないとみていいのだろうか?
「あ。でも、二階にあがるようなことを言っていた気が……」
わたしの言葉が終わる前に、彼は二階の手すりの上から顔をのぞかせた。
「ほら、ぼくはもう二階にあがっちゃったよ。きみは追いかけてこなくていいのかな?」
「え! 本当にあがっちゃったんですかぁ?」
叫んだわたしは、すぐに体育館の中扉から飛びだすと、靴箱の横の階段を急いで駆けあがった。