なんと別口で狙われているようですっ!・2
文字数 2,067文字
「さっきの話の続きなんだけれど。――ぼくはね、物心ついたときに、徐々に力があらわれはじめたんだ。そして幼稚園のころだったかな、ぼくが物を通り抜けられると知った友だちは、珍しげに自分たちの親へと伝えた。子どもにとっては珍しくて面白がっても、大人は気味悪がってね。小学校を途中で転校して、まったく新しい環境のところへ引っ越した。そうじゃないと、幽霊だ悪魔だと、一家そろってつまはじきにされたから。ぼくの親でさえ一度、ぼくになにかがとり憑いているんじゃないかと、霊媒師さんのところへ引っ張っていったこともある」
笑って口にした透流さんを、わたしは呆然と見つめた。
そうか、そんなことがあったんだ。
それを考えたら、わたしの怪力を「もうこの子ったら、またドアをぶち破って。まったくいくらかかると思っているの」と修理代を心配しているお母さんは、たしかに能天気だ。
ただ、高校進学を考える時期に、周囲に怪力がばれはじめたと感じたわたしが遠い高校を選んだんだけれど。
そう考えると、お母さんもわたしも能天気な似た者同士。
透流さんの言うとおりだ。
「留城也のところも苦労しているね。いまでこそ思う通りに操れる彼の能力だけれど、彼が少しでも気をゆるめると、すぐに家の中ではショートしているみたいだよ。彼には男兄弟がいるけれど、性格などいろいろ相まって、かなり家庭内での兄弟仲も親子関係も不穏らしい」
留城也先輩の性格なら、わからないでもないか。
でも、きっちりした性格の凪先輩なら、家庭内でのもめごとは起こさない気がする。
そう考えたわたしに、透流さんは笑みを向けた。
「凪もね、ぼくと同じように失敗したクチなんだ。彼が小学校のときだったかな。幼いころから利発だったらしい凪は、自分の能力を周囲に黙っていたし、彼の両親も能力の有益さを理解していた。けれど、校庭でクラスメイトが上級生にいじめられたときに、彼は風を使って上級生に大怪我を負わせてしまったそうだ。だから能力を使うときは、凪は必要以上に慎重になっている」
他人に怪我を負わせたなんて、それはすごいトラウマではなかろうか。
わたしは幸運なことに、まだ誰も怪我をさせてはいない。
――もう少しで、初めて凪先輩を巨大な高校創始者の銅像の下敷きにしかけたくらいだ。
「あ、能力を継いでいるという紘一先輩なら。まず家庭内で理解があるんじゃないですか? 黙っていれば、心を読まれているなんて他人にはわかりませんし」
「そう思うだろうね」
意外にも、透流さんは眉をひそめた。
その表情を見て、わたしは凪先輩の言葉を思いだす。
紘一先輩は、自分以上に期待を背負っていると言っていた気がする。
「もしかして紘一先輩、逆に周りからの期待が大きくて苦労されたとか、ですか?」
「それもあるんだけれどね。彼はメンバーとしての役割以外に、一族直系としての『覚』の仕事もあるそうだから」
高校生なのに、家業でなにか仕事をこなしているなんて、よくわからないけれどなんだかすごいなぁなんて思っているわたしに、透流さんは続けた。
「彼の能力は、先祖代々直系男子が継いでいるって聞いたかな。彼は父親から能力を引き継いでいるんだけれど――彼の母親は、それに馴染めなかったらしいね」
「え?」
「彼の父親と出会ったときは、もう成人していて自由に能力を操れるようになっていたらしいけれど。彼の母親は、実際に自分の子どもが能力を持って生まれたとき、理解の域を超えたってことだよ。紘一が五歳になるころ、彼を置いて母親は離縁したって聞いたかな」
「そんな……」
あの、見た目に明るい紘一先輩からは、なかなか想像できなかったけれど。
それぞれ事情があるメンバーの話を聞くと、いかに自分がお気楽で、恵まれた環境なのかと思う。
凪先輩が今回の試験に厳しい気がするのも、わたしが軽い気持ちで受けたことに対して自覚を促すためだろうか。
思い返せば最初のころ、はっきり口に出して言っていたし。
でも。
透流さんは、わたしにメンバーの個人情報をいろいろと話し過ぎだ。
なにか理由があるのだろうか。
そう感じたわたしは、思いきって訊いてみた。
「透流さんは、なんでまだメンバー決定になっていないわたしに、いろいろ教えてくれるんですか? わたしは最初に校長先生から、詳しい情報は教えられないって言われたんですけれど」
「組織に関することじゃないからね」
透流さんは、すぐにそう返してきた。
そして、やわらかい笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ここ一年、微妙なバランスでぎりぎり保ってきたメンバーだけれど、きみが加わることで新しい風が入り、新たに信頼を持った関係が築けるようになれたらなと思ったんだ」
透流さんの笑顔で、なんとなくわたしはほっとする。
同時に、少し頼りないイメージがあった透流さんに対して、やっぱり皆のことを考えているまとめ役なんだなと感じられた。
笑って口にした透流さんを、わたしは呆然と見つめた。
そうか、そんなことがあったんだ。
それを考えたら、わたしの怪力を「もうこの子ったら、またドアをぶち破って。まったくいくらかかると思っているの」と修理代を心配しているお母さんは、たしかに能天気だ。
ただ、高校進学を考える時期に、周囲に怪力がばれはじめたと感じたわたしが遠い高校を選んだんだけれど。
そう考えると、お母さんもわたしも能天気な似た者同士。
透流さんの言うとおりだ。
「留城也のところも苦労しているね。いまでこそ思う通りに操れる彼の能力だけれど、彼が少しでも気をゆるめると、すぐに家の中ではショートしているみたいだよ。彼には男兄弟がいるけれど、性格などいろいろ相まって、かなり家庭内での兄弟仲も親子関係も不穏らしい」
留城也先輩の性格なら、わからないでもないか。
でも、きっちりした性格の凪先輩なら、家庭内でのもめごとは起こさない気がする。
そう考えたわたしに、透流さんは笑みを向けた。
「凪もね、ぼくと同じように失敗したクチなんだ。彼が小学校のときだったかな。幼いころから利発だったらしい凪は、自分の能力を周囲に黙っていたし、彼の両親も能力の有益さを理解していた。けれど、校庭でクラスメイトが上級生にいじめられたときに、彼は風を使って上級生に大怪我を負わせてしまったそうだ。だから能力を使うときは、凪は必要以上に慎重になっている」
他人に怪我を負わせたなんて、それはすごいトラウマではなかろうか。
わたしは幸運なことに、まだ誰も怪我をさせてはいない。
――もう少しで、初めて凪先輩を巨大な高校創始者の銅像の下敷きにしかけたくらいだ。
「あ、能力を継いでいるという紘一先輩なら。まず家庭内で理解があるんじゃないですか? 黙っていれば、心を読まれているなんて他人にはわかりませんし」
「そう思うだろうね」
意外にも、透流さんは眉をひそめた。
その表情を見て、わたしは凪先輩の言葉を思いだす。
紘一先輩は、自分以上に期待を背負っていると言っていた気がする。
「もしかして紘一先輩、逆に周りからの期待が大きくて苦労されたとか、ですか?」
「それもあるんだけれどね。彼はメンバーとしての役割以外に、一族直系としての『覚』の仕事もあるそうだから」
高校生なのに、家業でなにか仕事をこなしているなんて、よくわからないけれどなんだかすごいなぁなんて思っているわたしに、透流さんは続けた。
「彼の能力は、先祖代々直系男子が継いでいるって聞いたかな。彼は父親から能力を引き継いでいるんだけれど――彼の母親は、それに馴染めなかったらしいね」
「え?」
「彼の父親と出会ったときは、もう成人していて自由に能力を操れるようになっていたらしいけれど。彼の母親は、実際に自分の子どもが能力を持って生まれたとき、理解の域を超えたってことだよ。紘一が五歳になるころ、彼を置いて母親は離縁したって聞いたかな」
「そんな……」
あの、見た目に明るい紘一先輩からは、なかなか想像できなかったけれど。
それぞれ事情があるメンバーの話を聞くと、いかに自分がお気楽で、恵まれた環境なのかと思う。
凪先輩が今回の試験に厳しい気がするのも、わたしが軽い気持ちで受けたことに対して自覚を促すためだろうか。
思い返せば最初のころ、はっきり口に出して言っていたし。
でも。
透流さんは、わたしにメンバーの個人情報をいろいろと話し過ぎだ。
なにか理由があるのだろうか。
そう感じたわたしは、思いきって訊いてみた。
「透流さんは、なんでまだメンバー決定になっていないわたしに、いろいろ教えてくれるんですか? わたしは最初に校長先生から、詳しい情報は教えられないって言われたんですけれど」
「組織に関することじゃないからね」
透流さんは、すぐにそう返してきた。
そして、やわらかい笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ここ一年、微妙なバランスでぎりぎり保ってきたメンバーだけれど、きみが加わることで新しい風が入り、新たに信頼を持った関係が築けるようになれたらなと思ったんだ」
透流さんの笑顔で、なんとなくわたしはほっとする。
同時に、少し頼りないイメージがあった透流さんに対して、やっぱり皆のことを考えているまとめ役なんだなと感じられた。