突然の指名・5
文字数 1,509文字
風が完全におさまったとき、無意識にわたしは、そばにあった創始者の銅像の土台に手をかけていた。
銅像を両手で持ち上げると頭上に掲げ、ゆらりと一歩、生徒会長のほうへと向きなおる。
芝生を踏みしめていた両足が、重さのために地面へのめりこんだ。
気がつくとわたしは、目を見開いた生徒会長めがけて、えいやっと弧を描くように放り投げつけていた。
直後に、わたしは頭が冷えた。
わたしの行動に驚いたのか、どう対処すれば良いのかを迷ったのか。
太陽をバックに自分へと落下してくる銅像を、唖然とした顔で見つめたまま動かない生徒会長に気づいたわたしは走りだす。
このままじゃあ、生徒会長は銅像の下敷きになっちゃう!
世間でいうところの銅像は重いため、直線で生徒会長へ投げつけなかったのが幸いだ。
弧を描いて放り投げた銅像が落ちてくるまでの数秒で、わたしは落下地点へ間にあった。
生徒会長を体当たりで弾き飛ばすと両手をあげ、わたしは落ちてきた銅像を頭上でがっちり受けとめた。
「――きみは……」
銅像を元の位置へと据え置いたわたしへ、ようやくといった感じの生徒会長が声をかけてきた。
わたしは、銅像の土台へすがりつきながら涙目で振り向く。
「生徒会長が全部悪いんですよ! このエッチ!」
「なにを言う! わざとじゃないって、さっきから言っているだろう!」
「風でスカートめくりだなんて小学生ですかぁ? そのうえ、正義の味方かなにか知らないけれど、もう少しで銅像の下敷きになってぺしゃんこだったじゃないですかぁ! 生徒会長、全然すごくないです!」
「馬鹿にするな! きみが手出ししなくても、あれぐらい、ぼくの風で切り裂いて避けきれたさ!」
「銅像をばらばらにするわけにはいかないでしょう? どうやって元通りに直す気ですか! 生徒会長って意外と考えなしですね!」
怒鳴るあまりに力がこもり、ふたたび元の位置から移動しそうになった銅像を、わたしは慌てて支えなおす。
そのまま、銅像にすがって泣き崩れた。
「――せっかく、わたしの怪力を知らない人たちばかりの環境になったと思ったのに。こんなことでバレちゃうなんて。わたしの平穏な日常を返せ」
「――いや、しかし。たしかにコンピューターが弾きだすだけの能力ではある」
しばらく、わたしが落ち着くまで黙りこんでいた生徒会長だったけれど。
わたしが泣き疲れて大きくため息をついたとき、静かに話しだした。
その言葉の内容に、キッと睨んだわたしの視線に動じることもなく、生徒会長は考える顔をしながら続ける。
「ぼくの所属するチームでは、まだ腕力に秀でたメンバーがいない。小手先ではない全身を使っているきみの馬鹿力には中途半端さがなく、即戦力として使えそうだ。他人には真似ができない能力、なぜ聞かれたときに黙っていた?」
「生徒会長も、いま馬鹿力って言ったじゃないですか! 馬鹿力ですよ? 怪力ですよぉ? 全然可愛くないじゃないですかぁ!」
わたしの叫び声を聞いた瞬間、生徒会長は理解できないとでも言いたげに、口を開けてわたしを見つめた。
「それだけの理由で……」
「女の子にとっては、すごく大切なことなんですよ! 少しも女の子らしくないじゃないですか! 皆にバレたら一生彼氏ができないですよぉ!」
「女の子以前に人間とは思えんが」
「――それ、いくら生徒会長でもひどくないですか」
「ああ、すまなかった。人間技とは思えないと言いたかったんだ」
あっさり謝った生徒会長に、わたしは少し不思議な印象を受けて、思わずまじまじと彼の顔を見つめた。
銅像を両手で持ち上げると頭上に掲げ、ゆらりと一歩、生徒会長のほうへと向きなおる。
芝生を踏みしめていた両足が、重さのために地面へのめりこんだ。
気がつくとわたしは、目を見開いた生徒会長めがけて、えいやっと弧を描くように放り投げつけていた。
直後に、わたしは頭が冷えた。
わたしの行動に驚いたのか、どう対処すれば良いのかを迷ったのか。
太陽をバックに自分へと落下してくる銅像を、唖然とした顔で見つめたまま動かない生徒会長に気づいたわたしは走りだす。
このままじゃあ、生徒会長は銅像の下敷きになっちゃう!
世間でいうところの銅像は重いため、直線で生徒会長へ投げつけなかったのが幸いだ。
弧を描いて放り投げた銅像が落ちてくるまでの数秒で、わたしは落下地点へ間にあった。
生徒会長を体当たりで弾き飛ばすと両手をあげ、わたしは落ちてきた銅像を頭上でがっちり受けとめた。
「――きみは……」
銅像を元の位置へと据え置いたわたしへ、ようやくといった感じの生徒会長が声をかけてきた。
わたしは、銅像の土台へすがりつきながら涙目で振り向く。
「生徒会長が全部悪いんですよ! このエッチ!」
「なにを言う! わざとじゃないって、さっきから言っているだろう!」
「風でスカートめくりだなんて小学生ですかぁ? そのうえ、正義の味方かなにか知らないけれど、もう少しで銅像の下敷きになってぺしゃんこだったじゃないですかぁ! 生徒会長、全然すごくないです!」
「馬鹿にするな! きみが手出ししなくても、あれぐらい、ぼくの風で切り裂いて避けきれたさ!」
「銅像をばらばらにするわけにはいかないでしょう? どうやって元通りに直す気ですか! 生徒会長って意外と考えなしですね!」
怒鳴るあまりに力がこもり、ふたたび元の位置から移動しそうになった銅像を、わたしは慌てて支えなおす。
そのまま、銅像にすがって泣き崩れた。
「――せっかく、わたしの怪力を知らない人たちばかりの環境になったと思ったのに。こんなことでバレちゃうなんて。わたしの平穏な日常を返せ」
「――いや、しかし。たしかにコンピューターが弾きだすだけの能力ではある」
しばらく、わたしが落ち着くまで黙りこんでいた生徒会長だったけれど。
わたしが泣き疲れて大きくため息をついたとき、静かに話しだした。
その言葉の内容に、キッと睨んだわたしの視線に動じることもなく、生徒会長は考える顔をしながら続ける。
「ぼくの所属するチームでは、まだ腕力に秀でたメンバーがいない。小手先ではない全身を使っているきみの馬鹿力には中途半端さがなく、即戦力として使えそうだ。他人には真似ができない能力、なぜ聞かれたときに黙っていた?」
「生徒会長も、いま馬鹿力って言ったじゃないですか! 馬鹿力ですよ? 怪力ですよぉ? 全然可愛くないじゃないですかぁ!」
わたしの叫び声を聞いた瞬間、生徒会長は理解できないとでも言いたげに、口を開けてわたしを見つめた。
「それだけの理由で……」
「女の子にとっては、すごく大切なことなんですよ! 少しも女の子らしくないじゃないですか! 皆にバレたら一生彼氏ができないですよぉ!」
「女の子以前に人間とは思えんが」
「――それ、いくら生徒会長でもひどくないですか」
「ああ、すまなかった。人間技とは思えないと言いたかったんだ」
あっさり謝った生徒会長に、わたしは少し不思議な印象を受けて、思わずまじまじと彼の顔を見つめた。