闘えわたし! 平和のために! ・15

文字数 998文字

 透流さんは、なんでもすり抜けることができる力を持っている。
 だから、ゆっくりとスローモーションのように頭上へ倒れてくる石のレリーフも、透流さんにはかすり傷ひとつ負わせることはないだろう。

 頭では理解していることだ。
 けれど、透流さんは、その一瞬で迷う顔をした。
 そして、身体全体が石を受けとめるそぶりを見せる。
 その意味を理解したわたしは、透流さんのほうへと走りだしていた。

 ――きっと透流さんはレリーフを通り抜けることができるのに、あえて実体化して受けとめようとしているんだ!

「桂?」
「桂ちゃん!」

 凪先輩や紘一先輩の叫び声が背後で聞こえた。
 わたしの視線の先では、わたしのダッシュに気がついて、びっくりしたような顔の透流さん。
 そんな透流さんのそばまで駆け寄ったわたしは、彼に倒れかかってきていた石のレリーフを、両手でがっしりと受けとめた。

「――あの……。桂ちゃん?」
「透流さん! レリーフを下に倒しますから、ちょっとさがってもらえますか!」

 困惑気な透流さんに向かって、わたしは声を張りあげる。
 そして、透流さんがあけた場所へ、わたしはゆっくりと壊さないように慎重に石のレリーフを置いた。ギリシャ神話にでてくるような女神さまが浮き彫りにされたレリーフは、絵の部分がかけることなく地面に横たわる。

 わたしは、離れた場所で呆気にとられている直紀くんに向きなおった。
 そして、はっきりと告げる。

「透流さんは、こんなことで怪我なんかしない。けれど、このレリーフを壊さないように護ろうとした。わたしは、そんな透流さんに賛成よ。わたしは透流さんや凪先輩たちと一緒に闘う決心がついたわ。絶対あなたのところへは、いかない!」

 わたしの言葉を聞いた直紀くんは、ぎりっとわたしを睨む。
 けれど、すぐに隣りにいる透流さんや凪先輩たちを見回して舌打ちをした。
 どうやら自分には分が悪い状況だと判断したのだろう。
 身をひるがえすと、一気に施設が建ち並ぶほうへと走りだした。

 つられて追いかけようとしたわたしの肩に手を置き、透流さんがやんわりと引きとめる。

「彼の身元は押さえているし、もう今日はこれ以上暴れないだろう。追いかけなくても大丈夫だよ」

 透流さんにそう言われて、一気に緊張の糸が切れたわたしは、へたりとその場へ座りこんでしまった。
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