第14話
文字数 697文字
店の移転をつたえなかったことはまったくこだわってなかった。それよりあずみについて知りたかったから、穏やかに質問を重ねた。飲み屋で一人酒をしているときに知り合った。独身。三つ上。三ヵ月前まで人材派遣会社で働いていた。絵美は少し陽気になって話した。
「ほんとに三年前じゃなくて三ヵ月なのか」
「求職中なのよ。そんなことくらい誰にだってあるじゃない」
絵美はあくまでやさしく反論した。
「人づてにチャイルドシートを譲ってもらうまでして、自分の車につけてくれたのよ」
「どうして」
「どうしてって、かえでのためよ」
娘のためにも感謝しなければいけないという気持ちに傾いていたから、これを聞いたとき誠司ははっとした。これだけははっきりしている。あんな人間が子供好きであるわけがない。まったく子供を知らないのだ。知らないから平気で嘘をつける。
絵美をつなぎとめるためにネットオークションでもしたんだろう、と誠司は思った。
「かえではお父さんに会いたい?」――いけない質問だ。心を閉ざしているかえでを見ると、誠司はぐっと胸が詰まった。絵美も一人で傷ついていた。二人のために一刻も早く今の状態を解消しなければならない。
誠司ははじめて井坂と会った日に、突然親子になったと告げられた。以来、育てた記憶もないから困惑するしかなく、それは娘婿が一時の欲望に身をまかせたせいで、余計に深刻なものになった。もはやどうにも扱いきれず、途方もない困難を背負った三十代の男に、憐れを催すほどだった。しかし、今は張り飛ばしてやりたい気分だった。それでも怒りが収まらない誠司は、空想の中で娘婿の襟首をつかむと、思い切り地面に叩きつけていた。
「ほんとに三年前じゃなくて三ヵ月なのか」
「求職中なのよ。そんなことくらい誰にだってあるじゃない」
絵美はあくまでやさしく反論した。
「人づてにチャイルドシートを譲ってもらうまでして、自分の車につけてくれたのよ」
「どうして」
「どうしてって、かえでのためよ」
娘のためにも感謝しなければいけないという気持ちに傾いていたから、これを聞いたとき誠司ははっとした。これだけははっきりしている。あんな人間が子供好きであるわけがない。まったく子供を知らないのだ。知らないから平気で嘘をつける。
絵美をつなぎとめるためにネットオークションでもしたんだろう、と誠司は思った。
「かえではお父さんに会いたい?」――いけない質問だ。心を閉ざしているかえでを見ると、誠司はぐっと胸が詰まった。絵美も一人で傷ついていた。二人のために一刻も早く今の状態を解消しなければならない。
誠司ははじめて井坂と会った日に、突然親子になったと告げられた。以来、育てた記憶もないから困惑するしかなく、それは娘婿が一時の欲望に身をまかせたせいで、余計に深刻なものになった。もはやどうにも扱いきれず、途方もない困難を背負った三十代の男に、憐れを催すほどだった。しかし、今は張り飛ばしてやりたい気分だった。それでも怒りが収まらない誠司は、空想の中で娘婿の襟首をつかむと、思い切り地面に叩きつけていた。