第4話

文字数 672文字

 誠司はその女友達にだけ事情をつたえていた。ついに今日の見舞いにいかなかった。そのことで謝罪の電話を入れなければならず、じりじりとしながら過ごしていた。そう遠くない町に住む知人の自宅だった。あまり大勢で押しかけてはいけないという意見が出て、仕方なく辞退する者がいる中で、誠司を含めた四人が一台の車でいくはずだった。
「下手にごまかさないほうがいいと思ったからね」
 電話の相手はそう言い、家庭の事情を全員に話したことを謝った。はっきりいってそんなことはどうでもよかった。痴呆を患っている古馴染みがどんどん記憶をなくしているところへ、ほかの要素まで絡んできて、その家族に生活苦が重くのしかかっている。あとで出直す機会などあろうはずもない。それにたいして、こっちの娘は三十六だ。出産して一年になる。子供のごたごたで出かけられなかったなんて、自分なら納得しないと思った。
「長くなりそう? ずっと居座るんじゃないかって心配してるの?」
「そういうわけじゃ――」
「いいじゃない。一緒に暮らせるのよ」その女友達は一瞬沈黙すると、すべてわかっているといわんばかりに笑った。「突然だものね。だけど男親が全部をわかろうとしたって無理よ」
 巷では追い出すべきとの意見もあるのを知っていたが、孫をつれている娘を厳しく突き放していいとは思えなかった。そんなことは一度も考えなかった。とにかく今の時点ではできない相談だった。
「そりゃあ子供ができたらかわるわよ。あなただってそうだったでしょう」
 ――果たして、本人の自覚の問題なのだろうか。子供は生まれているのだ。かわいい孫が。
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