第6話
文字数 949文字
絵美が「食べないの?」と言いながら、箸でご飯をつついた。外で食べてきたのだから、胃が受けつけなくて当たり前だった。誠司もまた、娘の夫がほかの女と性交渉をもった事実と寝室を汚された思いで食事をする気分にはなれず、胡瓜をつまみながらビールを飲んでいた。
絵美が立って食器を下げた。一抱えもの唐揚げが盛りつけてあったのに、いったいどうやって平らげたのだろう。「まだあるよ。少しはちゃんと食べたら」
誠司は二つで腹がいっぱいになった。
「もう一本飲む?」
「どうして一番に電話してこなかった? 子供をつれて一人でどうするつもりでいたんだ」
「お父さんがあたしの話を聞いてくれるんだ」絵美がうっすらと笑った。「冷静にならないとここにこれなかっただけ」
「あの女にけしかけられて、あることないこと吹き込まれてるだけじゃないのか。それにあの女のひらひらした格好はなんだ。遊園地で働いてる妖精か」
「ふつうだよ」
「浮気って本当なのか」
絵美はビールを手にしたまま冷蔵庫にもたれ、何かを乗り越えようとするかのごとくに、ただテーブルの一点に集中していた。やにわにプルトップを折り曲げ、どうするのかと思っていると、絵美は自分でぐいとあおった。喉仏が上下するような飲みっぷりだった。
絵美は知り合いの家を泊まり歩いていた。最後まで答えなかったが、あの女のところだと考えてまちがいない。そう簡単に親の目をごまかせるものか。忌々しいことに洗濯機を借りることもあっただろう。娘たちの衣服が汚らわしく、鼻がむずむずしてしかたないのはそのせいだ。
「最近へんな夢ばっかり見てる」
絵美が夜中にそう言って水を飲みにいくと、誠司は全身が紅潮するのを感じた。おのずと盛大なため息を吐き出していた。誠司もまた眠っていて、目覚めると同時に夢がかき消されたのだった。夢の中に妻がいたことだけをおぼえていた。
それほどまでに衝撃を受けたのだ。見知らぬ他人が――それも自らの非礼を知るだけにこそこそと立ち入り、家人が苦言を呈すると待ってましたといわんばかりに悪意で返してくる他人が、突然自宅に上がりこんでくるというのは。その後も二人の言い争いはつづいていて、誠司はあの女が家に上がりたがったかどうかを知りたいのだが、絵美が否定しなかったことも尾を引いていた。
絵美が立って食器を下げた。一抱えもの唐揚げが盛りつけてあったのに、いったいどうやって平らげたのだろう。「まだあるよ。少しはちゃんと食べたら」
誠司は二つで腹がいっぱいになった。
「もう一本飲む?」
「どうして一番に電話してこなかった? 子供をつれて一人でどうするつもりでいたんだ」
「お父さんがあたしの話を聞いてくれるんだ」絵美がうっすらと笑った。「冷静にならないとここにこれなかっただけ」
「あの女にけしかけられて、あることないこと吹き込まれてるだけじゃないのか。それにあの女のひらひらした格好はなんだ。遊園地で働いてる妖精か」
「ふつうだよ」
「浮気って本当なのか」
絵美はビールを手にしたまま冷蔵庫にもたれ、何かを乗り越えようとするかのごとくに、ただテーブルの一点に集中していた。やにわにプルトップを折り曲げ、どうするのかと思っていると、絵美は自分でぐいとあおった。喉仏が上下するような飲みっぷりだった。
絵美は知り合いの家を泊まり歩いていた。最後まで答えなかったが、あの女のところだと考えてまちがいない。そう簡単に親の目をごまかせるものか。忌々しいことに洗濯機を借りることもあっただろう。娘たちの衣服が汚らわしく、鼻がむずむずしてしかたないのはそのせいだ。
「最近へんな夢ばっかり見てる」
絵美が夜中にそう言って水を飲みにいくと、誠司は全身が紅潮するのを感じた。おのずと盛大なため息を吐き出していた。誠司もまた眠っていて、目覚めると同時に夢がかき消されたのだった。夢の中に妻がいたことだけをおぼえていた。
それほどまでに衝撃を受けたのだ。見知らぬ他人が――それも自らの非礼を知るだけにこそこそと立ち入り、家人が苦言を呈すると待ってましたといわんばかりに悪意で返してくる他人が、突然自宅に上がりこんでくるというのは。その後も二人の言い争いはつづいていて、誠司はあの女が家に上がりたがったかどうかを知りたいのだが、絵美が否定しなかったことも尾を引いていた。