ふたりの夢と運命の織り交ぜ

文字数 6,606文字

 茉凜の強い戸惑いは、私自身の中に潜んでいた不確実性を映し出していた。彼女が導き手であるという事実が、私の心の中でひときわ大きな問いとなって、解決を待ち続けていた。

 日々の繰り返しの中で、私はその可能性について深く考えることを避け、自分の気持ちをごまかしてきた。しかし、もはやそんな余裕はない。弓鶴の体は限界を迎え、茉凜もまた、導き手由来の予知の視界を鮮明に発動させてきた。私の心に芽生えた疑念は、現実の厳しさに直面することで、ますます鮮明になってきた。迷っている暇など、もう残されていないのだ。

 そして、最も悲しい別れが、確実に現実味を帯びてきた。そんな結末を迎えるしかないとわかっていても、私の心はそれに対してどうしようもないほど怯えていた。考えることさえも耐え難く、息を呑むような苦痛が私を襲った。

 学園祭の一瞬の夢のような舞台は、現実とのギャップを際立たせるだけで、何の解決にもならなかった。美しくも儚い夢の中での出来事は、私に現実の冷酷さを突きつけるだけで、心の奥に深く根を張る絶望を明らかにするばかりだった。

        ◇         ◇

 茉凜の前にそっと膝をつくと、彼女の小さな顔がはっきりと見える位置に、私は自然と目線を合わせた。彼女の横にあるベッドの端に腰を下ろし、静かに目を閉じる。心の奥深くにしまい込んでいた言葉たちが、ようやく自分の中でまとまり始めて、思い切って唇を開いた。

「茉凜、今はすごく混乱しているかもしれないが、どうか、これから話すことをちゃんと聞いてほしい」

 私の声はなるべく優しく、けれど揺るぎない決意がそこに宿っているのを感じた。まるで、その言葉が彼女の小さな心に触れてしまうことを恐れるかのように。

「お前は、俺がずっと……本当にずっと探し続けていた存在だったんだ。導き手と呼ばれるもの……それが、お前だ」

「わたしが?」

 茉凜の瞳が大きく揺れ、驚きと困惑が一瞬にしてその中に溢れた。彼女のその姿に、私は胸が締めつけられる。こんなにも優しく、儚い存在が、私にとってこれほど大切だなんて。

「ああ……そうだ」

 静かに頷いた私の声は、どこか遠くから響いているような感覚だった。自分自身の感情が、言葉に込められていることがわかるけど、どうしても伝えきれない切なさが胸を蝕んでいく。

「俺は、姉の日記と、さっきのメモを読んで……解呪に向けて心を決めた。だが、導き手を探すにも何の手がかりも見つからなくて……途方に暮れるばかりだった」

 その言葉には、私が感じてきた絶望と孤独が、かすかに滲んでいた。何も見えない暗闇の中で一人、手を伸ばしても誰にも届かない。そんな時間を、ずっと過ごしてきた。

「しかし、ある時から、俺は不思議な夢を見るようになった」

 茉凜の瞳に、私の言葉が静かに映り込み、彼女がその一つ一つをじっと受け止めようとする姿に、胸がさらに苦しくなった。

「夢?」

 茉凜は興味深そうに少し首をかしげながら耳を傾けた。

「ああ」

 私は軽く頷き、夢の内容を静かに思い返す。

「その夢は、毎晩のように繰り返されて、現実と夢との境界が、次第に曖昧になっていくくらい鮮やかな光景だった。今でも、あの景色が心に深く刻まれている」

「どんな景色だったの?」

 茉凜の問いかけに、彼女の真剣さが滲んでいる。その瞳が不安に揺れながらも、私の言葉を待っているのが伝わってくる。

「高台から見下ろす海沿いの町が、まるで俺を抱きしめるかのように、静かに広がっていた。その先には、果てしなく広がる海があって、左手には白い灯台がそびえ立ってた。ちょうど夕暮れ時で、空と海が紅と紫に染まっていて……まるで魔法にかかったかのような、美しい景色だった」

 私の言葉に合わせて、茉凜の表情が少しずつ変わっていく。驚き、そして困惑。彼女の目が瞬くたび、私の描写した夢の風景が、彼女の心の中で形を作り始めたようだった。まるで、現実のどこかに繋がっているのではないか、そんな予感さえ感じた。

「ちょっと待って……それって……」

 茉凜は言葉を飲み込み、私をじっと見つめる。その夢の風景が、彼女にとっても何か特別な意味を持っていることが、彼女の瞳に刻まれていた。

私は静かに頷き、深く息を吸い込んでから言葉を続けた。

「その場所とは、あの石御台の公園の展望台のことなんだ」

 茉凜の口元がわずかに開き、彼女の目が驚愕に大きく見開かれた。私の言葉が彼女の心の奥深くに触れたのが、明らかにわかった。

「弓鶴くん、もしかして……わたしと同じ夢を見ていたの?」

 彼女の声はかすかに震え、興奮と戸惑いが混ざり合っていた。その夢の風景が、彼女にとっても何か重要な意味を持っていることは一目瞭然だった。

「そういうことになる」

 私は彼女の真剣な目を見つめながら、静かに答えた。私の心の奥底にある切なさが、胸にじんわりと広がっていった。

「だから、毎日のようにあそこで夕日を眺めていたんだ。それが、導き手につながる何かだと、一縷の望みを抱いて……」

 茉凜の反応を待つ間、彼女の沈黙が私の心に重く響く。

「でも……」

 彼女の小さな声が聞こえた。

「わたしと最初に会った時、“夢なんてくだらない理由で”って言ってたし、そんなこと全然気づかなかったよ……」

 その瞬間、私は彼女と初めて会った時のことを思い出した。心が鋭く締めつけられる。あの時、私は彼女を突き放すような言葉を口にしてしまった。それがどれほど彼女を傷つけたか、その重さが今でも痛いほどわかる。

「茉凜……本当にすまない」

 言葉を絞り出すように謝ったが、その悔恨の感情は、いくら言葉を尽くしても、あの時の痛みを和らげるには足りなかった。

 私は思わず深く頭を下げて詫びた。

「俺が悪かった。それがどれだけお前を傷つけたか……」

 私の言葉は、深い後悔と誠実さを込めたものだった。茉凜の反応を待ちながら、いまさらながらに自分の過ちを悔いる気持ちが強くなっていった。

「茉凜が夢で見た場所を探していると言った時、俺は驚いた。それがあの公園を指していると知って、どう答えるべきか分からなくなってしまった。偶然にしては、あまりにできすぎていて、同じような理由だなんて、とても信じられなかったんだ。それで、俺は急に恐くなってあんなことを口走ってしまった。本当にすまなかった」

 私は頭を下げ、謝罪の言葉を繰り返していたが、茉凜の笑い声が不意に響いた。その明るい音色は、まるで凍てついた心に春風が舞い込むかのように感じられ、胸の中で何かがふっと解けたような気がした。

 驚いて顔を上げると、茉凜は口元に手を当て、瞳を少し潤ませながら、くすくすと笑い続けていた。その光景に、私は一瞬、何が起こっているのか理解できず、眉を寄せて彼女を見つめた。

「茉凜……なぜ笑う?」

 自分の言葉に込めた後悔と誠実さが届いていないのかと、心の奥で不安が膨らんでいた。彼女が私の謝罪をどう受け取っているのかがわからず、戸惑いが増していくばかりだった。

 しかし、茉凜は手をそっと下ろし、微笑みながら私を見つめた。その目には、どこか優しさと愛しさが混じっていて、彼女の笑顔に胸が締めつけられるような感覚を覚えた。


「ごめんね、ただ、弓鶴くんがそんなに気に病んでいたなんて思わなくて……」

 茉凜は目を細め、優しく微笑んだ。その笑顔は、まるで全てを理解して包み込むような温かさに満ちていた。彼女のその優しさに、胸がじんわりと熱くなる。

「たしかに、あの時は“なんてひどいこと言うんだろう”って、正直思ったけどね。でも、後になって私の話をちゃんと聞いてくれたし、今こうして謝ってくれて、それが本当に嬉しいの。だから、もうそんなに気にしなくていいよ」

 彼女の言葉がまっすぐに心に届き、今まで抱えていた後悔が少しずつ溶けていくような気がした。茉凜の笑顔を前にすると、どんなに重かった気持ちも、不思議と軽くなっていく。彼女がこうして自分の思いを言葉にしてくれることが、どれだけ自分にとって救いであるかを痛感した。

「すまない……」

 私はもう一度、不器用に頭を下げた。言葉では言い表せない感情が胸の中を満たしていた。それでも、茉凜は変わらず優しく微笑んでいた。その笑顔に、心がほっと安らいだ。

「大丈夫、ぜんぜん大丈夫だよ。というか、同じような夢を見てあの場所に導かれたなんて、まるで“運命”みたいだね」

 茉凜の“運命”いう言葉に、私は黙って耳を傾けながらも心の奥底で重い感情に囚われていた。彼女の嬉しそうな笑顔が、私にはどうしてこんなにも切なく、苦しいものに映るのか、その理由ははっきりとしていた。

 自分の無力さと、その無力が彼女に及ぼす影響に対する痛みが、胸の中でぐるぐると渦巻いていた。茉凜が感じている運命の重みは、私とは違う。どうしてこんなにも、自分が彼女の幸福を支えることができないのか、心の中で問い続けていた。

 そのとき、明の小さなため息が耳に入った。彼女のため息には、何か心の中で引っかかるものがあったのだろうか。眉をわずかに寄せた彼女の横顔に、何かを言いたげな思いが見えた。私は自分を責めるばかりでなく、彼女の気持ちにも気づかなければならないという意識が、ふと湧き上がった。

 私は再び茉凜の方に目を向けながら、冷静さを取り戻そうとした。今は感情が揺れ動いている場合ではない。目の前の問題に集中し、前進するための決意を固めなければならなかった。彼女に対して、そして明に対して、今できる最善を尽くさなければならない。

「話は変わるが、茉凜。今確認しておきたいことがある。お前が雷の事故に遭った日付と時間を教えてくれるないか?」

 私はあくまで冷静な声で言った。茉凜の目に真剣な決意を込めて、彼女が私の言葉を受け止める姿を見守りながら、心の中で深く息を吐いた。

「なに、いきなり。どうして、そんな話?」

 茉凜は驚きと困惑が入り混じった表情で私を見つめた。その反応には、不安と痛みが滲んでおり、彼女の最も触れられたくない過去を掘り返すことが、さらなる傷を与えることになるのはわかっていた。しかし、解呪の進展には避けて通れない重要な情報だった。

「解呪に関連があるかもしれないんだ」

 必死の思いで私は口にした。彼女の心を痛めるかもしれないとわかっていながら、どうしてもこの情報が必要だと伝えた。

「辛いことかもしれないが、頼む。どうしても知っておかなければならないんだ」

 私の切実な頼みに、茉凜は一瞬ためらい、沈黙が静かに広がった。彼女の目が揺れ動く中で、私の心は痛みと悔恨でいっぱいだった。どうか、彼女が私の頼みを受け入れてくれるようにと、胸の奥で祈りながら、息を呑んで待った。

 やがて、茉凜はゆっくりと口を開き、小さく、しかし決意を込めて答えた。

「わかった……あなたがそこまで言うなら……。あれは三月の、二日……。時間はたぶん、夕方の三時半くらいだったと思う……」

 茉凜の言葉が静かに響いた瞬間、私の心に冷たい確信が走った。彼女の説明と私の記憶が交錯し、運命の糸が無意識に絡み合っているのを感じた。その日、その時間、私は絶望的な状況に直面していた。

 私の無謀な賭けが、彼女にこのような影響を及ぼしてしまったのかもしれない。自分の行動が引き起こした結果に対する責任の重さが、胸の奥で重くのしかかっていた。私たちの出会いがこんなふうに絡み合うとは思ってもみなかった。

 茉凜の瞳の中に映る混乱と不安が、私の心にさらなる痛みをもたらした。彼女の言葉が、私にとっての過去の影を深く掘り起こした。

「三月二日、午後三時半……」

 私は呟くように繰り返し、彼女の答えを心の中で整理しながら、ゆっくりと顔を上げた。

「その時間帯は……」

 私はただただ震えるしかなかった。茉凜の運命に影を落としたかもしれない過去の出来事を、今度こそは真摯に向き合わなければならなかった。

 その時の光景が脳裏に蘇ると、冷たい悪寒が全身を駆け巡った。

 壮絶な痛みが私を切り裂き、意識が朦朧とし、心と体が引き裂かれるような苦痛に襲われながらも、ただひたすらに祈り続けた。命を賭けて、ただひたすらに。必死に希望だけを抱きながら、その瞬間が無駄にならないようにと、心の中で何度も繰り返し祈っていた。

 やがて、私の器は精霊子で満たされ、根源の欠片と溶け合い、深淵の根源が再生された。その力で異界への門が開かれたが、期待と希望に満ちたその瞬間、それは失敗に終わった。門は確かに開かれたが、根源はそれを潜ることができなかった。私の努力は虚しく、計画は破綻し、すべてが無に帰した。

 その痛みを思い出すと、胸が締めつけられるような感覚が戻ってきた。苦しみの中で、自分がどれほど無力だったのか、そしてその結果として茉凜にどれほどの影響を及ぼしたのかを考えると、心が潰されそうだった。

 私は必死に自分を奮い立たせ、ゆっくりと声を絞り出すように話を続けた。

「そうか……これではっきりしてきた」

「なにが?」と茉凜が尋ねた。

「茉凜の落雷事故には、姉上の解呪の失敗が関わっている可能性が高い」

「意味がよくわからないんだけど」

「姉上は導き手を探していたが見つからず、上帳の手が及ぶに至り、仕方なく解呪の儀式を実行したんだ。叔父様の話によると、三月二日のその時刻あたりで、柚羽の家が燃えた……」

「ええっ!?」

 「それって、本当のことなの!?」と明も声を上げた。


 彼女にとっても、あの人里離れた一軒家は思い出の場所だった。二人の驚きと疑念が、部屋の緊張感を一層深めた。

「すべて事実だ。そして、その日のその時刻に、ほぼ同時に起きた二つの出来事が、ただの偶然では済まされない気がするんだ。姉上の失敗の結果が、茉凜に影響を及ぼしたのかもしれない」

「え……」

 茉凜は唖然として声を漏らしていた。彼女の瞳が大きく見開かれ、混乱の色が濃くなっていく。

「そして、茉凜を襲った雷は、普通の雷ではない」

 私は言葉を紡ぎながら、冷たいものが背筋を走るのを感じた。茉凜が抱える過去の傷の話を続けるたびに、その異常性が一層際立ってくる。

「普通じゃない?」

 明がその言葉に反応し、再び問いかけた。

 「そうだ」と私は頷いた。

「裏付けるものならある。新城先生も言っていたが、茉凜が受けた外的なダメージの少なさは、雷の直撃を受けた人間としては異常すぎるんだ。通常、落雷を受けた体には、電流が走った痕跡、例えば火傷や電紋が残るものだ。しかし、茉凜の体には、左額に小さな傷痕が残っているだけだった。新城先生はこうも言っていた。“この雷は茉凜の身体を駆け抜けていない”と」

 茉凜は自分の額に手をやり、そこに触れながら静かにうなずいた。その手のひらが傷痕に触れると、彼女の表情が複雑に歪んだ。

 「それは、どうして……」と茉凜は声を震わせながら続けた。

「どうして私にはその痕跡がないの?」

 「それが問題だ」と私は答えた。

「もしかすると、その雷は単なる自然現象ではなく、何らかの意図を持った力の存在だったのかもしれない」

 茉凜の顔が青ざめ、明もまた深刻な表情でうなずいた。

「だけど、わたしはあの瞬間のこと、ほとんど覚えてないんだ。それと……雷に打たれたって分かった瞬間、何かが私を包み込んだような……気がして……」

「包み込んだ?」

 明が困惑した表情を浮かべる中、私は重々しく言った。

「通常の落雷の受傷者に、そんなイメージが湧くものだろうか?」

 私の発言に、明は腕を組み難しい表情をした。

「つまり、美鶴さんの解呪の失敗が、茉凜の不可思議な落雷事故に関係しているってこと?」

「そうだ。そして、茉凜に直撃した雷そのものが普通のものではなかった可能性が極めて高い。何か別の異質なものが、茉凜の中に入り込んだんだとしか考えられない」

 茉凜がうつむく。彼女の表情には、不安と恐れが混じり合っていた。言葉の中に潜む深刻さが、彼女の心に重くのしかかっていた。

「でも、わたしは……普通の人間だよ。どうしてそんなことが……」

 その言葉は、彼女が信じたくない現実を前にしたような響きだった。茉凜の目には、過去の痛みと現在の不安が入り混じり、彼女の心の奥底に潜む恐怖が浮かび上がっていた。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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