第19話 二人の思い出と私の前世

文字数 9,067文字

 ヴィルと別れて宿に戻った私は、自分の能力の青で作り出した水を桶に貯め、沸かしてから髪を洗い、身体を拭いた。

 この世界では、現代の日本のようにお風呂に入ることは叶わない。それでも私は能力のお陰で恵まれていると思う。

 身体を清めた後は、能力の赤と白を組み合わせて、適度な温風を送りながら髪を梳かした。

 埃だらけで乾燥したエレダンでは、長い髪は邪魔に感じることもある。それでも、私は母さまの長い髪が大好きだったから、こうして伸ばし続けている。

 髪を乾かし終えると、私はベッドの上に置かれていたマウザークレイルを抱きしめる。

 手の届く範囲なら茉凜の声は届くのだけれど、それでもこうして彼女に触れたくなる。人目がつくところでは恥ずかしいし、変な人と思われそうでとてもできない。

 茉凜の声が私の心に響く。



「うん、ありがとう、茉凜」

 いつものように言葉を交わすことが、私にはとても大切なことだ。
 外ではなかなか会話をする機会がなくて、せめて心の中で私の声を伝えられたらいいのにと思う。でも、言葉に出さなくても、茉凜にはちゃんと伝わっていると思う。



「うん……。でも、少し心の整理がついたかな。私ってついつい考え込んで、うじうじしちゃうんだよね。だから、ヴィルみたいな人にはっきり言ってもらえて、よかったと思う」



 茉凜がちょっと呆れたように言うと、私は少し笑った。

「そんな年寄りのお母さんみたいなこと言わないでよ。悪かったわね」



 私はずっとこれからどうするべきか迷っていた。

 父さまのこと、母さまのこと、魔獣に対する憎しみ、この世界では強すぎる力、そして私は本当に人間なのだろうか、ということも。

 それでも、私は前に進まなければならない。ヴィルはそのきっかけを届けてくれた。

「茉凜?」



「私、頑張ってみるよ……」



「ありがとう、茉凜」

 私は感謝の気持ちを込めて、マウザーグレイルにそっと口づけした。



 冷たい刀身の感触が、茉凜にも伝わったようだった。



 その反応に私はくすくすと笑った。

「よく言うわ、あなたみたいな予測不能な人に言われたくない」

 



 私は前世の学園祭での演劇を思い出す。

 そこで私は泉の巫女の役で、真凜は私を守る騎士様だった。クライマックスで感極まった私は、とんでもないことをしでかしてしまった……。

「あれは、役に入り込みすぎちゃって、つい……。もうっ、恥ずかしいことを思い出させないでよ。あの後、大変でどうしたらいかわからなかったんだから」



 その時の事を思い出して、一気に顔がかーっと熱くなる。

「からかわないでよ……」



「あれは……一時でもいいから、美しい夢を見たかったんだと思う。それで、あなたにあんなひどいことをしちゃった……」



「ありがとう。でも、懐かしいな……。ちょっと前のことのはずなのに、とても昔のように感じる」



「私もそうだよ。でも……今の私はもう以前の私じゃないって思ってる……」

 



「時々、十二歳の私の感情が溢れてきて、それが私には制御不能になることが多いの。そのせいで、いつもとまどってしまう……。でも、そんな瑞々しい感情が、とても愛おしいと思えるんだ。だから私は自分を不幸せなままでいさせたくないって思う。不器用だから、そんなにうまくはいかないけれど、少しずつでも前に進みたい」



「ありがとう、茉凜」

 そして、私は一年前の父さまが亡くなった時を思い出す。

 父さまの死を目の当たりにした瞬間、眠っていた二十歳の私と、前世の異能である黒鶴の力が一斉に目覚めた。その瞬間、私は十一歳の少女の悲しみに深く呑み込まれた。絶望と悲しみに満ちたその感情は、私の全身を震わせ、心を押しつぶすほどの重さをもたらした。

 私の中で暴れる黒鶴の力は、その悲しみを、怒りと憎悪という形に変えていった。迫りくる魔獣たちに対して、その力が炸裂し、一体また一体と無惨に屠った。その惨状を目にしながら、私はただその力に従い、ただ感情を放出するしかなかった。

 もしも私とその力、そして剣の中に宿る真凜が目覚めなかったなら、私は今ここに存在しなかっただろう。十一歳の私のままでは、あの痛みを乗り越える力も、心の強さも持てなかった。

 前世で私は異能の血族【深淵】に掛けられた呪いを解呪し、真凜ともお別れをして、もう何も思い残すことはなかった。これで消えていくのだと思っていた。なのに、強制的にこちらの世界に連れて来られてしまった。どうしてこうなったのか、答えはわからない。前世の記憶があるからといって、精霊子を受け取る素養がそのまま受け継がれるわけではないだろう。

 十一歳の私が二十歳の私と同じ名前であったことから考えても、きっと【あいつ】が何かを画策しただろうことは確かだ。前世を思い出す前、私は自分の名前の由来について尋ねたことがあった。すると母さまはこう答えた。

「まだあなたがお腹の中にいる時に、そういう名前にしてって言ったような気がしたから」

 その時まだ胎内にいただろう私に、そんなことができるはずがない。
 
 この白きマウザーグレイル――その謎めいた剣がなぜ異世界転移を引き起こしたのか。それには私の前世が深く関わっているのだと、知ってしまった。私が前世の記憶を取り戻した瞬間、茉凜も同じように剣の中で目を覚ましたのだ。

 時が経つにつれて、少しずつ分かってきたことがある。彼女は仮の管理者として存在しており、ある程度の情報にアクセスする権限を持っているらしい。茉凜が剣の記録を辿って探し出したのは、驚くべき真実――【あの儀式】の最中に、彼女はオリジナルから転写されたという事実だった。

 さらに異世界転移の痕跡を探ると、三年前、この世界において、マウザーグレイルの一部の機能が私たちの世界へと転移してきた形跡が見つかった。そして、その時期は、私の母さまが消失した日と不気味なまでに一致していた。まさか、私たちの前世がこの世界での私たちの家族に悲劇をもたらした――そんな残酷な運命が、目の前に立ちはだかっているのだと感じた時、私は言葉を失った。

 前世の大人の私が目覚めたからといって、この世界で生まれた「私」が消えてしまったわけではない。むしろ、彼女もまた、今の私の一部であり、その存在が私を支えている。彼女が見つめていた世界、その純粋な喜びや悲しみ、一つひとつが心の奥で宝石のように輝いている。その無垢な感情たちは、未熟でありながらも鮮やかで、今の私を形作る大切な欠片たちだ。彼女が感じたすべてが、私がここに生きる理由そのものと言えた。

 だから私は、生き続けなければならない。「私」を不幸にしたくないから。真凜も、私の側にいてくれる。過去の痛みや、前世から受け継いだ力さえも、今の私に宿り、私を強くしてくれている。

 必ず母さまを見つけ出す。それが、私に課せられた運命であり、この家族に対する私の贖罪なのだ。

 私は目を閉じて、前世の記憶に向き合った。それは、決してヴィルにも話せない、私たちがこの世界に辿り着くまでの道程。長く、複雑で、悲しみに満ちたその軌跡を。

      ◇        ◇    

 深淵の力を持つ一族、柚羽の家に生まれたことが意味するものは、当時の私には理解できなかった。山奥の家で、両親と二つ違いの弟・弓鶴と過ごした日々は、まるで青空の下に広がる静かな絵のように、平穏で優しく、幸せな時間だった。けれど、その日常がどれほど儚いものだったか、私が知ることになるのは、わずか十一歳のときだった。

 その日、家に響く不穏な音が私の耳に届いた。胸が不安に打たれ、体が冷たくなる。居ても立ってもいられず、私は一目散に家に戻った。心臓は激しく脈を打ち、何かが起こったという嫌な予感が頭をよぎる。

 家に着いた私を待っていたのは、信じがたい光景だった。

 広間は完全に破壊され、家の柱は無惨にも折れ曲がり、まるで家そのものが壊れてしまったかのようだった。床には黒ずくめの男たちが倒れ、彼らの手足は無残に切り裂かれ、血がどこまでも広がっていた。その異様な匂いが私の鼻を刺し、その光景はまるで悪夢のようで、私の目の前に広がる現実が信じられなかった。

 弟の弓鶴は、その真ん中でひざまずいていた。そして、彼が見つめる先には、両親が無惨に倒れた姿が広がっていた。その光景は私の心を引き裂き、感情の奔流が私を飲み込んでいった。涙が溢れ出し、怒りと無力感が入り混じった気持ちが心の奥深くで渦巻いた。

 そして、私は弓鶴の背中に不気味な黒い塊が存在することに気がついた。その正体不明の黒い塊は、まるで悪意そのものが具現化されたかのようだった。その異様な存在感が、恐怖の波を呼び起こし、私の心を貫いた。

「弓鶴……?」

 震える声で彼の名を呼んだが、返事はなかった。彼は、何かに取り憑かれたように、無表情でただ前を見つめていた。

 その瞬間、私の胸に湧き上がったのは、恐怖ではなかった。

 ――この子を守らなければ。

 私は無意識に弟のそばへ駆け寄り、彼を抱きしめた。

「大丈夫、大丈夫だから……」

 私は震える声でそう呟いた。私に何ができるわけでもなかった。ただ、弟を守りたい、彼を助けたいという思いだけが私を突き動かしていた。

 そのとき、私たちの生活を支えてくれていた、お手伝いの佐藤さんが帰ってきた。彼女は私たちの様子を見てすぐに察し、素早く行動してくれた。私たちは彼女の助けを借りて家を後にし、意識を失った弓鶴を背負いながら、逃げるように森の奥へと向かった。

 たどり着いたのは、暗くて冷たい洞窟。そこに足を踏み入れたとき、どこからともなく聞こえるかすかな声が耳に届いた。

 



 その声は、何か不思議なものだった。恐ろしいはずなのに、どこか温かく、私たちを守ろうとしているような、そんな感覚を覚えた。

 偶然たどり着いたこの洞窟が何であるか、私たちがどんな運命に導かれているのかを知るのは後のことで、その場所こそが、【始まりの回廊】と呼ばれる場所だった。

 その後、私たちは母方の叔父、虎洞寺 健(こどうじ まさる)氏に救われ、そこで新たな生活を始めることになった。

      ◇       ◇ 

 虎洞寺氏とは、それまで一度も顔を合わせたことはなかった。母から話を聞くこともほとんどなく、正直、どんな人なのかすら想像できなかった。初めて彼と向き合ったとき、私は無意識に彼を警戒していた。どこか冷たい印象を受けたし、母とも顔立ちがあまり似ていないように思えたからだ。

 けれども、彼の不器用ながらも必死な態度は、少しずつ私の警戒心を解いていった。大きな手で何度も髪をかき上げながら、ぎこちない言葉で私たちの世話を焼いてくれる彼には、裏があるようにはとても思えなかった。むしろ、彼もまた困っているのではないかと感じることさえあった。

 私たちが匿われた場所は、石与瀬という海沿いの街の郊外に建つ、広大な屋敷だった。山奥の小さな家での生活しか知らなかった私にとって、その屋敷の豪華さと広さは、まるで別世界のようだった。

 弓鶴は、あの日の惨劇以来、言葉をほとんど交わさなかった。弟はまだ幼く、あの恐ろしい出来事に耐えられるはずもない。何か話しかけようとするたびに、彼は虚ろな目で遠くを見つめるだけだった。あの背中に現れた黒い塊が、いったい何だったのか、その答えを私は探し求めた。

 私はどうしても、あの日の惨劇の理由を知りたかった。なぜ家族が襲われたのか、何が起きたのか。その答えを知るためには、「深淵」と呼ばれるものについて、もっと理解しなければならなかった。けれど、当時の私はその名しか知らず、その意味を全く理解していなかった。

 だからこそ、私は虎洞寺氏に真実を問いただした。

 彼は最初、私の問いに躊躇した。私がまだ子供であること、そして彼自身が何かを守ろうとしていることが、その表情から伝わってきた。けれど、私の執拗な問いかけに、ついに彼は深く息をつき、真実を語り始めた。

「……話すべきではないかもしれないが、紫鶴の娘である君には、知る権利があるだろう……」

 紫鶴とは母の名前だった。そのときの、彼の声にはどこか重々しい響きがあった。それは、私が知りたかった真実ではあったが、同時に聞くべきではなかったかもしれないことを、彼の表情から感じ取った瞬間でもあった。

      ◇       ◇     

 虎洞寺氏から聞いた深淵の血族の歴史は、私にとってあまりにも現実離れしていて、まるで物語の中の出来事のように感じられた。しかし、彼の一言一言が私の心に重く響き、次第にその真実に飲み込まれていくのを感じた。

「【深淵の根源(※1)】は、はるか昔に異界からこの世界にやってきた存在だとされている」と彼は静かに語り始めた。

 私は息をのんだ。異界から来た存在――そんなものが本当に実在するのだろうか?だが、虎洞寺氏の眼差しは、少しも揺るがなかった。彼の言葉は、夢物語ではなく、私たちの現実に深く根付いたものだった。

 その異界からの存在が、「この世界の法則や物質とは相いれず、やがて変質し、崩壊していった」という。

「根源は自身を再生させるために、この世界の生物の遺伝子を操作し、脳内に【精霊子(※2)】という自らを構成する最小単位を集めるための、いわば受容器官を作らせた」と続ける虎洞寺氏の声は、どこか感情を抑えたように冷静だったが、私はその背後に潜む深い苦悩を感じ取っていた。

 しかし、それは多くの生物にとって、あまりにも過酷な試練だったのだ。精霊子がもたらす負荷に耐えきれなかった者たちは、精神を崩壊させ、その異常な力を持て余しながら狂気に陥った。彼らは『怪異』や『鬼』と呼ばれ、次々と討伐されたという。

 私の心は重くなった。その異能の力は、私たちの血にも引き継がれているものなのだろうか。私は拳を握りしめ、虎洞寺氏の言葉を聞き逃さないように集中した。

 「だが――」と彼は言葉を切り、私の顔を見つめた。

「人の中には、精霊子に適応できる者がいた。彼らは知性と精神の強さで発狂を免れ、精霊子の声を聞くことができた」

 その言葉に、私は少しだけ光を見た気がした。すべてが狂気に染まるわけではない――。でも、同時に怖くもなった。適応できた者たちとは、私たち深淵の血族のことを指しているのだろうか?

 虎洞寺氏の語りに、私は言葉を失ったまま座っていた。彼の説明が進むにつれて、私の頭の中には深い混乱が広がっていた。深淵の歴史は、私にとってただの物語ではなく、現実の一部として静かに迫ってくるものであった。

 「そして、その導きに従い、人々は人里離れた山奥の洞穴に集まり、それが深淵の血族の始まりとなった」と、虎洞寺氏の声が静かに響いた。

 その言葉が、私の心に冷たい風を吹き込んだ。

 山奥の洞穴――それが深淵の血族の始まりの地であり、私たちが住んでいた土地の近くにあった。私はその古びた秘密の重さに圧倒された。

「深淵の血族は、始まりの地で微かに残された根源の欠片と対話し、精霊子を制御する術を学んでいった」と彼は続けた。そこには、言葉では表現しきれないほどの努力と知恵が詰まっていたのだろう。その過程で、精霊子の力を安定的に扱う術が確立されていき、四つの属性を扱うそれぞれ四種類の流儀として形を成していったという。

 私はその話を聞きながら、必死に生き延びようとする者たちの姿が浮かんできた。それが一つの体系を成し、この世界の中で「魔術」を実現する力となったのだと知った。

 しかし、時の流れとともに、その意義は歪められていったという。戦乱の世では、深淵の血族の力が権力者たちに取り入る手段として使われ、間諜活動や暗殺に従事するようになった。私の心はその言葉に強い衝撃を受けた。かつては純粋な知識と技術が、人々の命運を左右する力として利用されていったのだ。

「権力と影響力を追い求める中で、精霊子を扱う能力によって支配階級が形成され、組織内部の力関係が厳格に構築されていった」と、虎洞寺氏の語りは続いた。

 虎洞寺氏の説明を聞いているうちに、私は心の奥深くで次第に冷たい恐怖と憤りが湧き上がってくるのを感じた。深淵の血族が持っていた本来の目的が、時間の経過と共にどれほど歪められ、失われていったのかを知ることは、私にとって非常に苦しい体験だった。

 「しかし、それは血族本来の目的からは逸脱した姿だった」と虎洞寺氏は続けた。その言葉が、まるで私の心に重い石を乗せるように感じられた。

 深淵の血族が本来目指していたのは、「精霊子を一つの個体に集め、根源を再生させることで、呪いのような力から解放されることだったのだ」という。それが「解呪」と呼ばれ、力の呪縛からの解放こそが、彼らの本当の宿願だった。

 しかし、その崇高な目的は次第に忘れ去られ、権力と腐敗の渦に飲み込まれていった。虎洞寺氏が語った「上帳(※3)」という指導体制が確立される中で、組織の理念や倫理は失われ、深淵の血族は権力闘争の渦中に巻き込まれていった。

 「力を持つ者は組織内での地位や権力を確保し、持たない者は【郭外】と呼ばれる外部組織に追いやられていった」と虎洞寺氏は冷静に説明した。その言葉に込められた現実の厳しさは、私にとってあまりにも残酷だった。能力を持たない者たちは搾取され、組織に逆らう者や不満を抱く者は、厳しく抹殺される運命にあった。

 その中で、虎洞寺氏は外部に追いやられた一人であった。彼がその体制に疑問を抱き、郭外の人々を支えるために事業を立ち上げ成功に導いたという話は、私にとって希望と同時に深い悲しみをもたらした。彼の決意と行動が、組織の歪みから逃れようとする者たちの支えとなり、またその苦しみの中で光を見出す一歩となったのだろうか。

      ◇        ◇ 

 虎洞寺氏から事実を聞いた後、私は震える声で問いかけた。両親がなぜ殺されなければならなかったのか、その答えが私の心に深い痛みをもたらした。

 「君のご両親は、この力の呪縛からの解放を目論んでいたんだ」と彼は冷徹に告げた。その言葉は、まるで私の心に鋭い刃のように突き刺さり、全身を震わせるほどの衝撃を与えた。

「上帳は解呪を望む勢力と解呪を望まない勢力とで二分されている。後者にとって、解呪は権力と影響力の喪失を意味し、そのために君たちを抹殺しようとしたのだ。三家の一つである柚羽家を潰しても構わないという覚悟でね」

 その言葉を聞いた私は、弓鶴のことが心配でたまらなかった。あの正体不明の「黒い塊」があまりにも危険に感じられて、私たちもその危険に巻き込まれるのではないかという恐怖が心の奥底に広がっていった。弓鶴の力がどれほどの影響をもたらすのか、その全貌が知りたかった。

「弓鶴の力の素性と能力は、深淵の中でも禁忌とされる色、番外の『深淵の【黒(※4)】』だ」と虎洞寺氏は告げた。その言葉を聞いた瞬間、私の体は恐怖で凍りついた。深淵の黒――それが持つ意味が、私の心に重くのしかかってきた。

 「深淵の黒は、その出現がはるか昔より根源から予言されていたものだ」と彼は続けた。

「規格外の精霊子への感受性を持ち、底なしの容量を有する。たった一人で、この世に散らばった精霊子すべてを集めきる可能性を持った個体。それは、根源が願う自身の再生と異界への帰還に必要不可欠な器そのものだ。しかし、これは理論上の話に過ぎない。実際にその道に至れる者は今まで一人もいなかった。精神と肉体が耐えられるとは、とても思えないからだ。おそらく、ご両親は弓鶴の力を理解し、その運命に対して焦っていたのだろう。そして、君にもその素養はあると考えていい……」

 彼の言葉が私の心に重くのしかかり、両親の死が単なる犠牲ではなく、長い歴史と運命に深く結びついていることが理解できた。

 私は涙が止まらなかった。弟に課せられた呪いの重さ、そしてその呪いが私たちにどれほどの影響を及ぼしているのかが、鮮明に浮かび上がってきた。

 私の心の中で、両親の思いが募り、深淵の呪いを解き、根源の願いを叶えるための道を切り開くことを決意した。弓鶴には、辛い思いをさせたくはなかった。できることなら、彼には何も知らずに虎洞寺氏の元で平穏に過ごしてほしいと願っていた。

 そして、私は決意した。たとえ命にかえてでも、解呪を目指し、両親の願いを遂げるために進むことを。深淵の呪いを解き放ち、家族が望んだ未来を取り戻すための道を切り開く覚悟を固めた。

※1 【深淵の根源】
 その存在の名は現在秘匿。バルファ世界に存在した古代精霊族の遺産とされる。何らかの理由で私たちの世界に落ちてきた。この世界には適応できず、最小単位の精霊子という存在に分解してしまった。すべての元凶。

※2 【精霊子】
 精霊子という概念は、深淵の血族がつけたもので、バルファ世界における純粋精霊。認識できない。

※3 【上帳】
 深淵の血族の最高意思決定機関。三家と現役を引退した実力者たちで固められ、決して表には姿を見せず、その正体は一切不明。解呪を望む勢力と現体制の維持に固執する勢力に二分されている。

※4 深淵の【黒】
 ミツルが持つ色。すべての精霊子を呑み尽くす器とされる、厄災の元凶とも希望の象徴ともされる存在。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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