第49話 茉凜と明の休戦協定

文字数 10,033文字

 三人の間に漂う緊張感が、私の胸の奥で重く静かに痛みを引き起こしていた。茉凜と明の存在が、まるで絡み合った糸のように私の心をもつれさせ、解けない結び目を作り出していた。

 黒鶴の器を拡大するための鍛錬が行われているその場にも、明も共に立ち会っていた。私と茉凜が手を取り合い、目を閉じて向き合うその瞬間、明の視線が私たちに鋭く向けられているのを、肌で感じ取っていた。彼女の視線は、まるで冷たい鉄のように私たちを見守り、その圧倒的な存在感が心に静かで確実な重圧をかけていた。

 その意識が、私の心の中で静かに芽生え、わずかに引っかかる感覚を残していく。茉凜の手の温もりが私の手の中にあるのに、その安心感がどこか遠くに感じられる。深淵の闇に立ち向かうたびに、心の奥底から湧き上がる不安が、私をじわじわと締め付けていくようだった。

 心の奥に潜む明の存在が、私の邪念となり、茉凜との絆が次第にほころんでいくように感じる。手を繋いでいるにもかかわらず、その安らぎがどこか曖昧で、心の中に広がる不安と恐れが私を包み込み、意識を集中することが困難になっていた。

 茉凜は私の不安を敏感に察知しているようで、彼女の瞳が、優しくもどこか悲しげに私を見つめ、微かに息を吐き出した。その表情には、私を守るための優しい嘘が含まれているのが見て取れた。

「今日はやめよう……。わたし、ちょっと調子が悪いみたい」

 その言葉が、私を守るための優しい嘘であることは、胸の奥で鋭く響く確信となっていた。茉凜の気遣いに甘えるように、私はただ頷くしかなかった。心の奥底では、私がこの状況をさらに悪化させているのだと痛感していた。茉凜と明の間で揺れ動く心、彼女たちの間に立たされ、自分の気持ちを整理できずにいる私が、この混乱を引き起こしているのだと認識していた。

 彼女たちと共にいることで、かえって自分の無力さが露呈し、その事実が私をさらに追い詰めていく。茉凜の優しさが、私の心に温かさと同時に冷たい鋭さをもたらし、私はその矛盾した感情に翻弄されていた。

        ◇        ◇

 最近、私は息が詰まるような日々を過ごし、茉凜との会話も以前のようには弾まなくなっていた。心の中に募る焦燥感と不安が、私を圧迫していた。こんな状態ではいけないと感じ、解決策を見出さなければならないと切実に思っていたが、どうしてもその糸口が見つからなかった。

 一番良いのは、明に出て行ってもらうことだろう。でも、それは現実的ではない。彼女は真坂の家を飛び出し、強硬派からも敵視されているはずだ。彼女を一人にして見殺しにするわけにはいかない。そんなことは到底できないと、自分に言い聞かせていた。

 そんな矢先、自室に籠もり、答えのない迷路の中に迷い込んでいる私に、突然スマホからの連絡が入った。藤堂さんからの呼びかけだった。

「地下のトレーニングルームで、茉凜と明が言い争っている」と、彼の緊迫した声がスマホのスピーカーから流れてきた。

 一瞬、心臓が大きく跳ねた。すぐに止めなければと決心し、私は駆け出した。走りながらスマホの画面を見ていると、転送された現場のモニター映像に切り替わり、二人の声が鮮明に耳に入ってきた。

 そこで私は立ち止まり、スマホの画面に見入った。映し出されたのは、茉凜と明が互いに激しく言い争っている姿だった。茉凜の顔には、感情の波が荒れ狂うように浮かび、明の瞳には挑戦的な光が宿っていた。その声と表情には、私の心に重くのしかかる緊迫感が漂っていた。見るだけで、心の中に深い穴が開くような気がした。

        ◇        ◇   

 そこには明の表情が一層険しくなり、唇を噛みしめるその姿が映し出されていた。彼女の感情が限界に達し、ついに堪えきれずに溢れ出した。

「そうだよ、あんたがいるせいで、全部ぐちゃぐちゃになってるんだ!」

 その言葉はまるで刃のように突き刺さり、スマホのスピーカー越しに伝わる絶望感が私の胸を締めつけた。彼女の叫びには、深い苦しみと憤りが込められていて、私の心に痛烈な衝撃を与えた。

「あたしが弓鶴くんのそばにいたなら、もっと違うことができたのに! あんたが横から急に出てきたせいで、あたしの居場所がなくなったんだよ!」

 その言葉を聞いた茉凜は、目を閉じて深く息を吐いた。彼女の優しい眼差しが、明の苦しみと怒りに対して静かに共鳴しているように見えた。

「ごめんね、アキラちゃん……でも、わたしは弓鶴くんのあの力を支えるためにここにいるの。それは、アキラちゃんだってわかってくれてるよね?」

 茉凜の言葉は優しさの仮面をかぶった真実で、明の心に微かな揺らぎをもたらし、その瞳には怒りと絶望が交錯していた。

「そんなことはわかってる! でも、それじゃあ、あたしはどうすればいいっていうの? 彼にとって、あたしはただの邪魔者だっていうの?」

 明の声がかすれ、涙が彼女の目に滲んできた。彼女の苦しみと悔しさが私の心に痛烈に響き、その激しい感情の波が体中を駆け巡るようだった。

「こんなに頑張ってきたのに、たくさんのものを壊してきたのに、それって、いったい何のためだったんだ……」

 明の言葉には、深い絶望が滲んでいた。その瞬間、茉凜はそっと明に近づき、静かにその場に立ち尽くしていた。無言で明を受け入れるその姿は、心の奥底からの痛みを感じさせるものであった。茉凜の存在が、明の苦しみを少しでも和らげようとしていることが、私には痛いほど伝わってきた。

「アキラちゃん、そんなことないよ。あなたがいたから、弓鶴くんはこれまでずっと戦ってこられたんだと思う。前に彼が言ってたよ。『アキラちゃんも呪いの犠牲者の一人なんだ』って。だから頑張るんだって」

 その言葉が、明の感情をさらに激化させた。スマホの画面越しに、彼女の顔が怒りで真っ赤に染まり、唇を強く噛みしめるその姿と目には炎のような感情が燃え上がり、その激しい反応に私の心も揺さぶられていた。

「うるさい、あんたうざいよ、顔も見たくない!」

 明の言葉はまるで爆発する火花のように飛び散り、私の胸に強い衝撃を与えた。彼女の怒りが全身から溢れ出し、怒りと悔しさが、画面越しにでもひしひしと伝わってきた。

「ごめんね……」

 茉凜の声は、スマホのスピーカーから優しく、しかし少し震えるように聞こえた。

「わたしの言葉があなたを傷つけたなら、本当にごめんなさい……」

 その言葉を聞いた明は、一瞬の間をおいてから目を閉じ、深呼吸をするかのように視線を落ち着けようとしていた。

 茉凜は、明の辛辣な言葉を一つひとつ真剣に受け止めていた。それでも、彼女の微笑みは揺るがなかった。茉凜の顔に浮かぶ笑顔は、明の激しい感情を包み込むかのように、どこか穏やかでありながらも、その背後には深い悲しみと決意が秘められているように見えた。

「わたしって、こういう人間だから……アキラちゃんがわたしが嫌いっていうのは、わかるよ」

「そうだとも、大っ嫌いだね。あんたみたいな、無自覚でいつもへらへらしてるだけで何もわかってないやつは特に!」

 明の言葉は、茉凜に対する深い憎悪を露わにしていた。その激しい感情が、私の心にも痛みをもたらし、茉凜の優しさが逆に明の怒りを煽っていると感じられた。

「でも、わたしはアキラちゃんのこと、嫌いじゃない」

 その言葉に対して明の表情はさらに険しくなり、彼女の顔に怒りと不信が色濃く浮かび上がった。茉凜の優しさが、明の痛みを逆に深めているように見えた。

「ふざけないで、あんたはあたしの敵なんだ。今すぐここでぶっ殺してやりたいくらい大嫌いなんだ。なのに何であたしに近寄ろうとするの? 頭おかしいんじゃないの!?」

 茉凜はその激しい問いに対して、一瞬目を伏せ、深い思索の中から静かに答えた。

「それはね、アキラちゃんが弓鶴くんを本当に大切に思っている人だからだよ」

 その言葉に、明の目には驚きと不安が混じり、茉凜に対する視線が一層鋭くなった。

 茉凜は頷きながら話を続けた。

「あなたは、そのためにここに来たんでしょ? わたしには、アキラちゃんがどれほど辛かったか、想像することしかできない。でも、それは本当に立派なことだと思うんだ」

 明は耳障りな舌打ちをし、茉凜を鋭い目つきで見つめた。

「何が立派だって? あたしにはもう何も残ってない。笑いなよ、こんなみじめなあたしを」

 茉凜は明の言葉にかすかに眉を寄せたが、その瞳には変わらぬ優しさが宿っていた。彼女は穏やかに、かつ深い思いやりを込めて言葉を続けた。

「アキラちゃんがどれだけ辛かったとしても、今のあなたがいるのは、その痛みを乗り越えたからだと思う。わたしが何も知らない無力な人間だとしても、あなたの苦しみを少しでも和らげたいと思っているの。それがわたしにできることだから」

 その言葉が、明の心にどこかで触れたのか、彼女は一瞬だけ静まり返り、目に涙をためながら、茉凜の言葉を飲み込もうとしているようだった。

「笑うなんてこと、できるわけないよ。弓鶴くんだって何も言わないけど、きっと今でもアキラちゃんのことを気にしてると思うの。彼は、いつもそうやって大切な人を思いやる人だから」

 その言葉に、明の顔が一層険しくなり、唇が震え始めた。彼女の目は激しい怒りと不信に燃えていて、心の中で燃え上がる怒りがそのまま顔に現れていた。息を切らしながら、彼女の手が握りこまれたまま力が入っている。

「そんなわけないじゃない! 彼の目を見てればわかる……」

 茉凜は静かに、一歩踏み出しながら言葉を続けた。彼女の動きはゆっくりとしていたが、その優しさと静けさが明の怒りを逆に刺激していた。

「そんなことないよ、アキラちゃんがどんなに辛い状況にあっても、弓鶴くんはあなたを見放したりなんかしない。彼の目には、あなたの苦しみが映っているから、深淵の人たちの辛さをよくわかってるから、本当の意味であなたを理解して、支えようとしているんだと思うよ。たしかに不器用なのかもしれないけれど」

 その言葉を聞いた明の瞳には、ますますの激しい動揺と焦燥が見て取れた。

「どこがよ? あたしにはあんたみたいな特別な価値なんてない。あたしじゃ彼の力になれない。それがどんなに悔しいかわからないでしょ?」

 茉凜は右手でそっと自分の左腕を包み込みながら、ゆっくりと話し始めた。その姿勢には深い思索と、誰かの苦しみに寄り添うための優しさが込められていた。

「ううん、そんなことない。わたしなんてなんの取り柄もないし、黒鶴の安全装置だなんて言われてるけど、本当に彼の力になれているかどうか、自信なんてないんだ……。それにね、実はわたしの左腕、ほとんど動かないの。人差し指と中指なんて、全然動かなくて。だから、弓鶴くんと一緒に戦うのは難しいし、わたしができるのは、彼のそばで笑顔でいることだけなの。それだけが、わたしができる精一杯のことだから」

 明はその告白に目を見開き、茉凜の目には複雑な思いが交錯しているのを感じ取った。その瞬間、明の中で何かが崩れ去ったような気がした。

「それがむかつくんだ……。あんた、何もわかってないんでしょ? 彼の隣に立てるってことが、あたしをどれだけ苦しめてるか知りもしないくせに……。どうしようもないから、こうして見てるしかないのに。もう、やめてよ……」

 明の声が震え、言葉には痛みと怒りが混じっていた。彼女は背を向けるように、視線を外し、体が震えながらもその場を離れようとした。

 茉凜はその動きに対して静かに見守りながら、ふと問いかけた。

「じゃあ、あなたはどうしたいの? これからどうなりたいの? そうやって何もしないで見ているだけなの?」

 明は振り返り、鋭い視線で茉凜を射抜いた。彼女の眉間にしわが寄り、手が強く握り締められていた。

「誰が? あんたが言うな。だまれ」

 その言葉に、茉凜は内心で深い息を吐きながらも、冷静さを保とうと努めた。彼女の呼吸が落ち着く中、穏やかな声を心がけて続けた。

「ちょっと落ち着いて考えてみて。弓鶴くんが置かれている状況は、今とても厳しいでしょ?  そんな彼が誰かと恋をするなんて、なかなか考えられないよね。だから、わたしやアキラちゃんに対しても、彼はきっと複雑な気持ちを抱えているんだと思うの」

 その言葉が明の心に触れた瞬間、彼女の表情には一瞬、困惑と痛みが浮かび上がった。目を伏せたその姿からは、内なる苦しみと矛盾に悩まされている様子が見て取れる。

「あたしがいるせいだっていうの?」

「違うよ、あなたがいることで彼が苦しんでいるわけじゃない。今の彼は、自分がどうすべきかを悩んでいるだけなんだと思うの。わたしもその一部なのかもしれないけど、もっと大事なのは、アキラちゃん自身がこれからどうしたいかだと思うな」

 明はその言葉にしばらく沈黙し、胸の中で葛藤している様子が伝わってきた。彼女の肩が上下に揺れ、口を開けようとするが言葉が詰まっているようだった。

「どうしたいか……」

 その言葉が明の口から出るのは難しいようで、彼女の顔には困惑が色濃く浮かんでいた。茉凜はその様子を見守りながら、心の整理を促すために、さらに優しく問いかけた。

「アキラちゃん、どんな形でも、弓鶴くんのために何かしてあげたいって思ってるよね? その気持ちは、絶対に無駄にならないと思う」

 茉凜の優しくも確固たる眼差しが、明を見つめ続けた。明はその眼差しに応えるように、少しずつ目を開けて頷きながら、深呼吸をした。彼女の呼吸が整うにつれて、明の表情に少しずつ落ち着きが戻っていくのが見て取れた。

「だから、わたしたちで、一緒に協力しない?」

 急な茉凜の提案に、明は驚きと戸惑いを隠せず、一瞬にしてその場の空気が変わった。彼女の目には疑念と混乱が交錯し、何をどうしていいか分からないという葛藤が見て取れた。明の口がわずかに開き、思いをまとめるのに苦しむように見えた。

「協力?あんた何を言ってるの?」

 茉凜は一瞬の沈黙の後、深く息を吐き、決意を込めて語り始めた。彼女の声には優しさと固い意志が滲んでいた。

「これはわたしからの提案なんだけど、わたしは黒鶴の安全装置として、何がなんでも彼の暴走を防ぐつもり。あなたには深淵の戦う力と経験がある。彼には守る力はあっても戦う力がないから、その欠けているものをあなたが伝えてあげられると思うんだ。それはわたしにはぜったいにできないことだから」

 明はその言葉を聞いて、一瞬思考に沈んだ。彼女は頬に手を当て、視線を遠くに向けながら、何かを考え込んでいる様子がうかがえた。彼女の表情には、困惑と内心の葛藤が色濃く表れていた。

「弓鶴くんのためになるなら、やってもいいけどさ……。でも、あたしはあんたに協力する気はさらさらないからね」

 茉凜はその言葉に静かに頷きながら、彼女の意志を尊重する姿勢を見せた。

「うん、それでいいよ。わたしたちの弓鶴くんを守りたいっていう願いは、同じなんだから。そのために頑張ればいい。それに、呪いを解けば深淵の人たちは自由になれるんだし、きっと弓鶴くんだって自分を取り戻せるはず。そうしたら、きっと……」

 茉凜の言葉に、明の身体がわずかに前に傾き、彼女の言葉に真剣に耳を傾けていた。その眼差しには、まだ希望と不安が交錯している様子が見えた。

「そうしたら?」

「そこからやっとスタートできるんじゃないかな? わたしとアキラちゃんの勝負が、ね?」

 明は息を呑んでいた。その言葉に驚きと混乱が入り混じり、彼女の顔がわずかに赤らんでいった。

「勝負って……」

「ああ、前みたいなあんな勝負じゃないからね。本当の真剣勝負ってこと」

 明の顔には困惑と戸惑いが浮かび、彼女の目がさらに広がった。しばらく黙っていたが、ようやく言葉を絞り出した。

「わけがわからない……」

「それが彼にとっても、わたしたちにとっても、一番の方法だと思うの。だから、そのためなら、わたしは自分の気持ちに、蓋をしたって構わない……」

 茉凜の言葉が、まるで胸を締め付けるように響いた。彼女の瞳には涙がたまり、声にはかすかな震えが混じっていた。その微笑みには、深い悲しみと優しさが滲んでいた。

「……わたしは馬鹿だから、こんな風にしか言えないけど、わたしにとって弓鶴くんは、たぶん特別なんだと思う。はっきりとした形では、まだ言えないけれど……。でも、この気持ちが彼にとって重荷になるなら、今はそれでいい。今はこのままでいいんだ……」

「あんた、それでいいっていうの?」

「うん……」

 茉凜のその言葉には、彼女の純粋な思いと無償の愛情、そして深い思いやりが込められていた。

 明はその言葉にしばらく黙って考え込んでいたが、茉凜の決意と純粋さに圧倒される様子が伝わってきた。

 重い沈黙が流れ、空気が凍りついたように感じられる中、茉凜が静かに口を開いた。

「そうだ、もうひとつお願いがあるんだけど、いいかな?」

「何よ?」

「わたしたち、友達になろうよ」

 茉凜の柔らかな微笑みに、明は驚きのあまり言葉を失い、その場に立ちすくんでいた。

「はぁ?いきなり、どういうつもり? なんか裏があるんじゃないの?」

 茉凜は軽く笑い、首を振りながら答えた。

「あはは、まさか、普通に笑い合える仲になれたらいいなって思ってるだけだよ。いがみ合っているより、その方が絶対にいいって思うから」

 その言葉に、明の顔は徐々に赤らみ、視線をうつむかせながら照れくさそうに頬を抑えた。

「まぁ、弓鶴くんに変な気苦労をかけたくはないし……。けど納得はできないわ」

「うん、無理しなくていい。少しずつでいいから。それと、アキラちゃん?」

「なんだよ?まだあるの?」

「弓鶴くんが思う通りに生きられるその時まで、わたしたちは休戦協定ってことでいいよね?」

 明はしばらく沈黙し、深いため息をつきながら目を伏せた。彼女の表情には内心の葛藤が色濃く浮かび、考え込む様子が見て取れた。やがて、彼女は力強く頷いた。

「……分かったわ。休戦協定ね。でも、これだけは覚えておいて。もし、あんたが弓鶴くんを傷つけるようなことがあれば、その時は容赦ないからね」

 茉凜はその言葉に優しく頷き、温かい微笑みを浮かべた。

「うん、その気持ち、ちゃんと受け取ったよ。ありがとう、アキラちゃん」

 明はその場で立ち上がり、少し照れくさそうに笑いながら、茉凜に向けて手を振った。茉凜も笑顔で手を振り返し、その瞬間、二人の間に少しずつでも和解の兆しが見えた。

「あたしはまだあんたを信用していない。でも、あんたの弓鶴くんを守りたいって気持ちは本物だろう。あたしもそれは同じだし、それだけは約束する」

「うん、ありがとうね、アキラちゃん」

 茉凜の瞳には暖かい光が宿り、彼女は優しく明に手を差し出した。

「仕方ないわね……」

 明は一瞬、憮然とした表情を浮かべたが、その手をじっと見つめ、深呼吸をひとつしてから、躊躇いがちにその手を取った。茉凜は微笑みながらその手を優しく握り返した。

「じゃあ、具体的にこれからどうするの?」

 明が不安げに尋ねると、茉凜は穏やかな笑顔を浮かべながら答えた。

「まずは、弓鶴くんに安心してもらうことが大事だと思う。そのために、わたしたちも協力し合っていこう」

「うーん……」

 そこで明の言葉が途切れ、顔に複雑な表情を浮かべた。

 茉凜はその様子を見て、さらに静かな声で続けた。

「アキラちゃん、誰かを助けたいと思う気持ちや、誰かのために頑張りたいと思う気持ちは、誰にも否定できないものだと思うの。でも、そんな気持ちを一人で抱えて悩んでいると、いつか自分自身が壊れてしまうかもしれない。それを避けるために、仲間がいるんじゃないかな……なんて、偉そうに言ってみたけど。わたしは、そんな同志のような人がほしかったんだ」

 茉凜の言葉は、彼女の内なる思いと誠実さをにじませていた。明はその言葉を聞きながら、ふと自分自身の立場と気持ちを考え直し、複雑な感情を抱えつつも、心に温かさを感じる瞬間を迎えていた。

「……そうかもしれないわね。あたしも、誰かに頼りたいと思ってたのかもしれないし」

 明は少しずつ、自分の内面を見つめ直すように、考えを整理していった。

「これから、わたしたちがどれだけ協力できるか、試してみようと思う。でも、これだけは覚えておいて。弓鶴くんを守るために、あんたもあたしも、お互いに最善を尽くすことが大事だって」

「うん、もちろん。そのつもりだよ」

 二人の間に、初めて確かな信頼と理解の架け橋がかかるのを感じながら、茉凜と明はこれからの協力のために、静かに合意した。

 明と茉凜の対話が進む中で、互いの気持ちと立場が少しずつ明らかになっていった。明の心に抱えた疑念や警戒心は、茉凜の真摯な言葉と温かい態度によって、徐々に解消されていったのだ。

 そのとき、明は思い切って疑問を投げかけた。

「あんたはどうして、彼のそばにいられるの? 価値がないって自分で言ってたくせに。あたしにはわからない」

 茉凜は少し考え込み、静かに微笑んだ。その笑顔には、哀しげな影があったものの、温かい決意がしっかりと込められていた。

「わたしも、彼を支えるために何ができるか、まだ探している最中なんだ。でも、ただそばにいて、笑顔を絶やさないこと。それだけでも彼にとっては意味があるかもしれないって、そう思っているんだ」

 その言葉を聞いた明は、心の中に複雑な感情が渦巻くのを感じた。彼女の顔には警戒心がまだ残っていたが、少しだけ口元が緩み始めていた。

「……そうかい。わかった。あたしも自分の出来ることをするさ。でも、あんたのこと、まだ完全には信じてないから」

 茉凜はその反応に優しく微笑み返し、静かに頷いた。彼女の微笑みは、まるで暗い空に差し込む一筋の光のように、明の心にじわりと染み渡った。

「うん、それでいいと思う。弓鶴くんもきっと、それで安心するはずだから」

 明は再び頷き、静かに視線を合わせた。その目には、どこか解放感が漂っていた。

「あたしだって、弓鶴くんには嫌われたくないからね」

 その言葉に、明は少しぎこちなく微笑み返し、茉凜は嬉しそうに頷いた。彼女の笑顔には、互いに理解し合おうとする温かい感情が溢れていた。

「そうだね。今はお互いにできることをしっかりやっていこう」

 二人の間に流れる空気は、これまでの緊張感から解放され、徐々に穏やかさが戻っていった。

   ◇          ◇

 茉凜と明が、弓鶴のために真剣な話し合いを続けるその様子が、私には夢の中の幻影のように映っていた。彼女たちの声は、遠くから聞こえるかすかな囁きのように感じられ、私の心はその響きに圧倒されていた。

 「彼がリラックスできる環境を整えるのが最優先だね。ストレスを減らすために、できる限りの配慮をしよう」と茉凜が言うその声が、私の胸に強く響いた。その言葉には彼女の優しさと献身が込められていて、私の中で深い感情の渦が巻き起こっていた。

 「それから、場裏の扱い方を叩き込まないとね。彼が自分を守れるようになるために、戦うための術を身に着けてもらう。簡単ではないけど」と明が応じた言葉も、私の心を切り裂くように響いた。彼女たちが弓鶴のために尽力しているその姿が、私にとっては複雑な感情を引き起こしていた。

「茉凜は私のことをどう思っているのだろう?」

 その問いが頭の中で繰り返される。彼女の言葉が、私の心の奥深くに沁み込んで、苦しみとともに響いていた。

『わたしは自分の気持ちに、蓋をしたって構わない……』

 彼女のその言葉が、私の心を激しく揺さぶる。彼女の秘めた思いと優しさは、私にとって一筋の光でありながら、その光は深い痛みの源でもあった。彼女の気持ちが、私の心に重くのしかかり、私の感情を絡め取っていく。

「私は弓鶴じゃなくて、美鶴なんだよ。ごめんね、ごめんなさい……」

 その言葉が胸の奥で重く響き、私の心を切り裂くような痛みを引き起こす。涙が自然に頬を伝い、心の中に渦巻く混乱と切なさが私を包み込んでいった。彼女の真意が私に届くたびに、私はその心の奥底に引き込まれていく感覚を覚える。

 私の胸には幸福と絶望が交錯し、心の中の混沌が私を圧倒していた。茉凜の言葉が私の心を揺さぶり、私自身の感情が溢れ出すのを止めることができなかった。心の奥で、切なさと混乱が渦巻き、私はその感情に飲み込まれていく。

 涙が止まらず、スクリーンがぼやけていく中で、私はただ黙ってその感情に浸りながら、深い切なさと混乱に包まれていた。私の心は茉凜の優しさと痛みに引き裂かれ、感情の波に揺さぶられながら、ただただその中に溶け込んでいった。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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