第17話 ヴィルとユベルと剣の友情と真実

文字数 8,302文字

 あれからしばらく経った。

 ヴィルの鋭い眼差しが、まるで私の内側をすべて見透かしてしまうかのようで、正直なところ、怖くなってしまったのかもしれない。でも、その恐ろしさの奥に、彼の強さが頼もしく映り、どこか憎めないところがあった。何より、彼が父さまと繋がりを持っているという事実が、私にとってとても大切なものだった。

 そして、私自身の成長のためにも、ヴィルとの関係を断ち切りたくなかった。どんなに怖くても、逃げ出すわけにはいかなかった。

 そんな複雑な気持ちを抱えながら、私は作り笑いを浮かべた。その笑顔が本心からのものではないことを、自分でもわかっていたけれど、今はそれが精一杯だった。

 その後、ヴィルは何も聞いてこなかった。ただ、私の作り笑いを受け入れるように、黙ったまま時が過ぎていった。

 それからというもの、私たちは毎日一緒に狩りに出て、魔獣と戦って、お昼ごはんを一緒に食べて、街に帰ってからは夕ごはんを共にして、その後は少しお酒を飲んで、いろいろな話をした。彼はお酒が入ると、とても饒舌になった。

 ヴィルは酒器を傾けながら、父さまの過去を語ってくれた。私は、父さまがどんな人だったのか知りたくてたまらなかったから、興味津々で聞いていた。

 私の知っている父さまは、山奥の小さな小屋で、母さまと仲睦まじく過ごし、暇さえあれば剣を振っている姿や、私をおんぶして森の生き物や植物について教えてくれたこととか、優しいけど怒ると怖かったこととか、普通の親子の情景しか知らなかったから。

「俺は東の辺境の村の剣術道場に生まれた。けど親父とは折り合いが悪くてな、喧嘩ばかりしてて、勢いのままに家を飛び出しちまった。それからというもの、俺の人生は放浪の連続だった。各地を渡り歩いて武者修行しながら、傭兵やハンターとして名を上げていった。向かうところ敵なしで自信満々だった俺は、力を証明するために、もっと強い奴との戦いに飢えていた。今思えば俺も若かったんだな」

 ヴィルにそんな血気盛んな時機があったなんて驚きだった。とても冷静で落ち着いた雰囲気の今の姿からは、とても想像できなかった。

「そんなある日、南の大国リーディスに、『閃光』と噂されるユベル・グロンダイルという強者がいると耳にした。あいつは国家騎士団に所属していて、その実力で勇名を轟かせていた。俺はこの機会を逃すまいと思ってな、挑む決意を固めてリーディスへと向かい、接触するチャンスを伺った」

 父さまが騎士団にいたなんて、初めて知った。それもあの文化の最先端といわれているリーディス王国の。その事実に私はびっくりした。

「そして、酒場であいつを見かけた。仲間たちと陽気に話す姿からは、なんの覇気も感じられなかった。俺は『こんな程度か』と高をくくって、挑戦状を叩き付けた。その瞬間、あいつの周囲の空気が一変した。凄まじい闘気が立ち込めて、俺は武者震いが止まらくなった」

 私にはなんとなく理解できた。本当に強い人というのは、見た目ではなかなかわからないものなんだろう。

「だが、あいつは俺の申し込みを拒んだ。そんなに戦いたいなら騎士団に来いと言いいやがった。馬鹿にしやがってって、腹が立ったな。俺は国家騎士団になぞ興味の欠片もなかったが、その挑戦に燃えた。それに、生意気で格好だけの騎士連中の鼻を明かしてやりたいって思ったしな」

 その反骨精神と挑もうとする気持ちは、私にもわかる気がした。私だって挑発されたら黙ってはいられない。

「あいつの推薦で騎士団に加わった俺は、瞬く間にその実力を示して頭角をあらわした。だがな、あいつだけは俺にとって超えられない壁だったんだ。初めてあいつと打ち合った時は、そりゃあもう、こてんぱんにやられたもんさ」

 にわかには信じられなかった。ヴィルの強さは父さまと同格だと思っていたから、驚きだった。

「俺の剣がどれだけ速く激しく振り下ろされても、あいつは一分の隙も見せず、逆に確実にカウンターを入れて来るんだ。水面を滑るような変幻自在さで、まるでつかみどころがない。俺の攻撃は簡単にかわされて、受け流されてしまう。どれだけ必死に技を繰り出しても、あいつの動きはまるで踊るようで、俺は完全に手玉に取られていた。俺は自分の未熟さを思い知ったよ」

 彼が語る父さまの戦いぶりが、私の記憶を呼び起こし、その動きが手に取るようにわかった。

「けどな、それが逆に俺の闘志を燃やしたんだ。それから毎日、諦めずに打ち合いを繰り返した。不思議なものでな、俺はだんだんとあいつに対して強い信頼と友情を抱くようになっていったんだ。あれほど憎たらしくて、倒したい相手だったというのにな。もちろん、いつだって勝ちたいとは思っていたさ。だがな、それ以上にあいつと剣を交える毎日がとても楽しかったんだ。そうして、気づけば俺はあいつと対等に渡り合える力を手に入れていた。嬉しかったな……」

 過去に思いを馳せるヴィルを見ていて、私は心が温かくなった。

 言葉でなく剣で語る友情って、なんだか素敵だなと思った。父さまもきっと、彼に特別なものを感じて、騎士団に誘ったのだろう。その直感は間違いなかった。

「そして、俺は奴の副官として、数多の戦場を共に駆け抜けた。あいつのおかげで俺は強くなったし、ずいぶんと成長できたと思う。辛いことも多かったが、そのすべてが貴重な経験だった。あいつとの日々は、俺にとってかけがえのないものだ。あいつとの出会いが俺の人生を大きく変えたと感じている。あいつはただの上官ではなく、師匠であり、信頼できる仲間であり、唯一無二の友だったんだ」

 私は少し涙がこぼれそうになった。ヴィルが語る父さまは、私が知っていた以上に大きな存在だった。私は父さまの娘でよかったと心から思った。

 でも、そこからヴィルが語りは始めた話に、私は衝撃を受けた。

「そんなあいつが、なんであんなことに……」

 それまで饒舌だったヴィルが急に黙り込み、苦悩の表情を浮かべていた。私は急な話の転換に動揺し、不安を感じた。

「なにがあったの?」

 私が尋ねると、ヴィルを視線を逸らした。私は父さまの身に降り掛かった事を知りたかった。でも心の反対側では
怖れていた。

「知りたいか?」

 私はこくりと頷いた。

「言っていいものどうか悩んだんだが、娘のお前には知る権利がある。話そう……」

 そして、ヴィルは手にした酒器に目を落としつつ、話を続けた。

「二十年ほど前、リーディスの西方の国境一帯で魔獣が大発生したんだ。後になって『西部戦線』と呼ばれるようになる戦いの始まりだ。ユベルは王家直下の銀翼騎士団の右翼リーダーとして赴いた。俺も副官として付き従った。だか、そこは地獄だった……」

「地獄……」

「ああ、とんでもない数の魔獣が、津波のように押し寄せてきたんだ。それもいつ果てるともなくな……」

 私はその光景を想像して、身震いがした。私が今まで相手してきた魔獣の群れとは、とても比べ物にならない。

「近隣の村々と人々は次々と魔獣に蹂躙されていった。俺とユベルは必死に戦った。三日三晩、休息無しで戦い続けたこともあった。その甲斐もあって戦線はなんとか維持できたが、絶え間なく続く戦いと伸びた補給線のせいで兵站が滞ってしまってな、兵士たちは食うにも困る有り様だった」

 彼が語るその惨状を聞きながら、私の胸は締め付けられるような痛みを覚えた。地獄のような戦場で、彼が何を見、何を感じたのか想像するだけで苦しくなった。

「ユベルは何度も上に掛け合ったが、物資の補給は思うに任せなかった。みんなが苦しむ姿に、あいつは怒りと焦燥を抱えていた」

 ヴィルの言葉に、私は息を呑んだ。

「ミツル、食うに困った兵士がどうなると思う?」

 私にははっきりとした答えが思い浮かばない。きっと戦うどころではないはずだ。

「兵士たちの中には、略奪に走る者も少なくなかったんだ。人間極限に追い込まれると、生きるためには何でもやってしまう。それが戦場の狂気みたいなものだ」

 ヴィルの目は、過去の辛い出来事を思い返して辛そうだった。

「ユベルはその惨状に耐えられず、戦線を俺に任せて少ない手勢を連れて、規律を犯した連中を片っ端からしょっぴいていった。そして、逃げ惑う人々には身銭を切って保障して、退路を確保したんだ」

 父さまがどれほどの犠牲を払い、どれだけの困難を乗り越えて人々を守ろうとしたのか。父さまは単なる騎士ではなく、国を守り人々を守る真の英雄だ。

「俺はユベルの行為に感動を覚えたよ……」

 ヴィルの声には深い尊敬が込められていた。

「あいつこそが本当の騎士だと思った。しかし、その行動が将兵たちの反感を買った。『何を出過ぎた真似を』、『戦線を放り出すとは何事か』とな。それに、ユベルの活躍と出世を妬む連中にとっては、格好の機会だった。あいつは命令違反と戦線放棄の咎で左遷されて、本国送りにされた」

 私は動揺を隠せなかった。

「そんな理由で? なんてひどい。だって父さまは正しいことをしたんでしょ? なのに左遷だなんて……」

 私の声は怒りと悲しみで震えていた。

「その通りだ。こんな理不尽がまかり通るなんて、騎士団なんてくそだと思ったよ」

 ヴィルは怒りを込めて冷徹に言った。

「だが俺は、ユベルが最後に託してくれた言葉を心に刻んでいた。『どんなことがあっても国を、民を守ってくれ』ってな」

 ヴィルの言葉は私の心に深く響いた。父さまの決意と覚悟。そして友情。

「そして、ようやく魔獣の発生は収束し、戦いは終わりを迎えた。俺は本国に帰り、ユベルに報告したかった。『俺は約束通りやリ遂げたぞ』、とな」

 ヴィルは素晴らしい人だと私は思った。ところが、そこで彼の表情が険しくなった。

「だがな、本国に戻った俺を待っていたのは、信じられない話だった……」

 ヴィルの表情が一気に険しくなった。

「なにがあったの?」

 彼は少し躊躇った後に答えた。

「ユベルが王家の第三王女をさらって、行方をくらましたっていうんだ……」

 その言葉が耳に届いた瞬間、私の胸の奥に冷たい刃が突き立てられたような衝撃が走った。何もかもが一瞬で崩れ去り、足元から地面が消え去ったような感覚に襲われた。

 そして、気がつけば、私は叫び声を上げていた。

「嘘だっ!」

 その声は、自分自身への必死な拒絶の叫びだった。

 まるで暗闇の中に引きずり込まれていくような、そんな怖ろしさに必死に抗おうとする私の精一杯の抵抗だった。

 ヴィルの視線が一瞬揺らぎ、そしてその口元が微かに歪んだ。彼は言葉を選びながら、慎重に続けた。

「俺だって信じられなかったさ。でも、否定したくても、その噂はとっくに世間に広まりっていて、どうにもならなかった。話を聞かされた時には、あいつには多額の懸賞金がかけられいて、お尋ね者になっていたんだ」

 その言葉が私の心に突き刺さるたび、冷たい衝撃が波のように押し寄せてきた。手のひらが震え、息が詰まる。胸の中に抑えきれない感情が渦巻き、爆発寸前のような感覚に襲われた。

「父さまがそんなことするはずがないっ!!」

 私は感情を抑えきれず、テーブルを力任せに叩いた。声が酒場の喧騒の中で響き渡り、その音が酒場の静けさを破り、叩きつけられた拳のやるせない痛みが、私の混乱を余計に引き立てた。

 ヴィルの冷静な視線が私の感情を静かに受け止めていた。

「当たり前だ。ユベルの行動には必ず何かの理由があると信じていた。だから俺は事の真相を確かめるために、騎士団を辞めて旅に出たんだ」

 その言葉に、私の心は少しだけ救われた気がした。

 ヴィルが父さまを信じてくれていたこと――その事実が私の心に温かな安堵をもたらした。たとえすべてが敵に回ったとしても、彼は揺るがない確かな友情を持っていてくれていたのだ。

「だが、どんなに探し回っても、あいつの行方は杳として知れなかった……。それでも俺は諦められなかった。だから、今まで各地を彷徨って、ずっとあいつを探し続けてきたんだ」

「そ、そんなに……? あなたは父さまのためにそこまでしてくれたの?」

 涙がこぼれそうになった。二十年近く、父さまの無実を信じ続けてくれたヴィルに対して、感謝の気持ちが溢れて止まらなかった。

 ヴィルは静かに頷きながら、穏やかに言った。

「当然だろう。あいつは俺の友であり、尊敬する騎士なんだ。あいつの名誉を守るためなら、俺はどんな苦労だって厭わない」

 彼の決意は本物だった。彼の言葉に、心の中でふわりと安堵の感情が広がった。

 しかし、私の心にはある強い決意が根を張っていた。

「私、決めたわ。リーディスに行く」

 その言葉を口にした瞬間、ヴィルの驚きに満ちた反応を目の当たりにした。

「何だと? お前、気は確かか?」

 彼の口元が少し開き、言葉を失ったように見えた。私はその反応に一瞬驚き、言葉を続ける前に少しだけ息を呑んだ。

「……ええ、私は父さまの無実を証明する。このまま黙ってなどいられない」

 私の声は決然と響いたが、内心では彼の反応に対する少しの不安も抱えていた。ヴィルの表情は更に深く困惑し、彼の口がわずかに動いた。

「待て」

 ヴィルの声が低く、かつ強い調子で発せられた。

「どうして? こんなの絶対に許せない。ひどすぎるじゃない」

 私の心は怒りと不安でいっぱいになり、その感情をどこかにぶつけなければどうしようもなかった。

「いいから落ち着け。行ったところで何になる。町の真ん中でユベルは無実だと叫ぶつもりか?」

 ヴィルの声には私の焦りを見透かす鋭さがあった。それでも私の心は収まらない。

「だったら、城だろうが王宮だろうが乗り込んで、直接王様にぶちまけてやる!」

 私は自分の怒りを隠すことができず、声を荒げていた。

「お前は馬鹿か? 王宮に殴り込んでどうなるっていうんだ? 何の証拠も無いままで、それで信じてもらえるとでも思うのか? いいから、落ち着いてよく話を聞け」

 彼は深呼吸をしながら、私の目をじっと見つめ、確かな重みを持って私の言葉に反論した。冷静になれという強いサインだった。彼は手を軽く組みながら話を続けた。

「話は変わるが、お前の母親について知りたい」

 ヴィルの言葉に、私は思わず身体を硬くした。彼の声がどこか冷静で、でもその冷静さが逆に私の不安を引き出すようで、心の奥にひっそりと潜んでいた恐れが目を覚ました。

「どうして? あなた、何が言いたいの?」

 私は必死に自分を保とうとしたが、声は震えていた。ヴィルの問いかけが、私の心の深い部分にある何かを掘り起こそうとしているようで、身の置き所がなくなった気がした。

「お前のお袋の名前が知りたいんだ」

 彼の静かな言葉は、私の内に秘めた不安を静かに揺さぶり、その影を私の心に広げていった。

「それに何か意味があるっていうの?」

 問い返す私の声は、心の奥深くから湧き上がる恐れを隠すための必死な努力のようだった。ヴィルの冷静な視線が、私の内に潜む事実に一歩ずつ迫ってくるようで、その鋭さが私をさらに追い詰めていく。

「俺はな、お前がユベルとその王女の子供なんじゃないかと考えているんだ」

 その瞬間、私の心は文字通り凍りついた。ヴィルの言葉がまるで鋭い刃物のように私の心に突き刺さり、混乱と恐怖が一気に押し寄せてきた。心臓は激しく鼓動を打ち、息が詰まりそうになり、身体が震えるのを止められなかった。

 ヴィルは私の反応に動じることなく続けた。

「俺は王女と面識があるわけじゃない。聞きかじった容姿の特徴しか知らないが、お前の母親の髪の色は?」

 私は自分の髪に触れた。漆黒の髪は、乾燥と砂埃で荒れていて、あまりいい感じはしない。

「私と同じよ……」

 私はヴィルの真剣な眼差しに押されるように答えた。心の奥で怖れがぐるぐると回り、冷たい汗が背中を流れるのを感じた。

「瞳の色は?」

 その質問が私を突き動かし、心の奥底に沈んでいた秘密が表面に浮かび上がる。瞳の色を思い浮かべると、そこには淡い緑色がかった透き通るような泉のような瞳が映る。

「私と同じ……」

 言葉が喉の奥で震えながらも、私はそう答えた。

 ヴィルの真剣な視線が、私の心を深く見透かすようで、私はその圧力に耐えながらも、内心の混乱に飲み込まれそうになっていた。

「そうか……。俺が知っている特徴と一致する。何より、この大陸で黒髪はとても珍しい髪色だ」

 彼の言葉が私の心に重くのしかかり、まるで心臓が締め付けられるような感覚が広がった。視界がぼやけ、胸の鼓動が不安と恐怖で激しく脈打つのを感じた。

「それじゃ、私は……?」

 私は声を震わせ、心が崩れそうになりながら問いかけた。感情の波が私を押し流し、思考が混乱する中で、これからの自分に待ち受ける真実に対する恐怖が胸を締め付けていた。

「その可能性が高い。母親の名前はなんという?」

 いやだ。そんなこと知りたくもない。

「……言えない。だって母さまは決して口にするなって……」

 私は心の中の秘密が暴かれる恐怖に打ちひしがれていた。怖くて震えていた。

 ヴィルの言葉が、さらに深い問いを突きつけてきた。

「メイレア……という名前ではないのか?」

 その名が呼ばれた瞬間、私の心臓は一瞬止まり、息もできなくなった。突然、全ての音が消え、周囲が遠くに感じられた。顔を横に振りながら、心の中で「嘘だ嘘だ」と呟き続けるしかなかった。真実が私の世界を破壊するかのように、静かに迫ってきた。

 ヴィルは「ふう」と息を吐いて続けた。

「やはりそうか……。彼女のフルネームは、メイレア・レナ・ディウム・フェルトゥーナ・オベルワルトという。リーディス王家の正統な血筋を引く、正真正銘の王族だ」

「母さまが、リーディスのお姫様……?」

 その言葉が私の心を打ちひしがれさせ、信じられない現実が次々と明らかになっていく感覚に、心は今にも崩れ去りそうだった。

 ヴィルは静かに頷きながら、その表情に揺るぎない真剣さを浮かべていた。

「そういうことになる。お前はリーディス王家の血筋を継ぐ者だ」

 その言葉が、私の世界を根底から覆し、崩壊させるように感じた。どこか心の奥底で、これが夢であってほしいと願う一方で、知ってしまった真実の重さが私を現実へと引き戻していた。

「そんなことどうだっていい……。母さまが誘拐されたなんて、ありえない。だって、父さまと母さまは私から見てても、恥ずかしくなるくらいとても仲が良かったし、とてもそんなふうには見えなかった。ただ……」

「ただ?」

「私たちは誰も寄り付かないような森の奥でひっそり暮らしていて、父さまは人前に出る時には偽名を使っていて、母さまは決して森から離れようとしなかった。私にはそれがとても不思議だった」

 震える声が、自分の内なる不安と混乱を反映していた。言葉が空気を震わせながらも、心の奥深くに刻まれた記憶をたどるように、一つ一つの過去の断片が浮かび上がる。現実と向き合うために、必死に記憶の扉を開けようとしていた。

「なるほど……。二人の間に何があったのか、それは俺にも分からん。だが俺はあいつを信じている。名前を偽り、身を隠して暮らしていたのには、きっと何か深い理由があったに違いない」

 私に思い当たることは一つしかなかった。

「それって、もしかしてこの剣だったりするのかしら……?」

 私は慎重に、そしてゆっくりとマウザーグレイルに手を伸ばし、その冷たい感触を確かめた。剣の表面に触れると、その冷たさがまるで心の奥深くまで染み込むように感じられた。

 すると、その冷たさが彼女に伝わり、彼女の声が静かに響いてきた。



 その声が私の心に重くのしかかり、言葉が喉に詰まったまま、ただ黙って頷くしかできなかった。

 茉凜の言葉に、私はその深い悔恨と無力感を感じ取りながら、自分の無力さに打ちひしがれるような感覚を覚えた。真実を解き明かすために、茉凜に無理をさせるなんてことは絶対に嫌だった。

 しかし、心の奥では、新たな不安と葛藤が静かに広がっていた。

 「どうすればいいの……」と、心の中で呟く。未来の行く先が見えず、何を選び、どこに進むべきか、まだ全く見当がつかなかった。私の目の前には、あまりにも多くの謎と困難が横たわっているように感じられた。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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