第57話 舞が持つ意味

文字数 7,354文字

 静寂の中で舞い終えた私は、目を閉じ、心の奥で揺れる感情の余韻にそっと寄り添っていた。

 弓鶴の身体で舞を再現できたことには、確かな達成感と喜びを感じていた。しかし、その一方で、過去の記憶やかつての自分に向き合う時間が、胸の奥に優しくも痛ましい響きを残した。

 喜びと悲しみが交じり合う複雑な感情が、静かに私を包み込んでいた。まるで、心の中に暖かく冷たい波が押し寄せ、私をどこかへ連れ去ろうとしているかのようだった。

 幼い頃、母が舞う姿は私にとって憧れそのものだった。その優雅さはまるで夢のようで、私はその舞に心を奪われ、舞が私の中で美の極致だと信じて疑わなかった。けれど、舞に漂うどこか寂しげな雰囲気や、その舞が持つ本当の意味までは理解できなかった。私はただ、母の教えに従い、言われるがままにその舞を受け継いでいた。母が「美しい」と語ったその言葉を深く考えることなく、ただひたすらに。

 あの温かい時間、母と共に過ごした日々は、今でも心に鮮やかに焼き付いている。そして私は、いつの日か母のように美しく舞うことを夢見ていた。しかし、その頃の私はまだ幼すぎたのだ。母が何を込めてその舞を踊っていたのか、その真の意味を知ったのは、母がこの世を去った後だった。

 私は深淵の始まりの回廊で巫女となり、母に教わった通り、そこで舞を奉納した。その静寂の中で踊ると、あの日、母から耳にした言葉が、この場所と深く繋がっていることを確信した。

 その声は、深淵の血族に流れる長い悲しみの歴史そのものだったのだ。望まぬ力を背負わされ、その力に縛られ、まるで檻の中に閉じ込められたかのように、自由に空を飛ぶことさえ許されない者たち。外の世界をただ眺めることしかできず、檻の中で生きるしかない運命を背負った人々。

 いつか外の世界を自由に飛び回りたい。広い世界を自由に生きてみたい。そんな願いが、この舞には込められているのだと、私は初めて知った。母がこの舞に込めた想いが、私の心の奥深くに響き、今も私を突き動かしている。

 それは、母から受け継いだ悲しみであり、そして希望だった。

 日々舞い続け、血族の悲劇の連鎖を理解するにつれて、私は両親の願いを叶えるだけでなく、解呪を渇望する自分がいることに気づいた。

 しかし、その結果が今の私だ。後悔と、背負った罪の重さだけが、今の私に残されている。私は贖罪のためだけに、まだ生かされている。私の命は仮初めのものであり、皆の願いを叶えること、呪いからの解放を求めること、そして弟を取り戻すことだけが、私の唯一の目的だ。生きる意味など、もう私にはないと、そう諦めていた。

 私はメイヴィスと同じ。たった一つの目的のために生かされ、たった一つの生き方しか許されない、そんな哀れな籠の中の少女なのだと。頬を伝う涙の感触が冷たく感じられ、胸の内には悲しみしか湧いてこなかった。

 そんな私に差し込んだ一条の光、それが茉凜なのだ。彼女は、籠の中の闇の底で蹲っていた私を、明るく照らし、温めてくれた。私はその光に惹かれ、そこから差し伸べられた手を取ったにすぎない。

 それから、色を失っていた私の世界と時間は、何もかもが鮮やかに色づき、輝き始めた。茉凜の手が、私を外の世界に連れ出してくれたのだ。

 それはメイヴィスにとってのウォルターと同じだった。だから私は、この役を受けようと決めた。彼女の光を追い求めることで、自分自身を解き放ち、茉凜がくれた希望を胸に、もう一度生きる理由を見つけるために。それが一時の夢であろうとも。

 この少女も彼によって外の世界を見て、全身で感じることで、失われていた「自分が生きている」という実感を取り戻し、自分が世界の一部であることを理解していく。

 そして、そのためにこそ、愛すべきこの世界とそこに生きる人々を守りたいと思うのは当然で、ウォルターにそこで生き続けてほしいと願うのだ。

 私はメイヴィスとしてのその想いを噛みしめながら、即興と称して舞を見せた。彼女の願い、彼女の痛み、そして彼女の希望。そのすべてが私の内に宿り、舞を通じて伝わるようにと心を込めた。

 そして、メイヴィスのように、私もまた、この舞を通して自分の生きる意味を見つけようとしているのだと、そんな思いが胸に広がっていくのを感じた。

 そして、私は最終局面の第五幕へと進むメイヴィスとして、その思いに寄り添っていった。

        ◇         ◇

 彼が生きているこの世界を守りたい。

 その願いが心の奥で静かに膨らんでいくたび、私は彼のためなら何だってできると信じていた。たとえそれが、自分の命を差し出すことだとしても。泉の精霊の井戸を解放し、魔族を退けることができれば、彼がこの世界でずっと生き続けられると信じているから。

 それに、こうなることは、最初から決まっていた。世界を救うために泉の生贄になることが私の存在意義で、仕方のない結末だと思っていた。そう、私は生きることなど、とうに諦めていたから。

 だけど……どうしてこんなにも胸が苦しくて、息が詰まるような気持ちになるのだろう?

 その苦しさは、決して単なる死の恐怖ではない。私の心の中で、彼と過ごした時間、彼と交わした言葉、彼の笑顔がひとつひとつ蘇り、そのたびに私の胸が締め付けられるのだ。

 彼を守るために命を捧げる決意を固めたその瞬間から、私は自分が何を失っているのかを深く理解してしまった。彼を守るためには、私自身がこの世界を去るしかない。そのことを受け入れる一方で、彼と共有したすべての瞬間が、私の中で愛おしく、切なく、まるで生きる意味そのものになっているからだ。

 それでも、これが私が彼のためにできる唯一のことで、私の心が痛み、涙が止まらないのは、私が生きることを諦めたわけではなく、ただ彼を守りたいと心から願っているからだ。

 それが永遠の別れになるとしても、私ができる全てを尽くす覚悟が私にはある。その覚悟が私の心を貫き、最後の一秒まで彼のために生きる理由を与えているのだ。

 心の中で「これから先もずっと一緒にいたい、彼と共に歩みたい」という抑えきれない気持ちが、日ごとに強くなっていく。それが恋だとわかっていても、私にはどうしようもなくて、ただ胸を締めつけるだけ。

 彼と一緒にいることで感じる幸せが、同時に私を深く苦しめる。彼と共有したい未来が、私にとってはもはや夢でしかないと知りながら、私はどうしても彼の存在を手放すことができない。私の胸は、彼のために尽くすことができる唯一の選択肢であると信じて、痛みと涙の中で揺れるばかりだ。

 どうして私は彼を随行者に選んでしまったのだろう。

 王様が「最優の騎士を選べ」と仰ったとき、あの場には確かにウォルターよりも強く、立派な騎士たちがいたに違いない。彼らは多くの戦果を上げ、称賛を受けているに違いなかった。それでも私は、左腕の自由を失った彼を選んでしまった。あの瞬間、伝達の泉で出会った彼にどうしても心を惹かれてしまったから。

 愚かな選択だと、誰かに言われるかもしれない。感情に流された無謀な決断だと。しかし、彼に対するこの気持ちは、単なる選択ではなく、私の心の奥で彼と深く結びついている何かがあると感じたから。彼の不完全さや過去の苦悩を知るほど、私の心は彼に引き寄せられていった。

 運命と呼ぶのは簡単だけれど、これは私自身が初めて心から選んだ決断だった。もしかすると、私は彼の中に自分とは違う、けれど似たような深い闇を感じていたのかもしれない。

 彼が「俺は戦うことしか知らなかったから、それ以外のことは考えたこともない」と語ったとき、その言葉が胸に痛いほど響いた。彼もまた、挫折し、暗闇の中に囚われていたのだと。その孤独や痛みが、私の中にある孤独と共鳴しているように感じた。彼の言葉、彼の過去、そして彼が抱える闇が、私の心の奥底にあるものと重なり合っているようだった。

 お互いに傷を舐め合うわけではないけれど、私たちの心の根底には、何か共通するものがあったのだと思う。彼と共有する瞬間や感情の中で、私たちの痛みが交わり、理解し合うように感じた。

 私が彼を選んだ理由は、単なる偶然ではなく、運命のように感じられた。それは、自分が選び取った道であり、彼と共に歩むことで何かを成し遂げたいという強い想いが心に根付いていたからだ。

 彼と共にいることで、私の心の中にある深い願いが、少しずつ形になっていくのを感じた。それは、彼と歩む未来に対する確信であり、彼を守りたいという強い願いが込められている。

 彼との時間が深まるたびに、この思いはさらに確かなものになり、私の胸を締めつける感情は、ただの恋ではなく、運命のように感じられた。どんな困難があろうと、彼と共にいることで感じるこの深い絆を、私は信じているのだ。

 そして、旅を共にするうちに、私たちは少しずつ変わっていった。私はまるで幼子のように、これまで抑えていた感情を解き放つようになり、ウォルターもまた、そんな私に振り回されながらも、いつの間にか笑顔が増え、まるで少年のように明るく話すようになった。

 気づいたときには、私は彼のことを好きになっていた。驚くことだった。誰かに恋をするなんて、生まれて初めてのことで、そんな普通の幸せが自分に訪れるなんて思っていなかったから。

 私は消えていく運命だと知っているのに、今さら恋だなんて、ばからしいはずなのに……それでもその気持ちは抑えられなくて、胸が張り裂けそうで、彼に何も言えなくなってしまう。

 もしこれがウォルターでなければ、ただの随行者であったなら、こんなことにはならなかった。旅に出る前に、真実を伝えられていたはず。だけど、彼だからこそ、私は言えなかったのだ。彼の目を見るたび、私の心が震えてしまうから。

 今はそれをとても後悔している。彼をただの随行者として扱えなかった私が、すべてを招いてしまった。彼の笑顔を知り、その優しさに触れるほど、自分の選択がどれほど愚かだったのかが痛感される。私のせいで、彼が傷つくかもしれないと思うと、心が締め付けられるようだ。

 もう、私にできることは何もない。何も言わずに泉に向かい、その力を解放して、静かに消えていく。それが私に与えられた最初からの運命で、私にしかできないことだから。

 せめて、彼がこれからの世界で幸せに過ごせるように。私がいなくても、その笑顔が輝き続けることを願いながら、自分の役目を果たすしかない。

 きっと、ウォルターは私の選択を憎むだろう。彼の中で私がただの過去の一部となり、私の存在が彼の心に影を落とすかもしれない。それでも、それでいいんだ。彼には、私のことなどすぐに忘れてほしい。彼が生き続けることができる世界を守れるなら、それでいいのだ。

 私はもう十分に生きた。彼のおかげで、ちゃんと生きることができたから。彼と過ごした日々が、私の人生に意味を与えてくれた。それは短い時間だったけれど、私の心の中に深く刻まれている。

 だから、せめてもの感謝として、この命を捧げよう。自分の役目を果たし、世界を救うために尽力することで、私の存在が少しでも役立つのなら、それが私の最期の願いだ。

「ああ、本当にこの旅は楽しかったな……」

 その言葉が、まるで風に乗って消えていくように感じられる。心の奥底から溢れ出るその感謝の気持ちは、ただの言葉ではなく、私のすべてを込めた最後の言葉だ。どんなに辛くても、どんなに切なくても、この瞬間だけは私の心が満たされている。

 これから先、私がいなくなった世界で、ウォルターが幸せでありますように。彼が笑顔で過ごし、彼の大切な人たちと共に歩んでいくことを、心から願いながら、私は静かにその時を迎えようと思う。

        ◇         ◇

 私を包んでいた静寂が、突然の拍手で破られた。驚いて目を開けて振り返ると、そこには涙を浮かべた高岸が立っていた。

 そして、その背後には、茉凜を始めとする皆が、私を見守っていた。彼らの姿は、まるで柔らかい光の中に溶け込んでいるようで、私の心に温かさと安心感をもたらしていた。

 どうやら私は、舞に没頭しすぎて、自分が今どこにいるのかさえわからなくなっていたようだった。胸の鼓動がようやく落ち着き始め、私はゆっくりと現実に戻されていく感覚を味わっていた。

 茉凜は驚きと喜びが入り混じったような顔をしながらも、優しく微笑んでいた。その笑顔は、私を現実へと優しく引き戻す力を持っていた。

 一方、洸人と明は複雑そうな表情を浮かべていた。彼らが何を思っているのか、私には察しがついていた。深淵の血族にとって、この舞は特別な意味を持つからだ。

 この舞は、力を選定する根源の欠片の召喚のためのものであり、そこから言霊を聴けるか否かで、その人のその後の人生が決まってしまう。私はその残酷な儀式に巫女として何度も立ち会い、舞を披露してきた。そのたびに、舞の持つ重さと、それが運命を決定づけるものだということを痛いほど知っていた。

 選ばれし者が得る力は計り知れないが、待ち受けるその代償もまた大きい。根源の欠片からの力の波動は、選ばれる者の魂を震わせ、その言霊が届かなかった者には、無情にも絶望が訪れる。

 私はこれまで何度も、選ばれなかった者たちの涙や嘆き、そして失われた希望を見てきた。巫女として舞うたびに、その悲しみが私の心に深く刻まれ、私の魂を少しずつ削り取っていったのだ。

 その涙の一滴一滴が、私の心に重くのしかかり、舞の後の静けさの中で深く浸透していった。失われた希望の残響が、私の胸の奥で永遠に響いている。舞うたびに、私の内なる痛みが増していくように感じるのは、その悲しみを私が受け入れ、共鳴させる役割を担っているからだと知っているからだ。

 それでも、私は舞い続けなければならなかった。それは柚羽の家を継ぐと決めた私にしかできない役割であり、私があの場所で生きるために与えられた使命だったから。

 そして、私はこの運命の呪縛から逃れることは許されなかった。運命が私に課したこの役割が、私をここに縛り付け、私が果たすべき使命を強要していた。私の意志や希望に関係なく、ただただこの運命に従い、舞い続けるしかなかった。

 すべては呪いを解くために——

 私の心にはまだその呪縛が残っている。その解放を願いながら、悲しみと使命に向き合い続けているのだ。

 だからこそ、茉凜や高岸たちが見せてくれた拍手と涙は、私にとって深い救いだった。彼らが私の正体や本当の気持ちを知っているわけではないにしても、私が表現した痛みや葛藤を真摯に受け止めてくれた。

 その瞬間、私の胸は静かに温かくなり、目に映る彼らの表情が、私の中の重荷を少しだけ軽くしてくれるような気がした。彼らの拍手と涙は、私がこれまで積み重ねてきた苦しみや孤独を共鳴させ、私の心に新たな光をもたらしてくれたのだ。

 深く息をつき、私は再び彼らに向かって微笑んだ。その笑顔は、私自身の内なる強さと、彼らが与えてくれた温かな支えへの感謝の気持ちを込めたものだった。

 この舞を披露する意味、それは単なる儀式の一環ではなく、私自身の存在を証明するためのものだった。舞いながら感じた痛みや葛藤が、私をただの巫女ではなく、一人の人間としての私を深く根付かせていた。

 茉凜たちがそこにいてくれることで、私はそのことを改めて実感することができた。彼らの存在が、私の心を支え、私自身が舞の中で感じる痛みと希望を共有してくれることで、私の存在が確かに意味を持っていると感じられたのだ。

 私は大きく息を吸い込み、心を落ち着けてから高岸に問いかけた。

「どうだった? 泉の巫女の感情とイメージを、俺なりに表現してみたんだが」

 その言葉には、わずかな不安と自分でも感じている後ろめたさが混じっていた。舞い終わった後の静けさが、私の心に少しの疑念を残していたからだ。

 しかし、高岸は興奮気味に答えた。

「これだよ、これ。ど真ん中ストライクって感じで素晴らしかった。君が感じたメイヴィスのイメージは、本当に彼女の心に寄り添っていて、その舞には深い悲しみと憂いが込められていた。それが痛いほど伝わってきたよ」

「本当に……?」

 私の言葉には、少しの驚きと安心感が混じっていた。

「うん、これで行こう。それにしても、君の引き出しは本当に底が知れないね。どうなってるの? 何かこう……」

 高岸の目が私をじっと見つめ、その視線が心の奥まで見透かされるような気がして、私はつい言い訳をしてしまった。

「これは……子供の頃から母がよく見せてくれた舞いを覚えていて、それを少し真似してみただけなんだ。大したことじゃない」

「そうだったんだ。君の古風な立ち居振る舞いには、そういう背景があったんだね。どうも普通の家庭で育ったって感じには、見えなかったから。なるほどねー」

 高岸の鋭い観察眼に、私は少し怖くなった。それでも、私は自分のこの劇の役に対する自信を少しずつ取り戻していった。

 こうして最大の問題が解消され、私たちは第五幕の仕上げに取り掛かることになった。

      ◇        ◇

 学園祭の日が次第に迫ってきた。時間がまるで砂時計の砂のように、ひと粒ひと粒が私にとって重く感じられ、その流れがあまりにも速く感じられた。毎日が貴重で、一瞬一瞬を大切にしなければならないと、心の奥で感じていた。

 舞台の幕が上がるまでの時間が、今や私の心の中で静かに、しかし確実に刻まれていく。私たちの舞台がどんな反応を引き出すのかは未知数だが、仲間たちと共に作り上げたこの作品に、私は全身全霊を込める覚悟ができていた。

 この舞台が成功するかどうかに関わらず、それは私自身の願いであり、決して叶うことのない夢のために、私のすべてを捧げるつもりだった。

 だからこそ、幕が上がるその瞬間まで、一瞬一瞬を全力で生きる覚悟を持ち続けた。私の心の奥で、舞台が終わった後の静けさと、達成感の中にある深い安堵感を想像しながら、その日を待ち続けた。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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