第56話 深淵の巫女の舞

文字数 7,593文字

 演劇『扉を開けて』の稽古は、学生たちの部活動の域を超え、まるで命をかけた舞台のような真剣さに満ちていた。キャストたちは、自分の役に全力を注ぎ、互いに切磋琢磨しながらも、深い情熱と責任感を持って挑んでいた。その姿は、まるで一つの大きな夢を共に追いかける仲間たちのようで、稽古場の空気には緊張感と熱気が渦巻いていた。

 だが、作品が形になるには演者だけの力では不十分だ。脚本家の紡ぎ出す言葉、演出家の緻密なビジョン、照明の微妙な調整、舞台装置のセッティング、そして裏方スタッフの尽力があって初めて、舞台は完成する。それぞれの役割が完璧に絡み合い、舞台上の景色を支えている。キャストたちが輝けるのは、裏方の細やかな準備と計算があってこそなのだ。

 音響スタッフの指示が飛び交い、照明が微細に変化するたび、舞台はまるで魔法にかかったかのように変貌する。光がキャストの表情や動きにドラマティックな陰影を与え、物語の緊張感や感情の高まりを一層引き立てる。キャストたちの目に宿る輝きは、観客の心を引き込んで離さない。

 一方で、脚本家の描く世界に対する演出家のビジョンは、演者たちに新たな挑戦をもたらす。彼女たちは役柄の感情をどれだけ深く掘り下げられるか、自身の内面と向き合い続けながら限界を模索した。特に物語のクライマックスに向けた稽古では、全員が一つの意志となり、極限まで自分たちを追い込んでいった。その姿には、強い絆と深い愛情、そして作品への誇りが溢れていた。

      ◇        ◇

 高岸の演出と演技指導は、まさに狂気じみた情熱と深い愛情に満ちており、その熱意が私たちを奮い立たせた。

 坂上部長の冷静なリーダーシップは、稽古の進行をスムーズにし、私たちに自信を持たせてくれた。彼の的確な判断と落ち着いた姿勢は、私たちに安心感を与え、緊張と不安を和らげてくれた。

 灯子の細やかなサポートも、私たちが演技に集中できる環境を整えてくれた。彼女の手際よい気配りと細かい配慮が、稽古の一つ一つをより良いものにしていった。

 しかし、茉凜はウォルター役を演じるにあたり、数々の困難に直面していた。特に、殺陣のシーンが彼女にとっては大きな挑戦だった。事故の後遺症で左腕にほとんど力が入らず、右手一本での演技を余儀なくされていたからだ。

 そんな茉凜に対し、舞台上で直接絡む明が手を差し伸べてくれた。

「もう、しょうがないわね。あんた、それでメイヴィスを守る騎士なんて務まると思う? まったく、世話が焼けるんだから」

 明の言葉の端々には彼女なりの心配や気遣いがにじみ出ていて、その厳しい言葉の中に、茉凜への期待と励ましが込められていた。

 明は茉凜に対し、片腕で戦うための実践的な指導を行った。そして、正面を向いて構えるのではなく、フェンシングのように半身の構えを取ることで、体を斜めにして相手に見せる面積を減らし、攻撃を受け流しやすくするようにアドバイスした。この方法により、茉凜は長身のリーチを活かしながら、見栄えの良い演技を実現することができるようになった。

 明の厳しさの中には、たとえ不器用でも確かな思いやりが込められていた。その指導が茉凜に力を与え、彼女は次第に自信を取り戻していった。二人の間には、最初は小さな衝突もあったが、次第に自然に協力し合う姿勢が育まれていった。その姿は、まるでお互いを理解し合う過程のようにも見えた。

 私はそんな二人のやり取りを、あえて口を出さずに静かに見守っていた。最初は不安そうだった茉凜も、回を重ねるごとに自分だけのスタイルを確立し始めた。

 演技面でも、茉凜は私と向き合いながら稽古を重ね、どんどん洗練されていった。彼女はまるでキャラクターの宿命に深く結びついているかのように、役柄に没入していった。過去の痛みを堪えながらも、その内に秘めた強さと「守りたい」という強い意志が、舞台上で見事に表現されていった。

 洸人が演じるヴィルギレスは、冷徹で知的な魔族の将軍そのもので、彼の冷たい眼差しはまるで相手の心の奥底を見透かすかのようだった。その冷酷さが舞台上で一層際立ち、洸人の演技は圧倒的な存在感を放っていた。

「貴様らの運命など、悠久の時を生きる我々の前では塵芥に過ぎぬ。その弱々しい命の灯火ごと、この手で捻じ切ってやろう」

 洸人の低く冷たい声が舞台に響くたび、空気が凍りつくような緊張感が広がり、その冷酷さを感じさせるセリフが深い影を落とす。表情には一切の感情が見えず、まるで機械のように感情を抑え込んだその姿は、ヴィルギレスというキャラクターを完璧に体現していた。

 洸人が放つその冷徹な雰囲気と深い知性が、ヴィルギレスをただの悪役に留まらせず、観客を引き込む魅力的なキャラクターとして立ち上がらせていた。彼の演技は、見る者を圧倒し、ヴィルギレスの恐怖と冷酷さを余すところなく伝えていた。

 そんな彼を見ながら、私は石御台公園での対峙を思い出していた。その時の彼の冷酷無比な姿が、ヴィルギレスに重なって見えたのだ。もっとも、その時の彼も「演じて」いたわけだが。

 対照的に、明が演じるサランは、内に秘めた感情そのものを叩きつけるような迫力を持っていた。そのエネルギーは、彼女の演技が単なる演技を超え、キャラクターの本質そのものを映し出しているように感じさせた。

「はははっ、燃え尽きろ、燃え尽きろ!! 煉獄の炎に包まれ、絶望の中で悶え苦しむがいい! 我が焦熱の剣で、貴様らの命を一片残らず焼き尽くしてやる!!」

 振り下ろす剣のたびに、空気が引き裂かれるような音が響き渡り、その迫力はまるで舞台の空間を切り裂いてしまうかのようだった。彼女の演技には無邪気な笑顔と残酷な意志が同居しており、その内なる焦熱と狂気が舞台上に渦巻いているかのようだった。

 明はサランの感情を全身で表現し、その演技によってサランというキャラクターの恐怖と狂気が真実味を帯びて感じられるほどだった。

 特にウォルターとサランが対峙するシーンでは、舞台上に強烈な緊張感が漂っていた。茉凜と明、二人が互いに激しくぶつかり合い、その迫力は見る者の息を呑ませるほどだった。

 サランの挑戦的な叫び声と激しい動きは炎のように猛烈で、ウォルターもそれに呼応するように闘志を燃やす。茉凜の強固な意志と明の燃え盛る情熱が鎬を削るドラマは、まるで二つの異なる力が激しくぶつかり合う壮絶な戦いのようだった。

 二人の化学反応と相乗効果は、おそらく彼女たち自身の思いをぶつけ合うことで自然に生まれていたのかもしれなかった。それぞれの演技が、互いに影響を与え合い、舞台上での存在感を一層引き立てていた。

 そして、私は完全にメイヴィスそのものになりきっていた。演技に入る瞬間、私の中で自然にスイッチが切り替わり、弓鶴としての顔は完全に消え去っていた。メイヴィスの感情や思いが、私の中に自然と宿り、私自身が彼女の存在そのものとなっていった。

 その瞬間、私は本来の自分をメイヴィスに重ね合わせることで、彼女の想いを自分のものとして感じていた。メイヴィスが抱く喜びや葛藤や、彼女の内なる痛みや希望が、私の感情と一体化し、演技を通して伝えるべきメッセージとなっていった。私の中でメイヴィスが生き、彼女の全てが私の一部となった。

 メイヴィスとして舞台に立つ瞬間、私の心は彼女の葛藤と運命の重さを全身で受け止めていた。彼女の心の奥底に秘められた苦悩と恋心、その二つの感情が交錯する中で、私はまるで彼女の一部となり、彼女の痛みと喜びを自らのものとして体感していた。

 メイヴィスの瞳を通して見える世界、彼女が抱える深い悩みや希望、そして彼女の決意が私の中に色濃く染み渡っていた。彼女の心の奥底から湧き上がる感情が、私の体験と融合し、舞台上での表現に深みを与えていた。

 稽古が進むにつれて、メイヴィスの感情は私の中でさらに深まり、その複雑さと繊細さが一層際立っていった。私は単なる役者ではなく、メイヴィスという一人の少女の心と身体を共有する存在となり、彼女の内なる世界をリアルに感じ取ることで、役柄の本質に迫っていた。

 そのような状態で演技に挑むことは、私自身の心を裸にするような感覚があった。泉の巫女メイヴィスの内面を掘り下げることは、深淵の巫女であった自分自身と向き合うことでもあり、彼女の苦悩や喜びを通じて、自らの存在意義や本当の自分を見つめ直すことでもあった。私の中で彼女の声が響くと同時に、自分自身の内なる声も明確に聞こえてきた。

 それはまるで心の深淵に潜む自分と対峙する辛い旅路のようでもあった。しかし、その旅路の終わりには必ず『その瞬間』が待っていると信じていた。

        ◇         ◇

 高岸が私たちを起用しようと考えた理由について、ずっと気になっていた。彼女が私たちのどこを見て判断したのか、その真意が掴めなかったからだ。

 私たちの出自や背景について知っているとは思えなかったし、彼女が本当に私たちの内面に触れられる力を持っているのか、考えれば考えるほど疑問が膨らんでいった。

 好奇心に駆られて、ある日彼女にその理由を尋ねてみた。高岸は少し照れたように笑いながら、こう答えた。

 「直感的なもので、ただの感覚的なものに過ぎないかもしれないけど」と前置きしながら、彼女は続けた。

「君たちが持つ独特な雰囲気や、内面から溢れ出てくるようなものが、他の同年代の生徒たちとは、どこか違う。そんな感じがしたんだ」

 その言葉は曖昧で具体性に欠けていたが、高岸の瞳には確固たる信念が宿っていた。そして彼女はさらに続けた。

「私たちは誰もが、生きるために仮面をつけている。役割を演じながらも、その内側には色々な思いを抱えている。でも私は、その奥にある感情や願いを見るのが好きなんだ。それがどす黒い情念であれば、なおさら興味をそそられる」

 その瞬間、私の心に驚きと戸惑いが広がった。

 普段、少し強引すぎるようにも見える高岸のこの時の表情は、普段の姿とはまったく異なる深い思索に満ちていた。その言葉の奥に潜む彼女の感受性と洞察力が、私たちを特別な存在として見ていたことが明らかになり、私の中で一つの確信が生まれた。高岸が私たちを選んだのは、単なる直感以上のものがあったからなのだと。

「じゃあ、男の俺をヒロインに選んだのはどうしてだ?」と、私はさらに問いかけた。

 高岸は少し考え込みながらも、優しく微笑んで言った。

「最初はもちろん見た目からだったのは否定しない。でも観察していると、君だけは何かこう、他の誰よりも格段に普通じゃないって思ったんだよね。それと稽古を始めてからわかったんだけど、揺らぎというか、多面性や複雑さが感じられて、その正体が何なのか私にもさっぱり分からない。底が知れないっていうかね」

 「おいおい。俺は何か、化け物か?」と、私は冗談めかして言ったが、心の奥には少しだけ不安が芽生えていた。

 高岸は、その冗談に対しても、また微笑みながら答えた。

「いや、化け物なんてとんでもない。君が持っているのは、まるで海の底に眠る宝石みたい輝きかな。見た目だけでなく、それとその内面に隠された深さや複雑さが、私にとって非常に興味深いんだ。演技の中でそれがどう表現されるのか、楽しみにしているよ」

 私は高岸の言葉に唖然とした。輝きなどとうに消え失せたと思っていたし、悲しみの涙だけが私の全てだと思い込んでいたからだ。驚きが私を包み込んでいた。

 彼女はただの表面的な演技を求めているわけではなく、私たちの内面に潜む本質、感情、そのすべてを舞台に引き出そうとしていたのだ。彼女が求めていたのは、私たちが自分自身と向き合い、心の奥に隠された複雑さや深さをさらけ出すことだった。

 「男性であろうと女性であろうと関係ないんだよ」と言われた時、戸惑いを覚えたが、同時にその言葉には少し救われた気がした。性別や既成概念に縛られない演技、それ自体が新たな挑戦であり、自分の中に秘められた可能性を探る機会でもあった。

 高岸の信頼が、私たち全員の中に少しずつ自信を芽生えさせていった。私もその一員として、彼女の期待に応えたいという気持ちが膨らんでいく。

 私たちが舞台でどのように自分を表現し、観客に何を届けるのか。その瞬間が訪れるのを待ちわびると同時に、自分の奥底に潜むものを曝け出すことへの恐れが、心の片隅に残っていた。それでも、今はその恐怖さえも、演技を通じて新たな自分を見つけるための旅路の一部であると感じていた。

        ◇         ◇ 

 だが、まだ一つ大きな問題が残っていた。高岸はその一点で、長い間頭を悩ませ続けていた。

「うーん……。どうしてもイメージ通りにいかないなぁ。こればかりは、私一人ではどう表現すればいいのか分からない」

 彼女が思い詰めていたのは、第一幕と第五幕でメイヴィスが見せる【舞】のシーンだった。

 それは、メイヴィスが精霊の井戸と呼ばれる泉と繋がる儀式の場面であり、観客の心を一瞬にして引き込む、物語の核心を成す重要なシーンだった。

 この場面で要求されるのは、静寂の中に潜む神秘性、そして荘厳さの中に宿命と悲しみが滲み出る、非常に高度な振り付けだった。その舞は、ただの演技ではなく、メイヴィスが抱える運命そのものを具現化しなければならなかった。

 そのため、振り付けの進行は難航していた。高岸がこの舞に込める思いは並々ならぬもので、どうしても成功させたいという強い決意が彼女の表情にも表れていた。どんなに時間がかかろうと、妥協は許されなかった。

 彼女はダンス部や日舞の経験者にも相談を持ちかけたが、幻想的な世界観やファンタジーの要素を含む舞は、現実的な舞踏のイメージとはかけ離れていた。伝統的な動きや技術は素晴らしいが、それではメイヴィスが感じる神秘や宿命、儀式の荘厳さを表現するには不十分だった。

 問題は、技術ではなかった。彼女が求めていたのは、舞の背後にある「情感」や「雰囲気」をどう具現化するか、観客に見せるだけでなく、感じさせることだった。メイヴィスの心に秘められた悲しみや、彼女を取り巻く運命を表現するには、ただの動きではなく、内面から滲み出る何かが必要だったのだ。

 高岸の言葉に耳を傾けながら、私は彼女が抱える苦悩の重さを痛感した。彼女にとってメイヴィスの舞は、ただの演技の一部ではなく、物語の核心を象徴する重要な表現であり、メイヴィスの内面そのものだった。もしこの舞が失敗すれば、メイヴィスの悲しみや宿命が観客に伝わらず、物語そのものが色褪せてしまうという強い恐れが彼女にはあった。

 「これをうまく表現できなければ、メイヴィスの物語が全て台無しになる…」と、彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。その声には焦りと苛立ちが混ざり、舞にかける彼女の想いの深さが伝わってきた。

 私はその姿を見て、心の中で決意を固めた。このままでは、彼女の理想を実現することはできない。だけど、もしかしたら私にできることがあるかもしれない。メイヴィスの宿命や悲しみを表現するには、私自身の内面をさらけ出すしかない――それが唯一の道だと感じた。

 その瞬間、私の胸に浮かんだのは、長年自分の中に秘めてきた感情や思いだった。それを舞に込めることができれば、高岸の求める「深み」や「複雑さ」を表現できるかもしれない。しかし、それは同時に、私自身の心の傷をさらけ出すリスクを伴っていた。

 私は深く息を吸い込み、心を決めた。高岸に向かって歩み寄り、静かに、しかし確固たる声で言った。

「高岸さん、俺にできることがあるかもしれない」

 高岸は私の言葉に驚き、目を見開いた。

「君に? 何かアイデアがあるの?」

「実は、舞のシーンで伝えてみたい感情があって、俺が持っているイメージが、もしかしたら必要な要素を引き出すヒントになるかもしれない」

 高岸は少し考え込み、目に希望の光を宿して私を見つめた。

「君がそこまで言うなら、一度試してみる価値はあるかもしれないね。で、具体的には?」

 私はしばらく考えた後、決心して答えた。

「一度即興で舞ってみよう。それを見てから判断してくれ」

 高岸の視線を感じながら、私は稽古場の中央に歩み出た。これから舞うのは、私が心の奥底で大切にしてきたものだった。

 それは柚羽家に代々伝わる神聖な舞――深淵の始まりの回廊で、根源と対話する過程で奉納される舞で、私は母からそれを継承していた。

 この舞をここで再現することは、自分の最も深い部分をさらけ出すことでもあった。人前でそれを披露するのは初めてだが、この舞の持つ神秘的で重厚な感情が、メイヴィスの悲しみや宿命を表現する助けになると信じていた。

 私は大きく息を吸い込み、心を鎮めた。そして、母の言葉を思い出す。

「よく覚えておいて。この舞は、私たち深淵の血族の思いや願いを、根源の欠片に届けるためのものなのよ。いつも眠ってばかりいる“彼女”を目覚めさせるためのね」

 その言葉を胸に、私は静かに立ち上がり、ゆっくりと息を吐いた。

 心の中にある感情を整理し、静けさと集中を保ちながら、手を優雅に広げる。その動きは、まるで水面に浮かぶ波紋のように繊細で、体全体が感情の流れに合わせて揺れる。

 舞の始まりとともに、私の身体が自然に、流れるように動き出す。

 私の感情は、静かな水面に映る月光のように穏やかでありながらも深く、悲しみや苦しみ、喜びや希望が、まるで泉の水が静かに流れるようにして、舞踏に反映されていった。

 舞は、まるで古の精霊たちが私を導くかのように流れ、私の身体と心が一体となって、深淵の歴史を語り継いでいた。

 その動きの中には、過去の記憶が交錯し、愛する人々との時間が心の中で鮮やかに息を吹き返す。母の温かい微笑みが、私の動きの一つ一つに宿り、家族との暖かなひとときが舞いのリズムとなって私の足取りを支えていた。

 舞踏の中で私は、心の奥深くに潜む悲しみと喜びを見つめ、それを空間に解き放っていった。その感情は、まるで水面に落ちた滴が広がるように、私の動きの中で織りなされ、観る者の心に静かな波紋を広げる。

 私の手が描く優雅な弧は、目に見えない風を優しく操るようで、私の足が床に触れるその音すら、心の奥深くの感情と響き合っているかのようだった。

 舞踏の終わりには、私は一瞬の静寂に包まれ、自身の内なる葛藤と対話していた。

 その瞬間、私はただの人間ではなく、精霊と共に踊る一体となった存在として、深淵の物語を語り続けるために、全身でその感情と向き合いながら、ひとときの魔法に浸っていた。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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