第1話 魔獣狩りの黒髪のグロンダイル

文字数 8,578文字

 夕暮れの道を進む四人のパーティーは、カイルを先頭に疲労と安堵が交錯する中でエレダンの街を目指していた。

 沈みかけた太陽が地平線を赤く染め、温かい橙色の光が彼らを優しく包んでいた。

「今日はみんなよくやったな。帰ったら、俺がうまい飯を奢るから楽しみにしておけよ」

 陽気に声を掛けるカイルは、仲間たちの顔を一人ひとり確認しながら歩を進めた。彼の背に負われた大剣は、今日の激しい戦いを物語るように、刃に幾筋もの傷を残していた。

「馬鹿言ってんじゃないわよ。うまい飯ったって、こんな辺境で期待できるわけないじゃない。そんなことより、わたしは早く湯浴みしたいわ。もう、ほこりまみれで気が滅入るっての……」

 エリスは肩越しに矢筒を確認し、残った矢の数を見てため息をついた。戦いの激しさが矢の数からも伺えた。

 フィルは手にした魔石を夕日にかざし、その輝きをじっと見つめていた。

「うーん、今回の収穫はまあまあだね。これでしばらくは安泰だ」

 彼の声に安堵の色が混じり、ホッとしたような笑みが浮かんだ。

 その後方を歩くレルゲンは、憔悴しきった表情を浮かべながら呟いた。

「儂はもう限界じゃ。早く街に戻って、ゆっくり休みたい。ああ、それから酒だ、酒を飲ませてくれ……」

 それぞれが疲労とともに街への帰還を急いでいたが、その胸には、無事に帰れるという安心感と、仲間との時間を待ち望む気持ちが宿っていた。

       ◇          ◇

 北方の辺境都市【エレダン】は、冷たい風が絶えず吹き荒れる不毛の地に佇んでいた。灰色の空は低く垂れこめ、日差しが届くことは稀で、街は常に薄暗く、陰鬱な雰囲気が漂っていた。周囲に広がる風景は、荒れ果てた岩だらけの大地と、ところどころに点在する枯れ木が、寒々しい印象をさらに強めている。

 しかし、この地を真に恐ろしいものにしているのは、【魔獣】と呼ばれる正体不明の脅威だった。

 魔獣。それはどこから現れ、どのようにして数を増やすのかすら解明されていない謎の存在である。黒紫色の体表を持ち、様々な生物を模倣したような異形の姿をしており、見境なく生物を襲うその凶暴さは、周囲に恐怖をもたらしていた。彼らはエレダンの周辺を徘徊し、冷酷な瞳で獲物を探し続ける。

 そんな危険極まりない土地でありながら、エレダンには絶えず人々が訪れていた。その理由は、魔獣からしか得られない貴重な【魔石】の存在にあった。魔石は、闇夜に煌めく美しい光を放ち、その力は魔術や魔道具の源として不可欠なものであった。

 エレダンはこの魔石の一大産地として知られ、多くの冒険者やハンターが集まる場所となっていた。彼らは一攫千金を狙い、命を懸けて剣を取り、堅固な防具を身に纏い、パーティーを組んで魔獣狩りに挑んでいた。

 カイルたちのパーティーもまた、その中の一つであった。彼らは今日の狩りを終え、疲れを感じながらも街への帰路についていた。仲間たちと共に過ごす静かな夕刻、それぞれの思いを胸に秘めながら、歩みを進めていた。

       ◇          ◇
 
 その時だった。突然、地面が低く震えるような音を立てた。音の源を確かめようと、カイルは反射的に後ろを振り返った。

「何だ……?」

 カイルの呟きと共に、彼の視線の先に映ったのは、遠くの地平線に黒い波のような動きだった。それは一瞬で広がり、まるで闇そのものが意思を持っているかのように、不気味にうねりながらこちらに迫ってくる。その異様な光景に、カイルの胸には不安が走った。これはただの風ではない――何か恐ろしいものが迫ってきている。

 その正体は、一目で分かった。黒い波のような魔獣たちが、彼らに向かって押し寄せてきていたのだ。数はあまりにも多く、地響きと咆哮が遠くからでもはっきりと響き渡り、その重圧が空気を押しつぶしていた。

「魔獣? どうしてこんなに……?」

 エリスの声は、震えながら呟かれ、恐怖に満ちていた。心臓が一瞬で凍りつき、血の気が引いていくのを感じた。カイルは必死に歯を食いしばり、仲間たちの顔を見回すと、皆が恐怖で固まっているのが分かった。

 すぐにカイルは気を取り直し、切羽詰まった声で指示を出した。

「考えている暇はない!とにかく、逃げろ!」

 その声が響くと、仲間たちは一斉に走り出した。

 背後では、魔獣たちの黒い波が一瞬で距離を詰めてきて、大地が震え、耳をつんざくような咆哮が迫ってくる。魔獣たちの猛進に、彼らは必死に逃げ続けるしかなかった。

 なんとタイミングが悪いことだろう。彼らの装備はすでに戦いの跡を色濃く刻み込んでおり、ぼろぼろになっていた。

 カイルの大剣には無数の欠けが生じ、エリスの弓の弦は切れかけている。フィルの魔道具のオーブには細かな亀裂が走り、その術式ももう機能しないだろう。レルゲンの回復術も、すでに一日の限界に達しており、戦う余力など残されていなかった。

 魔獣の咆哮が不気味に近づいてくる。カイルは振り返り、迫り来る魔獣の姿を確認した。

「まずいぞこりゃ、ダイアーウルフだ!」

 ダイアーウルフ。その名が示す通り、普通の狼の何倍も大きく、筋肉質な体と黒光りする毛並みを持ち、鋭い爪は一撃で岩をも砕くと言われるほど強力だ。

 咆哮が雷鳴のように周囲に響き渡り、緊張感が一層高まる。カイルは焦りを抑えきれずに声を上げた。

「奴らは足が速い。このままじゃ追いつかれる!」

「そんなこと言われたって、隠れる場所なんて見当たらないわよ!」

 エリスが息を切らしながら、焦燥感を込めて叫ぶ。周囲を見渡しても、大きな岩一つも見当たらない。無駄に時間を費やし、逃げ切れる場所がないと悟ったカイルは、心に決意を固める。仲間たちを守るため、逃げるだけではすまない。

 彼は一瞬の静寂を感じながら、覚悟を決めた。

「しょうがない。俺が時間を稼ぐ! その間に逃げろ!」

 カイルは刃こぼれした剣を力強く構え、仲間たちに背を向けて声を張り上げた。その瞳には決意が宿っており、どこまでも強い意志が感じられた。

「ちょっと、カイル、そんなのだめだよ!!」

 エリスの声には切迫感がこもり、反論しようとするが、その言葉はカイルの決意の表情に押しつぶされてしまった。彼女は何も言えず、ただカイルを見つめるしかなかった。

「カイル……」

「へへっ、気にするな。俺なら大丈夫だ。この程度で死ぬもんかよ!」

 カイルの声には揺るぎない覚悟が込められていた。その言葉に、仲間たちは彼の決意の深さを感じ取った。

「いいから行け!行くんだ!!」

 仲間たちは、カイルの瞳に秘められた決意を見つめ、躊躇いの後、必死に走り出した。彼らの背中に残るのは、カイルの無言の激励だけだった。

「死んだら承知しないからね!」

 フィルの声が遠くから聞こえ、カイルはおかしそうに笑った。その笑顔には、仲間たちへの最後の別れの意味が込められていた。

 彼は背中の大剣をしっかりと握りしめ、決意を込めてその剣を構え直す。

「仲間を守って死ぬか。こんな終わり方も悪くはないな」

 もはやカイルには一瞬の迷いもなく、眼前に迫る魔獣の群れに対して、少しも引くつもりはなかった。

 彼は静かな覚悟とともに、全身に力を込め、戦いの準備を整えた。

 その時だった。突然、轟音と共に激しい爆風が吹き荒れた。耳をつんざくような音が辺りに響き渡り、地面が揺れ、砂埃が舞い上がる。カイルはその激しい風に目を細めながらも、瞬時に周囲の状況を把握しようとした。

「な、なんだっ!?」

 そのとき、カイルの目に飛び込んできたのは、彼に飛びかかろうとしていたダイアーウルフが、まるで風に吹き飛ばされたかのように空高く吹き飛ばされる光景だった。

 彼は目を見開き、その異様な状況に驚愕した。

 爆風の中、空気が一変し、目の前の空間が歪み、強烈な風が吹き荒れる。その圧力に全身が押されるような感覚を覚えた。カイルは周囲を見渡し、その異常な変化に戸惑いながらも、強い緊張感が身体を支配していた。

 そして、爆風の中から現れたのは、革の鎧を纏った一人の少女だった。

 彼女の華奢な身体つきは、その小さな体からは想像もできない強さを感じさせた。目を引く長い黒髪が風に舞い、その艶やかな髪は夜の闇よりも深い色合いで、まるで光を吸い込むような美しさを放っていた。

 その少女の力強い叫びが空気を震わせた。

「来いっ! 黒鶴(くろつる)っ!!」

 その瞬間、彼女の背中から黒い翼が突然に現れた。翼はまるで暗闇から生まれたように広がり、その圧倒的な存在感を周囲に示していた。翼は大きくて優雅なもので、羽ばたくたびに静かに、しかし確実に空気を震わせていた。

 その動きには威圧感と共に神秘的な美しさが漂い、羽根一枚一枚には深い黒が宿り、先端には微かな光が宿っていて、まるで夜空に散りばめられた星々が反射しているかのように輝いていた。

 カイルはその光景に目を見開き、現実とは思えない不思議な感覚に包まれていた。
 目の前に広がる光景が夢の中の出来事のようで、自分が幻を見ているのではないかと感じた。

 翼が羽ばたくたびに、少女の周囲に無数の微細な白い粒子が舞い、その粒子が空間に奇妙な輝きを放っていた。それは計り知れないな力を秘めているようで、すべてを圧倒する力強さを持っていると感じられた。

 少女が一歩一歩前に進むたびに、翼は力強く羽ばたき、その圧倒的なプレッシャーが周囲に広がった。その瞬間、翼の影が地面に落ち、ダイアーウルフたちは一瞬動きを止め、その姿を見つめながら低く唸り声を上げていた。

 少女の小さな手が腰に下げた剣に伸びると、その剣がじわりと光を放ち始めた。

 刀身は純白で、周囲の闇と対比して輝き、まるで月光を浴びているかのような神秘的な光沢を見せていた。そのサイズはロングソードに匹敵し、少女の小柄な体には明らかに不釣り合いだったが、彼女はまるで軽い羽根を持つかのように、それを軽々と持ち上げた。

 カイルはその光り輝く刀身を見つめ、驚愕の声を漏らした。

「あの剣は……なんだ?」

 少女は深く息を吸い込み、その剣を大きく振りかざすと、躊躇することなく、迫り来るダイアーウルフの群れに向かって突進していった。

 その動きはまるで鳥が低空を滑空するようで、地面を蹴るというよりは、空中を滑るように見えた。スピードは常人のものではなく、目にも止まらぬ速さで魔獣たちに迫り、まるで光の帯が空間を切り裂くように進んでいった。

場裏(じょうり)展開! 流儀白! 爆裂の盾(ブラストシールド)!」

 奇妙な掛け声とともに、少女の周囲に白い靄のような膜で包まれた半透明の球体がいくつも浮かび上がった。それらの球体は宙に浮かび、彼女を守護するかのように均等に配置されていた。淡い光を放ち、まるで夜の海に浮かぶ星のように神秘的だった。

 カイルはその光景に目を見張り、次の瞬間には呆然とするしかなかった。頭のダイアーウルフが少女に向かって鋭い牙を剥き、猛然と襲いかかったのだ。

 カイルはその惨劇の予兆に、思わず叫んだ。

「逃げろ!」

 しかし、奇跡のような展開が繰り広げられた。

 ダイアーウルフたちが少女に飛びかかろうとしたその瞬間、半透明の球体が急に震え出し、次の瞬間一斉に弾け飛んだ。その爆発が瞬時に周囲に広がり、まるで嵐が突如として訪れたかのような猛烈な風が吹き荒れた。球体の破裂音が次々と耳をつんざき、その音はまるで空を裂く雷鳴のようだった。

 球体の爆発に巻き込まれたダイアーウルフたちは、狂風に吹き飛ばされるように次々と弾き飛ばされていった。

 彼らの吠え声と呻き声が混じり合い、激しく響き渡る中、少女の周囲はまるで戦場の中心にいるかのように風が荒れ狂っていた。少女を守護する球体たちが放った力は、単なる防御を超え、攻撃的な威力をも帯びていた。

 その光景に、カイルは言葉を失い、ただ驚愕のまなざしを向けるしかなかった。

「こいつは……」

 振り返り、その異様な状況を見ていた魔術師のフィルは、少女が展開しているものが通常の魔術障壁ではないと確信した。

「風の魔術障壁か? でも、こんなものは見たことがない!」

 フィルの声には、隠し切れない驚きと混乱が色濃く表れていた。彼が持つ知識では、魔術障壁を形成するためには複雑な魔法陣や長大な詠唱が必須とされていた。しかし、この少女の技は、そのどちらも必要としていなかった。その光景には、魔術の常識を超えた、まるで異次元の力が宿っているように感じられた。

 少女は一瞬立ち止まり、振り返った。

 その瞳には冷たくも確固たる決意が宿っていた。彼女の声は苛立ちと切迫感が混じり、周囲の空気を鋭く引き締めた。

「こいつらは全部私が片付けるから、あなたたちは下がっていて!」

 カイルはその言葉に驚き、信じられないという表情を浮かべた。

「これだけの数だぞ? いくらなんでも一人で相手するなんて無理に決まってるだろ!」

 群れの総数は軽く数えても三十以上。絶望的な状況の中、カイルは強い疑念を抱きつつも、少女の圧倒的な自信とその声の力強さに圧倒されていた。

「いいから下がって!」

 少女の声には苛立ちが滲んでおり、その響きは緊迫感を一層際立たせた。

 彼女の手が軽く剣に触れ、その剣の輝きが彼女の意志の強さを物語っていた。周囲の魔獣たちも、その存在感と威圧感に圧倒されたように動きを止め、少女の一挙一動に視線を集中させていた。

「だいたい、そんな剣一本でどう戦おうっていうんだ?」

 戸惑いを隠せないカイルに、少女は突然、じとーっとした不機嫌な表情を浮かべて言い放った。

「そんな剣って言ったわね……。あなたたちは邪魔だって言ってるのよ! 早くいきなさい!!」

 少女の言葉の意図がわからないまま、カイルはその鋭い目つきと苛立ちを含んだ声に圧され、他に選択肢がないと判断して駆け出すしかなかった。

 少女がその姿を見届けると、不敵な笑みを浮かべながら迫り来るダイアーウルフたちをじっと見つめた。彼女の口元に浮かぶ笑みには、恐れを知らぬ勇気と決意が溢れていた。

 そして、少女は剣を両手でしっかりと握りしめ、正眼に構えた。その動作は緊張感と自信に満ち、どこか神聖な儀式のように見えた。剣の白い刃が彼女の決意を反射し、周囲の暗闇に対抗するかのように輝きを放っていた。

 ダイアーウルフたちはその姿を見て、一瞬の間をおいて動きが止まった。少女の強い意志と、不屈の決意に対する威圧感に圧倒されているようだった。

 その瞬間、少女は剣に向かって、まるで親しい友人に話しかけるかのように呟いた。

「さて、邪魔はいなくなったし。茉凜、やるわよ。えっ……? ああ、なるほど。たしかに纏めちゃった方が早いか」

 その言葉には、まるで長年の相棒と会話するかのような自然さが漂っていた。

 そして、少女は剣を高々と掲げ、周囲に向けて力強く叫んだ。

「流儀白! 風嵐の囚(トルネード・バインド)!」

 その言葉が空に響くと、ダイアーウルフたちは突然、動きを止めた。

 彼らは一斉に白く半透明なドームに覆われ、まるで風の嵐に巻き込まれるかのように中で荒れ狂っていた。彼らの吠え声と呻き声がドームの内部で反響し、まるで強制的に引き寄せられ、束縛されているかのようだった。

 カイルたちはその光景を目の当たりにし、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。少女の圧倒的な力に圧倒されていた。

「ほれっ、お前らそこに集まれ」

 少女の冷ややかな声が空気を切り裂いた。

 その瞬間、半透明のドームに包まれたダイアーウルフたちは、無力感を露わにしながら、次々と一箇所に集められていった。まるで少女の意志が形となり、彼らをおもちゃのように操っているかのように見えた。ダイアーウルフたちは為すすべもなく、一箇所に固められ、虚しく束縛されていった。

 その様子は、少女の持つ力の圧倒的なまでの精緻さと制御力を物語っていた。彼女の目には、何の躊躇もなく、ただ冷酷な決意だけが宿っていた。

「なんだってんだ、これは!?」

 カイルたち一行はその異様な光景に驚愕し、言葉を失っていた。目の前で繰り広げられる超常的な現象に、ただ立ち尽くすしかなかった。

 少女は剣を両手でしっかりと握り、その剣先をうず高く積み重なったダイアーウルフの群れに向けた。彼女の目は冷徹で、その口元には冷ややかな微笑みが浮かんでいた。

 そして、静寂の中、彼女の声が響いた。

「流儀赤、焦炎(スコーチング・ブレイズ)!」

 瞬間、半透明のドームの内部で爆炎が生じ、ダイアーウルフたちは猛り狂う火の海に囲まれた。彼らの悲鳴と焦げる臭いが一瞬にして広がり、炎の勢いがドームの中で暴れ回った。しかし奇妙なことに、炎は薄い白い膜の内側でだけ燃え広がり、外部には一切影響を与えていなかった。

 少女は平然とその炎を見つめ、まるで火の海が自分の周囲には存在しないかのように、涼しげな顔をしていた。

「まじかよ……」

 カイルは目の前で繰り広げられる驚愕の光景に、ただ狼狽えた。

「こいつはただの魔術じゃない。詠唱なしで、しかも複数の属性の行使だって?」

 フィルもその場に立ち尽くしていた。少女が見せた力は、常識を超えていた。それは彼の魔術の知識と経験の範囲を超える、根本的に異なるアプローチによる力であることは明らかだった。

 ダイアーウルフの群れが断末魔の叫びを上げながら焼き尽くされる様子を見つめる少女の口元には、わずかな笑みが浮かび、瞳には狂気じみた冷たさが宿っていた。その瞳は、まるで自分の力が完全に発揮されたことに対する満足感と、それがもたらす破壊の美しさに興奮し、酔いしれているかのようだった。

 破壊の後に残された静寂の中で、彼女の力強さと冷徹さが一層際立っていた。

「これで終わり……」

 彼女のその一言が、静まり返った周囲に響いた。カイルたちは圧倒されるばかりで、ただ呆然と立ち尽くしていた。

        ◇         ◇

 すべてが片付いた後、少女は静かに歩みを進め、カイルたちの元へと近づいていった。背中に広がっていた謎の黒い翼は、いつの間にか消え去っていた。

 先ほどの凄絶な力を発揮していた面影はどこへやら、彼女の顔には穏やかで、心からの優しさが滲んでいた。年齢は十代の初めといったところで、少女の顔立ちはまだ柔らかな幼さが残っており、その無垢な可愛らしさが、まるで春の陽光のように周囲を和ませていた。

 カイルたちは、彼女の変わりように息を呑んでいた。

 美しく長い黒髪が風に揺れ、その艶やかな髪がまるで夜の帳のように彼女を包んでいる。透き通るような大きな薄緑の瞳は、深い泉のように澄んでおり、その瞳の奥には、清らかで優しい光が宿っていた。長いまつげがその瞳を優しく縁取り、瞬きをするたびに、繊細な影が彼女の頬に落ち、彼女の小さな唇は、一枚の花びらのように柔らかく、その微笑みは、戦いの荒々しさを完全に払拭し、周囲に安らぎの空気を漂わせていた。

 少女が穏やかな笑顔を浮かべると、カイルたちはようやく安堵を覚えた。戦いの恐怖と緊張から解放され、彼女の存在がまるで救世の天使のようにも感じられたのだ。

「みんな無事みたいね」

 少女の声は、春風のように柔らかで、ほのかに温かな響きを持っていた。その微笑みは、冷酷な戦いの後に咲いた一輪の花のように清らかで、見る者の心に安らぎをもたらすものだった。

「あ、ああ……。あんたのおかげで命拾いしたよ。ありがとう」

 カイルの声は、まだ震えを含み、その目には未だ信じられないという戸惑いが色濃く残っていた。

 彼の心は、目にしている光景が現実なのか、それとも幻想の中の出来事なのかを判断できないほど、少女の力の規模とその存在感に圧倒されていた。彼らが知っている魔術の常識をはるかに超越するその力は、まるで世界の法則がひとときの間、彼女のために歪曲されたかのようだった。

「その漆黒の黒髪……。あんたは、もしかして【黒髪のグロンダイル】か?」

 レルゲンの問いかけには声の震えが隠せず、その目はただ少女の姿をまじまじと見つめていた。

「ええ、そうよ」

 少女の答えには、ふんわりとした微笑みが添えられていた。

 その笑顔に、カイルたちはただただ見惚れるばかりだった。

 少女の姿は、戦場の悲惨さを一瞬にして美しさで覆い隠し、彼らにとってはまるで天から降り立った奇跡の女神のように感じられ、心の奥底で深い感謝の気持ちが湧き上がるのを感じた。

 カイルはその瞳で、少女の佇まいにただ圧倒されていた。その一方で、彼の心の中で静かに呟かれる疑問があった。

「この少女は一体何者なのか? どうしてこんなにも強いのか?」

 その問いは、彼が知っている現実の枠を超え、未知の領域へと引き込まれている感覚を抱かせた。しかし、その謎の深さに圧倒される一方で、今はただ彼女の常識外れの力に心から感謝することしかできなかった。

 彼女がもたらした平穏は、彼らにとってかけがえのないものであり、その力がなければ恐らく今ごろ絶望の中に沈んでいたことであろう。

 カイルはその思いを胸に、少女に深く頭を下げた。言葉には尽くせないほどの感謝の気持ちが込められていたが、その感謝の気持ちは一つの微笑みにも似た、彼ら全員の共鳴する感情だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み