第24話 冷酷王子と赤いワンコと黒鶴の誕生

文字数 6,654文字

それから、私たちの運命共同体としての関係が始まった。

 私は彼女に自分の正体を悟られたくなかったし、その先に何を願っているのかも、一切明かさなかった。今はただ、互いに生き延びるために協力する。それだけが前提の関係だった。

 だから、私は彼女には冷たく接することに決めた。守るべき責務だけを心に刻み、彼女とは距離を取り、ただの道具として意識しようと心がけた。感情を交えれば、自分が崩れてしまうのではないかと恐れていたからだ。

 彼女が毎日、笑顔で挨拶してくる度に、私は無愛想に最小限の言葉を返すだけだった。それでも、彼女の笑顔は一貫して明るかった。私はそんな彼女が何を考えているのか理解できなかった。

 突然面倒なことに巻き込まれて、一方的に望まぬ状況に置かれ、明日には命がないかもしれないというのに。普通に考えて、不安な気持ちで一杯だろうに。どうして彼女はこんなにも純粋な笑顔を保ち続けられるのだろう。

 冷たく接する私に対しても、彼女は決して臆することなく近づいてきて、言葉を掛けて微笑みかけてくれる。その笑顔はまるで無限の光を放つ太陽のようで、その温かさが私の心にじわじわと染み込んでいった。彼女の存在が、私の冷徹さに小さなひびを入れ、そのひびが広がっていくのを感じた。

 私は本当に、彼女をただの道具として扱い続けることができるのだろうか? 彼女の笑顔に触れるたびに、自分の心が揺らいでいくのを感じ、心の奥底で変わり始めている自分に気づいていた。

 でも、私は認めたくはなかった。認めてしまえば、一度作り上げた今の私が崩れていってしまいそうだったから。私は氷の王子様で、目的のためにだけに生きればいい。そう考えていた。その温かさを受け入れることは、私の存在そのものを否定するような気がして恐ろしかった。

     ◇        ◇

 しばらくして、虎洞寺氏の提案で茉凜の歓迎会が開かれることになった。

 私は佐藤さんに食材の買い出しに連れ出された。外出にはリスクが伴うが、天の護衛がついていたので、仕方なく従うことにした。なぜか茉凜も一緒で、移動中の車内でも、私たちの間の雰囲気はどこかぎこちないものがあった。

 買い物を終え、次の目的地へと向かう最中、突然の出来事が起こった。私と茉凜が二人きりで行動していたとき、背後から猛烈な勢いで一人の少女が抱きついてきたのだ。その行動は、まるで長い間会えなかった飼い主に飛びつく愛らしい犬のようだった。

 彼女の名は【真坂(あきら)】。ショートカットの活発な女の子で、かつて弓鶴の許嫁だった。彼女の突然の登場に、私は驚きを隠せなかった。

 もっとも、それは昔の話で、祖父同士の取り決めに過ぎず、柚羽家の襲撃によってその約束は反故にされていた。それでも明は、弓鶴への気持ちを簡単には諦められなかったのだ。彼女の登場は私にとってまるで重い荷物を背負わされたかのように感じられた。

 明は、弓鶴との過去の約束と深い感情を抱えており、その強い思いが彼女の行動に影響を与えているようだった。彼女の無邪気な振る舞いと対照的に、私と茉凜の間には一層の緊張感が漂っていた。

 しかし、今の彼女は以前とは何かが違っていた。その違和感の正体は、私の中でなんとなく予感できた。彼女の瞳には、過去の記憶だけでは説明できない、重く沈んだ暗い影が溶け込んでいるように感じられた。

 私が彼女と過ごした記憶は、幼い頃に数度柚羽家に来て、弓鶴と一緒に遊ぶ引っ込み思案な女の子というものでしかなかった。今の彼女が持つ強気で押しの強そうなイメージとは、まったく異なっていた。この変化が何を意味するのか、私の心には強い不安が広がっていた。

 (あきら)は「二人っきりで話がしたいから、ついて来てほしい」とせがんできた。その言葉には切実で冷たい決意が込められていて、眼差しには心を引き裂くような鋭さがあった。

 真凜がその提案を止めようとした瞬間、明の表情が一瞬で豹変し、疑念と怒りが混ざり合った視線が向けられた。瞬間、私の中に寒気が走り、背筋が凍りついた。(あきら)の怒りと殺意が渦巻く空気を感じ取り、私は即座に行動を決めた。真凜を守るため、彼女の身を守るためには、明に同行するしかないと判断したのだ。

 「わたしも行く!」と叫ぶ真凜の声が、切迫感に満ちていたが、私はその提案を冷酷に拒絶した。

「加茂野、貴様は俺の道具に過ぎない。いいか、道具風情は持ち主の言うことに黙って従っていろ」

 その言葉が真凜の心に深く突き刺さり、彼女は呆然と立ち尽くしていた。その瞬間、私の心は張り裂けそうな痛みで満たされた。彼女の悲しげな瞳を背に、私は(あきら)に連れられてその場を立ち去った。

     ◇        ◇

 私たちは明の付き人が運転する車で、海岸沿いの廃ホテルへと向かった。車内は沈黙に包まれ、私は心の中で様々な思いを巡らせていた。

 廃ホテルの冷たい空気が私の肌に染み込み、明の鋭い声がその静寂を切り裂いた。彼女の言葉には、ただの懸念ではなく、長年抱え込んだ感情が詰まっていた。深い溜息と共に抑えきれない切実さが滲んでいた。

 彼女は私が「深淵の黒」という禁忌の力を手に入れたことをすでに知っていた。そればかりではなく、彼女は上帳が私を抹殺対象に指定しようとしていることも知っていた。彼女の言葉の中に込められたその事実が、私を取り巻く状況の厳しさと深刻さを一層際立たせた。

「あんた馬鹿じゃないの!? 黒はとても危険で制御できないってことくらい知ってるでしょ? 大昔にもいたらしいけど、みんな自滅してるんだよ?」

 その私の胸を鋭く貫いた。彼女の焦りが、彼女自身の声を抑えられないほど強まっていた。自分では思いもよらなかったことが、彼女にとっては命に関わる重大なことだったのだ。

「このままじゃ、あんたはきっと死んじゃう。だからお願い、そうなる前に真坂の家に来てほしい。そうしたら、あたしが守ってあげるから」

 禁忌対象を匿うなど、背信行為にも等しい。彼女の言葉には、自らのすべてを捧げてもいいという覚悟が感じられた。弓鶴への彼女の思いは、私の想像を遥かに超えていた。弟のことを守りたい、その一心で彼女はここに来たのだ。その気持ちに対して、私はどうしようもなく感謝の念を感じた。

 しかし、私はその申し出を受け入れるわけにはいかなかった。

 その優しさ、守ろうとする意志は、私にとっては束縛に他ならない。彼女が望む未来は、私の目指しているものとは全く異なるものだった。私は弓鶴を取り戻すために、この力を使う決意をしていた。私の使命は、彼を守ることではなく、彼を取り戻すこと。そのためなら、私はすべてを犠牲にしても構わない。

 でも、その本当の理由を、彼女に伝えることはできなかった。彼女の期待を裏切ることがどれほど残酷か、分かっていたからだ。

「どうしてわかってくれないの? あたしはあんたのために、たくさんのものを壊してきたのに!」

 彼女は狂ったように私に詰め寄り、その瞳には抑えきれない涙が浮かんでいた。その声には、怒りと痛みが溢れ出していた。その感情の波が、私の心を揺さぶり続けた。

 だが、それでも私は動けなかった。彼女の叫びを聞きながらも、ただ黙って、冷たく距離を取ることしかできなかった。

 そして、彼女の口から語られた、彼女自身が辿ってきた過酷な道のりを聞くにつれ、その背後にある孤独と悲しみが私の胸を締め付けた。

      ◇         ◇

 柚羽家が何者かに襲撃され、弓鶴が後継者としての資格を失い、外の世界へと追いやられた。その知らせを聞いた明は、どうしても彼を取り戻したいという強い思いから、自らの運命を決意した。真坂家の後継者として立つことで、彼を自分の元に迎え入れることができるかもしれないという一縷の望みにすがりついたのだ。

 その根拠となるものは、「力」だった。彼女は自分の中に眠っていた圧倒的な才能に気づいていた。それは兄たちをはるかに凌駕するほどのものであり、その力を糧にして彼女は自らの手で後継者の座を勝ち取るべく、過酷な道を選んだ。

 明が「深淵の流儀赤」という禁忌の力を使いこなせるようになったのは、まさに地獄のような日々を生き抜いた証だった。その修練は、肉体と精神の限界を超えたものであり、彼女はその力を磨き続け、やがて兄たちの実力を超えた。しかし、その偉業が評価される一方で、彼女は兄たちからの妬みと憎しみを買うこととなった。彼女の力が、彼らの立場を脅かしたからだ。

 ある日、兄たちは修練を装い、明の命を奪おうとした。彼女はその罠を逆手に取り、兄たちを自らが仕掛けた罠に落とし、最終的には自滅へと追い込んだ。彼女が生き残るために、そして目的を果たすために、自らの手で兄たちの命を奪った瞬間が、彼女の暗い過去に刻まれた。

 彼女の目に浮かんだ涙を見たとき、その純粋な願いが、深淵の力という呪いによって捻じ曲げられてしまったことが痛ましく思えた。彼女もまた、この呪いがもたらす悲劇の犠牲者だったのだ。私の心は深く揺れ、胸の奥からこみ上げる感情が止まらなかった。気づくと、私も涙をこぼしていた。

「この子は悪い子なんかじゃない。ただ生き方を捻じ曲げられてしまっただけ」

 私はそう心の中で呟いていた。

 その言葉は私自身への慰めであり、また彼女への切ない思いでもあった。

     ◇        ◇

 その瞬間、突然真凜が現れた。どうしてここに辿り着いたのか、何が彼女をこの場所へ導いたのか、その理由は全く理解できなかった。後で知ったことだが、私の靴に仕込まれていたGPS発信機と、天のチームの連携によって彼女はここに来たのだった。

「来るんじゃない、真凜!!」

 私は反射的に彼女の「名前」を叫んでいた。声が虚しく響き渡る中、明の顔が険しく変わり、彼女の目には暴風のような殺意が宿った。

「あんた、弓鶴くんの何なの? 邪魔なのよ! だから死んでよ!」

 明の言葉には、深い憎しみと焦燥が混じり、まるで怒りの炎が噴き出しているかのようだった。真凜にとって、彼女はただの障害でしかなく、その存在が明の目的に対する大きな脅威となっていた。

 このままでは真凜が命を落としかねない。私は必死に動こうとしたが、明の圧倒的な体術の前に圧倒され、彼女が持つ金属の棒で腹を打たれ、動けなくなってしまった。痛みが体の隅々に広がり、視界がぼやけていった。

 苦痛でぼやける視界の中で、私は真凜が明の鋭い剣戟を見事に回避しているのを見た。まるで先読みするかのように、明の攻撃を避けている姿は、私が彼女と初めて出会った時と同じで、彼女が持つ異常過ぎる能力を思い起こさせた。常識的に考えて、三家後継者の攻撃を回避できるはずがないのだ。

 しかし、特別な訓練も受けていない真凜には戦う術がなく、ただ必死に逃げ回るばかりだった。

 明はその焦りからさらに激昂し、深淵の赤の力を解放した。展開された場裏が金属の棒に絡まりつき、彼女が望むすべてを焼き尽くす焦熱の剣が姿を現した。炎のように燃え上がる剣の光が廃ホテルの暗闇を照らし出し、その熱波が周囲の空気を歪めた。明の顔には、これ以上の無駄な感情を持たず、冷徹な殺意だけが浮かんでいた。

 真凜はその猛烈な熱風に、全身を震わせながらも必死に逃げ続けていた。彼女の表情には恐怖と決意が入り混じり、かつての平和な日々の面影はどこにもなかった。

 私の中で感情が混ざり合い、どうしようもない切迫感が心を締め付けた。真凜がこのままでは本当にただの道具として終わってしまう。彼女の命が危険にさらされている今、何とかして彼女を救わなければならないという思いが、私の胸に激しく鳴り響いていた。

 明の必殺の連続技が繰り出されても、真凜にはかすりもしなかった。けれども、コンクリートの床や柱を砕いて飛び散る破片は、彼女に少なからずダメージを与えていった。私の「もうやめてくれ!」という叫びが虚しく響く中、明はひたすら攻撃を続けた。

 しかし、次の瞬間、明は突然動きを止めた。彼女の足が何かに引っかかり、身動きが取れなくなっていた。恐怖と混乱が交錯する中、明の目に映るのは、目の前に広がる粘着の罠の光景だった。

 それは罠だった。真凜はただ逃げ回っていたわけではなく、天のメンバーたちが周囲に仕掛けた粘着トラップに、巧妙に誘い込んでいたのだ。私の心臓は高鳴り、状況が一変したことを感じ取っていた。

 真凜はその状況を確認すると、すぐに私のもとに駆け寄り、激しく叱責してきた。その声には怒りとともに、私への深い失望が込められていた。

「柚羽くん、わたしはあなたにとって必要な道具なんでしょ? その道具を忘れていくな、この馬鹿っ!!」

 彼女の怒りは、私が冷酷な言葉を放ったことではなく、一人で行こうとしたことへの非難だった。真凜の眼差しには、私がどれほど彼女の存在を軽んじていたかを見透かされたような痛みがあった。

 その瞬間、私は自分の愚かさを痛感した。彼女を危険に晒したくないという私の思い込みが、実は私の独りよがりであったと気づかされた。私には彼女が必要で、彼女もまた私を必要としていた。その前提を受け入れるしかなかった。

 真凜の存在は私にとって不可欠であり、彼女の強さや勇気を見くびっていた自分に、深い後悔と反省が押し寄せてきた。彼女が示してくれたこの気持ちを、どう受け入れ、どう前に進むべきかを考えなければならなかった。

 明が罠から抜け出し、狂気のまなざしで私たちに迫ってきた。その目には明らかな狂気が宿り、過剰な力の行使が、術者の精神をどれほど蝕むかを物語っていた。

 私は真凜に言った。声は強く、決意を込めて。

「俺は、黒を使ってあいつを止める……」

 真凜はその言葉に一瞬の迷いも見せず、微笑みを浮かべながら答えた。

「たとえあなたが暴れたって、きっとわたしが止めてみせる。自信なんてないけど、でも、やるしかない」

 彼女の決意の言葉に、私の胸は熱くなった。彼女の信頼と決意が、私の心を奮い立たせ、共に戦う力を与えてくれていた。

 私たちは自然に手を取り合い、躊躇うことなく、力を解放していった。それが、私たちの「ふたつで一対の翼」が誕生する瞬間だった。

「力よ、集え……」

 私は目を閉じ、深い決意を込めて願った。精霊子を受け入れる器として、私の心はその力を迎え入れる準備が整っていた。

 私の意識が鮮やかに覚醒する中で、深淵の闇が私を狂気の淵へと引き込もうとするが、不思議と不安はなかった。

 周囲には淡い光の粒が舞い踊っていて、まるで夜空に散りばめられた星々が、私の周りに降り注ぐかのように輝いていたのだ。

 その光は、柔らかな白と金色が混じり合い、暗い背景に対して鮮やかに輝きながら、優しく力強く私を包み込み、冷え切った心を溶かしていった。

 私を包み込む暖かな流れは、静かな確信と安堵感をもたらしてくれる。その淡い光は、漠然とした夢の中でさえも感じるような柔らかさで、私の内面に温かい感動を呼び起こしていた。

 私は光に引き寄せられるように手を伸ばした。すると、光の中から温かく、柔らかな手が伸びてきて、私の手と触れ合った。その手の感触は、深い安心感と穏やかな力を私に伝えてきた。迷いなくその手を取ると、私は深い闇から救われた。

 耳にはかすかにささやく風の音と、羽ばたく翼が生む微かな囁きのような音が響き、まるで自然の静かな奏でが私の心を包み込むようだった。その音は、風の柔らかな旋律と羽ばたきの軽やかなリズムが調和し、心の奥深くにまで届いてくる。微かな音は、まるで幻想的な音楽が流れるように心を落ち着け、私を包み込んでいった。

 背後に現れた黒い塊だったものは、まるで大きな翼のように広がり、優雅に羽ばたいていた。その翼の先端が揺れるたび、光の細かい粒子が舞い散り、空中に散らばる様子は神秘的で、まるで夜空に輝く星々が瞬くようだった。

 光が細やかに煌めき、翼の羽根の間からこぼれ落ちる星屑のように流れていく様子は、まるで夢の中の幻想的な光景で、心の奥に深い感動を呼び起こした。その輝きが私の目に映り込むたび、心は奪われ、その神秘的な美しさに胸が高鳴るのを感じた。

 それが、私と真凜が初めて繋がった瞬間だった。力の絆が、私たちの心と身体に強く結びつき、闇に立ち向かうための確固たる決意を抱かせた。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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