第68話 導き手~茉凜

文字数 6,893文字

 事件が起きた直後の混乱は、まるで現実が歪んだような錯覚を覚えさせた。私たちは天のメンバーに囲まれ、藤堂さんの車へと急いだ。夜の冷たい風が、私の肌を刺すように吹き抜けたが、それ以上に感じたのは、私にしがみついて泣きじゃくる茉凜の震えだった。

 「茉凜、大丈夫だから……」と、言葉を紡ぎたかったが、声が喉の奥で詰まった。茉凜の手が、沈んでしまいそうな不安に押しつぶされるように私に伸ばされ、その細い指先が私の服を掴んでいた。彼女の泣き声は幼い頃のように震えていて、それが痛ましくて、何度も私の名前を呼ぶその声に、どうしようもなく切なさが募った。だけど、私は何もできない――ただ、彼女を抱きしめることしかできなかった。

「安心しろ、俺はここにいる」

 自分で言ったその言葉が、どれだけ無力かを知っていた。それでも、少しでも彼女の不安を和らげられるのなら……そう願っていたけれど、車内に響く茉凜の泣き声は、私の心に鋭く突き刺さるようで、何も解決していないことを痛感させた。

 茉凜の髪が涙で濡れて、私の肩に寄りかかる。その体の温もりが、まるで消えてしまいそうなほどか細く感じられて、私の中に不安が押し寄せる。

 彼女がここにいるのは確かなのに、その存在が今にも消え去ってしまうのではないか――そんな恐怖が私を支配し、気づけば私は茉凜をもっと強く抱きしめていた。彼女が私の腕の中にいる限り、どうか彼女を守りたい、その一心だった。

        ◇       ◇

 部屋のベッドに横たわる彼女の姿は、まるで壊れた人形のようだった。虚ろな目で天井を見つめているの彼女、私は胸が押しつぶされそうな気持ちになった。一体何が彼女をここまで追い詰めたのだろうか。

 茉凜の顔は、いつも私に向けられていたあの太陽のような笑顔が完全に消え去り、ただ涙の痕が残るだけだった。その顔を見るたび、私の心の中には言葉にできない罪悪感と悲しみが渦巻いていた。私は彼女に何もできなかった。ただ、無力なまま、彼女の苦しみを見ているだけ。今の自分がどれほど無力で情けない存在か、痛感するしかなかった。

 彼女が感じている痛みや恐怖に寄り添ってあげたいと心から思うのに、その方法がわからない。それが悔しくて、胸が痛む。

        ◇         ◇

 屋敷に辿り着くと、新城医師を中心とした医療チームが慌ただしく駆けつけ、すぐに診察が始まった。私はその光景を見守りながら、胸の奥が締め付けられるのを感じていた。

 茉凜のか細い声が頭から離れない。彼女が無事であってほしいと願いながらも、今は冷静に状況を見極めなければならない――私がそう自分に言い聞かせていた時、藤堂さんが声を掛けてきた。

「申し訳ない、弓鶴くん。今回の件は完全に我々のミスだ。対人監視にばかり気を取られて、周囲の状況対応が疎かになっていた」

 藤堂さんの声には、後悔と自責の念が滲んでいた。しかし、私は彼を責めるつもりなどなかった。首を軽く振って、私は静かに答えた。

「いえ、あの状況は予測できるようなものではありません。それに、もしこれが強硬派の仕業だとすれば、彼らはもはや手段を選ばない段階に入っていると考えた方がいいでしょう」

 建設現場で足場が突然崩れ、鉄骨が茉凜たちの上に降ってきた――あまりにも不自然で、あのタイミングは偶然とは到底思えない。何者かが意図的に仕組んだものだとしか考えられなかった。

「そうだな……『深淵の殺しの流儀』からは完全に逸脱している。彼らも焦っているんだろう。どんな手段も厭わない段階に来ていることは明らかだ」

 藤堂さんの言葉に、事態の深刻さが一層際立った。私たちはその危機に徐々に引き込まれているのだと痛感した。

「連中は俺に力を使わせることで、最終的に自滅させるつもりだったのでしょう。しかし、その思惑も崩れつつある。解呪が現実味を帯び、彼らが最も恐れる事態が目前に迫っている。だからこそ、今回のような強硬手段に出たのでしょう。周囲の被害をなど顧みることなく……」

 私は苦々しい気持ちでその言葉を受け取った。間違いなく、この襲撃は偶然ではなく仕組まれたものだ。私たちを揺さぶり、追い詰めようとする連中の焦りが浮き彫りになっている。藤堂さんもそれを感じ取ったのだろう、深く頷きながら、厳しい目つきで私を見つめた。

「そうだな。今後の警備体制を徹底的に見直す必要がある。それに、君たちの行動も、しばらくは最低限に制限せざるを得ないだろう」

「はい……仕方がありません」

 そう答えたものの、心の中に広がる寂しさは抑えきれなかった。茉凜と一緒に、何の心配もなく街を歩ける日常が、今では遠い夢のように感じられてしまう。彼女の笑顔、彼女の存在、そのすべてが私にとってどれほど大切か――そんな平穏が、今や遠く霞んでしまったことに、言いようのない悲しみが胸を占めていた。

        ◇        ◇       

 三十分ほど経った頃、新城医師が部屋の扉を静かに開け、私たちに入るよう促した。私は緊張で固くなった体を引きずるように、重たい一歩を踏み出した。

 部屋に入ると、茉凜は薬を投与されたのか、静かに眠りについていた。しかし、その眠りはどこか不安定で、安らぎとは程遠いものだった。彼女の顔には、深い疲労と苦悩が色濃く刻まれており、目を閉じているはずの彼女が、今にも悲鳴を上げそうなほど、苦しげな表情を浮かべていた。

 私の視線は、点滴のチューブを伝ってポタリポタリと落ちる液体に吸い寄せられる。規則的に落ちるその一滴一滴が、まるで彼女の命を繋ぎとめているかのように思えて、胸が痛く締め付けられた。私の中にある感情は、言葉にならない悲しみと焦燥感が混じり合っていた。

 部屋に立ち込める空気は、重く、息苦しさすら感じさせる。言葉を発することさえ憚られるような静けさだった。その静寂を破ったのは、新城医師の冷静な声だった。

「安心していい、彼女は大丈夫だ」

 彼の言葉を耳にした瞬間、私は思わず声を震わせた。

「本当ですか? 本当に、茉凜は……大丈夫なんですか?」

 私の視線は茉凜の顔に落ちたまま、拳を強く握り締めていた。彼女の無防備な姿に、どうしようもない無力感が押し寄せ、心が揺れ動いていた。

「ああ、血圧が一時的に極端に下がっただけで、命に別状はない。ただ、精神的なショックが大きすぎたようだな。事故の内容は聞いていたが、どんな状況だったのか、もう少し詳しく教えてくれるか?」

 新城医師の言葉に、私はその場で足を踏みしめるようにして、再びあの恐ろしい瞬間を思い返した。

 彼にできる限りの詳細を伝えると、医師は顎に手を当て、しばらく考え込むように目を細めた。その「うーん……」という低い唸り声が、部屋に漂う沈黙を引き裂いた。まるで、その一言が茉凜の状態に新たな不安を与えるかのように。

「それは……理解に苦しむな。どう考えても説明がつかん」

 新城医師の言葉に、私は眉を寄せ、彼の方をじっと見つめた。異常な事態は重々承知だが、それ以上の何かがあるというのだろうか。

「どういう意味ですか?」

 私の問いかけに、彼はゆっくりと向き直り、冷静な声で続けた。

「彼女は、事故が発生する前に異常を訴えたんだろう?」

「はい、そうです」

 私はその時のことを思い返しながら答えた。茉凜の震える声が、今でも耳の奥でこだまする。

「そして、『つぶされちゃった』と言った」

 その言葉が再び蘇る。彼女の顔に浮かんだ恐怖と苦しみが、まるで自分自身に押し寄せてくるようだった。

「はい……確かにそう言いました」

 新城医師は一瞬、考え込むように黙り込んだが、すぐに再び口を開いた。

「だが、実際には君は潰されていない。じゃあ、彼女が見ていたものとは何だ? 何も起きていないはずなのに、どうにも辻褄が合わんだろう?」

 私はその言葉に胸がざわめき、心臓が早鐘のように打つのを感じた。頭の中に浮かぶのは、あの瞬間、私たちに何が起こっていたのかという疑問だった。

「それって……幻覚ではないでしょうか?」

 思わずそう呟いてしまった。けれど、新城医師は皮肉っぽく笑い、疲れた様子で両手を広げた。

「俺は精神科の専門家じゃない。ただ、事実だけが重要だ。彼女が声を上げたおかげで君は立ち止まり、その直後に鉄骨が落ちてきた。これが真実で、実際に起きた事だ」

 彼の言葉は冷静で、ただ事実だけを告げるものだった。だが、それがかえって私の心を乱した。思い返せば、茉凜のその言葉がなければ、私は確実にその場を歩き続け、鉄骨に押し潰されていたということだ。

 その事実が、冷ややかに私の心を締め付ける。茉凜が見たのは一体何だったのか? あの言葉が、彼女の恐怖だけではなく、現実の危機を警告していたのだとしたら――。

「……彼女が言ったことが、これから起こり得る脅威だったと……?」

 自分でも言葉にするのが恐ろしかった。私たちの目の前に起こったこと、そして茉凜が感じたその感覚。それがただの幻覚ではなく、何かもっと根深い真実に結びついているのではないかという考えが、心の中に重くのしかかってきた。

 何かが、私たちの知らないところで動き出しているのかもしれない――そんな不安が、私の胸を冷たく覆った。

 藤堂さんの静かな声が、緊張した空気をさらに重くした。

「私はその時車を回していて、直接は見ていませんでしたが、メンバーからの報告ではその通りでした。監視カメラの映像でも確認済みです」

 彼の証言が加わったことで、私の中に浮かんでいた仮説が現実味を帯びていく。しかし、その答えを口にすることが、何故か恐ろしくて、声が震えた。

「……茉凜はこれから起こることを『見ていた』。つまり、そういうことですか?」

 新城医師は小さくため息をつき、少し苛立った様子で答えた。

「ああ、予知とでも言うべきかもしれん。だが正直、オカルトじみていて馬鹿馬鹿しい。くだらんことだ」

 彼の言葉には冷淡さがあったが、それでも彼は話を続ける。

「俺はこういう話が大嫌いだ。だが、弓鶴くんの件でもそうだったが、この『深淵』という力には、未知の領域が多すぎる。俺の知識じゃ到底理解できんことばかりだ。腹立たしいが、これが現実だ」

 その言葉に、私は俯いて考え込んだ。茉凜が示してきた数々の特異な現象――それが頭の中で渦を巻く。

 黒鶴の力が暴走しそうな時、彼女は必ずその力を安全に抑え込んでくれる。それだけではない。茉凜は、血族でもないのに私たちの精神感応に応じ、さらに私の力が作用する領域――場裏をも感じ取ることができる。

 そして何よりも、不思議なことがある。絶体絶命の危機に陥った時、彼女の周囲では、まるで奇跡のように何かが起こり、彼女を守ってくれる。茉凜自身が自覚しているかどうかはわからないが、その異常なまでの回避能力は、ただの偶然とは到底思えない。

 思い返せば、彼女はいつも私を救ってくれた。そして、今もまた、彼女の予知とも言えるような力が私を守ったのだ。だけど――その力とは一体何なのだろう?

 私は知らず知らずのうちに拳を握りしめ、茉凜の穏やかに見える眠りの背後に潜む闇を探るように、彼女の顔をじっと見つめていた。

 その時、藤堂さんが私の心の中で渦巻いていた考えを、さらに補強するかのように続けた。

「彼女はこれまで私たちと共に、数々の修羅場をくぐり抜けてきました。その特異性は、我々が何度も確認している通りです。死の淵に追い込まれた時、彼女は信じられないほどの力を発揮します。ただ、その根拠が説明できないのが問題ですが……」

 藤堂さんの言葉に、新城医師も深く頷き、重々しい声で口を開いた。

「俺も彼女と何度も話をしてきた。その中で、彼女が打ち明けた話には、あの瀕死の重傷を負った落雷事故がある。あの事故が彼女に強烈なトラウマを残し、死への恐怖を植えつけたのは間違いない。生き延びたいという執念が、普通の人間以上に強いんだろう。その強烈な願望が、あの予知めいた力に繋がっているのかもしれん。しかし、これを科学的に説明するには無理がある。正直なところ、ファンタジーとしか言いようがない」

 新城医師の言葉は、一見すると現実離れした話に聞こえる。それでも、私たちが目の当たりにしてきた茉凜の力――それを否定するものではなかった。実際に彼女は、何度も信じられない状況をくぐり抜け、私たちを救ってきた。

 私の視線は、静かに眠る茉凜に注がれた。彼女の力は、単なる偶然や本能的な反応ではなく、もっと根深いもののように思えた。もしかすると、彼女の潜在的な恐怖や強い生存欲求が、その力を形作っているのだろうか――それとも、彼女自身がまだ気づいていない、もっと深く隠された理由がそこにあるのだろうか。

「いや、違う……そうじゃない。」

 その瞬間、私の頭の中に再びデルワーズの冷たく鋭い声が響き渡った。

宿



 その言葉が脳裏に鮮明に蘇り、それが私の考えに絡みつくようだった。

「座標と時間を指し示す存在……それが導き手……」

 その言葉が自分の口から無意識に漏れた瞬間、自分でも驚いていた。

「どうしたんだ?」

 新城医師が怪訝そうに私を見つめ、問いかけた。

「いえ、なんでもありません」

 私は慌てて誤魔化すように答えたが、頭の中ではその考えが渦巻き続けていた。茉凜の力は、単なる予知に留まるものではない。彼女の存在には、もっと深い運命的な意味が隠されている――私はそう確信し始めていた。

 茉凜が落雷事故で生き延び、私が解呪に失敗した時期が、あまりにも重なりすぎていた。これが偶然ではなく、何か大きな意図に基づくものであるという気がしてならなかった。そして、同じ夢を見て、あの場所に引き寄せられたように、私たちの出会い自体が運命によって定められていたものだと感じた。

 “時間”というキーワードが頭の中を巡る。それは単なる未来予知ではなく、もっと大きな時間の流れや転移、過去や未来の出来事に関わっているのかもしれない。もしそうだとすれば、茉凜が垣間見た未来の出来事は、その時間における真実の断片であり、彼女が私たちに示しているものは、私たちの運命そのものだ。

 その思いが胸に広がるたびに、心がざわつく。これから訪れるであろう未来の中で、私たちは一体何を成し遂げ、どんな選択を迫られるのだろう――彼女を守りたいという思いと、解呪を成し遂げたいという願望が私の中でせめぎ合っていた。

「マウザーグレイルの一部が茉凜の中に……」

 私はその言葉を呟きながら、重い現実をひしひしと感じていた。茉凜はいつも明るく、笑顔で私を励ましてくれるけれど、あの落雷事故で彼女がどれほどの苦しみを抱え、今もその痛みを背負っているかを、私は全く理解できていない。そして、その痛みが彼女の異常な力と繋がっているというのなら、私の願いを叶えることが、茉凜をさらなる危険と恐怖に追い込む可能性だってある。

 新城医師は、私の沈んだ表情に気づき、優しく言葉を掛けた。

「彼女が未来の断片を見たのか、それとも何か別の感覚で察知したのかは分からん。ただ、彼女が君を守ったという事実は確かだ。それを忘れるなよ」

「はい……」

 その言葉に、私はほんの少しだけ救われた気がした。新城医師は深淵の血族でありながら、その力に対して冷ややかな態度を取っている。その複雑な心情は容易に理解できるものではなかったが、彼の理性的で温かい対応に、私の心は少し安堵した。

「茉凜が、導き手である可能性は、極めて高い……」

 その言葉が私の心の奥深くで確信となり、胸の中に切ない感情が広がった。それは嬉しさと同時に、悲しみのような複雑な感情だった。

 それは運命に引き裂かれるような気持ちを呼び起こした。胸に押し寄せる罪悪感がさらに深くなった。

 大前提として、解呪を成し遂げるためには、まず黒鶴を安定稼働させることが不可欠であり、そのためにも茉凜を始まりの回廊へ連れて行かなければならない。けれど、残された鍵である導き手が見つからない限りは、真の意味での解呪は難しい、と私は決断を先延ばしにしていた。

 それが自分に対しての言い訳のように思えてきた。心の中でどこかで、これが免罪符になっていたのだろう。

 しかし、茉凜が導き手であることが濃厚になり、立ち止まっている場合ではないと気づいた。弓鶴の体が限界に近づいているという現実が突きつけられ、私の心は決断を迫られていた。

 その感覚は、胸の奥に鋭い短剣が突き刺さるような痛みで、私を包み込んでいた。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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