第61話  扉を開けて 4

文字数 6,779文字

「メイヴィス、待ってくれ!!」

 その声が、心に突き刺さるように届いた。舞を再開しようと足を踏み出した私の胸に、彼の切実な想いが響き渡って、心がぎゅっと締め付けられる。彼が私を呼び止める必死な声が、こんなにも苦しいなんて。けれど、私は振り返らない。振り返ってしまったら、もう動けなくなってしまう気がしたから。

 その瞬間、泉の中から水音が聞こえ、私はその場で凍りついた。

 泉に封じられている精霊が本当に動き出したら、私は精霊の世界に取り込まれてしまう。精霊と一つに溶けて、二度と戻れなくなる。それが私一人だけならいい。でも、彼がここに来たてしまったら……彼まで巻き込んでしまうかもしれない。そんなことは、絶対に許されない。

「来ないでっ!!」

 必死に叫んだ声が、震えながら空気を裂いた。私の想いが、その叫びに詰まっていて、泉の周りにこだました。お願いだから、来ないで欲しい。私のせいで、彼を危険な目に遭わせるなんて、絶対に嫌だった。

「嫌だね」

 背中越しに返ってきたウォルターの声は、低くて、そして私の気持ちを打ち消すほど強い意志がこもっていた。

「俺たちの旅がこんな形で終わるなんて、絶対に受け入れられない。君一人に責任を負わせるなんてできない。俺は君に仕える騎士だ。君がどこへ行こうと、俺はついていく。それが俺の誓いだ」

 私は心の中で叫んだ。

「どうして、どうしてそんなことが言えるの?私があなたを裏切ったのに。冷たく突き放してを遠ざけたというのに」

 彼の言葉はまっすぐで、私の心を強く揺さぶった。涙が溢れそうになる。だけど、振り返ることはできない。振り返ってしまったら、全てが崩れてしまう気がして……だから、私はただ、前を向き続けるしかなかった。

「だめ、来ないで。泉の精霊が動き出したら、あなたまで消えてしまう。消えるのは私だけでいいの、あなたまで死ぬことはないのよ!」

「それが主から命令だとしても、俺は断固として拒否する。理不尽な命令に従うつもりはない!」

 彼の言葉が私の心に響くけど、どうしても理解できない。私の気持ち、私がどれだけ辛い思いをしているのか、彼は本当にわかっているのだろうか。それでも、彼を止められない私の心は、ますます混乱するばかりだった。

 私たちのやり取りを見て、ヴィルギレスが再びあざ笑うように言った。

殿



 その声には、私たちの苦しみを嘲笑う冷酷さが満ちていた。ヴィルギレスにとって、私たちの感情や絶望はただの娯楽でしかない。その事実が胸の奥に鋭く突き刺さるようだった。だが、彼が言う「報われない想い」とは一体何なのだろうか。



 ヴィルギレスの言葉はさらに意味深で、まるで私たちの運命を予見しているかのようだった。心の奥底に、不安がどんどん広がっていく。

 ウォルターはその嘲りにも怯むことなく、鋭い意志を宿した瞳でヴィルギレスを見返していた。

「なんだと!?」

 ウォルターの声が冷たい空気を切り裂いて響いたが、ヴィルギレスはその言葉に構わず、冷ややかに続けた。



 ヴィルギレスの言葉には、歪んだ満足感と冷酷な楽しみが滲んでいた。彼の目には、私たちの苦悩や葛藤がまるで一興の劇のように映っているのだろう。

 だが、ウォルターはその嘲りにも怯むことなく、鋭い意志を宿した瞳でヴィルギレスを見返した。

「だからなんだというんだ。心のないお前には理解できまい。この俺の気持ちが……」

 ヴィルギレスは興味深げに、不気味な笑みを浮かべながら問い返した。



 ウォルターは一瞬目を閉じ、深く息を整えた。その顔には決意の光が宿り、彼の全存在が震えるほどの強い意志を伝えていた。そして、胸の奥から絞り出すように、感情がこもった声で宣言した。

「俺を今動かしているものは、彼女への愛だ。それ以外の理由などないっ!!」

 その言葉は、ヴィルギレスの冷たい嘲笑を力強く打ち返すように、周囲の空気を震わせた。

「うそ!?」

 その瞬間、私の身体には雷に打たれたかのような衝撃が走った。彼の想いを込めた言葉が私の心に直撃し、信じられないという気持ちが波のように押し寄せた。驚愕と戸惑いが入り混じり、息を呑んで両手で口を押さえた。胸の奥では、何かがひび割れるような、痛くて切ない感覚が広がり、涙が溢れそうになった。私の心が彼の告白に打ちひしがれ、混乱と感動でぐちゃぐちゃになっていた。



 ヴィルギレスはその冷酷な嘲笑を響かせながら、ウォルターの前から下がっていった。

 ウォルターはいつも冷静で、忠実な騎士として私を支えてくれていた。その彼が、私を愛しているだなんて、夢にも思わなかったし、信じることができなかった。彼の真剣な眼差しを目の当たりにし、逃げることができなくなっていた。

 彼が示してくれた愛は、罪深い私にとってはあまりにも重く、痛いほどに真実だった。しかし、その重みを受け止めるだけの力が、私にはどうしてもなかった。

 私は彼を裏切り、すべてを終わらせなければならないのだから。この先、私は消え去るしかない存在だ。そんな私に、彼の想いに応える資格などないし、その覚悟も持てない。

 心の奥底で募る痛みと絶望が私を包み込み、彼の愛に応えるという選択がどれほど恐ろしいものであるか、はっきりと理解していた。私の心は、彼の思いを受け入れられないという現実と罪悪感に苛まれていた。

 もう、どうすればいいのか全く分からなかった。舞を止めたら、ウォルターは魔族に殺されるだけでなく、世界も救えない。しかし舞を再開すれば、彼も一緒に消えてしまうのだ。

 私はどうすればいいのだろう……。

 ウォルターが私に向かってどんどん近づいてくる。その姿は恐怖を増幅させ、私の心を覆い尽くしていく。彼が一歩一歩近づくたびに、私の心臓はさらに早く脈打ち、全身が震え出す。

「いやっ! 来ないで! あっちへ行って!!」

 私はあらん限りの力で叫んでいた。声が震え、私の恐怖がそのまま声に乗っているのがわかる。彼の顔に浮かぶのは、私に対する優しさだけで、私の叫びには耳を貸さない。どうしても止められない。

 彼の温かさと、私の中の混乱と、自分の無力さと、どうしようもない絶望感に圧されながら、ただただ叫び続けるしかなかった。恐怖と混乱で頭がいっぱいで、体が動かせず、ただ立ち尽くしているしかなかった。

 私の心はぐちゃぐちゃになり、どうしても解決策が見つからない。ウォルターが近づくたびに、その優しさが痛みに変わり、私の内なる葛藤がますます深まっていく。

 彼が私に近づくたびに、その顔に浮かんだ優しい微笑みが、私の心に深く刺さる。どうしてそんなに優しい顔で、私を見つめるの?その笑顔が、私の中に広がる混乱を一層強めるだけ。

「どうして……どうして私の言うことを聞いてくれないの?」

 私の声は震え、悲しみと焦りが入り混じった感情が溢れ出る。彼の言葉は、私の心の防壁をあっさりと打ち破っていくのがわかる。彼の目には、ただ優しさしか映っていなくて、私の叫びには耳を貸さない。どうしてこんなにも止められないの?

「だから、そういうのは嫌だと言っただろう? それと下手な嘘もな」

 彼が少し不満げに言うと、私は何も答えられずにただ黙っていた。彼の真っ直ぐな瞳と、その言葉に、私の心の防壁がまるで紙のように簡単に崩れていくのを感じる。

 でも、彼にどう答えたらいいのかわからない。頭の中はぐちゃぐちゃに混乱し、言葉が見つからず、息をするのも難しい。私の心は恐怖と混乱でいっぱいになり、彼の優しさがますます私を苦しめる。

 どうすればいいのか全くわからない。何もできない自分に絶望を感じながら、彼の優しさと私の混乱が、心の中で激しくぶつかり合っていた。

「ごめんなさい……」

 その一言が、消え入りそうな声で口から漏れた。自分の感情をどう伝えればいいのかも分からず、ただそれだけが言えた。言葉にならない想いと、心の中に渦巻く深い葛藤や無力感を、その一言に乗せるしかできなかった。涙がじわりと瞳ににじんでくるのを必死にこらえながら、彼の顔を見つめる。

 彼は、その一言を静かに受け止めるように「うん」と頷いた。

「まあ、ややこしい話は後でいい。簡潔に行こう」

 彼の声は落ち着いていて、私が抱えている混乱にも関わらず、冷静さを保っていた。それがかえって、私の焦りを増幅させる。何を言うつもりなんだろう。私の心臓は、不安と期待でさらに強く鼓動を打ち始めた。

「簡潔にって? どういう意味……?」

 私が問いかけると、ウォルターはまるで答えを既に持っているかのように、何の躊躇もなく応じた。彼の言葉が、私の心を瞬時に大きく揺さぶった。

「改めて言わせてもらう。つまり、俺は君のことが好きだ。愛している」

 その言葉を聞いた瞬間、私は目を見開いて固まってしまった。なんてシンプルで、どれほどストレートなのだろう。ウォルターの真剣な眼差しとその告白が近くで交わると、身体中が震え、顔が瞬時に熱くなった。こんな強い感情を感じたことは今までなく、喜びと戸惑いが頭の中でぐるぐる回り、思考が完全に停止してしまう。

 どうしていいのかわからない。彼の告白に対して、自分がどう反応すればいいのか、心の中で混乱している。心臓が激しく高鳴り、言葉が喉に詰まって出てこない。彼の心からの告白が、私の全てを揺さぶり、喜びと驚きが交錯していた。

「どうした?」

 ウォルターが微笑みながら私を見守っている。その視線が突然恥ずかしくなり、私は顔を背けたくなってしまった。彼の優しさと真剣さが、私の心に深く刻まれ、その場から逃げ出したい気持ちと同時に、彼にもっと近づきたい気持ちがぶつかり合っていた。心の中で翻弄される感情に、どうしていいのかわからなかった。

「でも、私はあなたに何も言わず、嘘をついて、裏切った……」

 その後ろめたい思いが口をついて出てしまう自分が情けない。心の中でそのことを悔やみながらも、どうしても言葉が止まらない。ウォルターが優しく見守っているその姿に、ますます自分の無力さを感じていた。

 しかし、ウォルターは嫌な顔ひとつせず、穏やかに言った。

「それは仕方がないだろう」

「え? でも……」

 彼は私の手を優しく取った。その温もりが私の心にじわりと広がり、拒絶したいという気持ちはなかったが、その優しさが逆に私を困惑させた。どこかで逃げ出したい気持ちが湧き上がりながらも、その手の温かさにどう応じればいいのかわからなかった。

 ウォルターはさらに優しく微笑みながら、言葉を続けた。

「君はとても優しい子だから、俺を傷つけたくなかったってことはよくわかる。なにせ、これまで随行の騎士は、真実を知ってみんな怖れをなして逃げ出したっていうしな。ははは」

 彼の軽く笑い飛ばすその声に、私の心はまた揺さぶられた。彼の笑い声が、私の心の奥深くに触れ、その温かさと優しさに包まれる感覚が、複雑に絡まった感情を少しずつほぐしていくのを感じた。

「そういうわけでは、ないんですけど……」

 私の言葉が、思いがけない感謝の気持ちとともに漏れた。その感情が、心の中で渦巻いているさまざまな思いと重なり、私をさらに困惑させた。

「で、君からの返事が聞きたいんだがな?」

 彼の言葉に、私ははっとした。現実に直面しているその瞬間、心臓が激しく鼓動し始める。答えが決まっているはずなのに、口にするのが怖くて仕方がなかった。もし言葉にしてしまったら、彼はここに留まるだろう。その結果、彼に生きて欲しいという私の願いが叶わなくなるかもしれないという恐れが、私を苦しめた。

「それはだめだと思う。いまさら遅いです……」

 私はそう呟きながら、状況がいまさら変わることはないと心の中で諦めていた。しかし、ウォルターは小さく微笑みながら言った。

「いまさらな状況だからこそだよ」

「えっ……?」

 彼の言葉に私は驚いた。彼の考えが全く理解できなかった。心の中でさまざまな疑問が渦巻き、思考が混乱していった。彼の微笑みが私をいっそう不安にさせ、その目に込められた真剣さに圧倒されながらも、どう答えるべきかが全くわからなかった。

 でも、彼は続けてこう言った。

「奴らは、たとえ君が泉を解放しても、俺を逃がしはしないだろう。サランは俺を殺したがっているしな。それに、これは他の騎士連中から聞いた話だが、過去の随行者は唯の一人も帰還していないそうだ」

 ウォルターの言葉に、ヴィルギレスの狡猾さがさらに明らかになっていくのを感じた。言葉が喉に詰まって、私の胸の奥で苦しい感情が渦巻いた。

「ウォルター、それを知っていながら、なぜこの旅に?」

 私は思わず訊ねてしまった。彼の決意が、私の心に重くのしかかる。

 ウォルターは少し疲れたように深いため息をついてから、私の目を真剣に見つめた。

「俺は左腕がだめになって、一線で戦えなくなった落伍者だ。だからといって、戦うことしか知らない俺が普通の暮らしをするなんて、とても考えられなかったし、君に興味もあったから、どうせなら、とこの仕事を引き受けたのさ」

 その言葉が私の心を打った。彼の過去と、彼が抱えた葛藤が、私にとって重い意味を持っていた。彼の決断が、私にどれだけの思いを込めたものであったかを理解した。

 私はただただ黙ってその視線を受け止めるしかなかった。ウォルターの苦悩と勇気が、私の心に深く刻まれ、どう応えるべきかの答えを見つけられないまま、ただその場に立ち尽くしていた。

「そんな……あなたは……」

「俺も君と同じさ。終わりが来ることを自分で選んでいたんだ。それを言えなかったんだから、おあいこだ」

 ウォルターの言葉が、私の心に深く響いた。彼が私に寄せていた想いを知り、その重さにただ茫然とするしかなかった。彼がこんなにも真摯な気持ちで私を見つめていたことを、私は想像もしていなかった。

「君の旅の終わりがここで、世界を救う代償にここで消えるしかないというなら、それは俺にとっても同じだ。君の責任を、俺も背負う。どんな結果になろうと、俺は君を決して一人にはしない。それが俺の誓いだ。さあ、答えてくれないか、君の本当の気持ちを?」

 ウォルターの覚悟と誓いが、私の心に深く刻まれた。彼の言葉に触れた瞬間、私の中で何かが変わり始めた。彼の覚悟が、私の苦しみや悩みと同じ重さを持っていると知り、どうするべきかを真剣に考えさせられた。彼の言葉が、私の心の壁を一つずつ崩していく。

 私の内側で、葛藤と感情が激しくぶつかり合う中、彼の真摯な瞳が私を見つめている。どう答えるべきか、どう感じているのかが、自分でもわからなくなっていた。しかし、ウォルターの誓いと覚悟が、私の心を震わせ、決断を迫っていた。

 そして、心の奥底で感じていた感情が、もはや隠しきれないほどに溢れ出してきた。それは単なる諦めではなく、安堵と幸福が入り混じった心地よい感覚だった。思わず息を呑み、涙がこぼれそうになったが、私は自分の感情に素直でいることを決心した。

 深呼吸をして、心の中で固めた決意を持って彼を見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「あなたがそう言ってくださるなら、私も勇気をもって応えます。最優の騎士ウォルター、あなたのことが好きです……。これからも、ずっと、ずっと私のそばにいてください」

 私は彼の瞳に映る光に届くように願いながら、その言葉を吐き出した。心臓が鼓動を速め、全身が震えるような感覚があったが、それと同時に、ウォルターの表情が柔らかく、穏やかに変わっていくのを見て、安心感が広がっていった。

 それは、私にとって生まれて初めての心からの告白だった。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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