第55話 衣装合わせと戸惑いと

文字数 10,930文字

 翌日、茉凜と二人きりになると、心臓がいつもより速く脈打ち始めた。誰にも知られることなく、この瞬間を待ち続けていた自分に気づいた。皆に知らせる前に、どうしても彼女の反応を知っておきたかった。茉凜がどう思うか、それが私にとって重要だったのだ。

 彼女は窓辺に立ち、外の景色に目を向けていた。陽の光がその髪に降り注ぎ、柔らかい光の中で彼女のシルエットが美しく浮かび上がる。そんな彼女の背中に向かって、私は意を決して声をかけた。

「劇の出演の依頼だが、引き受けようと思う……」

「でも、いいの? 女の子の役だよ?」

 振り返った茉凜の瞳がふわりと輝き、その声には期待とわずかな不安が混じっていた。彼女の表情は真剣さと心配が入り混じり、その自然な反応が私の心に響いた。

「弓鶴くん、ちょっと迷惑そうにしてたから、断るんじゃないかって思ってた。役柄を交代してもらえるなら、私かアキラちゃんがやってもいいかなとは考えてたんだけど……」

 その言葉に、私は胸の奥がほんの少しざわめいた。茉凜の優しさが伝わり、自分がどう感じるかよりも、私のためを思ってくれている彼女の心遣いに心が温かくなった。

「本音を言えば、やっぱり抵抗はある。でも洸人が言ってたように、挑戦してみるのも悪くないと思うんだ。それに───」

 そこで少し言葉に詰まった。茉凜の瞳がじっと私の言葉の続きを待っている。その仕草は無邪気さと期待が混じり、私の胸を突く。

「脚本がとてもよかったというのもある」

 私がそう告げると、茉凜の目がさらに大きく開かれ、喜びの光が差し込んだように見えた。

「うん、そうそう。昨夜読んでみて、ちょっと感動したよ。お話としては普通かもしれないけど、メイヴィスの気持ちがとても切なくて、泣きそうになったし、頑張ってって応援したくなっちゃった」

 彼女の話し方は感情が言葉に乗っていて、自然に伝わってくる。その純粋さに、私も自然と微笑んでしまう。

「俺もそんな風に感じた。だから、ちょっと興味があるんだ。とはいえ、俺に女の子の演技ができるとはとても思えないがな。お前はどうなんだ? 男の役だぞ? いいのか?」

 私が苦笑いしながら言うと、茉凜は一瞬こちらを見つめ、その後すぐに勢いよく私の方へ駆け寄った。笑顔がふわりと広がり、その笑顔が全身に伝わるように軽やかだった。

 彼女の右手がぎゅっと私の手を握った瞬間、その手のひらの温もりがじんわりと私に伝わってきた。柔らかく、優しく、しかしどこか決意に満ちた握りだった。茉凜は私の目をまっすぐに見つめ、声を弾ませながら言った。

「大丈夫。弓鶴くんがやるって言うなら、私も頑張るよ! 俄然やる気が出てきた。あーっ、楽しみだな!」

 彼女の瞳が輝き、笑顔がさらに広がる。その表情は無邪気さと決意が混じり合い、まるで子供が新しい冒険に踏み出す瞬間のようで、私の心を完全に引き込んでしまう。

 その瞬間、私の胸の中にあった不安がすっと和らいでいくのを感じた。茉凜の純粋な期待と、彼女から伝わってくる温かさが、私の心を優しく包んでくれた。

「茉凜がウォルターで、私がメイヴィスになる……」

 共に一つの物語を紡ぎながら、彼女の期待に応えたい。何より、私は茉凜が心から喜ぶ姿を見たかった。その一心で、私は自分の一時の夢に縋ろうとしているのだと実感していた。

       ◇        ◇

 その後、洸人と明に確認を取った。洸人は即座に了承してくれたが、明の反応が気になった。

 明は少し視線をそらしながらも、どこか自嘲気味に口を開いた。

 「弓鶴くんがやりたいって言うなら、やるしかないでしょ。ただ、ムカつくけど……」と、彼女は渋々ながらも賛同してくれた。けれど、その言葉の裏には、心の奥底で渦巻く複雑な感情がちらりと見え隠れしていて、私は胸が苦しくなった。彼女がどれほどの葛藤を抱えているのか、痛いほどわかる。

 私としては、彼女がこれをただの劇の中の役柄と割り切ってくれることを、心から願うばかりだった。私自身も、そのつもりで臨もうと強く意識していたのだが、それがうまくいくかどうか、不安が拭えなかった。

 放課後には演劇部の皆に、私たちが彼らを差し置いて役柄を演じることが正当なのかどうかを尋ねた。心の中では、彼らの期待を裏切らないようにしなくてはと、少し不安になっていた。

 部長の坂上さんは、部の現状が非常に厳しいと説明してくれた。

 部員が少なく、予算も限られていて、正直なところ私たちの助けが必要だという、坂上さんの話を聞いて、心から彼らを支えなければと決意した。私たちの出演が部にとって必要であり、少しでも力になれるのなら、精一杯努めようと心に決めた。

「僕たちは全力を尽くすつもりです。ただ、演劇の経験がまったくないですし、特に僕の場合、女の子の役など全く自信がありません。その、すみませんが、一から教えていただくことになると思います。どうか、ご指導のほどよろしくお願いいたします」

 そう言って頭を下げると、彼らは「任せて」と力強く答えてくれた。その言葉に、ほっとした安堵感が広がった。

 ただ、準備期間は一ヶ月少ししかない。演劇部の指導とサポートがあるとはいえ、果たしてどこまでできるのか、不安が募るばかりだった。それでも、全力を尽くすしかない。役作りも稽古も、何もかもが初めての挑戦だが、一つ一つのステップを大切にし、少しでも期待に応えられるよう、心を込めて努力するしかない。

       ◇        ◇

 そこから、怒涛の日々が始まった。毎日の訓練を欠かさず行い、それ以外の時間は勉強もそっちのけで、ひたすら演劇に向けたトレーニングに費やすことになった。

 最初は体力的にも精神的にも非常に厳しかった。朝から晩まで続く稽古に、筋肉が悲鳴を上げ、心は限界を感じていた。しかし、次第にこの新しい挑戦が、私の日常の一部となっていった。練習の合間に鏡で自分を確認し、役柄に近づくために一歩一歩前進する自分を見つめるうちに、次第に演劇の世界に没頭する自分がそこにあった。

 新しい役に対する理解が深まり、稽古場でのひとときが、日々の疲れを忘れさせるほどの楽しさをもたらしていた。仲間たちと共に汗を流し、時には笑い合いながら、少しずつ形になっていく役柄に心から喜びを感じるようになった。挑戦は続くが、それを乗り越えた先にある達成感を信じて、全力で取り組む毎日が続いていった。

 衣装については、予想外の展開となった。出演者全員が、基本的に制服をベースにした衣装で済ませることになった。理由としては、観客の大半が在校生であるためだという。キャラクターたちが「等身大の人間」として描かれることで、観客が自身を重ねやすくし、感情移入しやすくなる狙いがあったとのことだ。

 しかし、実際のところは、予算の制約が大きな理由だった。衣装費用を抑えるためには、役柄への理解と演技力が一層重要になるという現実があった。

 この方針により、私たちはより一層役作りや演技の向上に力を入れる必要があった。制服という限られたコスチュームの中で、どうやってキャラクターを表現するかが大きな課題となり、それに応じた演技の工夫が求められた。衣装の制約があるからこそ、一層深い役作りと演技力が求められ、その挑戦が私たちを一丸となって取り組ませる要因となった。

 ただし、ヒロインである私と主役の茉凜だけは別扱いだった。

 茉凜に関しては、男性の役であるため男子の制服姿で、コスプレ小道具として剣を持たせるという、一見シンプルでありながらもどこかユニークな設定が施されていた。彼女の役柄に合わせて、少しファンタジー色のある装飾が加えられたのだ。

 さらに、左腕が不自由な茉凜を主役とするための配慮として、当初から「ウォルターは戦傷で左腕が満足に動かせない」という設定が組まれていた。

 脚本読みの段階で、彼女のために特別な設定が施されていると知った瞬間、私の心は微かにざわめいていた。部の皆が茉凜に寄せる気遣いと優しさを感じ、それをどう受け取るのか、彼女の反応が気になった。

「茉凜、このウォルターの設定について、どう思う?」

休憩時間の合間に、私は軽く問いかけた。茉凜は少し考え込むように視線を落とし、眉を寄せたが、その後、ふわりと柔らかい微笑みを浮かべた。

「少し驚いたけど……むしろ、ありがたいかな。これで、気にせず演技に集中できるし、ウォルターにそういう背景があるのもすごく面白い展開になると思うんだ」

 茉凜の微笑みは、彼女がこの配慮を真正面から受け入れ、前向きにとらえていることを表していた。その笑顔が、じんわりと私の胸に暖かさをもたらした。いつもそう。茉凜は、困難な状況でも前を向いて進んでいく力強さを持っている。

「お前がそう思うなら、俺も安心だ」

 彼女が期待を膨らませている様子を見て、私はふと、ウォルターというキャラクターが、彼女自身の心の深い部分と重なっているのではないかと感じた。

 一方の私はというと……

「おい、これを俺に着ろっていうのか?」

 眉をひそめて尋ねると、高岸が満面の笑みを浮かべながら、自信たっぷりに華やかな白のドレスを差し出してきた。その瞬間、私の心臓が激しく打ち、顔が引きつった。恐怖と驚愕が私の体を包み込み、呼吸が急激に浅くなっていくのを感じた。

「どうして俺だけこんなものを? 本気で言っているのか?」

 震える声で問いかけると、ドレスの柔らかな光沢が私の目に映り、心の奥に冷たい波紋が広がった。目の前に突き出されたそのドレスが、私の内面に深いショックをもたらし、手がかすかに震えるのを抑えながら、周囲を必死に見回した。しかし、部員たちは私の困惑に気づいている様子もなく、どこを見ても誰も助け舟を出してくれることはなかった。

 「これが試練というものか……」と呆然とつぶやきながら、頭の中が真っ白になり、言葉が喉に詰まって出てこない。ドレスの華やかさと自分の無力さが交錯し、心の奥底に深いショックと絶望感が広がっていった。胸の中に押し寄せる不安と恐怖が、私を立ち尽くさせる。

 深い溜息をつきながら、私は手にしたドレスをじっと見つめるしかなかった。

 確かに、弓鶴の体は男の子としては少し頼りない印象が拭えない。背はそれほど高くないし、体つきも華奢で、肩幅も狭い。弓鶴自身がこの外見をどう感じていたのかはわからないけれど、彼の体を使って生きる中で、私は無意識に女である自分を忘れようと、少しでも「男らしくなろう」としていた。

 毎朝、トレーニングルームで汗を流し、体を鍛えた。もっと筋肉を付けて、弓鶴の体が男らしく見えるように努力した。けれど、彼の体質のせいなのだろうか、体が引き締まることはあっても、思うように筋肉が付かなかった。

 だから、もしかしたら、という思いはあった。でも、今目の前に広げられたドレスに対して、どうしても抵抗感があった。この繊細で美しい生地に包まれた自分を想像するたびに、違和感と興味が入り混じり、心がざわついた。男の子の体でこのドレスを着ることが何を意味するのか、それは私にもはっきりとはわからない。

「男らしさ」という概念と弓鶴の体と、女の子としての私。その両方が交錯し、私はドレスを手にしたまま、しばらく動けずにいた。

       ◇        ◇

 よく見ると、ドレスは精緻なレースが光を受けて煌めき、ハイカラーとフリルの袖が優雅に広がり、後ろで結ばれたリボンが完璧に整えられていた。スカートの裾はふわりと広がり、その装飾はまさにヒロインが着るべき衣装そのものだった。

 本音では、その美しいドレスに「これって素敵だな」と感じてしまう私もいた。それでも……

「どうしても俺が着なきゃならないのか? 男としては尊厳の部分で複雑な気分なんだが」

 予想していたとはいえ、これほど華やかなドレスを着るように言われては困ってしまう。今の私は弓鶴で、男の子の身で似合うはずがないと感じていた。

 それにも関わらず、高岸は私の衣装姿を既に脳内で妄想していたらしく、「もう、ぜったい似合うから!」と譲らなかった。その確信に満ちた言葉に、私はただ呆然とするしかなかった。

 このままだと、物陰に引っ張り込まれて強引に着替えさせられかねない勢いだったので、恐怖に駆られてしまった。

「わかった! 着る、着てみるから、自分で着替えるから、ちょっと待ってろ」

 強がりながらも、ドレスを手に取り、部室の仕切りの向こうに逃げ込んだ。背中で仕切りを押し開けると、ドレスの裾がふわりと揺れる感触が心に深く刻まれた。

 仕切り越しに茉凜が心配そうに私を見守っていた。その視線を感じるたびに、不安と恥ずかしさが混じり合い、顔がますます赤くなっていった。心の中では動揺が募り、ドレスを手にするたびにその重さが心に重くのしかかる。自分がどこまでこの試練に耐えられるのか、ただただ不安でいっぱいだった。

「弓鶴くん、大丈夫? 手伝おうか?」

 茉凜の声が優しく響き、その響きに私はますます顔を赤らめた。どうしてこんなにも恥ずかしいのだろうか。ドレスを手にした私の手が震え、心臓が異常な速さで鼓動しているのを感じた。

「一人でできる! 着た後で、おかしくないか見てくれ」

 自分の気持ちをなんとか整理しようとしたが、着たこともない繊細なドレスを一人で扱うのは予想以上に難しく、どうしたらよいか悩むばかりだった。ドレスの生地が指先で触れるたびに、心がくすぐられるようで、余計に不安が募った。

「せっかくきれいな衣装なんだから、大切に扱わないと。予算だって限られているんだし」

「来るな、来るなって」

「だめっ」

 必死に拒絶したにもかかわらず、茉凜は有無を言わさず仕切りの中に入ってきた。彼女の優しい瞳が私を見つめると、私の心はますますざわめき、言葉を失ってしまった。彼女の存在が近づいてくるたびに、私の恥ずかしさと困惑がより一層深まっていった。

「女の子の服なんて慣れてないから、着るの大変でしょ? わたしが手伝ってあげる」

 彼女の言葉に、私はさらに顔を赤らめながらも、「いい、なんとかする。あっちへ行ってろ」と必死に強がった。

「もう、強がりなんて言ってる場合じゃない。はい、服脱いで脱いで」

 茉凜がそう言いながら、優しく近づいてきた。彼女の声に含まれる親しみと優しさに、私はどうしようもなく心が揺れてしまった。ドレスを抱きしめるようにして身構えている私に、茉凜は優しく手を差し伸べてきて、その姿に自然と後退りしてしまった。

 彼女の優しさには他意がないことはわかっていたが、その親切さがかえって私の恥ずかしさを一層引き立てた。

「えええ……」

 茉凜に迫られ、私は顔が急に熱くなり、どうしても気恥ずかしさが抑えきれなかった。彼女の無邪気な微笑みが、私の内心にさらなる羞恥心を引き起こしていた。

「しょうがないな」と茉凜は少し呆れた顔をしながら言った。

「なに恥ずかしがってるの? 男の子でしょ?」

「それはそうだが……」

 その言葉を聞きながらも、私はどうしようもなく窮するばかりだった。海水浴のときですら肌を晒すのが恥ずかしかったのに、こんなドレスで女の子のように着飾る状況と、茉凜に着替えを見られることを考えると、どうしようもないほどの恥ずかしさがこみ上げてきた。

「ほらっ、早く」

 彼女の急かすような声が耳に残り、私の手はどうしようもなく震えた。茉凜の目の前で服を脱ぐという行為が、心の奥深くで激しい動揺を引き起こしていた。いつもとは違うこの状況に、心臓が痛いほど強く脈打ち、その鼓動が全身に響いていた。背を向けているのに、茉凜の視線が鋭く突き刺さるように感じてしまうのは、彼女が特別な存在だからだろう。

 私は女であるにもかかわらず、彼女の前で服を脱ぐことに意識せずにはいられなかった。茉凜が私にドレスを着せてくれる間、私は緊張で体をこわばらせ、目を閉じていた。彼女の柔らかな髪の香りや優しい息遣いが、間近で感じられ、そのたびに心臓が胸の奥でさらに早く脈打ち始めた。茉凜の温かさと優しさが、私の心に複雑な感情を巻き起こしていくのがわかった。

「はい、できた。うん、よく似合ってるよ」

 茉凜の言葉が響き、私はゆっくりと目を開けた。ドレスの滑らかな生地が肌に触れる感覚を確認しようと、無意識に体を動かしてみる。しかし、男性の身体で女性の衣装を纏っていることに、どうしても違和感が消えず、心の中に小さな不安が募っていくのを感じた。

「これ、本当に大丈夫なのかな……?」

 心の中で自問自答しながら、華やかなドレスの装飾やシルエットが、自分には不釣り合いに感じられた。鏡がないため、自分の姿を正確に確認することができず、ますます不安が募っていった。

 茉凜のことを考えると、緊張と恥じらいが一層強まった。彼女が私のこの姿をどう思っているのか、心の中でそのことでいっぱいになり、頬が赤くなり、視線を床に落としてしまった。

 「恥ずかしいけど、どうにかしないと……」と心の中で呟きながら、自分の不安を振り払おうと必死だった。その努力も虚しく、緊張感が体を締め付け、内心では自分を見せることへの不安が募っていた。

「うん、いい感じ。あとは見てもらってチェックだね。さぁ、いこうか」

 着替えが終わると、茉凜は私の手を取って、優しくも強引に仕切りの外に引っ張っていった。私は赤面しながら、俯くしかできなかった。彼女の手の温かさと、私の心の不安が入り混じり、足元がふわふわとした感覚に包まれていた。茉凜が私を引っ張るたびに、心臓がさらに早く脈打ち、体中に緊張が広がっていった。

       ◇        ◇

 部室の空気が緊張で重くなり、私の心臓は急速に脈打ち始めた。部員たちの視線が一斉に私に集中し、そのプレッシャーに耐えながらどうにかして落ち着こうと努めた。そこに高岸の「ほうっ!」という驚きの声が部室に響き、私の不安はますます募っていった。

 自分がこの華やかなドレスを本当に着ていいものなのか、心の中で自問自答せずにはいられなかった。

 高岸が満足げに頷きながら、キャスター付きの姿見を部室の中央に押してきた。その笑顔が、私の不安をさらにかき立て、心の中で自分に対する疑念がふくらんでいった。まるで高岸の笑顔が、私の不安を引き裂くために存在しているかのように感じられた。

「え……」
 
 鏡の中に映る自分を恐る恐る見つめると、そこには予想外の光景が広がっていた。映っているのは、弓鶴でも過去の私でもなく、まるで物語のヒロイン、メイヴィスそのものだった。ドレスが光を受け、夢の中から現れたかのような装いに包まれていた。

 鏡の中に映る自分を見つめながら、心が揺れ動くのを感じた。緑色のウィッグがまだ届いていないにもかかわらず、目の前の光景は息をのむほど美しかった。そこに映っているのは、ただの自分ではなく、まるでメイヴィスその人が息づいているかのようだった。

 その美しい姿に心を奪われた私の口から、自然と台詞がこぼれた。

「……巫女といっても、私は精霊の泉に捧げられる生贄みたいなものだから。そうするために生まれて、そのためだけに生かされてきた。外の世界も知らず、人並みの幸せなんてきっとやって来ないって思っていたから、ちゃんと生きてみようだなんて、考えたこともなかった……」

 言葉が鏡の中の私と深く結びつき、胸の奥で静かに響き続ける。頬に伝う涙が、その感情の深さを物語っていた。鏡に映るのは単なる衣装ではなく、自分の心の奥底に潜む物語そのものだった。この瞬間、私はメイヴィスとしての自分に心から感動し、どこかで本当に彼女になったかのような錯覚を覚えていた。

 この美しい装いと共鳴し、心の中で抑えきれなかった感情が一気に溢れ出してきた。メイヴィスとして生きることの意味を、初めて実感した瞬間だった。

 台詞を言い終えると、部室の空気が一変した。周囲の人々が一斉にどよめき、私はその反応に驚き、周りを見渡す。皆が黙ってじっと私を見つめており、その視線の意味が掴めず、心が不安でいっぱいになった。その不安が深まる中、沈黙が流れ、何かまずいことでもあったのかと焦りが募った。しかし、その予想とは裏腹に、皆の表情が明るくなり、目が嬉しそうに見開かれた。

「こいつはすごい! 予想以上だ」

「柚羽くん、衣装よく似合ってるよ。これならいける!」

 演劇部の部員たちから次々と声が上がり、その熱気に私は少し戸惑いながらもほっとした。彼らの賛辞に安堵し、少し緊張が解けるのを感じた。茉凜は満面の笑みを浮かべ、明はびっくりした表情で口を押さえていた。灯子と洸人は拍手をしながら称賛していた。

 しかし、その盛り上がりの中で高岸だけは、どこか不気味な笑みを浮かべていた。彼女の瞳は狂喜に満ちており、その表情がさらに私の緊張を高めた。

「これほどとはっ……。完璧だっ、このキャスティングで演目は既に成功したといっても過言ではないっ! 私の目に狂いはなかった!」

 高岸は感動に打ち震えながらガッツポーズを決めていた。そのあまりの情熱的な様子に、私は「なに? この人こわい」と少し引いてしまった。彼女の興奮が、部室の雰囲気を一層緊張感漂うものにしていた。

「今からそんなことを言っていいのか? 俺にはそんな自信なんてない。それに……」

 言いかけて、私は思わず言葉を止めた。

 キャスティングがイメージ通りにはまったとはいえ、肝心なのは演技の質だ。自分が本当にその役に合っているかどうか、期待に応えられるかどうかは全く不透明だった。自信がないままでは、不安が募る一方だった。

 そのとき、高岸が意外な反応を見せた。

「柚羽くん。私は本当に嬉しいよ。脚本の意図をしっかり汲み取ってくれてるんだね」

「え? いや、そういうわけじゃないんだが」

「いやいや、さっきの台詞まわしは完璧だったよ。私がイメージしているメイヴィスそのままと言っても良いくらい」

「まさか、嘘だろ?」

 驚きと半信半疑の気持ちが入り混じっていた。自分の演技にそんな自信を持つなんて考えられなかったから、信じられない思いでいっぱいだった。

「本当だよ。君はまさにメイヴィスそのものになりきっていた。短期間でここまで役作りできるとは驚いたよ。君には演者としての素質が十分にあると思う」

「買い被るのはよしてくれ。俺は特に意識してやっていたわけではない」

 私はただ自分の過去と現在の感情を重ね合わせただけだと思っていた。演技に対する自信はなく、ただ役に入り込むことで必死に自分を表現しようとしただけだったからだ。

「マジで? だとしたらすごいことだよ。つまり自然に役を落とし込めるってことだからね。普通に考えていきなりできるなんてありえない。もしかして、君はどこかで演技した経験があるの?」

「あるわけないだろうが」

 冷淡に答えたつもりでも、心の奥では自分がこれまでどれだけ演じてきたかを振り返っていた。私は演技をするつもりなどなかった。だが、人生の中で何度も異なる役割を演じてきたことを思い出していた。

 深淵のお飾りの巫女として、解呪のために生きた時間、そして今は弓鶴としての仮面を被りながら生きる日々。これらの役割が私の一部になっていることを感じていた。演じることが、生きるための一部となっていることを。

 それを認識しながらも、演劇部の皆が称賛するほどの成果を出せる自信は持てなかった。どこかで、私は自分が本当にその評価に値するのか、不安に思っていた。皆の期待に応えられるのか、その不安が心の中でぐるぐると渦巻いていた。

 高岸の話が続く中、私の心は複雑な感情で揺れていた。自分の経験と実力に対する疑念と、他人の評価との間で揺れる気持ちが、心の中で混ざり合いながら、どうにも整理できずにいた。

 私は彼女が語るメイヴィスというキャラクターの物語が、自分の内面に潜む部分と深く重なっていることに驚きながら、その役にさらに没入していくことを考えていた。メイヴィスの物語は、私自身の内面に入り込み、その葛藤や感情までが私の心に重なっていく。まるで物語の一部として自分を再発見するような感覚だった。

 役に没入することで、自分の一部をさらけ出すことになるのではないかという不安もあった。その一方で、物語に対する深い理解と愛情が私を虜にし、強く駆り立てていた。

 そして、「これは演劇なのだから、割り切ってやればいい」と、自分に言い聞かせていた。内なる葛藤と向き合いながらも、その挑戦に立ち向かう気持ちが心を満たしていた。

 遅れてやって来た部員が、私にメイヴィス役用の緑色のロングヘアーのウィッグを差し出してくれた。それをつけてもらい、鏡の中の自分を見つめると、まるで別人になったような感覚に包まれた。ウィッグがふわりとした髪のように顔の横に流れ、ドレスの精緻なレースがまるで光の粒子のように輝いていた。背筋を伸ばした姿勢、肩にかかるフリルの柔らかさ、全てが今まで経験したことのない新しい感覚を与えていた。

 茉凜の声が、とても柔らかく聞こえた。

「弓鶴くん、とっても綺麗だよ」

 その言葉に、胸が一瞬のうちに熱くなった。彼女にそう言ってもらえて嬉しくて、とても照れくさかった。嬉しさと恥ずかしさが混じり合い、心が暖かく包まれた。

 次々と部員たちの反応が寄せられた。高岸の感嘆の声や、他の部員たちの驚きの声が部室の中に響き渡った。

 「まるで本物のお姫様みたいだね!」と誰かが言うと、さらに周囲の視線が集まった。その期待と称賛の中で、自分が本当にこの役にふさわしいのかという不安が交錯していた。

 「どうだい、どうだい?」と高岸が私に声をかけてくる。その問いかけに対して、私はただ頷くしかなかった。

 鏡の中の姿を見て、確かにヒロインらしさが現れていると感じられて、これが本当に弓鶴なのかと信じられないくらいだった。そして、それはきっと、抑えられない私自身が溢れ出た結果なのだと理解していた。

 「これからが本番だね」と、茉凜が優しく微笑みながら言った。

「わたしたちみんなで、この劇をいいものにしていこう」

 その言葉に、心の奥底から力が湧き上がるのを感じた。彼女の期待に応えたい、彼女と共にこの舞台に立ち、物語を作り上げることで、自分の役割を全うしたいという気持ちが一層強くなった。

 部室の空気が一瞬のうちに変わり、緊張感と期待が入り混じった雰囲気が漂っていた。私は周囲の視線を感じながらも、茉凜の言葉とその温かい支えに、少しずつ自信を取り戻していった。

「そうだな……」

 私は茉凜に答えながら、彼女の瞳をじっと見つめた。彼女と一緒なら、きっとどんな事でも乗り切れる。そう思っていた。

 「さあ、気合を入れてもう一度やってみよう」と、高岸が声をかける。私も茉凜も、これからの挑戦に向けて気持ちを新たにし、次の稽古に臨む準備を整えた。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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