第60話 扉を開けて 3

文字数 7,178文字

 精霊の泉に捧げる舞───それは、私にとって避けられない運命の重みを感じる瞬間だった。

 薄暗い光の中で、私の心は静かに震えていた。泉の水音が耳元に囁くように響き、まるで遠い昔から語り継がれてきた悲しみを伝えているかのようだった。どうして世界は、私を拒絶しようとするのだろう?私に何度も絶望を押し付け、私が選び取った自由さえも試すように。

 この舞に込められた巫女たちの想いを感じるたび、私の胸に刻まれた悲しみが少しずつ染み渡っていくような気がした。彼女たちは命を捧げ、泉のために生き続けてきた。それが、私の運命でもあった。

 だけど、ウォルターと出会って初めて知った。悲しみの中にも、心の奥底に眠る自由への強い願いがあったのだ。彼と過ごす時間は、まるで希望の光のように私の心を照らしてくれた。

 だから私は、あなたを選んだ。あなたの手を取り、短い間とわかっていても、一緒に歩むことを決めた。でも、それが正しい選択だったのか、今でもわからない。もしかしたら、間違っていたのかもしれない。

 もし、私がただの従者としてあなたを見ていたなら、私はすべて正直に話していたのかもしれない。

 けれど、あなたは私を王家の一員としてではなく、一人の女の子として見てくれた。年下の、世間知らずの、わがままな私を。その瞬間、私は戸惑いながらも、心の奥で胸が温かくなった。顔がほんのり熱くなるのを感じて、自分でも驚いたけれど、それがどれだけ嬉しかったかを忘れることはできなかった。

 ウォルターと過ごす時間は、私にとって特別で大切なものになっていった。彼のことを考えるたびに、胸がふわふわして、心が少しだけ弾むのを感じた。そんな私を受け入れてくれたあなたに、どれだけ感謝しているか、言葉では言い表せない。

 だからこそ、私は今、この泉と接続して舞うことを選んだ。あなたが私に与えてくれたたくさんのものへの感謝と、償いの気持ちを込めて───これは、私があなたに贈る最後の贈り物。

 これまでずっと守られてきた私が、今度はあなたを守る番だ。あなたが生きていける世界を、この命をかけて守りたい。もしそれができるのなら、私はそれ以上何も望まない。

 これがあなたとの最後になるかもしれないと思うと、心がきゅっと締めつけられるように悲しいけれど、それでも、この選択が私にできる唯一のことだと信じている。あなたのために、自分で選んでやりたいことなんだ。だから、後悔はしない。

 彼の笑顔を思い浮かべるたびに、心の中でこの温かい想いがじんわりと広がる。泉の力が私を包み込み、私の意志を力強く支えてくれる。その中で、彼を守るために舞うことが、私の使命であり、心からの願いだと確信している。

 最後の瞬間まで、あなたのために、私の全てを捧げる覚悟を持って、精霊の泉の力と共に舞い続ける。あなたが安心して生きられる世界を作るために、私の心を込めて、全力で守り抜く。それが私の誓いであり、最後の贈り物なのだ。

        ◇         ◇

 恐れることなく泉の中へと足を踏み入れると、冷たい水が肌に触れ、瞬く間にその水面が淡い光を放ち始めた。まるで泉が私を歓迎してくれているかのように、光は優しく私を包み込み、私の心に穏やかさをもたらした。

 自然に体が浮かび上がり、水面を滑るように進むたびに、胸の奥が静かに震えていた。泉の真ん中へと進むその瞬間、私の胸は高鳴り、命を捧げるという決意の証を強く感じていた。

 遠くから、ウォルターとサランの剣がぶつかり合う音がかすかに耳に届く。その一撃一撃が響くたび、私の胸に鋭い痛みが走った。振り向いて、彼の姿を一目見たい衝動が押し寄せてくるけれど、私はその衝動を必死に抑え込んだ。今、振り向くことはできない。振り向いてしまったら、きっと私の決意は崩れてしまう。

 だから、私はもう振り向かない。前に進むだけ。

 もし振り向いてしまったら、彼の顔を見てしまったら、決意が揺らいでしまうかもしれない。だから、私はその痛みを噛み締めながら、歩みを止めない。心の奥に彼への想いを閉じ込めて、ただ前だけを見つめ、泉の光に導かれるまま、私の役目を果たすために。

 この瞬間こそが、私がずっと覚悟していた運命なのだと、強く自分に言い聞かせて。

 風が冷たく頬を撫でるたびに、私は自分の内に届く精霊の声に耳を澄まそうとする。白い衣が風に揺れる感触は、まるで精霊たちが優しく私を包み込み、心の奥まで温かさを届けてくれているようだ。

 深く息を吸い込むと、胸の中にある鼓動が静かに響き、自然と体が舞いの流れに乗って、優雅に動き出す。泉の上を一歩ずつ踏みしめながら、私は精霊たちと一体になっていく感覚に包まれた。

 指先から足先まで神経を研ぎ澄ませると、まるで水中を自由に泳ぐ魚のように滑らかな動きが体を支配し、鈴の音が静かに空気を揺らす。その音に呼応するように、泉の水面に広がる波紋は、精霊たちが私の舞に耳を傾けている証拠だ。

 舞い続けるうちに、私の存在はただの少女から、精霊たちと一体化した存在へと変わっていくのを感じた。私の動きが、泉の水、風、そして溢れる光と一つに溶け合い、舞が精霊たちへの願いを届ける儀式であることを深く実感する。全てがひとつに溶け込むこの瞬間、私の心は安らかで、精霊たちとの深い繋がりを感じる。

 けれど、心の奥底から押し寄せてくる別の感情が、次第に私の意識を支配し始めていた。ウォルターのことがどうしても頭から離れない。彼と過ごした日々が、次々と鮮明に蘇ってくる。

 彼の優しい声、真剣な眼差し、そして照れくさそうに笑うあの表情――どれもが私の心を温め、今やそれが私を形作る一部で、それがもう見られないと思うと涙が止まらない。どうしようもなく胸が苦しくなり、彼が自分にとってどれほど大切な存在だったかを、今さらながらに痛感させられる。

 舞いの一つ一つの動きに、彼への想いが重なる。足を踏み出すたびに、その想いがさらに募っていく。この舞は精霊たちへの祈りであるはずだったのに、いつの間にか、彼への愛で満たされてしまっている。

 「ああ、彼と一緒にもっと旅を続けたかった。ずっと一緒にいたかった……」と、心の中で静かに呟く。

 本当は生きたい。彼との日々をもっと感じたい。一度手に入れたこの甘い果実を、簡単には手放したくない。なんて、私は傲慢で狡いのだろう。彼に黙って、すべてを隠したまま、ここまで来てしまった私が、こんなことを願うなんて、許されるはずがないのに。
 
 私はくるくると泉の上を回る。涙の粒がきらきらと飛び散る様は、私自身の儚い願いと、それが叶わぬことの悲しみそのものだった。それはまるで、夜空に散らばる星屑のようで、私の心の奥底から溢れ出るこの涙は、止めようとしても止まらない。回り続けるほどに、涙の粒は光を反射して、より一層鮮やかに輝きながら、泉の水面に吸い込まれていく。

 私の気持ちを精霊たちはどう受け取るのか、わからない。ただ、私の今の一番の願いは、彼を守りたいということ。それだけ。それが、私の心を突き動かし、涙となって流れ出す理由だった。



 その時、私の頭の中で声がした。耳で聴いたのではなく、まるで心そのものに直接語りかけられたようだった。それが誰なのか、どこから聴こえるのかすぐには理解できなかったが、その声には不思議な温もりと力が宿っていた。

 次の瞬間、私の身体は泉から湧き立つ光に包まれた。その光は優しく、しかし力強く、私を守るかのように膨れ上がっていった。泉の中で感じた温かさが、今や全身を包み込み、私の心の奥底にある願いが具現化しているのを実感する。

 光は次第に大きくなり、ウォルターの方へと広がっていく。その光の幕が彼を優しく、しかししっかりと包み込み、まるで私の心からの祈りが形になったようだった。光の壁がウォルターとサランの間に立ちふさがり、静かに、しかし確実にサランの前進を阻む。

「なんだよ、これは!? こんなの聞いてないぞ、ヴィルギレス?」

 サランの声が驚きと警戒に満ち、光の壁に反応して後退する。彼はウォルターから離れ、困惑しながらもヴィルギレスの元へと戻っていく。

 私はその光景を見つめながら、心の中で湧き上がる安堵とともに、自分の願いが少しでも彼を守る手助けとなったことに深い安心感を覚えていた。

 光の壁がウォルターを守り、彼に対する私の愛が少しでも形になったことが、私にとっての大きな慰めであり、希望の証だった。涙はまだ頬を伝っていたけれど、その涙が確かな意味を持ち、私の心の中にある真摯な願いが、今、確実に届けられていることを感じていた。

 すると、また別の声が私の中に響いてきた。

  



 その声はぞっとするほど冷たく、ヴィルギレスから発せられたものであるとすぐにわかった。彼の言葉は私の心の奥底まで見透かしているようで、私の運命も、悲しみも、願いも、すべてを知っているようだった。しかし、それは私を理解しているわけではなく、ただ私の弱点を突いて、さらに深い恐怖を引き起こそうとしているだけだと感じた。

 ヴィルギレスはさらに続けた。

使



 その言葉は、まるで悪魔の囁きのようだった。私を惑わせ、誘惑する言葉だと理解している。しかし、その誘惑の力は強く、私の心の奥深くで揺さぶりをかけてくる。

 私はその冷たい囁きに対抗しなければならない。自分の信じる道を守りたい。私の願いはただ一つ、彼を守ること。それ以外の道に踏み込むわけにはいかない。心の中で強く自分に言い聞かせる。

「断ります。魔族と取引するつもりはありません!」

 私は舞を止め、振り返ることなく毅然として答えた。言葉に迷いはなく、強い意志が込められている。その瞬間、自分の決意が一層固まるのを感じた。

  



 ヴィルギレスの声は冷徹で、感情のかけらもない。彼の言葉は単なる計算であり、私の心の奥底にある真実の願いを理解することはできない。それでも、その声の冷酷さに胸が締め付けられる思いだった。

 涙が止まらない。私の心の深いところで、どうしても彼との未来を願っている私がいる。その願いを拒絶しなければならない苦しさが、涙として溢れ出してしまう。

 私はこの涙の意味を理解し、止めることができない。心の奥底で私が本当に望んでいるのは、彼と共にいること。その願いを、今ここで拒絶しなければならない苦しさが、私の中で激しく渦巻いている。

 「彼は、こんな私をどう見ているのだろうか」。その思いが、胸の奥に痛みを引き起こす。

「それがどうかしましたか? これが私に唯一与えられた、大切な使命なのです。命を捨てることに何の後悔も躊躇いもありません。随行の騎士はそのための護衛に過ぎません。特別な感情などありません。」

 自分でも驚くほど冷静に、思ってもいない冷たい言葉が口をついて出る。しかし、その言葉を発するたびに、心が軋むような痛みが広がっていく。

 ヴィルギレスは冷ややかな目で私を見つめながら、冷酷に答えた。



 その言葉には、私の苦しみや葛藤を際立たせる冷徹な響きがあった。ヴィルギレスは私の内面の苦悩を見透かしながらも、それを冷ややかに嘲笑するように語る。彼にとって、私の心の痛みや葛藤さえも、単なる娯楽でしかないのだろう。

「何が悪いというのですか? 私はそのために生きてきた。それ以外に何も無い。」

 声がわずかに震えたその瞬間、ウォルターに悟られないことを心から願った。嘘を貫くことが、私の心の中で唯一の方法だと自分に言い聞かせる。ウォルターが私のことを嫌い、裏切りを憎んでくれることを心から願っていた。そうすれば、私が消えてしまっても、彼はすぐに私を忘れてくれるはずだ。

 その思いを抱えながらも、涙は止まらない。心の奥底で、彼との未来を夢見てしまう自分がいる。けれど、その願いを守るためには、自分を偽り続けるしかない。

 ウォルターが私の表情を読み取ることがないように、心の奥で渦巻く感情と決意の葛藤を、ただひたすらに隠し続ける。彼のために、そして自分自身のために、使命を全うしなければならない。

 その瞬間、ウォルターの叫びが私の心に深く突き刺さった。彼の声は私の内なる苦悩を引き裂くように響き、背中に鋭い痛みをもたらす。

「メイヴィス!!」

 ウォルターの叫びが、私の冷たい装いを打ち破り、心の奥深くにある痛みを呼び覚ました。彼の問いかけが私の心を直撃し、振り返る勇気もなく、ただ肩をすくめて冷たく返すしかなかった。胸の中の苦しみを必死で押さえながら、自分の心が崩れていくのを感じていた。

「さっき言いました。あなたは随行の騎士で、私を守ることが任務。それ以外に何があるというのですか?」

 私の声は冷たく響き、まるで心の中の温かさを完全に失ってしまったように感じられた。しかし、その冷徹な言葉の背後で、心は揉みくちゃにされていて、痛みだけがさらに増していくのを感じていた。

「君は馬鹿な嘘をついている!! それは一番いけない嘘だ!」

 彼の叫びが、私の内面の深いところで鳴り響く。私が隠していた真実が一気に暴かれ、心の奥で崩れる音が聞こえるような感覚に襲われた。必死に作り上げた冷徹な防壁を突き破り、そこから溢れる感情が私を押し流そうとしていた。

「旅の間、君はとても嬉しそうだった。外に出るのは初めてだと聞いた時にはびっくりしたが、だからこそ、初めて見る世界が楽しいんだろうなって思った。あれは君の心からの本当の姿だったと思っている」

 彼の言葉が、私の内側で強烈な波紋を広げ、胸の奥の温かい思いが一気にあふれ出しそうになるのを抑えるのが難しくなった。

 我慢できず振り向くと、彼の目に浮かぶ深い悲しみが目に入り、私の心の中に眠っていた感情を揺さぶられた。これまで必死に抑え込んできた感情が、ウォルターの深い悲しみを見て、あまりにも切なく、悔しくてたまらない。

 涙が止まらなくなる前に、自分を強く保とうと必死に努めるも、心の奥底で彼との思い出が波のように押し寄せ、私を押し流そうとしている。その痛みと切なさが、私の心を貫き、私の冷徹な仮面を崩壊させていく。

 「ウォルター……」と、私の心の中でその名前が呟かれ、私がこれまで心の奥底で隠してきた真実が、今ここで一気に溢れ出すのを感じていた。

「そうね、とても楽しかった。でも、私は最初からこうなることが決まっていたから、それまでの間、楽しませてもらおうって思っただけ。別にそれくらいは、いいんじゃないのかしら?」

 頬を涙で濡らしながらも、私は平静を装って答えた。内心では、自分の冷たい嘘が心の奥深くを痛みを伴って引き裂いていくのを感じていた。

「じゃあ、俺のことはどう思っていたんだ?」

 ウォルターの問いかけが、私の胸の内で暴風のように感情をかき乱す。彼の目の前で、私の心の奥に秘められていた感情が波のように押し寄せてくる。

「あなたは……とても勇敢な騎士で……とても頼りになりました。ここまで護衛としての役割を、よく果たしてくれました。感謝していますよ」

 言葉を口にするたびに、その嘘が私の心をさらに引き裂き、切なさと痛みが私を圧倒していた。ウォルターの目が、私の心の奥で暴風を巻き起こし、その中で私の感情が嵐のように暴れているのを感じる。

「本当にそれだけなのか? 君にとって俺はそんなものだったのか?」

 彼の声に込められた失望と痛みが、私の心に直接的に響く。その重さに耐えられなくなりそうで、涙で視界が歪んでいく。

「ええ、そうよ……。それだけのこと」

 その言葉が口から漏れた瞬間、私の心の奥から痛みが噴き出し、涙が止めどなく頬を伝った。自分でもなぜこんなにも辛いのか理解できなかった。ウォルターに対して隠し続けていた感情が、嘘と引き換えにこんなにも苦しいものであったとは思いもよらなかった。

 「これでお別れできる」と、心の中で繰り返しながら、私はさらに涙をこぼした。嘘で塗り固めた答えが、彼のためだと信じていたけれど、その結果としてのこの痛みが私を押しつぶしていた。

 再び彼に背を向け、泉に向き直った。その冷たい水面が、まるで私の心の反映のように感じられ、涙が止まらないまま、私は心の中で必死に自分を整えようとした。

「お願いします。あなたは一刻も早くこの場所から逃げて下さい。そして……生きて……」

 最後のお別れを告げるその瞬間、感情が込み上げてきて、涙が再び頬を伝っていった。この言葉が、私の一番深い願いであり、彼に対する最後のお願いでもあった。

「生きて……」

 その一言が、私の心の奥から漏れ出し、泉の水面に反響するように広がっていった。

 私の願いが、彼に届くことを、ただただ祈っていた。涙が流れ続け、心の中の痛みが溢れるその中で、私の感情は彼に対する深い愛と願いに満ちていた。

 背を向けたまま、私は彼がどんな反応を示すかを見ずに、泉に視線を落とし続けた。
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登場人物紹介

ミツル・グロンダイルのキャラクター設定

基本情報年齢: 12歳(外見年齢)


外見: この大陸では珍しい黒髪と薄緑の透き通った瞳。美しい容貌だが、体型は少し少年のようで、まな板の寸胴であることに敏感。自称年齢: 21歳(前世の記憶を持つため)


性格: 冷淡に見えながらも実は直情的で、一人でいることを好む。時折無邪気な一面を見せることがある。前世の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動き、冷静な大人の一面と子供っぽさが共存する複雑なキャラクター。


好物

食事に関しては美味しいものを少しだけなタイプ。剣の中の茉凜がアルコール依存になってしまったため。最近はお酒も嗜む。


社会的関係: 引っ込み思案で人付き合いが苦手なため、孤独を好む。しかし、孤独を埋めるために時折無邪気な一面を見せる。自分の力や能力に対する内なる葛藤と向き合いながら、過去の記憶と現在の状況の狭間で揺れ動く。


ミツル・グロンダイルの物語における役割

憧れの存在: ユベル・グロンダイル(父)の影響を強く受けており、彼の戦闘スタイルや技術に憧れを抱く。父の遺志を継いで魔獣を狩る役割を担う。

遺産と使命: 父が遺した白きマウザーグレイルを持ち、彼の意志を継ぐ重要な役割を果たしている。彼女の能力と背景は、物語の重要な要素となっている。

謎と葛藤: 彼女の能力と前世の記憶には深い謎があり、物語の進行とともにその全容が明かされる可能性がある。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語の核心に深く関わっている。


前世の名前: 柚羽 美鶴(ゆずは みつる)

年齢: 不明(死後、弟の弓鶴に憑依しているため、年齢としては弓鶴の年齢に準じる)

性別: 女性(現在は弟の弓鶴に憑依中)

出身地:九州地方某県の山中の柚羽家(深淵の三家の一つ、始まりの回廊の守護者)

職業: 柚羽家の後継者で深淵の始まりの回廊の巫女


 美鶴は深淵の三家の一つである柚羽家の長女であり、始まりの回廊の守護者。柚羽家襲撃事件で両親を失った後、叔父の虎洞寺氏に保護された。その後、両親の死の真相を知り、自ら人身御供になる覚悟を決め、柚羽家の後継者となった。彼女は密かに深淵の根源の再生を図り、解呪に臨んだが、その試みは失敗し、死亡した。


その後

 美鶴はデルワーズの画策により、弟の弓鶴と意識と記憶の全情報を交換させることで、彼に憑依する形で生き延びる。弟を取り戻すために再び解呪に進もうとした際、茉凜と出会う。茉凜が持つ「黒」の力の安全装置としての役割によって、二人は運命共同体となることが決まる。


 自らが女性であることに対する戸惑いと、茉凜に対する淡い感情を抱くようになり、自分が本当は弟ではないことや、茉凜が見ているのは弟であることに苦悩する。


 美鶴は両親の死の真相を知った後、自らが柚羽家の後継者として深淵の根源の再生を図ろうとしたが、その試みが失敗したことに対する責任感を抱えている。


 茉凜の猛烈なアタックに対して、次第に閉じていた心を開き始めると共に、彼女に対して淡い心を抱く。しかし、自分が本来女性であることや、それを知られることを怖れて受け入れることに苦しんでいる。


 美鶴は茉凜と共に深淵の根源の解呪に挑む中で、茉凜の存在が自らにとってどれほど重要であるかを認識し始める。しかし、彼女は自分の感情と状況に苦悩し、特に自分が女性として抱く感情や、茉凜が見ているのが自分ではなく弟であることに対して深い悩みを抱えている。


深淵の黒鶴

 精霊子に対する感受性が極めて高く、世界に漂うすべての精霊子を集積できる。彼女の前世の名前(美鶴)と組み合わせて【黒鶴】と呼ばれる。限定された空間(場裏)を形成し、その中でイメージ通りの現象を具現化。四大元素すべてを制御可能で、並列起動による複合行使も可能。背中に現れる翼は物質的ではなく、彼女の願望を投影したもの。


場裏

 限定された空間を形成し、その中で事象を操作。色で呼称される流儀に基づき、たとえば赤であれば熱の操作に関わり、イメージのままに具現化できる。詠唱や魔道具を必要としない強力な魔術として認識されている。戦闘と


能力の影響

 ミツルの戦闘スタイルは、前世の影響を色濃く受け継いでおり、流動的で柔軟な戦術が特徴。彼女の能力は瞬時に強力な現象を引き起こすことができ、そのため精神的な負荷が非常に大きい。精神崩壊や自我喪失のリスクが伴う。


精神的負荷

 精霊子の収集と能力の使用により、大脳辺縁系に過大な負荷がかかり、精神的な負担が大きい。特に精霊子への感受性が高い彼女は、負荷に耐えきれず暴走する危険がある。

ヴィル・ブルフォード

 ミツルの前にふらりと現れた、ぼさぼさ頭の無精髭の中年剣士。『黒髪のグロンダイル』の噂を聞きつけて訪れたという、彼の真意と思惑は?

 自らを『放浪のしがない剣士』と言う割に、その剣技は一流で、歴戦の強者。『雷光』とあだ名されると対魔獣戦のエキスパートで、その戦いぶりはミツルも舌を巻く。


年齢 48歳

身長 190センチ近い

体格 大柄で強靭

出身地 不明

職業  剣士、冒険者、元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長

髪: ぼさぼさの金髪。長さは無造作に伸びており、戦いの中で乱れたまま放置されている。

顔 無精ひげが顔全体に生えており、荒々しさと共に風格を漂わせている。

武器 中央に深い溝が彫られたブロードソード。鍛造で作られており、適度な粘りを持ち、滅多に折れない。


剣術スタイル

流派 雷光(らいこう)

特徴 巨体とその質量を生かした高速ダッシュ


戦闘スタイル

高速ダッシュ 雷のようなスピードで踏み込み、敵の懐に入り込む

敵の死角利用 相手の身体を死角として利用し、瞬時に繰り出される高速の斬撃で敵を仕留める

左手の傷 突きを繰り出す際に意図的に剣の先に左手を添え、敵の注意を引き付ける。実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、非常に巧妙。猪突猛進型でありながらも、臨機応変に対応できる柔軟さを持つ。これは、変幻自在で『型』のないユベルと毎日修練を積み重ねた結果(苦肉の策)による。


戦闘技術

片手剣術 基本的には片手でブロードソードを操るが、必要に応じて両刀も使うことができる。戦況に応じて剣の使い方を変え、迅速かつ的確に対応。


特殊技

雷光突き 瞬時に高速で踏み込み、突きを繰り出す技

閃光斬り 一瞬の隙を突き、相手の死角から高速で斬撃を繰り出す技


特徴と戦術

巨体と速度を生かして、魔獣の懐に入り込み、致命的な攻撃を繰り出す。視線誘導の技術で、敵の視線を引き付けてから攻撃する。


心理と性格

戦場での冷静な判断力と卓越した技術で、数々の戦場で名を馳せる。敵の動きを見極め、最適な攻撃や防御を選択する。どんな状況でも冷静に対応し、自信を持って戦う。猪突猛進型でありながら、変幻自在の戦術を使いこなす柔軟さを持つ。


元リーディス王国銀翼騎士団右翼副長を務めた経験を持つ。騎士団時代の訓練と経験が、彼の戦術的な判断力と剣術の技術に大いに寄与している。特に、ユベルとの修練で得た経験が、彼の変幻自在な戦術に大きな影響を与えている。


その戦闘スタイル

一九〇センチ近い大柄な体躯を持ちながらも、その強靭な体に似合わぬほどの軽快さを誇る剣士。彼の手に握られているのは、ロングソードよりも短いブロードソードに近いもので、中央には深い溝が彫られている。この剣は鍛造で、適度な粘りを持ち、使い手によっては滅多に折れることがない。


ヴィルの剣術のスタイルは「雷光」と呼ばれ、彼の巨体とその質量を生かした高速ダッシュが特徴。彼は特に大きな魔獣を相手にするのが得意で、雷のようなスピードで踏み込むと、敵の懐に入り込み、相手の身体自体を死角として利用する。瞬時に繰り出される高速の斬撃で、敵を一気に仕留める。


特筆すべきは、彼の左手に傷が絶えないこと。これは、突きを繰り出す際に意図的に剣の先に手を添えて、その手に注意を引き付けるためだ。敵がその手に視線を奪われている間に、実際の攻撃は横や下から繰り出されるため、彼の戦術は非常に巧妙。


ヴィルの剣は基本的に片手で操られることが多いが、必要に応じて双剣で戦うこともできる。その柔軟な使い方と、雷光のような素早さを駆使して、彼は戦場でその名を轟かせた。

茉凜(マリン)のキャラクター設定


基本情報年齢: 17歳

身長: 173センチ

プロポーション:高跳びの選手かファッションモデルのようなスラリとしたかっこいいスタイル。ただし本人は自覚なしで自信がない。 


外見: ミルクティーブラウンの髪、大きな瞳、お日様のような笑顔。純粋で優しい少女の姿が特徴的。


性格: 天真爛漫でポジティブ。どんな困難な状況でも明るさを失わず、死の淵の絶対的不利な状況でも輝く。特に追い込まれるとスイッチが切り替わり、予知視界を用いる能力が発揮される。


背景前世: 元々は私たちの世界に住んでいた人物。異世界に突然放り込まれ、さらに剣の中に転生させられるという過酷な運命を辿る。


役割: ミツルの相棒であり、恋人(?)。彼女の無条件の愛情と楽観的な性格がミツルの心の支えとなっている。過去のトラウマ: 落雷事故によるトラウマがあるが、それを嘆くことなく明るさを保ち続ける。ミツルにとっては大きな支え。


能力と役割能力: マウザーグレイル経由の予知視界。死の淵での絶対的不利な状況でも特に有効で、剣の中にあるこの能力が最大の武器である。


役割: ミツルの『深淵の黒鶴』を制御するための安全装置(セーフティ)として機能。暴走を防ぐ唯一の手段として、ミツルとの接触と精神的な感応が必要。自身の全てを捧げる覚悟を持ち、ミツルを守ることを使命としている。


心情と内面愛情: ミツルに対して無条件の愛情を注いでおり、彼女の存在はミツルにとって欠かせない心の拠り所となっている。愛情が恋であることに気づきながらも、その感情を告白することはできない。


支え: ミツルの冷たい態度や無口さの裏に隠された繊細な心を理解し、彼の孤独や苦しみを誰よりも感じ取っている。彼の心の支えとなることを自分の使命と感じ、彼を守るために自分の全てを捧げる覚悟を持っている。


内面の葛藤: 弓鶴(ミツル)が自分にとって特別でなくなるのではないかという不安を抱えながらも、彼の幸せを最優先に考え、自分の感情を抑え込んでいる。仲直りを図る際には自分を押し殺して彼らの関係を修復しようとするなど、内面的には複雑な感情が渦巻いている。

白きマウザーグレイル

基本情報正式名称: 精霊器接続式対魔族兵装 MW-CSV-DD MAUSER-GRELL(マウザーグレイル)

形状: 純白のロングソード

特徴: 刃に相当する部分がなく、実質的には何物も斬れない

構造と材質材質: 不明。構成素材については詳細が不明だが、非常に高い堅牢さを誇る。

耐久性: どんな魔獣の攻撃にもヒビ一つ入らないほどの堅牢さを持つ。

重量: 見た目よりも軽量で、非力なミツルでも自在に扱える。

機能と特性魔導兵装: 剣の形をとった魔導兵装であり、実際には物理的に斬ることはできない。

潜在能力: 現在のところ、ミツルもその実体と潜在能力については把握していない。

補助機能: ミツルの持つスキル「真凜」が安全装置として補助を行っている。

戦闘における役割安全装置: ミツルが持つ「深淵の黒鶴」の能力を制御するための安全装置として機能する。マウザーグレイルが実際の戦闘では使われないが、その存在がミツルの能力の安定に寄与している。

象徴的な意味: 剣そのものは物理的な攻撃力を持たないが、深い意味や力を秘めている可能性がある。特に、ミツルの精神的、象徴的な支えとしての役割を果たしている。

謎と疑問実体の不明: 現状、剣の具体的な機能やその実体についてはミツル自身も把握していない。剣の持つ潜在的な力や目的については謎に包まれている。発見される

可能性: 今後のストーリー展開で、その真の力や役割が明らかになる可能性がある。

ユベル・グロンダイル

 ミツルの父で、『閃光』の異名を持つ変幻自在の剣術を操る天才。すでに故人である。


ユベル・グロンダイルのキャラクター概要

年齢と外見:

年齢:50代外見:かつて金髪だったが、現在は黒く染めている。無精髭を蓄え、スリムで筋肉質な体型。優雅な立ち姿と流れるような戦闘動作が特徴。


役割と経歴:

元リーディス王国銀翼騎士団右翼リーダーであり、対魔獣戦のエキスパート。リーディス王国の銀翼騎士団に所属し、多くの戦場を経験。特に魔獣戦においてその名を馳せた。


基本戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の極みであり、その動きは流動的でまるで水のように変幻自在。力強さでは他の剣士に劣ることもあるが、素早さと身軽さで魔獣を屠る。ステップワークや変則的な体術を駆使し、敵の動きを予測させない巧妙な戦術を展開。回転しながらの斬撃や舞うような動きで敵の意識を散らし、戦局を有利に進める。


家族との関係:

妻:メイレア(元リーディス王国の第三王女)。非常に深い愛情を持ち、二人の関係はミツルにとって時折恥ずかしくなるほどの愛情表現がなされていた。娘:ミツルにとってユベルは憧れの対象であり、彼の戦闘スタイルや技術に強く影響を受けている。

最後の旅と戦い:

妻メイレアの行方不明後、ユベルは娘ミツルを連れて探索の旅に出る。愛する妻を取り戻すため、家族の絆を守るための決意を持っていた。未知の魔獣との戦いで命を落とし、その犠牲によってミツルは生き延びることができた。

白きマウザーグレイル:

ユベルが妻との絆として持っていた白きマウザーグレイルは、ミツルに託された。この剣はユベルの思いと愛情を象徴し、ミツルにとっては父の遺志を継ぐ重要なアイテム。


お尋ね者:

尊敬を集める存在だったが、妻を誘拐した罪が科せられ、お尋ね者として追われていた。ユベル・グロンダイルの戦闘スタイル


「柔」の戦術:

ユベルの戦闘スタイルは「柔」の戦術を体現し、流動的で変幻自在な動きが特徴。彼の動きは舞踏家のように優雅でありながら、非常に戦術的で緻密。


ステップワークと回転体術:

軽やかなステップワークで敵の攻撃を避け、回転しながらの斬撃で敵を翻弄。体操選手やフィギュアスケーターを彷彿とさせる華麗な動きが特徴。


対魔獣戦の特化:

魔獣の懐に自在に出入りし、相手の身体を盾として利用することで最短距離からの攻撃を実現。風のように迅速で、敵の反応を許さない。

彼の戦闘スタイルを際立たせている。

前世での二人

 それは第二章で語られる。

虎洞寺健

美鶴と弓鶴の叔父で、保護者であり協力者。

能力が実用に耐えない血族が所属する郭外のリーダーで、自身は多数の企業を成功に導いた実業家で資産家。その貢献によって上層部にも大きな発言力を持ち、水面下で二人の活動をサポートする。彼の目的は深淵の呪いからの解放と深淵の解体である。

佐藤さん

 柚羽家のお手伝いさんで、美鶴の理解者。昔からの柚羽家のお手伝いさんで、その家事能力は超人。茉凜の料理の師匠。

真坂明

 15歳の少女で、身長は152センチメートル。黒のショートカットが特徴的で、衣装は、黒のクロップトップと高腰のパンツ、袖にディテールが施されたオープンジャケットで、全体的にクールでスタイリッシュな印象。均整の取れたスタイルも、洗練された雰囲気に一役買っている。

性格は情熱的で、自分が思ったことをはっきりと口にするタイプ。弓鶴の元許嫁であり、真坂家の次期後継者としての重責を担っている。また、「深淵の赤の流儀」の高度な術者でもあり、その実力は並外れている。彼女の存在感は、その内に秘めた強い意志と、家の名に恥じない実力から来ている。

明は破談後も弓鶴を想い続けており、それが彼女の能力の原動力になっている。自身が家の後継者となり、弓鶴を婿として迎えようと決意した結果、兄二人を殺害してしまう。

柚羽 美鶴

 ミツルの前世で転生時二十歳。その過去はダイジェストとして第二章で語られる。ミツルの内向的なところは彼女の成分。

 前世では茉凜に対して次第に恋心を抱いていくが、さまざまな問題が障害となって、素直に気持ちを伝えられずにいた。

 彼女のバルファへの転生がグロンダイル家にもたらした影響が、ミツルが戦い旅する理由。

鳴海沢洸人

深淵の血族、上帳を構成する三家の一つ、鳴海沢の長子。流儀青の強力な使い手。弓鶴の確保のために遣わされるが敗退し、その後弓鶴と茉凜の監視役として転校してくる。

数年前に暗殺に失敗し、その後始末として対象を家族諸共惨殺したことがきっかけで、殺せない欠陥品になってしまった。強力な血を残すために家に留め置かれ、鬱々とした日々を送っていた彼を変えたのは、深淵の始まりの回廊の巫女からの言葉だった。 

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