第20話 革新

文字数 1,035文字

年が明けた天明5年。意知が死に間際まで

取り組んでいた造船計画が日の目を見た。

ついに、1500石級の俵物廻船【三国丸】が完成したのだ。

【三国丸】の3国とは、日本、支那、オランダの三国を示す。

 造船には、船大工6千名が携わり、費用は銀159貫かかった。

失政と批判が集まる中、大金をかけた

一大事業とあって失敗は許されなかった。

意次は、蝦夷地へ7万人の移民を送る壮大な計画を胸に秘めていた。

そして、意次は、喪が明けるのを待ってかねてから

計画していた蝦夷地の開発のための幕府の調査団を結成した。

御晋請方には、越後蒲原出身の幕府役人の山口鉄五郎を登用し、

勘定奉行の松本秀持、勘定組頭の土山宗次郎などを事務方に任じた。

意次は、探検隊を率いる隊長に、

数学者で絶世家の本多利明を登用することを考えたが

病を理由に辞退の返事が届いたため、

本多の弟子で幕府普請役の最上徳内を登用した。

隊員には、青島俊蔵・最上徳内・大石逸平・庵原弥六などを登用した。

多額の予算を幕府の財政から支出する事から、

これまた失敗の許されない大博打的な一大事業となった。

当然、意次は、事業が失敗した場合には、

潔く、老中を辞職する覚悟で挑んだ。

 一方、蝦夷地の開発に、最後まで反対していた

家治の病状は、日増しに悪くなっていた。

家斉は、家治の苦しむ姿が見たくない一心で、

見舞いを先延ばしにしていた。

「あの者は何奴じゃ? 」
 
 家斉は、側衆に促されて家治を見舞うため、

家治の居る中奥の御休息之間の前まで行った。

 その時、見覚えのない奥医師が

【御休息之間】から出て来る所を見かけて、

御休息之間の前に座り、出入りする者を鷹のような目で

監視している老中の鳥居忠意に訊ねた。

「あの者は、主殿頭が、奥医師として、新たに登用した町医でござる」
 
 鳥居が仏頂面で答えた。

「そちは、公方様のお傍にいて、今まで、何をしておった?

 一介の町医に公方様の療治を任せるとはあってはならぬ」
 
 家斉は思わず、声を荒げた。

「そうは申しましても、公方様がお認めになった町医でござる。

療治を任されていた大八木伝庵が、病を理由に登城せぬ故、

やむを得ず療治にあたらせておると聞いております」
 
 鳥居は、困り顔で告げた。

「さらば、わしが、公方様に直談致そう」
 
 家斉は、【御休息之間】の前に立ちはだかる

鳥居を押し退けると障子を少し開けた。

「大納言様。しばし、外でお待ちくだされ」
 
 鳥居はあわてて障子を閉めた。

「何故、待たねばならぬ? 」
 
 家斉が、鳥居をにらんだ。


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