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文字数 1,004文字

「そらそうよ、お(かんむり)だぜ」

「そう思っていてくれ、いつまでも。許さなくていい」

 校長は従軍歴が長すぎて、世間と感覚がちょっとズレているが、根は真面目で生徒には基本的に優しい。

 価値観や感覚が、人生で初めて訪れた平和な時代に慣れていないだけなのだ。

「フフ。お(かんむり)なんて言葉、よく知っているな。松本さんは語彙力(ごいりょく)が高い」

『お(かんむり)』という単語を知るキッカケとなった状況がナンだが、校長に褒められてソロは気持ちが弾んだ。

「その高い語彙力(ごいりょく)を生かして、乱暴な言葉遣いから、ちょっとずつ卒業したらいい」

「どうしよっかな」

 そんなことしたら、今よりも絡まれる頻度が上がる気がする。やめるのは怖い。

「余計なお世話だったな。乱暴な言葉使いを使う必要が無くなったら、自然と卒業する。私もそうだった」

「勝手に育つから、もっと放って置いていいんだぜ。今日だって来なくてよかったのに」

「通信インフラが整っていればそうしたさ。電子決済が使えていたら、前もって、タヌキにデジタルデバイスを持たせてタクシーで帰らせていた」

「菌根菌ネットワークじゃ、やっぱ不便か」

「支払いができないからな。やはり通信インフラに回復してもらわないと不便だ」

「生きるって不便だな」

「まあな」

「まあな。じゃ、なくて! おれを置いて行くなっ」

 暗闇からダッシュでキャピタルが現れた。
 すっかり存在を忘れていた。

「大変だ。兄ちゃんが来る」

「大変なのはお前だけだろ。挙式中に鼻歌すんなよ」

「タヌキから事情は聴いた。おめでとう」

 血相変えて追いついたキャピタルだが、みんな他人事である。

「おれも大変だけどソロも」

「オレが大変なのは家のゴミだけだぜ」

「私は結婚というものに縁がなかったから、どういうものだかわからないが、とにかく祝福する」

「おれは結婚なんかしません。あれは兄ちゃんが勝手に。とにかくソロ、早く逃げるぞ」

「逃げるって、どこに」

「ここから早く離れるんだ。まずいぞ」

 まずいのはキャピタルだけのような気がするが、まだ結婚したくないのに嫁がされるのは少し可哀想な気がした。いや、婿入りか。

「しょうがねぇな、少し付き合ってやるよ」

「なんだテメーその上から目線は」

「バンクから逃げるんならプロトタキシ―テスのとこに逃げようぜ。あそこなら見物客がウジャウジャいるから、おいそれと攻撃はできねーだろ」

「お前頭良いな」

 キャピタルの顔が急に明るくなった。よほど、まだ結婚したくないらしい。
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