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文字数 865文字

「ちゃんと通話記録も取ってあるからな」

 バンクは実の兄の皮を(かぶ)った敵なのだろうか。

「なんんン゛で取ってんだよぁあーっ! 」

 あんまりな展開に、キャピタルは床を転がったり腕立て伏せを始めたりした。

 やり場のない怒りと羞恥心(しゅうちしん)を持て(あま)しているようだ。

「見過ごして良いモノかどうか、妹と親父と軍の人にも聞いてもらったから。兄ちゃん、こんな時どうしていいか、わかんないからさ」

「何の目的があってそんあおぉお! 」

 ただの敵じゃない。天敵だ。

 家族に相談するのはわかる。

 だが、軍の人に公表するのはわからない。

 わかんないなら、わかんないなりに、いったん保留にするという発想が無いのだろうか。

「せっかくだから、L・Mも今聞いてみるか? 兄ちゃん、あれからいつも持ち歩いてるんだ」

「ばっ、バカ野郎! ぅおまええええええ!」

「なんだテメーその言い方はアっ! そんな乱暴な言葉使いを兄ちゃんに使うと、

になんのわかってんだろ! 」

 オカンムリ?

ソロは近場に転がっていた辞典をめくった。

『お(かんむり)  機嫌を損ねているさま、怒っているさまなどを表す表現。「冠を曲げる」の言い回しに由来する言い方』

「テメー電話代いくら掛かってっと思ってんだぁ? ええ? いくらっだと思う! ええ?」

 さっきまでそこそこ優しい声だったのに、急に借金取りのような荒々(あらあら)しい口調になった。


 アレが『お(かんむり)』状態らしい。


「払えねぇよなぁ! 」

「く、う、う、ううう・・・・・・! うあああああああああ」

 やり場のない感情を処理しきれなくなったのか、キャピタルはついに床に突っ伏して遠吠(とおぼ)えを始めてしまった。

ソロは先ほどキャピタルがボヤいた『()っさい兄ちゃん、おれもあんま得意じゃねぇんだ』が骨身に染みた。

 兄貴に悪気が無いのがまた悪質である。

「まあいい。X・M、いくつになった」

「15・・・・・・」

「お前、こっちの学校入学したのいつだ」

「そういう兄ちゃんはいくつになったんだよ」

「忘れた」

 それきり会話が続かない。

 さっきまで喋り倒していたのに、自分の話になった途端、やっと黙った。
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