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文字数 1,060文字
恋人の存在が話の通じない身内に知れたことで、何やら面倒くさい事態になってしまったキャピタルを同情するくらいには回復している。
きのこが内外傷に強くて本当に良かった。
遠巻きにキャピタルを見守っている隙に、酔っ払いの一人が、たぬキノコのドッグフードを勝手に周囲に振る舞っていた。
気が付いたときには手遅れで、みんな酒と一緒に流し込んでしまっていた。
「どうしよう」
「平気さ、まだあるから。ソロもいる? 」
「ドッグフードは紛らわしいから風呂敷に隠しとくぜ」
味は薄いが歯ごたえが良い、サイズ感が丁度良い、などと、そこかしこからドッグフードの評判が上がるのをよそに、ソロはリンゴを口にした。
すると、林田の顔が浮かんだ。
新聞記事に乗っていた顔写真だが。
ファンド<林田にやっと比重が変わった。
林田は背が高くて、あんなに端正な顔をしていたのだ。
きっと自分以外の誰かからも、思いを寄せられていただろう。
それこそ、同じ病院で過ごしたことのあるアベイユから好かれていたかもしれない。林田がアベイユを好きだった可能性だってある。
だとしたら、つらぁ。
「ソロ、どうしたの? 」
「林田のこと考えてた」
「見つかるといいね、人間部分」
林田とツル太郎が同じ顔をしていたことを、たぬキノコに話そうか迷う。
話せばバンクに知れてしまうかもしれないが、この秘密を抱えているのが辛い。
ガラテアにいつでも会えるなら秘密を抱えたままでも乗り切れそうだが、望んだ時にいつでも会える存在では無い気がした。
同じ捕食者であるガラテアが「林田=ツル太郎」になったのだろうと言っていたのだから、林田は捕食者になってしまった可能性が高い。
「たぬキノコ。捕食者ってさ、やっぱりオレらの敵なのかな」
「どうかな。人間から見たら圧倒的に敵だろうけど。『リブズ・マン・アザーズ』っていう名称だって、『人類と道を分かつもの』っていう意味で使われているし。あくまでも人類の敵であって、僕らにとっては、ちょっと違うんでない? 祖先も一緒だし」
「でも、襲う時に区別はしないじゃん」
「そうだね、きのこも人間も平等に襲うね。タヌキもキツネも襲うし、虫も植物も襲う。誰に対しても容赦しない」
「身内には優しいのにな」
ガワに唇を重ねたガラテアの顔がよぎる。
この世で一番大切な宝物を扱うように両手に抱き寄せて、祈るように目を閉じて。
あんなふうに、自分も誰かに大切に扱われてみたい。
「松本さん、たぬキノコ」
公園の入り口から校長が息を切らして現れた。駅からここまで走ってきたようだ。
きのこが内外傷に強くて本当に良かった。
遠巻きにキャピタルを見守っている隙に、酔っ払いの一人が、たぬキノコのドッグフードを勝手に周囲に振る舞っていた。
気が付いたときには手遅れで、みんな酒と一緒に流し込んでしまっていた。
「どうしよう」
「平気さ、まだあるから。ソロもいる? 」
「ドッグフードは紛らわしいから風呂敷に隠しとくぜ」
味は薄いが歯ごたえが良い、サイズ感が丁度良い、などと、そこかしこからドッグフードの評判が上がるのをよそに、ソロはリンゴを口にした。
すると、林田の顔が浮かんだ。
新聞記事に乗っていた顔写真だが。
ファンド<林田にやっと比重が変わった。
林田は背が高くて、あんなに端正な顔をしていたのだ。
きっと自分以外の誰かからも、思いを寄せられていただろう。
それこそ、同じ病院で過ごしたことのあるアベイユから好かれていたかもしれない。林田がアベイユを好きだった可能性だってある。
だとしたら、つらぁ。
「ソロ、どうしたの? 」
「林田のこと考えてた」
「見つかるといいね、人間部分」
林田とツル太郎が同じ顔をしていたことを、たぬキノコに話そうか迷う。
話せばバンクに知れてしまうかもしれないが、この秘密を抱えているのが辛い。
ガラテアにいつでも会えるなら秘密を抱えたままでも乗り切れそうだが、望んだ時にいつでも会える存在では無い気がした。
同じ捕食者であるガラテアが「林田=ツル太郎」になったのだろうと言っていたのだから、林田は捕食者になってしまった可能性が高い。
「たぬキノコ。捕食者ってさ、やっぱりオレらの敵なのかな」
「どうかな。人間から見たら圧倒的に敵だろうけど。『リブズ・マン・アザーズ』っていう名称だって、『人類と道を分かつもの』っていう意味で使われているし。あくまでも人類の敵であって、僕らにとっては、ちょっと違うんでない? 祖先も一緒だし」
「でも、襲う時に区別はしないじゃん」
「そうだね、きのこも人間も平等に襲うね。タヌキもキツネも襲うし、虫も植物も襲う。誰に対しても容赦しない」
「身内には優しいのにな」
ガワに唇を重ねたガラテアの顔がよぎる。
この世で一番大切な宝物を扱うように両手に抱き寄せて、祈るように目を閉じて。
あんなふうに、自分も誰かに大切に扱われてみたい。
「松本さん、たぬキノコ」
公園の入り口から校長が息を切らして現れた。駅からここまで走ってきたようだ。