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文字数 1,078文字

「法に触れない程度に校長も手伝ってくれよ。まだ結婚したくない未成年を、身内の都合で嫁がせるのって、教育上良くないだろ」

 ソロはダメ元で校長に頼んでみた。

 まあ十中八九無理だろうが、もし協力してくれれば、かなり有利に動ける。

「そこは話し合いで解決できるだろう。弟の話なら柴田少佐も耳をかたむけてくれるんじゃないのか? 」

「兄ちゃんは()っさい状態です。軍隊でカーバンクルって呼ばれてる形態だから誰の話も聞かないと思います」

 大きかろうが()っさかろうが、バンクは誰の話も聞かないタイプだとソロは思った。

「・・・・・・現役だった頃に聞いたことがあるぞ・・・・・・」

 校長が何か思い出した。

「暴れん坊で手が付けられないチビが最前線にいると聞いたことがある。その形態になると体が硬質化して、仕留めた捕食者が燃えた後のような状態になっていることから、『燃える石』という意味のラテン語『カーバンクル』の名称が付けられた、と」

「かーば、ええ? 校長もう一回言って。オレ、長くて覚えらんねンだわ、ソレ」

「柴田少佐がカーバンクルだったのか」

 ソロを無視して校長は一人で勝手に納得した。

「へー。校長先生が定年する前から兄ちゃん軍にいたんだぁ。知らなかったわ」

 そんな危険生物が無理やり結婚させようとこれから迎えに来るのに、呑気な弟である。

「少佐が無理やり挙式を上げるために、柴田さんを迎えに来るんだな」

「それもある」

「柴田さんはまだ結婚したくないのか」

「ムリ」

 それも彼女に対してどうなのかとソロは思ったが、定職についていないのに結婚したら生活が成り立たないのは考えなくてもわかるので黙っていた。

 相手が何者かは知らないが。

「うっかり、つい、何も知らずにお邪魔してしまったことにして、足止めを手伝おう。柴田少佐も多忙だから、今日というチャンスを逃せば、しばらくは接触して来ないだろう」

「ありがとう校長。キャピタル、プるトタキすーテスの方へ避難しようぜ」

「待てよ、入場料一人2000円だぞ」

「え、高ぁ・・・・・・」

 校長が思わず漏らした声に対して悪いと思ったが、一人2000円ずつ借りた。

「ごめん校長。バイトできるようになったら、たぬキノコの分も返すから」

 ソロはせっかくなので、たぬキノコも連れて行くことにした。
 どうせなら目の前でプロトタキシーテスを見せてあげたいと思ったから。

「いつでもいい。行っておいで」

 校長と別れ際、公園の暗闇から、小さな影が静かに出てきた。

 歯形の付いた制帽を被った少年が、道ばたで眠っている酔っ払いを(また)ぎ、ソロたちの方へ歩み寄って来る。

「どこへ行く」
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