p20 柴田バンク

文字数 918文字

「ムリムリムリムリムリグゥヴうゥゥうオエエエエエエエェェェェエエエエエ!!! 」

 血が抜けて冷えていた体に鞭打(むちう)つような酷い痛みが全身に走る。

「趣味は悪いが、選曲は良い。シューベルトの軍隊行進曲、好きだぜ」

 さっきからなかなか黙らない大男である。

「ピアノなのが良い。リピート掛けとこう」

「痛い痛い痛い! 」

 驚いた内臓が裏側からひっくり返って、体中の菌類を連れて口から出て行ってしまいそうだ。

 更に追い打ちをかけるように、ぼやけた視界と意識がハッキリとするにつれ、痛みの度合いが強まってくる。

「痛いってば! 」

「痛いのは生きてる証だ」

「オレのかりゃだににゃにしている! 」

「『ブラザーズ・イン・アームズ』を流している。服の繊維だって再現できるんだぜ」

 ちょっと得意気な声で説明してやがる。

「そんなことどうでもオォォォェェェェエエエエエ! 」

「授業でやっただろ。軍が開発した協力者を引き寄せる菌類だ。お前の再生に必要な物質や菌類を、流したブラザーズ・イン・アームズが引き寄せて再構成してくれる。Brothers(ブラザーズ)の『B』とMycorrhiza(マイコリザ)の『M』で通称BM菌と呼ばれている」

 そんな雑学どうでもいい。
 今はそれどころではない。

「ェェエゲエエオォェェエ! 」

「落ちろよ、松本ソロ。もう意識があるのがキツイ段階だろ。お前のおしゃべりに付き合っていたら、キャピタルの治療ができないだろ」

「なんでオレのなまえウ゛ォエエエエ! 」

「俺は柴田バンク。キャピタルの兄貴だよ。お前のこと、妹とキャピタルから聞いてるぜ」

「あいつの兄きかぅぉおおええええ! 」

「自分の首が取れかけてるっつーのに、写真撮ってくれだぁ? キャピタルとウマが合うわけだぜ。お前の話が出た時は耳を疑ったぜ。あいつ一生友達できねぇと思ってたからな」
 
 ソロの意識がやっと途切れた。
 
生きているのが嫌になるくらいの不快感から自分を守るために、肉体が強制的に意識をシャットダウンさせたのだ。

「おやすみ、ソロ。元気になったら説教(せっきょう)な」

 バンクはシューベルトの軍隊行進曲をBGMに、眠りの世界へ旅立つソロを不穏な言葉で見送った。そして、年の離れた弟の治療へ向かった。



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