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文字数 1,040文字

『精霊の踊り』がイヤフォンから流れて来る。複雑な気持ちを抱えて図書館の外へ出ると、丁度、空に稲光が走った。

 少近くに落ちたのか、(こも)った轟音がイヤフォンを通り抜けて聞こえてきた。
 
 音が心地よいはずなのに、頭が妙に重くて、自分の行動が無駄で空しいものに思えてくる。
 


 顔写真を手に入れて何になるというのだろう。


 それでも、コピーが濡れないようにビニール袋に入れてからリュックに詰めた。

 キャピタルに言おうか、たぬキノコに言おうか、校長、・・・・・・バンク・・・・・・は、却下。誰に相談したら良いのだろう。

 ツル太郎と林田の顔が同じだと知られたら、捕食者になってしまったと思われて捜索を打ち切られてしまう。

 近道をするために人気の無い通りを歩いていたら、強風に煽られて傘が飛んで行ってしまった。
 
 慌てて追いかけると、その傘が前方を歩いていた三人組にぶつかった。

 傘に追いついたところで、ソロは三人組と顔を合わせた。
「アッ」
「お前」
「テメーら」
 ソロの闘争心に一気に火が付く。

 この三人組は去年まで、ソロの学校の先輩だった。

 後輩に暴力をふるってパシリに使っていたくせに、留年もせずストレートで卒業した真面目なんだか不良なんだかよくわからない生徒たちだ。

 とりあえず、素行は悪くても成績だけは優秀だった証だ。

 今よりも更にチビだったソロは、入学早々この三人組に目を付けられ、三対一でボコされた末に、うっかり三人組の一人のきのこを引っこ抜いて警察と軍隊を出動させる事態に発展させた。

 向こうから突っかかって来たのに、全て自分の責任にされたのが気に食わない。

 まあ、惨敗してしまったのだから、そこはしょうがないのだが。

 もちろん、まだ根に持っている。

「この野郎! 」

 リュックを放り投げるや、ソロは三人組に飛びかかった。

 自分を(あなど)る奴は絶対に許さない。必ず痛い目に会わせる。

 チビでリーチが短くて力が弱くても、必ずやり返す生き物だということを、相手に思い知らせないと気が済まない。
 

 開始早々ソロの頭突きが相手の鼻先にヒットしたが、自分の額が切れて出血してしまった上に、すぐに背後から蹴りを入れられ、バランスを崩して倒れた。

 勢いでイヤフォンがウォークマンと耳から外れて、雷の轟音がダイレクトに耳に入る。
 
 今の状況に不似合な愁いを帯びた『精霊の踊り』が、大音量で流れる。
 
 地べたに這いつくばったところで、ソロが三人組の一人の足を引っかけて転ばせると、相手は水たまりに顔から突っ込んだ。

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