p93 きのこの夢⑦

文字数 581文字

 なんて暗い道だろう。

 鬱蒼(うっそう)とした木々に覆われて月明かりは届かない。

 街灯は心もとなくて、足元もおぼつかない。

 そして、知らない場所。

 どこにガワが潜んでいるかわかったものではない。

 もしも触れてしまったら、犠牲になるのは自分一人では済まされない。

 この周辺の住民が、半年は避難生活を送ることとなるだろう。

 暗い場所から一歩も動けず、(かし)の木の下でしゃがみこんで泣いている自分が情けない。

 フクロウの声が怖い。

 水分が勿体ない。涙に回す水分なんて無いのに。

「なに泣いてんだぁ? 」

 誰・・・・・・?

「腹痛いんか」

「ううん・・・・・・」

「そんなとこで泣いてないで、一緒にいこうぜ。ここ、暗くておっかないだろ」

 何の(てら)いも無く差し伸べられた手を、思わず握ってしまった。

 なんて温かい。

「お前、デカいなぁ。何センチだよ」

 このコ、小さいなぁ。何歳くらいだろう。丸い後頭部が子猫みたい。

「足元気を付けろよ、こっちだぜ」

 手から伝わってくる温もりで、涙がまた込み上げる。

「お前、泣くのが好きなんか」

「ううん。泣きたくないのに、勝手に出て来るんだ。迷惑なのは、わかってるんだけど」

「そうなんか? いいじゃん別に。好きなだけ泣いとけよ」

「え」

「泣きたいんだろ」

 鬱蒼(うっそう)とした木々を抜けたところで、月明かりと街灯の光にこのコの顔が照らされた。

「おっと、なんて目つきの悪ぃクソガキだ」
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