p10 林田(仮)

文字数 1,336文字

「顔とタヌキ邪魔」

「なにケチつけてんだコラ」

「収穫跡のドアップだけでいいんだわ」

「いきなりカメラ出して写真撮ろうとしてんじゃねー」

「ノリノリで映ろうとしてただろうが! 」

「カメラで覗くなエロ野郎! 」

「なんだテメェ! 意地悪すんなバカきのこが! 」

「有料だボケ! 」

 教室に着くまで、ばかあほくそのヘビーローテーションで、ボキャブラリーが大変少ない罵倒合戦が再開された。

 きのこに成りかけのソロの声しか理解できないとはいえ、そのレベルの低さにたぬキノコはウンザリした。

 教室の扉を開くと、たぬキノコを抱えて教室に入ってきたソロとキャピタルに視線が、一瞬だけ集中した。

 しかし、誰も声すらかけてこない。

 ソロとキャピタルは不良ではないのだが、言葉遣いが乱暴で悪目立ちしてしまうタイプで、関わると巻き添えを食いそうなことから生徒たちに敬遠されている。

 他にも理由は様々あるが、ソロに至っては怖いタイプの生徒に絡まれやすいというのも理由の一つになっている。

と、いう情報を先ほど渡ってきたソロの菌類からある程度読み取って、たぬキノコは一人納得した。

 集団に馴染めないとこぼしていたソロの言葉に、小さなため息が漏れる。

「ソロの侵略的な菌類が周囲のきのこの防衛反応を誘引しているのかそれとも・・・・・・」

「なんだ、急にブツブツ言い出して」

 一瞬の静寂のあと、教室は何事もなかったかのように再び賑わいだした。

 人間、半分きのこやほぼキノコなど、バリエーション豊かな生態系が思い思いに過ごしている。

 かつては人間だけが通っていた学校だったが、今は姿かたちが違うだけで、この朝の教室の賑わいというものは未来永劫普遍的のように思える。

 ただし、その中で異様なものが一つだけある。

 教室に根を下ろしているきのこがいるのだ。

「珍しい。建物の中で根を下ろしているきのこがいる」

「林田っていうんだ。あいつ」

 言うが早いか、ソロはたぬキノコを林田のところへ連れて行った。

 ソロが思いを寄せるきのこ。
 でも、



 林田と紹介されたきのこは、椅子に座るようにして、床を突き抜けて地面に根を下ろしていた。

 たぬキノコはソロの腕から床に降りると、丹念(たんねん)に根元を嗅ぎ始めた。

「こんなところに根を張ってしまったら、建物を腐らせてしまうよ。床も()ちて穴が()いてるじゃないか」

「しょうがないだろ。そこに根を下ろしちゃったんだから」

「ねえキミ、どうして」

 そこまで言って、たぬキノコはハッとした。

「このコ、

はどこにいったの? 」

 人間からきのこが生えて、やがて、きのこから人間が生えていく過程で、意識が人間からきのこ部分へ移行していく時期がある。

 その時期を迎える前に、意識の大部分を保管している

が失われると、今の林田のように物言わぬきのこになってしまう。

「林田の

はどうしたの? 」

「知らね」

「捕食者にやられてしまったの? 」

「わかんね」

 物言わぬきのこになってしまう原因の一つに『捕食者による食害』があるが・・・。

「なあ、たぬキノコ。林田から何か感じたり、聞こえたりしねぇ? 」

「ただのきのこみたいに、何もない。」

物言わぬきのこになってしまうもう一つの原因が『

の誘拐』だ。



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