p128 ガラテアとリョウの花
文字数 1,205文字
だが、根状菌糸束は地面から離れようと身を起こした途端、地中へ引きずり込まれるようにして沈んでしまった。
外へ向かって逃げ延びようとしていた根状菌糸足が、まるで本体へ引きずられているかのように四方八方から集まって来る。
先ほどのように自分の意思を持って集合しているのではなく、明らかに無理やり引き寄せられている。
「何が起きてる」
ソロは体を起こして様子を見に行こうとしたが、全身に鋭い痛みが走った。
「あだだだだだ!」
「だから動くなっつってんだろ。なんでそんな軽率なんだよ」
「オメーに言われる筋合いはねー」
仕方がないので、ノウゼンカズラの下でうごめく根状菌糸束たちの観察をすることにした。
鉄筋コンクリートみたいに硬いキャピタルの膝枕から。
ブルーセルも興味津々なのか、大人しく根状菌糸束を注視している。
「なんか、黒いのがところどころ膨らんでねぇか? 」
一本一本の根状菌糸束が、ボコボコと不規則に膨らんでいるように見える。
「たしかに。さっきのソロの状態みてーだわ」
「内側から、なんかが食い破ろうとしているような。ノウゼンカズラの方は大丈夫か? 」
ソロが目をやると、ノウゼンカズラの方は無事で、根状菌糸足をしり目に、再び瑞々しく咲き始めた。
リョウの花。
ノウゼンカズラのオレンジ色の花を見て、ソロの胸が痛んだ。
あんなに守ってくれたのに、どうして大事にしなかったんだろう。
さっきだって、グダグダ甘えてないで、さきに謝れば良かったのに。
固唾を飲んでエロ銀杏の行く末を観察していると、膨らんだ黒い根状菌糸足を突き破って、白い花が現れた。
ランのガラテアだ。
彫刻のように白く美しい花。よく見ると、先ほどの大理石でできた扉と同じ質感の色合いをしている。
「なんかイイ匂いがするぅ」
ガラテアの甘く清涼感のある良い香りが、ソロたちの方まで漂ってくる。
キャピタルとブルーセルにとっても良い匂いなのか、二人とも表情が穏やかになっている。
葉の無いガラテアの白い根が、黒い根状菌糸束を内側から食い破って露わになるにつれ、リョウの蔓 が拘束を緩 めて行った。
蔓 の下で一緒に締め上げられていた強者たちの骸 が一体ずつ地面へ引き下ろされていく。
その中に、ブルーセルの兄たちがいた。
ブルーセルは兄たちの頭骨へ駆け寄って、額をこすりつけた。
兄たちのねじれた角が、ブルーセルの角よりも小さく見えた。
「キャピタルも、バンクとねえちゃんのトコ帰れよ」
「うるせー、放っとけ」
たぬキノコ一族が神木とあがめる銀杏から根状菌糸束が消え、ガラテアとリョウの花で埋め尽くされた。
「キャピタル、そういえば、さっき言ってたエンジ色のヤツってどうなった? さっきなんか言ってたよな」
「アレなら、お前ん中にまた引っ込んだぜ」
「あんだって? 」
ソロが言うが早いか、どこからともなく楽器のような声が聞こえた。
『見つけた』
その瞬間、視界が暗くなった。
外へ向かって逃げ延びようとしていた根状菌糸足が、まるで本体へ引きずられているかのように四方八方から集まって来る。
先ほどのように自分の意思を持って集合しているのではなく、明らかに無理やり引き寄せられている。
「何が起きてる」
ソロは体を起こして様子を見に行こうとしたが、全身に鋭い痛みが走った。
「あだだだだだ!」
「だから動くなっつってんだろ。なんでそんな軽率なんだよ」
「オメーに言われる筋合いはねー」
仕方がないので、ノウゼンカズラの下でうごめく根状菌糸束たちの観察をすることにした。
鉄筋コンクリートみたいに硬いキャピタルの膝枕から。
ブルーセルも興味津々なのか、大人しく根状菌糸束を注視している。
「なんか、黒いのがところどころ膨らんでねぇか? 」
一本一本の根状菌糸束が、ボコボコと不規則に膨らんでいるように見える。
「たしかに。さっきのソロの状態みてーだわ」
「内側から、なんかが食い破ろうとしているような。ノウゼンカズラの方は大丈夫か? 」
ソロが目をやると、ノウゼンカズラの方は無事で、根状菌糸足をしり目に、再び瑞々しく咲き始めた。
リョウの花。
ノウゼンカズラのオレンジ色の花を見て、ソロの胸が痛んだ。
あんなに守ってくれたのに、どうして大事にしなかったんだろう。
さっきだって、グダグダ甘えてないで、さきに謝れば良かったのに。
固唾を飲んでエロ銀杏の行く末を観察していると、膨らんだ黒い根状菌糸足を突き破って、白い花が現れた。
ランのガラテアだ。
彫刻のように白く美しい花。よく見ると、先ほどの大理石でできた扉と同じ質感の色合いをしている。
「なんかイイ匂いがするぅ」
ガラテアの甘く清涼感のある良い香りが、ソロたちの方まで漂ってくる。
キャピタルとブルーセルにとっても良い匂いなのか、二人とも表情が穏やかになっている。
葉の無いガラテアの白い根が、黒い根状菌糸束を内側から食い破って露わになるにつれ、リョウの
その中に、ブルーセルの兄たちがいた。
ブルーセルは兄たちの頭骨へ駆け寄って、額をこすりつけた。
兄たちのねじれた角が、ブルーセルの角よりも小さく見えた。
「キャピタルも、バンクとねえちゃんのトコ帰れよ」
「うるせー、放っとけ」
たぬキノコ一族が神木とあがめる銀杏から根状菌糸束が消え、ガラテアとリョウの花で埋め尽くされた。
「キャピタル、そういえば、さっき言ってたエンジ色のヤツってどうなった? さっきなんか言ってたよな」
「アレなら、お前ん中にまた引っ込んだぜ」
「あんだって? 」
ソロが言うが早いか、どこからともなく楽器のような声が聞こえた。
『見つけた』
その瞬間、視界が暗くなった。