p112 エロ銀杏

文字数 1,070文字

「骨は分解が遅いんだ。あのコは捕らえた獲物を誰にも奪われないために、ああして体に固定しているんだ。普通は自分が分解して養分を得たあとは、残った物質を再び他の菌類が分解して養分を得るっていうサイクルが生まれるんだけど、あのコは独り占めしちゃうんだ」

 ソロの頭にたぬキノコの声が響いた。

「あの銀杏の木はこの島で最初に根付いた始まりの木で、みんなからご神木として大切にされて育ったのに・・・・・・。僕らが怪物にしてしまったナラ菌に感染して、あんな体にしてしまったんだ」

「キャピタル、あれ、この島で最初に根付いた木だって。骨は捕らえた獲物で、誰にも奪われないために、体にくっつけているんだと」

 銀杏の太い枝からは無数の気根(きこん)()れ下がっている。

「・・・・・・なんか、あのぶら下がってんのエロいな」

 怪物と化した銀杏の木がいっちょ前に色っぽくて、そのイヤらしさがソロの琴線にストライクした。

「ちょっとソロ! 僕らの神木をそんな目で見ないでよ! 」

「お前どんな感性してんだよ。アレ木だぞ、木! 」

「どう思おうとオレの勝手だろ」

「このエロ野郎! 」

 たぬキノコとキャピタルから非難轟々である。二人とも、ソロの見境の無い感性にお(かんむり)である。

 呑気なソロとキャピタルに向かって、銀杏が巨大な枝を振り下ろしてきた。

 キャピタルに襟首を掴まれ、間一髪ソロは難を逃れた。
 振り下ろされた枝はブルーセルが角で受け、頭を振り回してへし折った。

「すげぇなお前ら。お前らいなかったら、オレ死んでたわ」

「つーか、やべぇなエロ銀杏。おれらのこと、絶対殺す気だろ」

「エロ銀杏言うなし」

「オメーが言い出しっぺだろ。責任もって最後までエロい目で見ろし」

 彼女というものがありながら、大人向け電話サービスを利用し、高くついた電話料金を兄貴に払わせ、結婚したくなくて家族から逃げ回っている男から「責任もって最後まで」なんて言われても、説得力が無いとソロは思った。

 だが、今はそれどころではない。

 周囲から次々と集まって来る黒い根状菌糸束が、本体までの道のりを覆っている。

「本体と綱引きして、森から引きずり出した君たちはスゴイよ。でも、あんな風に根状菌糸束が本体を守るために、島中からどんどん集まってくるんだ」

 根状菌糸束は続々と周囲に広がり、本体へ容易に近付けないようになっていた。

 ブルーセルはノウゼンカズラの炎の輪から飛び出すと、根状菌糸束を蹴散らしてエロ銀杏に突進した。

 身に降りかかる無数の根状菌糸束を火打石の(ひづめ)で踏みつけ、燃やし、巨大な角で薙ぎ払う。

「ソロ、ブルーセルがまずいぜ」
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