p109 ナラタケの根状菌糸束

文字数 1,095文字

 ソロは言われた通りキャピタルの腹に手を回して思い切り引っ張った。だが、それでも前に体が引っ張られる。

 その時、ブルーセルがキャピタルの前に立ちはだかった。

「下がってろ、ブルーセル」
 
 キャピタルに言われてもブルーセルは退かなかった。

 ブルーセルは角が刺さらないようにキャピタルの腹に自分の額を当てると、前に進み出した。
 キャピタルの腹筋にブルーセルの頭がめり込む。

「いだだだだだ! 」

「あだだだだだ! 」

 ブルーセルの頭にソロの手も挟まれて、ソロとキャピタルは間抜けな悲鳴を上げながら踏ん張った。

 大山羊の大力のおかげで、前に引きずられていた体制が徐々に立て直された。
 態勢が安定したところで、ソロは自分の足首を何かが掴んでいる感触がした。

「えっ? 」

 足元に目をやると、たぬキノコではないタヌキが足にしがみ付いていた。

「ええっ可愛・・・・・・」

「ソロ! 何やってんだ、しっかり引っ張れ! 」

「あ、スマン」

 タヌキの可愛さに思わず力が緩んでしまった。
 よく見れば、タヌキの後ろにも更にタヌキがいる。
 カワイイ。

「ソロ―っ! 」

 今度は本物のたぬキノコの声だ。

「たぬキノコ? 」

 白山羊とお偉いさんのところへ向かったはずのたぬキノコが、全力疾走で駆けて来る。その後ろに、無数の光が続く。

「なんでここに」

「ここは僕の島。ここで生まれた僕が戦わないで、どうやって守るっていうんだ」

 たぬキノコもタヌキにならってソロにしがみ付く。後ろからも続々とタヌキばかり集まってくる。

「なんだその森の愉快な仲間たちは! 危ねぇから帰ってもらえ! 」

「嫌だ! 」

「そろいもそろって何でそんなカワイイ奴らばっかなんだよ! おかしいだろっ」

「大きくて力の強いたぬキノコ一族は、みんなこのコに挑んでやられてしまったんだよ」

 たぬキノコ一族。それが正式名称なのだろうか。
 この島を仕切っている菌類は、タヌキに好んで寄生するのか。
 だが、今はそれどころではない。

「このコって、この黒い奴か」

「この黒い繊維はナラタケの根状菌糸束というんだ。最初は地上のナラタケみたいに、倒木や枯れ木を分解して養分を得ていたんだけど、たぬキノコ一族が捕食者と対等に渡り合うために、自ら狩りをする変形菌の性質を加えて、捕食活動が動いてできるように遺伝子操作されて生まれてしまったんだ」

「なんて迷惑な」

「だけど、何を餌とするか条件付けがうまくいかなくて、こんな無差別に何でも食料にしてしまう怪物にしてしまったんだ。このみんなで引っ張っている根状菌糸束の先に、本体がいるんだよ」

「ソロぉっ! なんだそのタヌキ共は! 帰ってもらえ! 気が散るッ!」

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