p141 ユーモレスク第7番

文字数 914文字

「ちょっと違う」

 ソロとキャピタルが校長室に呼び出されたのは、期末テストの結果がそろそろ返ってくる頃だった。

 市ヶ谷駐屯地に併設されている病院に入院してから二十日ほどでソロは回復し、自力で電車に乗って自宅へ戻った。

 毎日、仕事帰りにファンドが様子を見に来てくれて嬉しかった。

 ファンドに彼氏がいるという事実に、今はそんなに動揺していない。

『異性として好き』だったのではなく『こんな年上の兄姉が欲しかった』という意味で、甘えてみたかっただけかもしれないとソロは気付いた。

 だがキャピタルも毎日欠かさず一日中入り浸っていたせいで、たぬキノコと校長が仕事の合間を縫って見舞いに来た時も、ファンドにも、誰にも一度も甘えられなかった。

 だが、キャピタルが耳にイヤフォンをかけてくれ『ユーモレスク第七番』を聞かせてくれた時、ソロはなんだか哀しくなってしまった。

 細かいところによく気が付く人間なのだ、キャピタルは。
 
 そしてバンクとキャピタルの不毛な兄弟ケンカと鼻歌は傷に触った。

 ちなみに、校長の雷で包帯マンになっていたバンクは一日で回復して軍役に戻った。

 ソロは二十日後の退院を経て、テスト勉強の間もなく期末テストが始まったのだった。

「タヌキを浮島へ送り届けたら二年生へ進級という話だった。今、タヌキは土日にうちへ戻ってきて、週五日千葉で働いている時点で戻って無いから約束は果たされていない」

 校長の頭は赤い山茶花に変化を遂げていた。ぎっくり腰の方も全快している。

 黒いスーツに黒のシャツ、緑色のネクタイがクリスマスムードを醸している。

「でも、おれらタヌキの浮島で頑張ったんですよ。おれはめっちゃ大活躍で、ソロは死にかけて役立たずでしたけど」

「てめー山羊に相撲負けたろ。はたき落としで」

「うっせ、次は負けねー」

「小競り合いはやめるんだ。とにかく、約束を果たしていないんだから、二年生に進級は無しだ」

「なんでぇ。なんでですかぁ」

 納得できないキャピタルが食い下がるが、校長は取り合わない。

「それで、本題だ。もうすぐ期末テストの結果が出るのだが」

 校長の体が小刻みに震え、バンクに風穴を開けられた脳天から、黄色い花粉がチラチラと舞い出した。
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