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文字数 1,365文字
「ふーん」
「体のきのこ化や捕食者のせいで休学なんかザラだし、同じ学年でも年齢だってみんなバラバラなんだぜ」
「姿も年齢もバラバラで、ケンカしたりしないの? 」
「小競り合いなんかしょっちゅうよ。オレも同級生とか上級生から目を付けられやすいし、ケンカっ早いし、馴染めないし」
「なんで目を付けられるの? 」
「わかんね。なんか、昔っからケンカ売られやすいんだよな・・・・・・。この学校に来るまで二回も退学食らってるし」
「馴染めないなら学校なんか行くのやめて、地に根をおろしてしまえばいいのに」
「そんなの癪だぜ」
「一匹オオカミなんだね。いいと思うよ、僕らって結局、生まれてから死ぬまで自己完結で済む生物だから。人間だったら辛いかもしれないけれど」
「別に、辛くは」
ホントのところ、キツい。
できれば以前のようなネット授業に一刻も早く戻ってもらいたい。
何より、一向に集団に馴染めないことが、ソロに生爪が剥がれたような痛みを残している。
スタートラインは同じはずなのに、なぜ周囲と同じようにできないのか、ふとした時に思い出して自己嫌悪と無力感に苛まれる。
普段は何ともなくても、生爪が剥がれた傷口は空気に晒されるだけで痛みを受け、物が触れれば激痛が走る。
黒のポリッシュネイルが剥がれた場所から、過去の痛みが漏れ出す気がして、ソロは今晩塗り直そうと思った。
「人間ってさ、助け合わないと生きていけないようにできてるから。集団生活で弾かれると死と直結していた時代の習性が、いまだに残っているところがあるよね」
「とっとと忘れちまえばいいのに。そんな習性」
「馴染めないと寂しい? 」
「寂しいっていうか・・・・・・。みんなできるのに、オレだけできないときとか、オレが原因で何かができなかったときとか。そういう時、消えたくなる」
「消える必要なんて無いさ」
ソロの頬に、たぬキノコの乾いた鼻面が当たった。
ソロに宿る菌類と、たぬキノコの菌類がわずかながら互いの表面を行き交った。
「人間のルールや哲学が僕らに通じると思ってない? 僕らはきのこだよ。人間みたいに誰かの役に立たなきゃとか、みんなと同じようにできなくちゃとか、そんなのナンセンスだよ」
「でも、今は人間のルールの中で生かされてっから。人間が作ったルールに従って生きてかなきゃならねぇ」
「今はね。でも忘れないで、生きとし生けるものは皆誇り高いのさ」
「なんだそれ」
「人もきのこも何かに遠慮して消える必要なんかないってこと」
「慰めてんの? 」
「好きなように受け取ったらいいよ。みんな違う格好だけど、ソロが着ている服はなんだかシュッとしてて格好いいよね。それは自分で作ったの? 」
「いや、あの、えーっと・・・・・・、アレだ。先祖が残した学生服」
「ご先祖様のか。上が短くてズボンがダボッとしてるの、なんかいいね」
「短ランとボンタンっていうんだ。前の学校で20世紀のコスプレ野郎ってからかわれて、ケンカして退学になった原因でもある」
「話は変わるけどさ、戦争と天災がまたいつ始まるかわからないのに、学校で集団生活の練習なんてしてる場合なの? 」
「天災も戦争もいつまでも続くもんじゃないから。それなら、それに沿った生活の練習って必要だろ」
イヤフォンから流れる音楽が『タランテラ』に切り替わったところで学校に着いた。
「体のきのこ化や捕食者のせいで休学なんかザラだし、同じ学年でも年齢だってみんなバラバラなんだぜ」
「姿も年齢もバラバラで、ケンカしたりしないの? 」
「小競り合いなんかしょっちゅうよ。オレも同級生とか上級生から目を付けられやすいし、ケンカっ早いし、馴染めないし」
「なんで目を付けられるの? 」
「わかんね。なんか、昔っからケンカ売られやすいんだよな・・・・・・。この学校に来るまで二回も退学食らってるし」
「馴染めないなら学校なんか行くのやめて、地に根をおろしてしまえばいいのに」
「そんなの癪だぜ」
「一匹オオカミなんだね。いいと思うよ、僕らって結局、生まれてから死ぬまで自己完結で済む生物だから。人間だったら辛いかもしれないけれど」
「別に、辛くは」
ホントのところ、キツい。
できれば以前のようなネット授業に一刻も早く戻ってもらいたい。
何より、一向に集団に馴染めないことが、ソロに生爪が剥がれたような痛みを残している。
スタートラインは同じはずなのに、なぜ周囲と同じようにできないのか、ふとした時に思い出して自己嫌悪と無力感に苛まれる。
普段は何ともなくても、生爪が剥がれた傷口は空気に晒されるだけで痛みを受け、物が触れれば激痛が走る。
黒のポリッシュネイルが剥がれた場所から、過去の痛みが漏れ出す気がして、ソロは今晩塗り直そうと思った。
「人間ってさ、助け合わないと生きていけないようにできてるから。集団生活で弾かれると死と直結していた時代の習性が、いまだに残っているところがあるよね」
「とっとと忘れちまえばいいのに。そんな習性」
「馴染めないと寂しい? 」
「寂しいっていうか・・・・・・。みんなできるのに、オレだけできないときとか、オレが原因で何かができなかったときとか。そういう時、消えたくなる」
「消える必要なんて無いさ」
ソロの頬に、たぬキノコの乾いた鼻面が当たった。
ソロに宿る菌類と、たぬキノコの菌類がわずかながら互いの表面を行き交った。
「人間のルールや哲学が僕らに通じると思ってない? 僕らはきのこだよ。人間みたいに誰かの役に立たなきゃとか、みんなと同じようにできなくちゃとか、そんなのナンセンスだよ」
「でも、今は人間のルールの中で生かされてっから。人間が作ったルールに従って生きてかなきゃならねぇ」
「今はね。でも忘れないで、生きとし生けるものは皆誇り高いのさ」
「なんだそれ」
「人もきのこも何かに遠慮して消える必要なんかないってこと」
「慰めてんの? 」
「好きなように受け取ったらいいよ。みんな違う格好だけど、ソロが着ている服はなんだかシュッとしてて格好いいよね。それは自分で作ったの? 」
「いや、あの、えーっと・・・・・・、アレだ。先祖が残した学生服」
「ご先祖様のか。上が短くてズボンがダボッとしてるの、なんかいいね」
「短ランとボンタンっていうんだ。前の学校で20世紀のコスプレ野郎ってからかわれて、ケンカして退学になった原因でもある」
「話は変わるけどさ、戦争と天災がまたいつ始まるかわからないのに、学校で集団生活の練習なんてしてる場合なの? 」
「天災も戦争もいつまでも続くもんじゃないから。それなら、それに沿った生活の練習って必要だろ」
イヤフォンから流れる音楽が『タランテラ』に切り替わったところで学校に着いた。